拷問はもう、必要ない。テロリストの口を割る、科学的な方法とは

    口が堅い人から情報を得る方法

    テロリストが尋問を受ける様子は、ドラマや映画でよく描かれるシーンの一つだ。アメリカの特殊部隊のミッションを描く「ゼロ・ダーク・サーティ」では、容疑者は暴力を受け、脅されて音を上げ、全てを暴露する。そして大規模殺戮は阻止され、オサマ・ビン・ラディンは射殺される。

    昨年、アメリカ上院諜報特別委員会によって、CIAの秘密軍事施設「ブラックサイト」で行われていた虐待の実態が明るみになったが、多くのアメリカ人は尋問は欠かせないものと思い込んでいるようだ。「ワシントン・ポスト」と「ABCニュース」による2014年12月の世論調査では約59%が、CIAの厳しい尋問方法は正当なものだ、と答えている。

    スティーブン・クラインマンは、この問題に精通している専門家だ。2003年、アメリカ空軍の上級尋問担当者だった彼は、反対分子の容疑者の尋問を監督するため、イラクに派遣された。バグダッドに到着し、暗い部屋へと入ると、そこには手錠をされた収容者が、椅子に座った軍の尋問者の前にひざまずいていた。容疑者が何を言っても、答えるたびに顔を叩かれた。30分も続いた。

    彼は自分の権限で、尋問をやめさせた。だが目にしたことは、ただの日常だった。「裸にされ、長時間立たされる光景も目にした」とクラインマンはBuzzFeed Newsに語っている。

    クライマンは愕然とした。人権侵害だから、それだけが理由ではない。これまでの長い経験で、こんなやり方では上手くいかないとわかっている。「信頼できる情報を確実に得られる手段ではない」

    虐待は効果がないと主張する取調官もいたが、潰された。「我々には科学的知識がなかったからだ」。元海軍犯罪捜査局特別捜査官のマーク・ファロンはBuzzFeed Newsに語った。

    ファロンは2002年にグアンタナモに赴任した。テロ容疑者を軍事裁判にかけるプロセスについて、誰よりも経験豊富だった。1993年の世界貿易センタービル爆破事件を計画した、オマル・アブドッラフマーンの起訴や、アルカイダが2000年に起こした米艦コール襲撃事件の調査を指揮した経験があった。

    しかしファロンは、軍の尋問のアプローチの中心となった、睡眠妨害、隔離、痛みやストレスを伴う姿勢を取らせることなどの厳しい方法について、経験不足とされた。

    現在、クラインマンとファロンは、科学的に尋問が行われるべきだと考えている。過去5年間、どうやって隠していることを白状させるのか、研究者グループがエビデンスを集めてきた。その方法は、虐待や威圧とは無縁だ。心理療法の手法を借りて容疑者に話をさせる。そして脳がどのように情報を処理しているのか、科学的知見を利用して、真実と嘘を区別するのだ。

    アメリカ議会は、科学的尋問方法を米連邦政府の正式な対応方法として取り入れる法案を通過させた。

    この法律は、9.11以降に行われた過ちが繰り返されないようにするための、またとない機会だ、とファロンは語る。「自分でこの種の研究を行い、それが今では実現しているのだから、もしかしたら、私は歴史の軌道を変えたのかもしれない」

    アメリカの尋問手法は、ジェームズ・ミッチェルとジョン・ブルース・ジェッセンがCIAで働き始めた2002年に、決定的な転機を迎えた。

    この2人の心理学者は、アメリカ空軍の生存・回避・抵抗・脱走 (SERE)プログラムの一部に関与した。これは、敵陣で撃ち落され、捕虜になった時を想定して、パイロットを訓練するためのものだ。SEREの訓練で軍人たちは、心を折ろうとする企てに抵抗する方法を教えるために、韓国やベトナムのアメリカ軍の捕虜に対して行われている残忍な尋問方法を経験させられる。

    ミッチェルとジェッセンは、このプログラムを攻撃的なものに代え、遠回しに「強度の尋問」と呼んだ。テロ容疑者は水責めにされ、棺桶のような狭い箱の中に入れられ、熱湯や冷水に晒され、壁に叩きつけられ、苦痛やストレスの伴う姿勢に耐えさせられた。少なくとも1人の収容者がCIAの拘束下で死亡した。死因は低体温症のようだ。

    当時、CIAには尋問に関する経験がほとんどなかった。しかし専門家に相談していれば、このような残忍な手法で有益な情報は得られないと言われていたはずだ。

    拷問で人が話すようになることはよくある。苦痛を止めさせるため、なりふり構わず話すこともある。例えば、朝鮮戦争の時には、捕虜となったアメリカ人パイロットが、科学兵器を民間人に落とすなどの残虐行為を認めている。

    残虐行為により、詳細な情報を思い出すことが不可能とまではいかなくても、難しくなることはある。これは、SEREの訓練を受ける兵士の最近の研究で指摘されている。コネチカット州・ニューヘイブン大学の精神医学者で、元CIA諜報部員のアンディ・モーガンの研究によると、模擬尋問は、訓練員の通常の記憶力のテストの結果を低下させた。ほとんどの人に、自動車の事故など、トラウマを体験した時に起こるような精神的「解離」状態が現れた。現実から引き離される、時間がゆっくり流れるように感じたりすることや、対外離脱体験をしたりといったことだ。

    残虐な尋問によっていい情報を引き出すことを期待するのは、「電波の受信を良くするためにラジオを金づちで叩く」ようなものだと、モーガンはBuzzFeed Newsに語った。「この方法が認識力を高めることはない。悪くするだけだ」

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    効果のある方法は何なのか?

