ファイナンシャルセラピストのもとに通う夫婦たち

    お金、そしてその使い方は、感情の影響を受ける。お金について話し合うとき、私たちの力になってくれるのが、ファイナンシャルセラピストだ。

    カップルは喧嘩するものだ。グリーティングカードやハリウッド映画で聞かれる決まり文句とは異なり、愛は必ずしも十分にあるものではない。夫婦の関係を保とうとすることが、日常生活のストレスを結びつくときには特にそうだ。

    パートナーといっしょに暮らすということは、相手の日常的な習慣という網にとらえられるだけでなく、金銭習慣という網にもとらえられてしまうということを意味する。

    相手がお金をどのくらい持っているのかということは重要だ。相手にいくら借金があるのかということも重要だ。法的に婚姻関係を結ぶ場合は特にそうだ。

    借金と結婚生活の不幸がどのぐらい関係しているのかを示す正確なデータは、なかなか見つからない。しかし、一部のあまり科学的とは言えない小規模な研究・調査が明らかにするのは、借金の金額が問題であるということだ。さらに借金は、セックスと肩を並べる「対立の原因」でもある。

    夫婦は、夫婦の借金であれ、個人の借金であれ、借金について話し合ったり、その問題に2人で取り組んだりするのが得意ではない。お金、そしてその使い方は、感情的なものだ。そしてそれが、借金について語ることをより複雑にしてしまう。

    ベス(31歳)とその夫マット(34歳)は、2009年に大学を出てすぐに結婚した。2人には合わせて約10万ドルの借金があり、その8割はベスの借金だった。2人の話では、結婚式の前に借金のことも話し合っていたが、表面的なことしか話していなかったという。

    「2人とも、このような問題についても話し合っておかなければならないということをわかっていませんでした。私について言えば、自分の借金の深刻さをきちんとわかっていませんでした。じっくり腰を据えて、申し込んだいろんなローンをきちんと整理したことがなかったんです」とベスは語る。「私も彼も、本当に世間知らずでした」

    ベスもマットも、親が長年にわたって申し込みに力を貸してくれた公的・民間の学生ローンの恩恵を受けていた。しかし2人とも、利子や返済計画といった肝心な部分をきちんと理解していなかった。ベスもマットも保守的な福音派の家庭の出だった(出会ったのも福音派の大学だった)。そんな2人には、彼女の言葉を借りれば「結婚したら、協力して何とかする」という教訓が身についていた。

    「結婚するや、いっぺんに支払いが舞い込んできました。そのことが恥ずかしくてたまりませんでした」とベスは語る。「マットは私と話そうとしていましたが、私は話し合おうとしませんでした」

    ベスの母は、彼女が10歳のときにがんと診断された。それもあって、ベスはつらい子ども時代を過ごした。しかし、たとえそうした複雑な事情がなくても、マットの家庭のほうが暮らし向きがいいことをベスは直感的に理解していた。

    「借金だけではありません」と彼女は語る。「お金や家計に関する経験は、それぞれまったく異なっています。私はそのことを常に意識していました。そしてそれが、私たちのあいだで最大の問題になっていました。結婚するまでは、それがどんなかたちで現れてくるのか、わからないものなのです」

    アンバー(37歳)も、そうした会話をうまく乗り切る方法がわからない、と語るひとりだ。彼女は2014年に結婚し、それにより、学生ローンとクレジットカードの債務からなる約2万ドルの借金が夫婦のものとなった。

    「学生ローンについては、何も恥ずかしくありませんでした。いまのアメリカでは、ごく当たり前のことですから」と、アンバーは夫と暮らすオハイオ州で語った。「でもクレジットカードの方は……ほんとうに、『私って、どうしちゃったんだろう?』という感じでした」。夫のほうは、クルマの支払い以外に借金はなかった。アンバーはクルマ関連のこうした借金を「いい借金」と呼ぶ。

    「そのこと(自分の借金)について2人で少し話しました。でも、たぶん十分じゃなかったと思います」とアンバーは語る。彼女の借金をめぐって、2人は「夫婦関係の一時的な危機」を経験したが、なんとかそれを乗り越えた。「夫と話し合うまでは、たいした問題ではないと思っていました。それが突然、『この問題は深刻だ。夫との間に壁ができてしまうかもしれない』と感じ始めたのです」

