28歳の大工オマー・ヤブズは1月2日、自身が通うジムの外で、少年の写真を撮影した。そして写真を確認してすぐ、公開すれば大きな反響があると確信した。
それは痛ましい写真だった。トルコ南東部の都市アドゥヤマンで、少年が寒空の下に立ち、「オリンピアット・スポーツ・センター」というジムでトレーニングに励む人々を眺めている。
真冬であるにもかかわらず、少年は素足にサンダル。グレーのセーターはボロボロで、今にも壊れそうな靴磨きの道具を肩にかけている。トルコでギリギリの生活を送る、貧しいシリア難民の典型的な姿だ。
ヤブズはBuzzFeed Newsの電話取材に応じ、「心が痛みました。そして、この写真をすべての人と共有したいと思いました」と語った。
写真が公開された後、中東では珍しい前向きな展開が待っていた。人々を政治的に分断させてきたソーシャルメディアで、人々が「良いこと」のために団結したのだ。
心を動かされたジムのオーナー、スタファ・ククッカヤは、ヤブズから写真をもらうと、自身のInstagramに投稿。少年を探してほしいと人々に呼びかけた。ククッカヤはBuzzFeed Newsの電話取材に対し、ククッカヤ自身も貧困家庭に生まれ、子どものころはパン屋で働かなければならなかったと話している。
ククッカヤはInstagramに、「この少年を知っていたら連絡をください」と書いた。「私たちは少年の気持ちがよくわかります。彼にはジムの永久会員になってもらいたいと考えています」
この写真は、トルコのソーシャルメディアで話題となった。報道機関や個人が、ククッカヤの言葉とともに写真を投稿したのだ。
トルコのウェブサイト「Inci Caps」は、300万のフォロワーを持つTwitterのアカウントで、「この写真について何か書いてください」というキャプション付きで写真を投稿。数百人が反応し、悲しみや絶望感を表現した。「彼は学校に行くべきです」というコメントもあった。
一方、人口22万人の都市アドゥヤマンでは、少年探しが始まった。そして2日後、ジムの会員が、歩道で働いていた少年を発見。ジムを訪ねてみるよう説得した。ククッカヤは、「少年は写真が話題になっていることを知りませんでした」と振り返る。「彼はジムですべてを知りました」
言語が異なるため、困難を極めたものの、少年の情報を聞き出すことができた。少年の名前はムハンマド・フセイン。年齢は12歳。5年前にシリアの都市デリゾールから逃れてきた難民だ。家族はごみの中から古紙や金属くずを集め、それらを売って生計を立てている。自宅を訪ねたククッカヤによれば、一家はとても貧しい暮らしを送っているという。ムハンマドが学校に行っているかどうかは不明だが、おそらく行っていないのではないかと、クックカヤは話している。BuzzFeed Newsも接触を試みたが、ムハンマドも家族も電話を持っていない。
オリンピアット・スポーツ・センターの年会費は225ドル。そのジムを永久に無料で利用する権利をプレゼントされ、ムハンマドはとても興奮している。
「Dogan News Agency」のためにムハンマドの写真を撮影したフォトジャーナリストのマヒール・アランは、「彼はとてもシャイでした」と振り返る。「彼はとても驚いていました。何もかもが予想外だったようです。以前からジムに興味があったと言っていました」
ククッカヤはムハンマドについて、「困難な状況に置かれていても、楽しむことを忘れない魅力的な子供」と表現している。
クックカヤによれば、トレーニングを開始してわずか1週間だが、すでにムハンマドの体重は減り始めているという。ウェイトトレーニングよりも有酸素運動に重点を置いた子供向けのプログラムに取り組んでいる。ムハンマドはアランに、体を鍛えるチャンスをもらったことに感謝していると言ったそうだ。ムハンマドはDogan News Agencyの取材に対し、「トレーニングに励む人たちをいつも見ていました。オリンピアット・スポーツ・センターは美しい場所です」と話している。
アランは、真新しいトレーニングウェアに身を包んだムハンマドを撮影。この写真がインターネットで公開されると、幸運な少年の物語が世界中に広まった。この物語をまとめたBuzzFeed News記者のツイートも1万5000回以上リツイートされ、4万超の「いいね」を獲得している。
クックカヤのもとには、ムハンマド一家を助けたいという申し出が殺到しているそうだ。
「裕福なビジネスマンが何人か連絡してきました」とクックカヤは話す。「アンカラの裕福なビジネスウーマンからも連絡があり、一家に何か送りたいと言っていました。カタールからも問い合わせがありました」
この記事は英語から翻訳されました。翻訳:米井香織/ガリレオ、編集:BuzzFeed Japan