    効果的な尋問の方法とは。このテーマは、FBIやCIA、国防総省、国務省の諜報活動の専門家らによって構成される重要拘束者尋問グループ (HIG)の優先課題だった。HIGは、「テロとの戦い」の初期に行われた虐待を受け、テロリストの尋問の新たな方針を決めるため、2009年にオバマ大統領によって設置された。

    HIGは設立以降、リビアのベンガジで2012年にアメリカ在外公館を襲撃した罪で起訴されたアハメド・アブカタラや、2013年のボストンマラソン爆弾テロ犯のジョハル・ツァルナエフなどの容疑者に対する尋問を行ってきた。

    2010年以降、HIGは尋問に科学を取り入れ、変化を起こそうとする研究者らも支援してきた。この取り組みは、エイムズにあるアイオワ州立大学の心理学者クリスチャン・マイズナーと連携して行われた。彼は「不安モデル」型と呼ばれる尋問に断固反対している人物だ。

    アメリカの警察モノのテレビドラマが好きな人なら、芝居の中で何度も不安モデルの尋問を見たことがあるだろう。容疑者に真実を話すよう圧力がかけられ、嘘をついているかどうかが明らかになるとされるストレスのサインを観察する方法だ。ミッチェルとジェッセンが発展させた虐待的な尋問手法は、不安モデルが極めて恐ろしいレベルにまで発展した代表例だ。

    しかし、このような虐待的な尋問に効果があることを示す証拠は ほとんどない。また、嘘をつく人物が、強いストレス下に置かれた時に真実を明らかにするという考えも、科学的には怪しい。心拍数や発汗など、興奮のサインを検知するポリグラフも当てにならないことが知られている

    新しい尋問方法の研究プログラムは、人が出来事の詳細を思い出すのを促す質問のテクニックに注目している。嘘をつく人が、一貫性のある嘘のをつくのを難しくしている。

    このアプローチの中心となっているのは、マイアミにあるフロリダ国際大学の心理学者ロナルド・フィッシャーが開発した「認知面接法」だ。容疑者は、目を閉じるように言われ、重要な会議で何が起きたかを思い出したり、それが行われた部屋の絵を描いたりするよう指示される。そして出来事について繰り返し深く考え、それが重要と思えるかどうか、といった詳細を話すように促される。

    あるテストで、フィッシャーのチームはジョージア州グリンコの連邦法執行訓練センターのベテラン教官に対し、仲間に実地研修を計画するために開かれた会議の詳細を思い出させるように指示した。直接的な質問をする通常のアプローチではなく、認知面接法を使った人は、80%以上の情報を引き出すことができた

    このアプローチで、真実を話す人と、嘘を話す人を、区別することも可能だ。認知面接法でそれぞれの経験を思い出す時、真実を話す人はより長く、より詳細な答えを提供する。記憶を辿ったとき、ある回想がさらにまた別の、より多くの詳細な情報を引き出す傾向があるのだ。

    「信用できるかどうかは、全て人が用いる言葉の中にある」とマイズナーはBuzzFeed Newsに語った。「それは人の話し方に隠されている」。そして何より重要なことは、このシステムを悪用しにくいことだ。嘘をつくことは、真実を話すことより精神的負担が大きく、このような認知的努力を隠すことは、ストレスのサインを隠すことよりも難しいのだ。

    記憶を思い起こす作業により負担をかける (例えば、容疑者に自分の話を逆の順番で語らせるなど))と、違いはよりはっきりする。

    ある研究で、モーガンはバイオテロ計画の模擬捜査を行った。彼は生物学者を雇い、彼らは全員ニューヘイブンのコーヒーショップに行くよう指示された。目にしたものを覚えておくように告げられた彼らのうちの数人は、「テロリスト」の写真を見せられ、その人物に電話をするように指示を受けた。彼らにはコーヒーショップでその人物に会い、細胞を研究室で培養する手順と材料が与えられた。

    生物学者全員には、15年以上の経験を有する尋問担当者による認知面接 (逆の順番で思い起こすことも含む) が行われた。生物学者のほとんどは、単純に目撃したものを正直に思い出すだけでよかったが、計画に参加した人はテロリストに関して知っていることや、活動に参加したことを否定しながら、正直な回答をすることが求められた。