    金銭をめぐる夫婦の確執に関する2012年の研究によれば、「経済的圧力やコミュニケーションの問題、夫婦関係内にひそむ深刻な問題といったことはどれも、金銭をめぐる確執と関連しているという。2019年、世界の借金は史上最高を記録し、個人の借金も増加の一途をたどっている。そんないま、金銭をめぐる確執は、どうあがこうと避けがたいように思える。

    もちろん、非常に重要なクレジットスコアに影響を及ぼすクレジットヒストリー(信用情報)を積み上げるために必要な借金もある。貸す側は「責任ある態度で金を借りるように」と説教するが、ふくらむ一方の個人負債の額が示唆するのは、必ずしも誰もがそれを実行できるわけではないという事実だ。

    金融サービス企業ノースウエスタン・ミューチュアル(Northwestern Mutual)による2018年の調査によれば、現在の平均的なアメリカ人は約3万8000ドルの個人負債を抱えているという。パーソナルファイナンスサイト「NerdWallet」は毎年、アメリカ国内の借金に関する分析を行なっている。それによると、一世帯あたりのクレジットカード債務は平均6929ドルだという。またローン比較サイト「LendingTree」は、連邦準備銀行のデータに基づき、アメリカ人の年収に占める借金の割合を26パーセント以上と推定している

    自分の経済状態を恥じたり、それによって人間性を判断されていると感じたりしているのは、私が取材した女性たちだけではない。人々は(しばしば匿名で)自分の「マネーダイアリー」をシェアし、それがバイラルになったりする。そうした行為は、読者強い感情抱かせがちだ。そうした感情のほとんどがポジティブなものではない。

    あなたのことを直接知っている人であろうとなかろうと、夫婦は自分たちのお金をどのように使うべきかということについて、人々はさまざまな考えを持っているものだ。ネット上の見知らぬ人々が、赤の他人のお金に関する習慣をこれほどまでに感情的に気にするのであれば、親密な関係においてそれを打ち明け、正直に話すのは、どれだけ大変なことだろうか?


    アメリカ心理学会(American Psychological Association:APA)による2018年の調査から、アメリカ人の3分の2が自国の将来にストレスを感じていることがわかった。人々がますます不安を感じやすくなっているのはたしかなようだ。

    そして、メンタルヘルスに関するリテラシーは上がっているように見える一方で、お金の問題に的を絞ったセラピーの受診はまだ初期の段階だ。ファイナンシャル・セラピー・アソシエーション(Financial Therapy Association:FTA)は、お金に関する私たちのコミュニケーションのあり方を変えようとしている機関のひとつだ。

    この問題の解決策は、収入の増加と、金融に詳しくなることかもしれないが、多くの夫婦にとってはファイナンシャルセラピーがその突破口になる可能性もある。

    ファイナンシャルセラピーを専門とするファミリーセラピストとしてノースカロライナ州でクリニックを開業しており、FTAの役員も務めるエド・コームズは、「お金にまつわるこうした体験に関して、私たちが本当にやろうとしているのは、お金に関係する感情の高ぶりに取り組むことです」と話す。「私たちセラピストが耳を傾けているのは、クライアントが自身の金銭的な生活をどのような枠組みでとらえているかということです。いい借金なのか、悪い借金なのか、どうしてここに来たのかといったような枠組みです」

    コームズは、お金に関するクライアントたちの不安は増大していると述べたが、「お金をとりまく感情は、お金が登場してから、ずっと存在してきた」とも付け加えた。

    コームズの言葉を借りれば、お金から感情を引き離して、お金を「客観的な物体」にしたいと思う人もいるかもしれない。しかし、お金は人間が発明したものである以上、それが感情を欠くことなどありえない。それが価値を持つのなら、そこには感情が内在するのだ。したがって、お金にまつわる私たちの感情を変えることよりも、こうした感情が何を意味するのかを認識・解釈できることのほうが重要になってくる。

    親密なパートナーとの借金やお金についての話し合いに感情が入り込まないことなどあり得ないかもしれないが、こうした会話をもっと建設的なものにする方法はあるのだ。

    コームズのセラピストへの道のりは、想像されるようなスタートではなかった。彼は最初、テキサス州で消防士をしていたのだ。「仲間たちはみんな、2つのことで愚痴をこぼしていました」と彼は語る。「妻のことと、お金のことでした」

