トランプ次期大統領の「ニュースの仕入れ元」を分析

    BuzzFeed Newsは、ドナルド・トランプ次期大統領が選挙運動を開始して以来、ツイートしたすべてのリンクを分析した。

    大統領就任を間近に控えるドナルド・トランプ氏。トランプ氏は当選を果たした後、一般投票における自身の敗北を大掛かりな不正投票のせいにする偽の情報を共有し、各ニュースメディアの見出しを飾った。この主張は以前、陰謀論系ニュースサイト「Infowars」によって報じられたものだ。

    トランプ氏がケーブルニュースの熱心な視聴者であることは広く報じられてきた。少なくとも軍事関連の助言の一部を「番組」から得ていることは本人も認めている。だが、こうした番組の他に、トランプ氏が新政権に影響を与えるニュースや解説をどこで見つけることになるのかは、ほとんど知られていない。トランプ氏はどのようにメディアを利用しているのだろうか?

    トランプ氏と最新のインターネットとの関係についてわかっている限りでは、トランプ氏氏が自分でウェブサイトを閲覧することはめったにないようだ。選挙戦でトランプ陣営の報道参謀を務めたホープ・ヒックスが『GQ』誌に語ったところでは、トランプ氏はもっぱらスタッフに頼んで「Googleニュース」をプリントアウトしてもらっており、自分宛てのメールを読む機会も限られているという。

    またトランプ氏が2007年に行った宣誓証言の内容によると、同氏はコンピューターを使っておらず、日中はスマホも携帯していないこと、日中に投稿するツイートの多くはアシスタントに書き取らせていることなども窺い知れる。

    トランプ氏のメディア利用に関する理解を深めるため、BuzzFeed Newsは、同氏の公式声明とニュース共有の最大のソースであるTwitterに着目した。トランプ氏のメディア利用と手法は不透明で型破りに見える一方、2000万人超のフォロワーに向けて選択・共有されるニュースからは、何がトランプ氏の目に止まるのかについての情報を提供してくれる。

    トランプ氏がツイートしてきた全サイト:双方向チャート

    BuzzFeed Newsは、トランプ氏が投稿した3万4062件のツイートのうちの2万6234件をチェックした。これらのツイートを、BuzzFeed NewsはTwitter APIと、開発者のブレンダン・ブラウンから入手した。

    ブラウンは、トランプ氏のツイートを、APIを介してアクセスできるもの以外(ツイートした文字列や時刻、日付などの情報を含むデータストリーム)も含めてアーカイブに保管してきた人物だ。われわれは、そのデータをフィルタリングして、2015年6月の出馬表明以来、トランプの個人アカウントによってツイートされた2687個のハイパーリンクに絞り込んだ。

    ツイート内の短縮リンクをプログラムで元へ戻すことによって、それらを分類して数えることが可能になった。こうして、トランプがおそらく閲覧し、世間に広めているニュースや意見の輪郭を生成することができた。

    実際にこのデータを見る前に、留意していただきたい点がいくつかある。今回分析されたツイートは、2015年6月1日(トランプが出馬表明を行った月)から2016年11月17日に投稿されたものだ。トランプのアカウントによってツイートされたTwitter.comのリンクは、大多数がリツイートだった。

    「メディア」に分類された各サイトは、「コンテンツを定期的に配信する組織」という幅広い定義に基づいている。そして、選挙運動に関係するリンクには、トランプ氏本人のウェブサイト、および共和党(GOP)関連のサイトへのリンクなどが含まれる。

    (2015年6月16日~2016年11月17日にトランプが投稿したツイートのダウンロード可能なスプレッドシートはこちら)

    BuzzFeed Newsの分析から、トランプ氏や側近が公に表明する見解を強化・支持すると思われるメディアのエコシステムが浮き彫りになった。トランプ氏がツイートするニュース記事には共通する特徴がいくつかある。

    (1)事実や報道よりもセンセーショナリズムをしばしば優先させる。

    (2)トランプ氏本人あるいは側近の発言をそのまま引用することが多い。

    (3)定期的にトランプ氏の敵対者を中傷し、大きな物議をかもす同氏の意見を正当化する。

    ニュースソースに関して言えば、トランプ氏(あるいは、場合によっては、同氏のTwitterアカウントの管理をまかされるスタッフ)がツイートする記事が示唆するのは、同氏はニュースが正確か否かについては意に介さず、極度に党派的なニュースに信頼を寄せる傾向がある。また、自身の意見を正当化するときだけ主流派のニュースも喧伝するという傾向があるということだ。