    生物学者の回答の長さや、使用した語彙を分析することにより、モーガンは嘘をついている人と真実を話している人を、84%の精度で区別することができた。この結果は、50%をわずかに超える程度の専門家の能力を、はるかに上回るものだ。

    嘘をついている人を見分ける他の手法には、尋問の終盤まで鍵となる証拠を戦略的に伏せておくことなどがある。最初に手の内を明かせば、容疑者が自分の物語を事実に上手く当てはめるのが簡単になるからだ。

    しかし、これらの手法を実践するには、まず容疑者が話し始めなければならない。

    テロリストが口を割るのは、精神的に追い詰められた時だけだとする考え方が、ミッチェルとジェッセンの残虐な手法の背景にある。しかし、実際はそうではなく、容疑者と尋問担当者が、感情的に親密な関係を築くことで、結果につながるということが、研究によって確認されている。

    この知見はある資料に由来する。アイルランドの民兵や極右勢力、アルカイダの工作員やシンパなど、有罪判決を受けた49人の容疑者に対して、イギリスの法執行機関が行った面接の181本の映像だ。

    イギリスには残虐な尋問の暗い歴史がある。法科学の不備もあいまって、1970年代のアイルランド共和軍による爆破事件後に起きた、有名な冤罪につながった。最も顕著な例は、爆弾を仕掛け21人を殺害した罪で有罪判決を受けた「バーミンガム・シックス」が、約17年を刑務所で過ごした後、冤罪だとわかり1991年に釈放されている。

    イギリスの尋問担当者は現在、問い詰める手法を禁止し、情報収集を制限する、厳格な面会規則に従わなければならない。事情聴取は、全て録画する義務がある。

    リバプール大学の心理学者ローレンス・アリソンは、イギリス当局を説得し、テロリストの聴取の様子を収めた映像を見た。彼のチームはビデオを徹底的に調べ、尋問担当者が、親密な関係を築く手法を使用した頻度を調査した。一方的な判断を避け、共感的になるなどのこれらの手法は、セラピストが広く採用している。この手法には、収容者に一定の自主性を与える場合もある。例えばイスラム教徒のテロ容疑者に対しては、いつも決まった時間にお祈りをし、宗教指導者と話せるようにすることなどだ。

    アリソンは、親密な関係を築く度合いが最も高かった尋問担当者が最も多くの情報を入手し、逆に、容疑者が捜査官を見ないようにしたり、黙秘したり、話題を変えたりといった尋問に抵抗するための戦術を使うのを最小限に抑えることがわかった。小さな皮肉など、ほんのわずかな相手への侮辱があっただけでも、容疑者に話をさせる試みは無駄になってしまった。「これでは本当に口を閉ざしてしまう」とアリソンはBuzzFeed Newsに語った。

    アリソンの発見の中には、直感には反するように思えるものもある。「黙秘権を与えれば与えるほど、話すようになる傾向がある」とアリソンは話した。彼はこれを、子育ての上手い親が使う手法に見立てる。 「子どもを扱うのが得意で、対人関係能力があれば、子どもたちの態度は良くなるものだ」

    他の重要な教訓は、史上最もスキルを持った尋問者の手法を研究することで得られた。第二次世界大戦中、ハンス・ヨアヒム・シャルフはアメリカ人パイロットの捕虜を尋問するために、ドイツ空軍に雇われた。シャルフはほとんど質問しない。その代わり、「事実」を既に知っているかどうかを捕虜となったパイロットに答えさせた。この質問には、彼が知りたいと思っていることが埋め込まれているが、質問の答えが重要だと、相手に伝わらないようにしている。尋問されたパイロットはよく、新しいことは何も言っていないと思いこんだ。自分が何を明らかにしたのかよくわからないままであった。

    スウェーデンのヨーテボリ大学のパール・アンダース・グランハグの研究チームは、シャルフの手法をフレームワーク化し、通常の質問中心の尋問よりも多くの情報を引き出せることを示した。

    ある研究では、ボランティアをテロ犯と見立てて、極左グループがショッピングモールで起こす爆破事件に関する話を読ませた。さらに、テロリストと強いつながりを持ち、捜査に非協力的な場合、この国から自由に出られなくなるかもしれない、と告げられた。

    白状すべきか、すべきでないか。ジレンマの状況の中で、シャルフの手法に従うと、従来の方法と比べて、より多くの情報をより正確に得られた。さらに、この手法ではテロ犯に見立てたボランティアは、自分が提供した秘密情報の量を少なく見積もっていた。

    2015年に通過した「国防権限法」には、米政府は尋問の現場マニュアルを改定すべきと記載されている。しかし、この文書は、オバマ大統領が重要拘束者尋問を、非人道的なものからより科学的な手法へ移行させることを目的として設置した設置したHIGが積極的に関与しなくても良いという形に改変されたことが、BuzzFeed Newsの取材によってわかっている。