ポルノ女優があなたのためだけに演じる 海賊版へ対抗し、生き残るための手段

    「誰かが自分の名前を呼んでいるビデオの海賊版をつくることなどできないでしょう」

    28歳のケイシー・カルバートは5年前、あるクライアントから600ドルを支払われ、映画『エルム街の悪夢』シリーズのキャラクター、フレディ・クルーガーの女版を演じるよう依頼された。

    カルバートは、かぎ爪の付いた手袋をはめ、体に血のりを塗り、カメラの前でマスターベーションした。カルバートはいまだに、この依頼の真意を知らない。

    5年半前からポルノ女優の仕事をしているカルバートにとって、カスタムビデオを依頼してくる人たちのこだわりを理解するのは難しいことではない。みだらな言葉、衣装、お尻のクローズアップなどだ。カルバートは、決して依頼の理由を質問しない。ほとんどの人とっては、カルバートにメールを送り、秘めたる欲望を満たしてほしいと依頼するだけで、大きな壁を乗り越えたところだからだ。カルバートはただ、目の前の依頼に集中するようにしている。

    ポルノ業界ではこのように、ファンと直接コミュニケーションを取るという形の革新が起きている。

    女優たちは、ファンと直接コミュニケーションを取ることで、旬のスターや有名スターを好む制作スタジオのシステムに縛られない収入を得ることができる。また、著作権違反コンテンツを配信する無料ストリーミングビデオサイトにも対抗できる。

    「私のデビュー作はすぐ海賊版になりました。だから、Pornhubのようなことで悩まなくて済むような選択をしました」とカルバートは話す。

    「私はこれがビジネスだと宣言するため、意識的な選択を行いました。海賊行為を阻止することはできないため、海賊行為をかわすしかありません」

    カルバートが個々の顧客のために制作するカスタムビデオが、「Pornhub」のような無料サイトで配信されることはめったにない。世界に1つしかない個人的なビデオをわざわざ共有したがる人などほとんどいないためだ。自分の求めているものがインターネット上に存在しないため、人々はカルバートに依頼するのだ。

    「誰かが自分の名前を呼んでいるビデオの海賊版をつくることなどできないでしょう」とカルバートは述べる。

    「誰かが、自分の指定した衣装を着て、自分の指定した行為をするのです。これは、つながりを重視した双方向的な作品です」

    スタジオ収入の減少、海賊行為、短いポルノクリップ、ウェブカメラを使ったライブセックスショーなど、ポルノ業界に変化を起こしている要素はしばらく前から存在するが、特にこの5年でエスカレートしている。海賊行為はどんどん拡大し、俳優たちの収入に大きな打撃を与えている。そのため、収入を途切れさせないためには、インターネット、なかでもソーシャルメディアを駆使するしかない。

    セックスワーカーについて研究している南カリフォルニア大学の講師ヘザー・バーグは、「DVDの海賊版が出回らないよう大手スタジオが努力している間、これらの人々はインターネットを駆使する方法を考えていました」と説明する。

    バーグが直販方式と呼ぶ手法は、以前から用いられていたが、現在のポルノ業界では、成功するため、あるいは生計を立てるための中心的な方法になろうとしている。

    「例えば、ソーシャルメディアは新しいものではありませんが、俳優にとっては、自分一人だけでオンラインプラットフォームの新しい使い方を考えることができます。このような戦略が集合的に勢いを増しています」とバークは話す。

    「俳優たちが顧客とつながる方法を発見したので、いまや監督やプロデューサーも、追随しようと懸命になっています」

    17年前からポルノビデオの俳優とプロデューサーをしているダン・リールは5月、BuzzFeed Newsの取材に対し、古い制作手法は、もはや顧客の需要を満たしていないと述べた。

    「ファンたちは、従来のポルノでは不可能な方法で俳優と関わることを望んでいます」とリールは話す。「だからこそウェブカメラが人気を博しているのです。現在の消費者が好む1対1の交流です」

    カルバートがこれまでに受けた依頼を紹介しよう。マスターベーションしながら、1000枚の切手コレクションを燃やす。5分間、どんどんスピードを上げながら、繰り返し4まで数える。「濡れたように見えるスリムなレギンス」を着用する。自分の尻のことを「私のピカピカのおしり」と言う。ビール6本を一気に飲み干す(この依頼は断わった)。

    繰り返し4まで数えてほしいと依頼した男性はビデオをとても気に入ったようで、150ドルの支払いとともにカルバートに感謝の手紙を送り、2本目を依頼してきた。2度目の依頼では、メーガン・トレイナーの曲「ミー・トゥー」の歌詞「もし私があなただったら、やっぱり私になりたいと思うわ」を5分間、どんどんスピードを上げながら繰り返すよう依頼された。

