米の拷問プログラム支持者たちは、トランプ新政権に期待している

    ブッシュ政権時代に行われていた「CIAによる拷問プログラム」の支持者たちは、まもなくホワイトハウスに盟友を得ようとしている。オバマ政権はこのプログラムを、最初は批判したものの十分に清算できなかった。

    ドナルド・トランプによる米大統領への宣誓就任を5週間後に控えた12月はじめの火曜日の午後、米ワシントンのある部屋に集まった専門家たちは、一人の男性に対して拍手を送っていた。その男性とは、人権擁護派たちが戦争犯罪人と見なす人物、元米軍所属の心理学者、ジェームズ・ミッチェルだ。

    ミッチェルは、アメリカン・エンタープライズ研究所(AEI)で1時間にわたる講演をし、オバマ政権によって廃止された米中央情報局(CIA)の尋問プログラムについて売り込んだ。10年以上前に自らが開発したこのプログラムのおかげで、ミッチェルはこれまでに数百万ドルを稼いできた。ミッチェルは落ち着いた様子で、機密扱いの刑務所で、テロ容疑者を天井から鎖で吊るしたり、壁に叩きつけたり、ストレスを感じる姿勢をとらせたり、上から顔に水をかけて擬似的に溺れさせたりする尋問の有効性を訴えた。

    講演が終わると、ミッチェルはロビーの近くにあった細長いテーブルの前に座って、ファンのために新著にサインした。『強化された尋問:米国を滅ぼそうとするイスラム系テロリストの心の中と動機(Enhanced Interrogation: Inside the Minds and Motives of the Islamic Terrorists Trying to Destroy America)』という書籍だ。

    人だかりの中には、元CIA弁護士ロバート・イーティンガーや、元CIAの広報担当者ビル・ハーロウなど、ブッシュ政権時代のCIA当局者が数人いた。イーティンガーは、尋問中の様子を撮影したビデオテープをCIAが廃棄した件を正当化する際、その法的解釈が引用された人物だ。一方のハーロウは、米国当局者による屈辱的な扱いを正当化しようとする者たちにとって、広報分野での権威となっていた。

    大学の同窓会のような感じだったが、ぞっとするような雰囲気があった。

    「最初の場所で一緒に働きましたね。いい仕事ができました」。ある女性は、著書にサインをしてもらいながら、朗らかにミッチェルに話しかけた。

    数分後、元CIA弁護士のイーティンガーは記者に向けて、2014年に自らが、拷問プログラムの乱用に関する資料を作成しようとする試みを妨げたことを認めた。当時、イーティンガーやミッチェルなどを含む、元CIA当局者数人の行為について捜査していた上院調査官を、米司法省によって抑制させたのだ。イーティンガーの関与は長い間疑われていたが、CIAや上院から名指しでは一度も確認されてはいなかった。しかしイーティンガーは今回、自身の役割を臆することなく公表した。

    上院が容赦ない調査をしていた2014年当時、CIAは、オバマ政権に助けられつつ、ミッチェルやイーティンガーら、拷問に関する報告書がほのめかす人物たちの身元が明らかにならないよう努力した。そして、自分たちを非難しないであろう次期大統領の就任を数週間後に控えたいま、彼らは、ホワイトハウスからわずかしか離れていない場所で、存分に語りたいと考えている様子だった。

    バラク・オバマが大統領就任後、真っ先にしたことのひとつは、尋問プログラムを法的に禁止することだった。就任した週に出した包括的な大統領令で、オバマ大統領は、水責めなどの過酷な尋問方法の使用とCIAによる拘留作戦を禁じた。多くの拷問反対派にとっては幸先の良いスタートだったが、尋問問題に関するオバマ政権の前向きな動きは、これが最初で最後だった。

    オバマ政権は、9.11米同時多発テロ後、テロ容疑者の無期限収容に利用された悪名高いグアンタナモ収容所の閉鎖も約束した。

    しかし、オバマ大統領の8年間にわたる任期中、ホワイトハウスは、よく言っても怠慢、悪く言えばブッシュ政権時代に起きたことからの回復努力を、積極的になかったことにしてきた。水責めのような尋問テクニックは違法との立場は明白にし続けたが、米国が過去に行った拷問を全て認める、という約束は果たされなかった。

    就任して間もないオバマ大統領が、CIAのプログラムに関して「後ろを振り返らずに前を向く」と述べた2009年以降、拷問賛成派は開かれた場で、自由に物を言うことができるようになった。