    コームズ自身も青年期のころ、母がお金のことで父に大きな不満を抱えている様子を目にしていた。そして、それがきっかけになって、彼はパーソナルファイナンスを勉強するようになった。「お金のことがわかれば、すべてうまくいくはずだと思ったんです」

    MBAを取得し、認定を受けたファイナンシャルプランナーになる途中で、コームズは結婚した。「自分は『専門家』のつもりでしたので、自分たちの家計をどうすべきかについて妻と話し合おうとしました。ただ、そのころの私はまだ、妻には、本人としては当然のものと感じられる、お金にまつわる経験があることを、まだ理解できていませんでした」

    そしてコームズは、また学校に通ってセラピストとしての勉強をしなおすことにした。「人々の働き方を理解し、カウンセラーの視点から、お金の悩みを抱える人々の力になるために」だ。

    コームズのクリニックには、彼と同じような経験を持つクライアントたちがやって来る。彼がクライアントに対して用いるフレームワークは、一種の「愛着理論」だ。そう、生来の感情スタイルに関する、あのポピュラーな理論だ。

    「人々とお金、とくに借金の問題を扱うことについて言えば、非常に重要なのは、お金にまつわるクライアント自身の経験を、家族から話を聞いて理解することです」とコームズは言う。また彼は、個人の愛着スタイルも考慮に入れる(愛着スタイルとは、「親密な関係の築き方や、自分をどう見ているか、他人をどう見ているか」といったようなことで、「ごく初期の発達上の経験から生まれる」ものだ)。

    結婚した結果、彼女の借金約2万ドルが夫婦の借金になった例として先ほど紹介した37歳のアンバーの場合、アンバーが子供のころ、彼女の家族は「その日暮らし」を送っていた。まるで異なった環境で育った男性と交際するようになったあと、彼女はずっとそのことを意識していた。

    「お金に関しては、私たちはまるで違う家庭環境で育ちました」とアンバーは語る。「私はシングルマザーの家庭で育ち、彼は両親がそろっている家庭で育ちました。彼の家庭も、裕福というわけではありませんでしたが、金銭トラブルは抱えていませんでした」

    アンバーの家族が不安定な生活を強いられる一方で、夫の家族は「まさかのときに備えて、コンスタントに貯金していました。彼も、将来の目標に向けて貯金していました」。しかも、彼女の義理の母は金融業界で働いており、それが両者の考え方の違いをいっそう明確なものにした。

    コームズは、「愛着スタイルは心のなかに、あなたが愛すべき人物かどうか、他者が安全で信頼できるかどうか、それに対してあなたはどうするか、といったことに関するマップを組み込みます」と語り、それを4つのカテゴリーに分類する。ひとつは「安定型」、残りの3つは「不安型」と「回避型」「混乱型」だ。すべての相互関係は、これらの組み合わせのいずれかに当てはめることができる。

    「愛着スタイルは普遍的な経験です。誰もが、スタイルをひとつ持っています。セラピストとして私は、各人の愛着スタイルはどう活性化されるのだろうか、ということをいつも問いかけています」

    非営利団体で働くティファニーと、ソフトウェアエンジニアの夫はともに34歳で、結婚してからほぼずっと、借金を抱えて生活してきた。その大半は学生ローンだった。そして、数十万ドルものローンをようやく完済したあと、新たな問題が持ち上がった。

    「夫は約10年間、本当に必死に働いてきました。でも、(ローンを完済できたので)いまの仕事を辞めて、情熱を傾けられることにしばらく時間を使いたいと言い出したんです。私たちは、ニューヨーク市という生活費がとても高いところに住んでいます。なのに、それなりに余裕のあるダブルインカムの暮らしから、シングルインカムになるなんて、私にとっては正気の沙汰とは思えません。どうして? なぜそんなことをしなければならないの? という感じです」とティファニーは語る。

    ティファニーは母子家庭で育ち、しばしばやりくりに苦労していた母親の姿を覚えている。一方、夫の家族は海辺に夏の別荘を持てるほど豊かだった。2人の生い立ちには隔たりがあったのだ。