    ただし、これらはこれまでの依頼の中でも特にユニークなものだ。ほとんどの人はもう少し予測可能なことを望んでいる。足フェチの欲望を満たすビデオや、マスターベーションの手ほどきをしてほしいといった形で。

    カルバートが受けている依頼は、1000以上のニッチに別れた業界の現状をよく表している。ポルノ業界の断片化が進行するにつれ、新人かベテランかにかかわらず、俳優たちは、大手スタジオのビデオだけで生きていくのが難しくなっている。

    そのため女優たちは、ソーシャルメディアの力を利用し、自分自身のファン層を構築しようとしている。多くの場合、自分一人のスタジオとして、特定の性的指向を持つ忠実なファンに直接販売するという形だ。

    カルバートの場合、1カ月に15~20本のカスタムビデオを販売し、売り上げの約半分を得ている。ビデオの長さは10分~2時間で、料金は数百~数千ドルだ。カスタムビデオのビジネスは拡大し続けているが、スタジオからの収入は5年間変わっていないと、カルバートは語る(具体的な金額は明かしていない)。BuzzFeed Newsの取材に応じてくれたほかの女優たちも、同じような状況だった。

    ポルノビデオの大手スタジオは、サンフェルナンド・バレー周辺に集中しているため、ロサンゼルス中心部に住んでいることはカルバートの助けになっている。それでも、女優の仕事を続け、自身のブランドを確立するにはやはり多大な努力が必要だ。

    カルバートは自身のウェブサイトを運営しており、さらにInstagramでは30万1000人、Twitterでは19万1000人、Tumblrでは4500人のフォロワーを獲得している。Pornhubのモデルページの登録者数は4万1000人。「OnlyFans」のプロフィールページには約150人が登録し、写真やビデオ、DMと引き換えに月額10ドルを支払っている。

    OnlyFansは、女優たちが最近、ファンとつながるためによく利用している「クリップサイト」だ。ファンたちは月額料金を支払うことで、特定の俳優の写真やクリップを閲覧できる。

    クリップは多くの場合、モバイル機器で視聴可能な5分以下のビデオで、安いカメラやスマートフォンを使って俳優の自宅で撮影するといった環境でもつくることができる。つまり、プロが演じるアマチュアポルノ作品ということだ。俳優たちは、こうしたショートクリップ市場の主要プラットフォームとして、OnlyFansのほかに「ManyVids」や「Clips4Sale」を挙げている。

    カルバートをはじめとする女優たちは、そうした成長中のプラットフォームを利用しながら、新しい形のインフルエンサーになろうとしている。顧客の個人的な性的欲望を満たすことで、親密な関係を築くインフルエンサーだ。

    女優たちはさらに、これまでポルノ業界と縁がなかったような人々も引き込もうとしている。ポルノは常に存在し、いつでも買うことはできるが、少し私的で特殊な性的指向を持つ人は、「いいね」をクリックするか、登録するしかないのだ。

    カルバートのような女優だけでなく、ウェブサイトやソーシャルメディアのファンを獲得したい人は皆、訪問者を少しずつ増やしていかなければならない。一方、クリップサイトは、登録制であれ、個別販売であれ、すでにトラフィックの流れがあり、うまくいけば、喜んで金を支払うファンを獲得できる。

    BuzzFeed Newsの取材に応じてくれた十数人の業界関係者によれば、自分の帝国を築き、収入を得たいと考える俳優たちに人気があるのは、OnlyFansのようなクリップサイト、ウェブカメラを利用したライブショー、登録制のソーシャルメディア・アカウント、カスタムビデオだという。

    アメリカのポルノ業界の規模に関しては、さまざまな推測がある。2015年のある報告は、ポルノ業界の売り上げは全世界で1000億ドル近くあり、そのうちアメリカは100億~120億ドルくらいだと試算していた。

    一方、同じ年に発表された別の報告は、有料サイトの売り上げが1998年の水準から70%減少したため、アメリカの売り上げははるかに低いと述べていた。俳優やプロデューサーのコンテンツ販売方法はどんどん多様化しているため、正確な全体像をつかむのはさらに難しくなっている。

    売り上げに関する相違はさておき、BuzzFeed Newsの取材に応じてくれた女優やプロデューサーは、手っ取り早く稼ぐ時代はずいぶん前に終わったと口をそろえている。

    監督たちによれば、スタジオ作品のほとんどは全く利益がないか、あってもごくわずかだという。海賊行為は猛威を振るっている。2016年のあるデータは、コンテンツ盗用による業界全体の損失を20億ドルと見積もっていた。

    「ポルノ業界ではもはや、ホームランは期待できません」とリールは断言する。「私のようなプロデューサーが稼ぐには、収入源を多様化するしかありません」。比較すると、ある監督は2001年に、「New York Times」の取材に対し、「すべての作品で」利益を得ているため、作品ごとの投資額を5倍に増やしても大丈夫だと話していたのだが。