    共和・民主両党の政治家たちが、自身のアジェンダにとって役立つコンテンツの共有のためにTwitterアカウントを利用しているとはいえ、正確さに疑問が残るソースやニュース記事へのトランプ氏の依存度は、頻度と関与の両面で突出している。選挙運動期間中、トランプ氏のアカウントによって共有された記事は、同氏がオンライン上に強力な「フィルターバブル」(対立する観点が見えなくなる情報の皮膜)を構築したことを物語っている。このバブルは、トランプ氏を褒めそやし、彼が事実だと主張することを追認するものだ。

    トランプ氏がツイートしたリンクを目安にするなら、どうやら、同氏お気に入りの情報源はTwitterそのもののようだ。選挙運動中にトランプのアカウントによって共有されたハイパーリンクの半分近くが、TwitterのURLに由来しているのだ。その多くが、トランプ氏が彼のファンたちのツイートをリツイートしていることを示している。

    "@WhiteGenocideTM: @realDonaldTrump Poor Jeb. I could've sworn I saw him outside Trump Tower the other day! https://t.co/e5uLRubqla"

    そのなかには少なくとも75人の白人至上主義者へのリツイート(『Fortune』誌調べ)や、銃暴力にまつわる人口統計学的属性に関する虚偽の主張へのリツイートなどが含まれている。トランプ氏がもっとも頻繁にツイートしたほかのリンクは、自身のFacebookページ(266個)とウェブサイト(201個──大半は声明やイベントスケジュール、投票者情報に関するもの)へのそれだ。

    選挙期間中、トランプ氏がツイートした見出しトップ20

    選挙運動期間中のトランプ氏は1500万人超のフォロワーと、保守系ニュースサイト「Breitbart News Network」(以下、ブライトバート)のリンクを数多く共有したが、その数はほかのどの報道機関のリンクよりも多かった(ブライトバートで会長を務めるスティーブ・バノンは、2017年1月にはトランプのシニアアドバイザーとしてウエストウイング(ホワイトハウス西棟)入りすることになっている)。

    トランプ氏は、主流派サイトからのリンクも共有している。分析対象の期間中に同氏が共有したリンクが2番目に多かったのは『The Washington Post』紙のサイトだった。しかし同氏の好みは、極度に党派的な右寄りのサイトやオピニオンブログのコンテンツのようだ。

    たとえば「Newsmax」(18個)、「The Gateway Pundit」(14個)、「The Conservative Treehouse」(11個)、「The Political Insider」(1個)、「Conservative Tribune」(1個)、「Infowars」(1個)、「News Ninja 2012」(5個)、そして「Western Journalism」(1個)から、それぞれリンクを共有している。

    さらに、トランプ氏のTwitterアカウントは、「Agent 54」など無名の個人ブログからも多くリンクを共有している。Agent 54は過去に、「スティンク・ファーティンメイル」なるキャラクターが司会を務める、モニカ・ルインスキーについてのいんちきクイズ番組などの冗談ネタを投稿しているブログだ。

    トランプ氏は、マケドニアの若者グループが広めた偽ニュースの類いを共有することはめったにない。だが、大きな物議をかもす自身の発言を大筋で支持していると思われる意見や状況証拠、伝聞などを下支えするニュース記事には、それが胡散臭い場合でも親しみを覚えているようだ。

    トランプ氏は9/11にワールドトレードセンターのタワーが倒壊した際、ニュージャージー州で「何千人」ものイスラム教徒が屋上から歓声をあげたという自身の主張を裏づけると思しきニュース記事を選挙運動期間中頻繁にツイートした。警察や、事実確認の取れたニュース報道などによる証拠は一切ないにもかかわらずだ。

    ほかにトランプ氏がツイートしたニュース記事には、「トランプ氏の主張は正しかった:イスラム教徒が"群れ"を成して屋上で9/11を祝賀、とCBSが報道」という見出しのブライトバートの記事や、フロリダ州オーランドのナイトクラブ「パルス」で起きた銃乱射事件の加害者、オマル・マティーンが9/11を祝っていたとする『New York Post』紙の記事などがある。

    トランプ氏によって提示されたこれらの記事や、こうした記事が「報道」と主張する事実の見方は、信頼性を欠くものだ。トランプ氏がいくら訴えようと、New York Post紙の見出しに同氏の主張を後押しする効果はほとんどない。

