「入国制限で士気が下がった」 ISと戦うイラクの兵士たちの声

    「私たちは、2003年からずっとテロと戦い続けています。トランプはつい先日、大統領になったばかりです」

    トランプ米大統領による、入国制限の大統領令。3月16日、ハワイ州の連邦地裁が全米での執行を一時的停止する決定を下した

    入国制限の対象になっているのはシリア、イラン、イエメン、リビア、ソマリア、スーダンの6カ国だ。当初対象となっていたイラクは外されたが、米軍とともに長年現地でISと戦ってきたイラク兵からは、士気の低下の声があがっていた。

    イラク特殊部隊の兵士であるアリ・スビは、かれこれ10年以上もアメリカ軍と一緒に戦い続けている 。戦争で荒廃したモスルにある前哨基地で、ドナルド・トランプ大統領が発表したビザ(査証)の発給禁止令のことを聞いた時、スビはただただ驚いた。「道徳的に間違っています」とスビ。「2003年以来、イラク人とアメリカ人は1つのチームとして活動してきたのですから」

    木曜日、イラク軍がモスルの東側半分における支配強固を続行する中、29歳のスビはモスル市内で、所属部隊が所有するアメリカ製の装甲ハンヴィー(高機動多用途装輪車両)の隣に立っていた。

    アメリカが支援するISの本拠地での戦いで、これまでに何人の友人たちを失ったかについて、スビは語ることを拒んだ。

    イラクの精鋭部隊では、これまでの戦いで数多くの犠牲者が出している。スビの顔や背中の包帯の下には、即席爆弾の多数の金属片による傷がある。「トランプはテロに対して何もしていません」と、彼は言った。「私たちは、2003年からずっとテロと戦い続けています。トランプはつい先日、大統領になったばかりです」

    アメリカが主導するIS(イスラム国)との戦い。その戦闘の大半は、スビのような地元の兵士が頼りなのだ。

    ISから主要拠点を奪還するための戦いは最重要項目だった。イラク特殊部隊は、自動車を使った自爆テロ、狙撃兵、迫撃砲による攻撃にさらされながらも、しらみつぶしの襲撃を率いてきた。

    東部モスルに残る最後の地区を奪還してから2週間後。モスル市内と周辺のイラク軍は、トランプ大統領が発した入国制限の大統領令のニュースを耳にした。この大統領令は、イラクを含むイスラム教徒が大多数を占める7カ国に対し、ビザの発給を一時的に禁止し、全ての難民の受け入れを一時的に停止するというもので、アメリカをテロ行為から守るということを名目にしていた。

    イラク兵たちは、アルカイダやIS、他の敵対者との戦いで、何年もの間アメリカと負担を分かち合ってきたにもかかわらず、自分たちがテロの脅威と一括りにされたことに憤慨した。

    「私たちは、イラクだけのためではなく全ての国のために、ISと戦っているのです」と、スビは言う。

    「テロリストの多くがイスラム教徒だというのは本当です。でも、テロ行為はイスラム教の教えとは合致していません」と、モスルの別の特殊部隊員で36歳のアリ・ハサンは言った。「私たちは、世界中の人々の代理として、長い間テロと戦い続けています。(トランプが)やっていることは間違っています」

    「くたばれトランプ」と、英語でぶっきらぼうに言ったのは3人目の兵士だ。彼はアメリカ軍から推薦状を得て、アメリカへの再定住の申請手続きを行っているところだという。

    以前、アメリカ特殊部隊の通訳として働いていた兵士も同じく激怒していた。兵士は自分のアメリカ再定住申請に影響があるのではないか、と不安がっていた。

    トランプ政権は、イラク占領中にアメリカのために働いたイラク人通訳とその家族に対して処分の適用除外を出していたにもかかわらず、だ。「ふざけた話ですよ」と、彼は言った。

    それでも彼らは、トランプの大統領令がイラクとアメリカ軍との協力関係に影響をおよぼすことはないだろうと明言した。「普通のイラク人のアメリカに対する見方は、100%変わるでしょうね」と、スビは言った。

    「でも私たちにとっては、何も変わることはありません。なぜなら、私たちはアメリカ人を知っているからです。私たちは2003年から、ずっとアメリカ人と一緒に働いているのです」

    さらに彼は付け加えた。 「トランプ氏の行動が、すべてのアメリカ人を代表しているとは思いません。大統領が下した決定に反対する抗議行動が、アメリカ国内であったのを見ました」

    大統領令に対する批判は、アメリカの治安当局上層部にまで及んだ。クルド地域安全保障理事会を率いるマスロア・バルザニは、ISとの戦いにおいて、もう一方のアメリカの重要なパートナーであるイラクのクルド人兵士も、ビザ発給禁止の対象になってしまったことを心配している、と発言した。

    「私たちは不満に思っています。ISと戦っているのは私たちなのです」と、彼はアルビール郊外のクルド地域安全保障理事会本部でインタビューに応えた。「私たちは、同じ敵に対して、同じ前線で戦っているのです。たった数人のために、国家全体に責任を取らせるというのは正しいとは思えません」さらに、クルド人のイラクからの独立推進に関連し 「私たちはイラク人になることを強いられていて、イラク人であることで罰せられています。この状況は解決されるべきです」

    イラクの発展を受けて、東部モスルには市民生活が戻って来た。混雑した市場の道端には、新鮮な農産物がずらりと並んだ。激しい戦闘があった通りでは、住民たちが普通の生活を取り戻そうと、瓦礫と化した建物の中で崩壊を免れた商店や家を再建するため必死で働いていた。

    タクシー、セダン車、物資を運搬する商用トラックなどの民間の交通により、多くの道路が渋滞していた。イラク兵は、次の段階の戦闘に先立って再編成を行う準備をしていたが、それはISが依然として強固な守りを敷いている、チグリス川の対岸にあるモスルの町の西側半分への攻撃を想定している。

    モスル市内のイラク特殊部隊で最高司令官を務めるアブドゥルワッハーブ・アルサエディ大将は、ビザの発給禁止令がおよぼしうる唯一の影響は、兵士の士気だろう、と発言した。

    「兵士たちはアメリカに行く予定があるわけではありません。心理的なものなのです。もしイラク人全員がアメリカへの入国を阻まれるのであれば、全てのイラク人がテロ行為の罪に問われているように見えるでしょう」と、彼は言った。

    「私たちは、アメリカを含めた全世界の人々の代わりにISと戦っているのです。ですから、世界がするべき行いとは、武器や政治など、あらゆる方法で私たちを支援することです。世界が安全になるように、私たちはここで毎日のように血を流しているのです」

    この記事は英語から翻訳されました。