    カルバートをはじめとする複数の業界関係者が、スタジオの仕事がいつもあるわけではないため、仕事を途切れさせないよう、複数のルートを構築していると述べている。スタジオ作品の収入があまりに少ないため、こうした作品は「登録制チャンネルを宣伝する場」と割り切っている者もいる。

    ポルノ業界の最大手マインドギーク(MindGeek)は2015年、4億6000万ドルの利益を計上したが、現在、特注コンテンツ事業にも参入している。大手ポルノ制作スタジオ8つに加えて、世界的な人気を誇るポルノ「チューブ(動画)」サイトを6つ所有し、ユーザーがアップロードしたポルノ作品を無料配信している。

    なかでも最大のトラフィックを誇るPornhubは6月、視聴者が女優から直接クリップを購入できる新しいマーケットプレイス「Modelhub」を立ち上げた。女優は、閲覧料金やダウンロード料金を設定してもいいし、クリップは無料で配信し、広告を付ける方式でもいい。いずれ、定額料金を支払えばコンテンツが届く仕組みも導入する予定だ。

    Pornhubはクリップ市場の新参者かもしれないが、勢いは十分ある。VP(バイスプレジデント)のコーリー・プライスによれば、訪問者は1日当たり9000万人を超えているという。

    クリップサイトやウェブカムサイトが、ポルノ業界で最もうまみのある収入源になろうとしているため、Modelhubはある意味、その人気に便乗しようとしている。電子メールで取材に応じたプライスは、近い将来、登録制サービスや有料フォトアルバム、カスタムビデオやグッズの販売機能を追加する計画だと述べた。すでに現在、「あらゆるニッチやジャンル」のビデオが1万点以上アップロードされているとのことだ。

    リールはクリップサイトの人気の理由として、その雰囲気と、俳優自身が楽しんでいることを挙げている。クリップサイトにアップロードされる典型的なコンテンツは、意図的かどうかにかかわらず、素人くささがにじみ出ている。多くの場合、まぶしい照明や濃いメイク、明確なセットは省略され、音声にもムラがある。

    「とても私的な作品です」とリールは話す。「女優は撮りたい作品を撮っています。私のような人間が指示を出しているわけではありません。彼らは思い思いのコンテンツを制作しており、だからこそファンの心に響くのです」

    大手クリップサイトのなかでも、2016年夏に始動した「OnlyFans」は、ソーシャルメディア、特にTwitterとの連動によって、知名度の高いライバルサイトとの差別化を図っている。ファンとつながることができ、あからさまな成人向けコンテンツも投稿できるという理由で、女優たちはTwitterを好んで使用している

    一方、多くの女優はFacebookやInstagramを恐れている。ヌードを禁止するあいまいなルールが原因で、しばしばアカウントを停止されるためだ。

    今回取材に応じてくれた女優たちによれば、OnlyFansに新しいビデオや情報を投稿すると、Twitterとシームレスに共有されるが、このことで自分のコンテンツを、これまでのポルノサイトでは不可能だったかたちで可視化・共有化できるという。そして、すでに多くの人が使っている人気ソーシャルメディアと共生することで、OnlyFansそのものも急成長を遂げることができている。

    分析サービス「SimilarWeb」のデータによると、2017年5月時点のOnlyFansのユニークビジター数は月間170万人だったが、2018年5月には450万人まで増えていた(OnlyFansに何度かコメントを求めたが、回答は得られなかった)。同じデータによれば、ManyVidsとClips4Saleもトラフィックは安定しているようだ。過去1年間の月間ユニークビジター数は、それぞれ630万人と590万人だった。

    また、これらのクリップサイトは、新しいタイプの人たちをこの業界に引き寄せている。わずか数年前まで、伝統的なスタジオ環境と距離を置いていた人々だ。

    長年ゴーゴーダンサーの仕事をしてきたセス・フォーニアは2017年11月、OnlyFansのプロフィールページをつくった。「OnlyFansができるまで、ポルノの仕事をする気は全くありませんでした。スタジオ作品は報酬が低いためです。彼らの報酬は仕事に全く見合っていません」とフォーニアは話す。「OnlyFansを始めたときは、ヌード写真をアップロードするだけのつもりでした。けれども、思いのほか楽しく、もっときわどいコンテンツをアップロードするようになりました。すると、フォロワーが増加していきました」

    新しいポルノ市場に参入すれば、このように高収入を得られる可能性もあるが、同時に、意外な苦労を背負い込む可能性もある。大手スタジオの後ろ盾がない俳優たちは、宣伝のために、ソーシャルメディアで自身の作品だけでなく、舞台裏の写真も、絶え間なく共有している。