    ミッチェルは、ブッシュ政権時代にCIAのプログラムを支持した大勢の者たちの意見を繰り返していた。水責めは個人的に「好きではない」が、効果があり、拷問というほどのものではなく、ブッシュ政権では合法だったと述べていた。

    「『後ろを振り返らずに前を向く』という決定は、実際には『おとがめなし』を意味した」とキャサリン・ホーキンズはBuzzFeed Newsに語った。ワシントンDCを拠点とする法的権利擁護団体「コンスティテューション・プロジェクト(Constitution Project)」の上級弁護士であるホーキンズは、ブッシュ政権時代のプログラムに関する画期的な独立した報告書をまとめた人物でもある。

    水責めなどの尋問方法への支持を声高に唱えてきたトランプ氏が次期大統領に選ばれたことで、「おとがめなし」の風潮は明確になった。ミッチェルの著書は数カ月前に出版されることになっていたが、CIAの拷問被害者に民事訴訟を起こされたことで、無期限に棚上げされた。だが、トランプ氏が次期大統領に選ばれると、裁判が続いているにもかかわらず急いで出版され、著書を宣伝するブックツアーが始まったのだ。

    ミッチェルの新著の版元であるクラウン・パブリッシングの代表カリサ・ヘイズは、次のように述べている。「最近、この本に対して批判的な関心が高まっていた。そうしたことから、出版を急いで、読者自身に読んでもらって批評してもらうのがいちばんだと感じた」

    オバマ政権下の司法省は、拷問プログラムに加担したミッチェルらCIA当局者の起訴をしなかった。

    司法省は数年後、CIAに協力して、拷問作戦に関する上院の大々的な調査を遅らせ、大統領特権の名の下に、9000点を超えるブッシュ政権時代の文書を上院の調査官が入手できないようにした。それに加えて、調査概要の公表にも抵抗した。しかし、この調査概要からは、効果がないと判明した尋問を、CIAがまずいかたちで乱用したりしていたことがわかった。上院の調査官たちのコンピューターを、CIAが監視し、調査していたことが明らかになったときも、オバマ政権はCIAの側に立った。

    オバマ大統領の任期が終わりに近づいても、ホワイトハウスは、機密扱いされた6700ページにわたる上院の調査結果を行政文書扱いにするのを拒んだ。そして、CIAと共和党が調査結果を「米連邦議会議事録」のままにして、情報公開請求の対象外にするのを慎重に手助けした。さらにホワイトハウスは、テロ対策の尋問を、人道的な方法で行う目的で2010年、オバマ大統領が設置した省庁間チーム「重要拘束者尋問グループ」(HIG:High-Value Detainee Interrogation Group)を擁護し、存在感を高めていくことに失敗した。HIGは今のところ、大統領命令に従って存在してはいるが、将来はどうなるかわからない。

    このような事実は、いずれも懸念材料となる。拷問問題に関するオバマ政権の失敗は、拷問を利用する意向を示してきたトランプ次期政権に受け継がれるだろう。

    トランプ次期大統領は、選挙運動を開始した当初から、テロ容疑者に対して厳しい扱いをするよう主張してきた。その扱いが、米国法や国際法に明らかに反していたとしてもだ。水責めを大いに推奨してきたほか、テロ容疑者には「それ以上の強硬手段」をとる、と海外で発言した。また、テロ容疑者の家族の殺害を示唆したこともある。

    こうした発言の多くは、選挙運動での過激発言と解釈することもできるが、トランプ次期大統領はすでに国家安全保障関係の組閣において、国家安全保障担当大統領補佐官にマイケル・フリン、CIA長官にマイク・ポンペオなど、拷問支持派で固めた人選をしている。フリンとポンペオはともに、過酷な尋問の復活に意欲を示してきた。

    ブッシュ政権時代の「手荒な」尋問の復活は、法的な面はもちろん、多くの面で困難であることは確かだ。BuzzFeed Newsは拷問に反対する、人権擁護活動をする人たちにも取材したが、水責めのような拷問の明白な復活を当局が公認すると思っている者はほとんどいなかった。これは主に、トランプ氏が、このような拷問の復活に向けた努力をするか疑わしいからだ。

    拷問反対派にとっては、拷問復活以上に我慢ならないことがある。それは、オバマ政権が「拷問の象徴」であるグアンタナモ収容所を正式に閉鎖してくれると期待していたのに、その期待に応えなかったことだ。

    「この件に関するホワイトハウスのリーダーシップの欠如は、依然として私や多くの仲間の失望の種だ」。拷問に関する上院の調査報告書を作成した、上院情報委員会の元職員ダニエル・ジョーンズはこう語る。この調査は、2009年に共和党が手を引いた後、民主党だけで行われた。