    「私は生まれて初めて、お金に不自由しないという安心感を抱いていました。同時に、経済的に余裕のある生活から、貧乏な暮らしに一変してしまうことを恐れていました」とティファニーは話す。「力を合わせて学生ローンを返済していたあいだは、私たちの経済観念がぴったり一致していて、完済という目標に向かって突き進んでいました。でも、すべてを払い終えたとき、『これから一体どうしよう?』という感じになってしまったんです」

    2人は話し合いを重ね、「一方あるいは両方が涙を流して終わる」ことを繰り返したあと、セラピストに相談することにした。具体的に、経済的な問題を解決するのが目的だった。「結婚して12年になりますが、コミュニケーションを取り合うだけであれほど苦労したのは初めてでした。他の人の助けを借りて、互いの考えを理解し、妥協点を探らなくてはなりませんでした」

    2人は友人に相談してアドバイスをもらったりもしたが、最終的には、専門性を理由に、ニューヨークのカウンセラーと話をすることにした。「そのカウンセラーはキャリアトランジション(転換期)を専門としていて、おもに退職を控えた人や、主婦・主夫の相談に乗っています。私たちはいま、今後のキャリアがあらゆる意味でやがてどう変わっていくのかということを話し合っています」

    一方、冒頭で紹介したベスに起きた変化は、もっと個人的なものだった。彼女は、夫に対して若干の責任を感じていた。2人が大学卒業後にすぐに結婚したからだ。「結婚する前から、母がそう長くは生きられないであろうことを私はわかっていました。それに、母のことや自分の借金について、苦しい生活になりうることについて、長いこと考えてきたと思っていました。でも、夫まで苦しい生活を経験する必要はなかったんです」

    お金をめぐるベスの不安は、実際にかたちをとって現れた。2人はごく短期間で、結婚をし、家族を失い、大陸の反対側へ引っ越した。しかも、借金という問題もあった。「苦しい生活になるのは覚悟していました。家財道具もたくさん売り払いました。でも、つらい半年間を乗り越えれば、あとは何とかなるだろうと思っていたんです」とベスは語る。「ところが、思っていたよりもずっと厳しい状況になりました。そうやって絶え間なくストレスにさらされていたせいで、私たちは健全な方法でコミュニケーションを図れなくなってしまいました」

    2人は、戸建てに引っ越し、次から次へとルームメイトを住まわせて、生活費を捻出した。いっときは2人合わせて5つの仕事を掛け持ちしていたが、それでも光熱費が払えなかったという。「ある日、早番の仕事を終えて帰宅したら、電気がつかないことに気がついたんです。私と夫が取り乱しながら話をしていると、ルームメイトがやってきてこう言いました。『あなたはいま、パニック発作を起こしているみたいね』と。私がそんな状態になったのは、ほかにわずか数回でしたし、たいていは母を病気で亡くしたことによる心的外傷後ストレス障害(PTSD)が原因でした」

    母の死で嘆き悲しんでいた頃にカウンセリングを受けたことがあるというベスは、こう語った。「私は、それが私たち夫婦の経済状況にどんな影響を与えてきたのかをじっくり考え始めました。(母の人生と、経済的に苦しい生活という)2つに、明らかな結びつきがあったのは言うまでもありません」


    恋愛関係にある2人は、それぞれお金に対して異なる考え方を持っている。人種やジェンダー、社会文化的な属性など、その理由はさまざまだ。コームズは、「私たちは、親密なパートナーといろいろなレベルで心理的に結びつき、相手を自分の延長線上だとみなします。パートナーも、自分と同じような考え方をするだろうと思い込むのです」と述べる。しかし、いつも同じだとは限らない。

    「ファイナンシャルセラピーでは、認識と思考を子どものころの感情体験に結びつけます」とコームズは語り、あるクライアントについて語ってくれた。貧しい環境で育ち、自分より裕福な家庭出身のパートナーと結婚した男性だ。2人の収入を合わせた額は、それぞれ幼かったときの家庭の収入額の中間くらいに位置していた。

    「2人の出発点における基準には大きな差がありましたが、いまは、結婚した夫婦として経済的にほどほど安定した暮らしを送っています。とはいえ、2人の結婚には階級的な違いが存在します。そして、行動のもととなっているのは、子どものころの経済的な記憶です。その記憶には、現在の状況が反映されていません」