    ソーシャルメディアの世界では、コンテンツを提供し続けなければ、人々をつなぎ止めることはできない。そのため、ソーシャルメディアがストレスになる恐れがある(ただし、これはポルノかどうかは関係なく、多くのビデオブロガーが直面している問題だ)。

    2012年から女優の仕事をしているサマンサ・ローンは、きわどい写真と、休暇先で撮影した笑顔の写真をInstagramに並べて投稿している。魅力的な女性と親しい関係になったら、たまたまセックス好きの女性だったという「ガールフレンド体験」を演出するためだ。

    たとえ目的がセックスワークでなくても、このようなコンテンツはInstagramにあふれている(ヒップホップ歌手のドレイクは、こうしたモデルとつきあっていたことで話題になった)。

    ローンの場合、OnlyFansのリンクをクリックして月額14.99ドルを支払うか、別の方法でコンテンツを購入すると、セックスが可能になるというかたちで関心を惹いている

    「私はいつもソーシャルメディアに出入りしています。毎日、自分のマーケティングを行っているのです」。ローンによれば、InstagramとOnlyFansを合わせて26万3000人のフォロワーとテキスト登録者を抱えており、毎日すべてのダイレクトメッセージに返信しているという。

    しかし、方向転換に苦労している者もいる。7年前から女優の仕事をしているチェリー・デビルもそのひとりだ。

    「私は決して年寄りではありませんが、8月で40歳になるアナログ世代です。それが今はデジタル時代で、子供たちが、水を飲むようにソーシャルメディアを使っています」とデビルは話す。

    「私にとって、ソーシャルメディアは楽しいものではなく、仕事の一部です。一方、若い俳優たちにとっては自然なことです。彼らはソーシャルメディアから、価値や充足感を得ています」

    それでも、デビルはオンラインに可能な限りの販路を確保している。Instagramのプロフィールでは、ウェブサイトやオンデマンドビデオ、ManyVidsのクリップ、有料Snapchat(料金は月額10ドルで、「数百人」のフォロワーがいるという)、OnlyFansのプロフィール(こちらも登録者は数百人で、料金は月額8.99ドル)を宣伝している。デビルは週5日スタジオで撮影しながら、これらすべてを更新し続けている。

    一定の更新頻度を維持しなければ、すぐに影響が出ることもある。

    スティーブン・ランドは最近、旅行中に5日連続でコンテンツの投稿を怠り、500人いたクリップサイトの登録者を140人失った。ランドは6カ月前にOnlyFansのプロフィールページ、4カ月前には別のクリップサイトのプロフィールページを作成し、どちらも登録者に月額10ドル請求している。ランドの取り分は80%なので、今回のケースでは月額1000ドル以上の収入を失った計算になる。

    しかし幸い、一人ひとりへの熱心な働きかけにより、ほとんどの登録者を呼び戻すことができたという。

    「登録してくれた全員に感謝のメッセージを送り、更新してくれた人にはもう1通メッセージを送り、登録を解除した人にも、時間とお金を投じてくれたことへの感謝を伝えました」。さらに、登録期間が長い人にはビデオも送った。

    このように、多くのアカウントを維持することはプレッシャーを伴うが、今回取材に応じてくれた全員が、古いスタジオモデルに戻ることはおそらくないと口をそろえる。人気サイトは変化していくかもしれないが、断片化した新しいポルノ市場はすでに浸透している。

    「現在のポルノ女優は、永遠のアマチュアです。つまり、永遠にアマチュアのような手法で制作を続けるということです」とローンは話す。

    新しい形のポルノ独特のつながりが、意外な恩恵に発展することもある。ファンたちがお気に入りの女優を身近に感じ、その気持ちを表現するようになったためだ。これまでは誰かを思い浮かべながらマスターベーションしていたファンが、カメラの前でのセックスを気に入ったという理由で、俳優にドーナツを届けるようになったのだ。

    ローンは2016年、毎年ラスベガスで開催されているポルノ業界の会議「AVNアダルト・エンターテイメント・エキスポ」会場に行く途中、サイン用のDVDがたくさん入った箱を持っていたため、朝食を落としてしまったとツイートした。すると間もなく、5人のファンが、サンドイッチを持ってローンのブースに現れた。

    同じ年にニュージャージー州で開催された「EXXXOTICA」エキスポでは、別のファンが「ダンキンドーナツ」のドーナツとコーヒーを届けてくれた。ローンは以前、ダンキンドーナツが好きだとツイートしていたのだ。さらに2017年には別のファンが、ローンのストリップを見るため、シカゴからニューヨークまで車でやって来てくれたうえ、自家製の桃とアマレット(リキュール)のジャムを差し入れしてくれた。

    「たとえ私自身がそう思っていなくても、私は彼らの人生の大きな部分を占めているのです」

    この記事は英語から翻訳されました。翻訳:米井香織/ガリレオ、編集:BuzzFeed Japan