「モスル奪還作戦はクリントン支援のため」トランプ氏、イラン軍高官と同じ発言

    主張を裏付ける事実は示されていない


    米大統領選投開票日が11月8日に迫っている。ドナルド・トランプ大統領候補は10月19日にあった最後の討論会で、オバマ政権がモスルからIS(イスラム国)を一掃するための攻撃を開始したのは、ヒラリー・クリントン陣営支援のためだと主張した。この発言の背後には意外な支持者がいた。イランだ。

    イラク主導によるモスル奪還作戦のタイミングは民主党政権の維持を後押しするものだ、とトランプ氏が討論会で非難した、ほんの数時間前。あるイラン軍の高官が同様の発言を行っていたのだ。

    イラン国営のイスラム共和国通信(IRNA)をはじめとする複数の報道機関が、「米民主党がこの作戦を必要としているのは、大統領選挙に勝利するためだ」というヤフヤー・ラヒーム・サファビー少将の発言を引用している。ラヒーム・サファビー少将はイランのエリート部隊「イスラム革命防衛隊」の元司令官で、現在は最高指導者であるセイエド・アリー・ハメネイ師の上級軍事顧問を務める。

    ISは2014年6月、モスルを占領し、支配下においた。このことは世界中に衝撃を与えた。イラク軍は10月17日からモスルを奪還すべく攻撃を開始したが、討論会でトランプ氏は、モスル奪還作戦のタイミングはクリントン陣営を助けるものだと非難した。

    「彼らが作戦を実行したのは、彼女が大統領選挙に立候補しているからであり、自らをタフな存在として見せたいからだ」とトランプ氏は主張した。

    クリントン氏はこれに対し、トランプ氏の発言は、同氏が「ずいぶん前からまき散らしてきた」数々の「陰謀説」の一つにすぎないと反論した。

    イラクがモスル奪還作戦の決行を選択した背景には、クリントン氏の勝算を高めなければならないというプレッシャーがあったという主張は、SNS上でも飛び交っていた。しかし、トランプ氏であれラヒーム・サファビー少将であれ、ほかの誰かであれ、主張を裏付ける事実を示してはいない。

    欧米諸国の外交官たちは、モスル奪還作戦はクリントン陣営にとって大きなリスクでもあると語る。不利な状況に陥ったり、多数の犠牲者を出したりしたならば、元国務長官であるクリントン氏の外交政策の失敗が強調されるからだ。

    イラク当局は、今回の作戦に関して、じっくり準備を進めてきた。そして、作戦のタイミングを計る際に、米大統領選挙のスケジュールを考慮に入れたわけではない。11月と12月は夜間の気温が5度を下回るため、作戦の開始を遅らせれば、人道的な影響が大きくなるかもしれないと懸念したのだ。複数の援助機関が、モスルの戦闘によって数十万人の難民が出ると予測している。

    オバマ政権がクリントン陣営のためにイラクを操っているというトランプ氏の主張は、トランプ氏自身が展開してきた、米国のイラク政策に対する激しい批判とも矛盾する。つまり、米国政府はイラクをイランに差し出したという批判だ。

    「イランはわれわれに感謝状を書くべきだ」とトランプ氏は述べていた。「われわれはモスルを掌握しようとしている。恩恵を受けるのは? もちろんイランだ」

    「イラクはワシントンを喜ばせるためにモスル奪還作戦を開始した」というイランの主張も、イランとイラクの関係を壊してしまう可能性がある。ラヒーム・サファビー少将はイラクを米国の傀儡と呼んだが、そうした発言は、ISから自国を守るために命をささげているイラクの若い兵士たちへの侮辱ととらえられるかもしれないのだ。