    学生ローンが完済したのでいまの仕事をやめたいと言い出した夫とティファニーの場合は、セラピーを受けたことで、互いが描く経済的な見通しがどれほどずれているかが明らかになった。「私たちは確かに、これまでも今でも、お金に対する姿勢が違います。夫の家族はお金に不自由していませんでしたが、彼が幼いころは不景気だったため、夫はずっと節約してきたんだと思います。彼はまさに倹約家で、私はどちらかというと浪費家です」。そしてティファニーは、「学生ローンを完済したら、少し贅沢しよう」と思っていたことを認めた。

    ファイナンシャルセラピーを受けたことで、2人は未来のゴールについて、どのような言葉を使ってどのように話し合えばいいのかを理解した。「最初の2回か3回は、両方とも、泣きはらした目でセラピストのところをあとにしていたと思います。お互いに、怒りや不満、反感を抱いていたからです。胸のうちをすべて吐き出したあとは、どうやって一緒に進んでいけばいいのかを考えられるようになりました」

    「夫は、学生ローンの完済が最終目標だと考えていたことを、私に一度も話してくれませんでした。一方の私はというと、『人生という長いレースにおいては、(ローンの完済は)トラック1周分にすぎない』と考えていました」とティファニーは笑う。「夫は、私に対していきなり考えをぶつけたようなかたちになったことに気がつきました」

    2人はいま、2カ年計画を立てており、それが終わったら、その内容をもう一度見直す予定だ。「いまでは、私たちのゴールは同じです。セラピーは、ゴールを統一するうえでとても役に立ちました」

    カンザス州に住むライターのレイチェル(32歳)は、夫が失業したり安月給の仕事に就いたりする不運が続いたため、何か問題が起きる前にファイナンシャルセラピーを受けることにした。「夫は大きなストレスを感じていました。というのも、彼は自身のアイデンティティを、労働意欲とかなり重ねて考える人間だからです。ですから、成人後に初めて失業者になってしまったことは、彼にとって本当につらい経験でした」とレイチェルは言う。

    2人は、夫の失業中にクレジットカードによる多額の借金も抱えてしまい、支払いは現在も続いている。しかし、ともに経済にとくに詳しかったわけではないものの、金銭的な優先事項についてはかなり意見が一致していると思う、とレイチェルは語った。

    幸い、彼女は以前にもセラピーを受けた経験があり、セラピーは自分と夫の関係維持に役立つのではないかと考えた。「私がカウンセラーに会うのは、何にもまして予防のためです。自分が精神的に健全な状態にあるかどうかを確認するための検査であり、私たち夫婦がうまくコミュニケーションをとれているか、いずれ問題に発展しそうなことがないかを確かめる意味あいがありました」

    セラピーでは、夫が職場復帰することで、分担していた家事にどう影響が出るかということまで話し合った。夫は失業中に、より多くの家事を引き受けていたためだ。

    「話し合いをする際には、仲介者がいる場を設けて、本来の問題について議論するようにし、言い合いを避けるのがカギです。セラピストがいると、会話が横道にそれることがありません」

    私が話を聞いた人々はみな、はじめのうちはファイナンシャルセラピーに頻繁に通っていたという。切羽詰まった状態だったからだ。そして全員が、セラピーには長期的なメリットがあったことを認めている。具体的には、明確で率直なコミュニケーションが取れるようになったことだ。ファイナンシャルセラピーに通うのは良い考えだという点で全員が一致している。そして、状況次第では、今後も受けていきたいと考えている。

    コームズによると、ファイナンシャルセラピーで成果を出すコツは、必ずしも行動を変えることではないという。むしろ、お金をめぐる自分たちの感情をより深く理解しようとする姿勢が大事だ。

    「私たちは、お金に対してきわめて機能主義的な姿勢を持つこともできます。『必要なものだけを買う』というような考え方です。しかし、お金をもつことには、それにまつわる喜びなどの感情が存在します」とコームズは述べる。「感情が動くのは止められません。ですから、どういったときにお金に関する恥や罪悪感、怒りを感じるのかを、できるだけ理解したほうが良いのです」

    この記事は英語から翻訳・編集しました。翻訳:阪本博希、遠藤康子/ガリレオ、編集:BuzzFeed Japan