    当時、マティーンが通っていたのはフロリダ州の高校であって、歓声があがったとトランプが主張するニュージャージー州ではなかった。また、ブライトバートの見出しが、イスラム教徒が「群れ」を成して歓声をあげていたと述べる一方で、ビデオ証拠──2001年9月16日放送の地元ニュース──が明らかにしているのは、歓声の事例証拠(ニュースキャスターたちはそう表現している)だけだ。「群れ」という言い方は、9/11のあとにニュージャージー州で、イスラム教徒と思われる8人組のグループが逮捕されたという内容の逸話を誇張して伝えている。

    トランプ氏はTwitterで、強烈な見出しや、説得力のない証拠を、物議をかもす自らの主張に対する正当性の裏づけとして喧伝する場合が多い。用心深い読者にはネガティブの証明(Proving a negative:存在しなかった物事の証明)という厄介な仕事を課すものだ。

    トランプ氏は、主流派メディアは強く偏向していると頻繁に訴えているが、BuzzFeed Newsの分析から、従来型報道機関のニュース記事を多数、共有していることがわかった。

    選挙運動期間を通じて、トランプは頻繁に主流派メディアの記事についてツイートしている。The Washington Post紙(26回)、New York Post紙(22回)、『The Hill』紙(21回)、「Politico」(15回)、「CNN」(12回)、『USA Today』紙(10回)、「Bloomberg」(7回)、『Forbes』誌(7回)、「CBS News」(6回)、「ABC News」(5回)、「NBC News」(5回)などによる記事だ。ほぼすべての例において共有されたのは、トランプへの支持を表明する世論調査についてのニュース(その多くは予備選挙に向けて行われたもの)や、ヒラリー・クリントンについての否定的な記事(その多くは「WikiLeaks」が暴露したメールに関するもの)だった。

    トランプ氏が主流派メディアの記事をツイートする頻度や、その際の態度に目を向ければ、同氏がアメリカで最大規模を誇る従来型のニュース編集室に自身の正当性の立証を望んでいることは容易に見て取れる。肯定的な報道がなされるときのトランプの反応は、いささか大げさだ。The Washington Post紙のクリス・シリッザによる記事に対しては、「自分の意見を変え、正しい行動を取れるのが、真の人格者というものだ」と述べている

    だがこうした称賛も、敵対的な報道の兆しが見えるやいなや、消えるとまでは言わないが、かたちを変えることがしばしばだ。たとえば2015年7月にトランプ氏は、リッチ・ロウリーがPolitico誌に寄稿した「素晴らしい記事」を絶賛するツイートを投稿した。しかし9カ月後には、トランプの語調は変わっていた。「ワオ、@Politicoは完全な混乱状態だ。ほぼ全員が辞職するではないか」とトランプはツイートした。「良いニュースだ──劣悪で不誠実なジャーナリストどもめ!」

    トランプ氏が共有したリンクについてのBuzzFeed Newsの分析は、トランプ氏が主流派メディアの報道をツイートする場合、その目的は、自身に関する肯定的なニュース、あるいは自身の政治姿勢を支持する報道を共有するためであることを示唆している。この事実は注目に値する。

    たとえばトランプ氏は、同氏の指導力に関する世論調査のデータを喧伝する『Slate』誌の記事をいち早く共有(同じ記事を2日間で2度)し、「賛成だ!」の太鼓判を押した。しかし、もうひとつの非科学的なオンライン調査を除くと、トランプ氏は過去1年間に同誌のサイトに投稿された、自身の名前を含む4400を超す記事のいずれも共有しなかった。それらの多くは敵対的な報道内容だった。

    トランプ氏がTwitterで共有したリンクの分析は、しばしば文字通りの「メディアのエコーチェンバー(反響室)」を描き出している。トランプ氏がシェアした記事は多くの場合、同氏の選挙集会の内容を好意的に要約したもので、その大部分はトランプ氏本人による発言の引用で構成されており、そこには裏づけのない主張も含まれている。

    選挙運動の開始以降にトランプ氏がツイートした2687のリンクのなかで、「いいね」とリツイートの合計数で最多となる「5万3700」を誇っているのは、政治サイト「LifeZette」の記事だ。同サイトの編集長は、トランプ支持の政治コメンテーター、ローラ・イングラハムで、同氏の名前はホワイトハウス報道官の最終候補者名簿に入っていると報じられている。この記事で唯一引用されているのは、トランプ氏がアメリカ政府にはびこる「腐敗を一掃する」と初めて誓った、選挙集会での同氏の発言だ。