    「最初の1年ほどが過ぎると、オバマ政権に対して何らかの行動を起こさせるのが信じられないほど難しくなった。それは、必ずしも彼らが(強化された尋問テクニックを)用いたがったからではなく、CIAを放っておきたがったからだ」と、コンスティテューション・プロジェクトの弁護士であるホーキンズは言う。

    拷問反対派の多くは、次期大統領が承認すると予想される、問題の多い拷問政策を清算できなかったオバマ大統領を非難している。

    ブッシュ政権時代に米国防総省を拷問から遠ざけたキーマンとなった米海軍犯罪捜査局(NCIS)の元尋問官マーク・ファロンは、12月、ミッチェルが公の場に登場したことに落胆する。

    「『後ろを振り返らずに前を向く』という方針には常に悩まされた」とファロンは述べる。「私を苦しめた要因は、ひとつではない。拷問支持派や拷問マニアを後押しする根拠となった、いくつもの証拠や調査結果も痛手だった」

    もっと以前から懐疑的な見方をし始めていた者もいる。

    「ジョン・ブレナンがオバマ政権で中心的役割を果たしていくことが明らかになった時、危険信号が灯った」。元CIAアナリストの内部告発者で、オバマ政権時代に米下院情報特別委員会で働いていたパット・エディントンはそう語る。エディントンは、ブレナン現CIA長官が、拷問プログラムが実施されていた時、CIAに在籍していたことに言及した。ブレナン長官は、拷問を承認していないと述べているが、上院の報告書には大いに反論した。

    オバマ政権は任期の終わりになっても、拷問問題に関する実績を喧伝し続けた。オバマ大統領のテロ対策担当主任補佐官であるリサ・モナコは12月9日の記者との朝食会で、ホワイトハウスは拷問問題への対応に前向きな姿勢だと擁護し、上院の報告書概要の公表と、ブッシュ政権時代の当局者の起訴に否定的な結論になった、司法省による調査を引き合いに出した。さらに他の当局者が、オバマ大統領が就任初日に拷問を禁止する決定を下した事実を強調した。その決定は、二極化した論争が何年も繰り広げられた後のことだった。

    国家安全保障会議(NSC)のネッド・プライス報道官は、BuzzFeed Newsに対して次のように語った。「大統領と政府高官は、拷問などの残酷で非人道的、屈辱的な扱いを受けない世界の実現に向けて、米国は不変の努力を続けると常に断言してきた。われわれの実績に関して言えば、大統領は就任2日目に、拷問を普遍的に禁止する米国の方針を再確認する大統領命令を出した。われわれは毎日、言行一致を目指して懸命に働いてきた……過去の過ちを認めて、国内外で過ちを正す手助けをしてきたのは確実だ」

    ホワイトハウスは12月13日、大統領記録法に従って、上院報告書のコピーを保存すると発表した。だが、上院報告書は連邦議会議事録のままだ。その分類が裁判所によって変更されなければ、この文書のコピーは人目にふれないままになる。

    ロン・ワイデン上院議員はBuzzFeed Newsに対して、以下のように語った。「テロ対策担当官は、情報がどうやってもたらされたのかを知る必要がある。司法省の弁護士は、拷問に関する記録がどうして不正確な描写に基づいているのかを知って、将来同じ罠に陥らないようにする必要がある。国務省の外交官は、尋問プログラムが外交関係にもたらしたダメージを理解する必要がある。こうした当局者たちが調査報告書を閲覧できないと、同じ過ちが何度も繰り返されることが懸念される」

    モナコ首席補佐官が記者たちと話した先週、ウォールストリート・ジャーナル(WSJ)は、水責めのような尋問方法の正当性を主張するミッチェルの論説を掲載した。不満を抱く拷問反対派は、こうした意見の二分を懸念する。

    2007年に水責めについて内部告発し、オバマ政権下で機密情報の漏えい容疑で訴追されたCIAの元作戦担当官ジョン・キリアコウは、次のように語る。「オバマ政権は8年間、拷問問題に関して、変化を起こしたり、世論に何らかの影響を及ぼすことを一切せず、拷問に関する公共政策に影響を与える、という約束に背を向けてきた。ミッチェルがWSJの論説を書き、翌日の投書欄がそれを支持する方向で盛り上がっている今……残念だが、8年の年月は無駄に費やされたと言わざるを得ない」


    翻訳:矢倉美登里、合原弘子/ガリレオ、編集:中野満美子/BuzzFeed Japan

    この記事は英語から翻訳されました。