    同様に、トランプ氏のアカウントによりツイートされたリンクは、同氏の側近からの称賛も強調している。7月に投稿されたあるツイートでトランプ氏は、「アメリカが貿易政策をめぐる問題を解決するためには、トランプ氏のようなやり手が必要だ」とする「CNBC」の論説を共有したが、その記事の共同執筆者の1人は、選挙戦でトランプ陣営の政策顧問を務めたピーター・ナバロだった。

    トランプ氏の見ているメディアに関するBuzzFeed Newsの分析は、トランプ氏がデマを共有しないではいられなかったことを示している。トランプ氏のTwitterアカウントは、選挙運動期間中に「Prntly」から2本の記事を共有した。

    Prntlyは、かつては名刺や葉書の販売を手がけていたが、現在は「アメリカのトップニュースサイト」を自称している。The Washington Post紙からは「フェイク・ニュースサイト」と評されており、ニューヨーク州アルバニーで合成麻薬「エクスタシー」の密売人をしていた人物によって運営されている。

    The Washington Post紙によると、Prntlyは独自のソースをでっちあげ、ほかのサイトから原稿を盗用して「独占」と偽り、ユーザーを参加させては、審査なしで新しい記事を勝手に書かせているという。トランプが共有したPrntlyの2つの記事はその後、どちらもサイトから削除された。ひとつは、「ラストベルト(ミシガン州などを含む「さびついた」工業地帯)」の有権者に対するトランプ氏のアピール度は、フランクリン・ルーズベルト以降で、どの候補者よりも高いという主張(引用も証拠も一切ない)。もうひとつは、トランプ氏がフォードに圧力をかけ、メキシコに建設中の工場をオハイオ州へ移転させることに成功したという主張(これもデマ。The Washington Post紙など多数のメディアが誤りを立証している)が含まれていた。

    トランプ氏は、「Powdered Wig Society」などの、極度に党派的で、しばしば事実を無視するブログのニュース記事も共有している。Powdered Wig Societyは先日The Washington Post紙がフェイク・ニュースサイトのリストを公表したが、Powdered Wigが入っていない」と嘆いている。「ちくしょう! もっとがんばらないと」。トランプが共有した同ブログの投稿は、Prntlyをソースとしたもので、ヒラリー・クリントンを「ヒットラリー・クリントン」呼ばわりしている。

    トランプ氏によって共有される極度に党派的なメディアの記事は、頻繁に、話の都合のために事実を犠牲にする。2016年8月にトランプがリツイートした「Gateway Pundit」のある記事は「オハイオ州コロンバスで開かれた選挙集会で、民主党の息のかかった消防署長が何千人ものトランプ支持者を追い払った」と主張した。このツイートは、トランプに対する不当なバイアスをめぐって、同氏の支持者たちのあいだでちょっとした物議をかもす一因となった。その後『Columbus Dispatch』紙による追跡記事が数字の誤りを訂正し、退去させられたのは数百人だけであること、そしてコンベンションセンター当局は当該の選挙集会を1000人に制限しており、トランプ陣営もその数字を事前を承諾していたことを伝えた。

    トランプ氏のTwitterアカウントは同氏の情報利用手段のひとつにすぎないが、その効果は絶大だ。その幅広いリーチには多大な影響力が備わっているのだ。BuzzFeed Newsの分析から、標準的なニュースに対するトランプのツイートは約1万265のエンゲージメント(リツイートと「いいね」の合計)を獲得していることがわかった。同アカウントのエンゲージメントの平均は4729で、トップニュースに対するツイートは5万3000を優に超すエンゲージメント総数を獲得した。

    選挙運動期間中、トランプ氏のアカウントのエンゲージメントは、ヒラリー・クリントン氏のそれを大きく上回った。投票日に至るまでの3カ月間(8月9日~11月8日)に、クリントン氏のアカウントがツイートした回数は2449で、リツイートの平均は3964だった。対するトランプは587回ツイートし、リツイートの平均は1万863だった。そして、トランプ氏が投稿して大きな反響を呼んだ非ニュース系のツイートの多くが、何十万というエンゲージメント総数を叩き出した。

    Twitterへの精通と、それを使いこなして従来型のメディアを迂回すると同時に巧みに利用する優れた能力のおかげで、トランプ氏は自身のアカウントを大統領選、そして、来るべき大統領職への型破りな序章のための、比類なく強力な拡声器に仕立て上げたのだ。


    この記事は英語から翻訳されました。(翻訳:阪本博希/ガリレオ、編集:中野満美子/BuzzFeed Japan)