白人至上主義はこうしてアメリカに広まった

BuzzFeed Newsが内部文書を入手、スティーブ・バノンのオルタナ右翼「殺人マシン」の真実を明らかにする。

    白人至上主義はこうしてアメリカに広まった

    BuzzFeed Newsが内部文書を入手、スティーブ・バノンのオルタナ右翼「殺人マシン」の真実を明らかにする。

    この長い記事は、アメリカで白人至上主義がどのように広がったのかを示すものだ。トランプ政権・彼を支持するメディア・白人至上主義者の隠された関係を詳細に記している。日本の読者にも様々な示唆をもたらすはずだ。10月に3分割で公開したものを、ひとつにまとめ、完全版としてお届けする。


    2017年8月、米国バージニア州シャーロッツビルで開かれた白人至上主義者の集会は、それに反対する団体との衝突に発展、3人が死亡する惨事となった。

    その後、ドナルド・トランプ大統領の元上級顧問スティーブ・バノンは、ネオナチ主義者やネオ南部同盟支持者、クー・クラックス・クランを批判し、「彼らの居場所はアメリカ社会にはない」と主張した

    だが、BuzzFeed Newsが入手した「爆弾」とも言える内部文書からは、バノンの発言とはまったく逆の状況が浮かび上がってくる。バノンが築きあげたWebサイト「ブライトバート」に、過激なオルタナ右翼のための居場所が大量に用意されていたのだ。

    2016年の大統領選挙戦中、ブライトバートはバノンのリーダーシップのもと、オルタナ右翼(Alt-right)を取り込もうと躍起になっていた。

    オルタナ右翼とは、暴力的・人種差別的な右翼活動で、ドナルド・トランプを権力へと導いた勢力である。

    前ホワイトハウス最高戦略責任者でもあるバノンが、ブライトバートを「オルタナ右翼のためのプラットフォーム」にしたいと発言したことはよく知られている。

    オルタナ右翼に最も近いブライトバートの編集者がマイロ・ヤノプルスだ。

    前テクノロジー担当で、2016年の「Dangerous Faggot(危険な男性同性愛者)」講演ツアーや、中止となった2017年9月のカリフォルニア大学バークレー校での「Free Speech Week(言論の自由週間)」など、社会に対する強烈な挑発行為で知られている。

    ヤノプルスは、ブライトバートで1年以上にわたってオルタナ右翼の記事を書いてきた。その汚い部分を避け、ネオナチ主義者や白人至上主義者の果たしている役割を弱めた表現で、だ。「(礼儀正しい相手には)公平に耳を傾けた」と話す。

    2017年3月、ブライトバートの編集者アレックス・マーローは「我々はヘイト・サイトではない」と主張した。ブライトバートの担当者は、ヤノプルスを人種差別主義者と評するメディアは告訴する、と繰り返し脅すようになった。

    8月、シャーロッツビルでの白人至上主義者デモが暴動に発展すると、ブライトバートはバノンの「オルタナ右翼プラットフォーム」発言について釈明記事を公開した。

    当時のバノンは、オルタナ右翼について「共和党のブランドを憎むコンピューターゲーマーやブルーカラーの有権者」が中心と考えていた、と書かれている。

    だが、BuzzFeed Newsが入手したEメールや文書からは、こう読み取れる。

    オルタナ右翼のヘイトに満ちた人種差別的な声に対し、ブライトバートは許容するだけでなく、貢献までしていた、ということだ。

    オルタナ右翼で成長し、政治理念の中でもっとも有害な思想を駆り立て、駆り立てられたブライトバート。その思想がアメリカの主流になるべく、道を切り開いているのだ。

    ブライトバートとオルタナ右翼の関係は、これまで未発表だった2016年4月の動画にもはっきりと表れている。

    この動画では、白人至上主義者リチャード・スペンサーを含むファンたちが腕を上げてナチス式の敬礼をする前で、ヤノプルスが『America the Beautiful』を歌っている。

    BuzzFeed Newsが集めた文書は、ブライトバートという、いわば「オルタナ右翼の宇宙」の発展を記録している。

    特にヤノプルスが、富豪のマーサー一家が提供する資金で薄給のライターを雇って煽り記事を量産し、白人主義国家創造を目指す過激派をも取り込んだ経緯が描かれている。

    同時に、バノンが「殺人マシン」と呼ぶ活動の様子も捉えている。

    世界中の人々の怒りを集め、そこからアイデアやコンテンツを汲み上げ、ネットの片隅からトランプ・ワールドへと打ち上げ、その過程で広告主から収益を集めていた。

    今回入手したEメールは、BuzzFeed Newsが現在公開している中でも、もっとも報道価値が高いものだ。バノンの殺人マシンが、ヤノプルスに依存していたことがわかる。

    ヤノプルスは既存勢力内外の声を導き、「リベラルな議論はアメリカに対する脅威だ」というわかりやすい物語を描き出すことに成功した。

    ここには、バノンが描いていた壮大な計画も読み取れる。

    バノンによって、ヤノプルスはカリスマ性のある若い編集者から、新世代の反動的な怒りを引きつける保守メディアのスターへと変貌した。

    この文書には、シリコンバレーやハリウッド、アカデミック業界や郊外、その中間に到るまで、無数の隠れた賛同者がいることも明らかにしている。

    ヤノプルスはBuzzFeed Newsへのコメントに書いている。

    「前にも言いましたが、タブーを破ったり、ジョークにしてはいけないことをあえて笑ったり、私はそこにユーモアを見い出しているのです」

    「私を知る人はみんな、私が人種差別者ではないと知っています。ユダヤ系の祖先を持つ者として当然のこととして、可能な限り強い言葉で人種差別を非難します。混乱を避けたいので、人種差別についてのジョークを言わないことにしたのです。私はリチャード・スペンサーや、彼のバカな取り巻き全体を否定します。これまでも、そして現在も、私はユダヤ人とイスラエルの忠実な支持者です。白人至上主義を否定し、人種差別を否定し、いつでもそうしてきました」

    ヤノプルスはカラオケでスペンサーがナチス式敬礼をしたことについても釈明した。「ひどい近眼」なので、離れたところにいたスペンサーが見えなかったのだ、と。

    バノンと、マーサー一族には、幾度となくコメントを求めたが返答はなかった。

    他の新興メディアと同様、ブライトバートというオルタナ右翼プラットフォームの成功は、読者が参加するかどうかにかかっている。リベラルな規範に拒否感を持つ人々を集め、ひそかな怒りを燃焼させてニュースにする。それは燃え尽きることがない。

    現在ホワイトハウスの職を辞したバノンはこの「マシン」の操縦席に戻り、「回転速度をあげている」。マーサー一族は、ヤノプルスによるポスト・ブライトバートのプロジェクトに資金を提供している。彼らは今後、アメリカに何を突きつけようとしているのか。BuzzFeed Newsが入手した文書からその様子を辿ってみよう。

    1年半ほど前、ヤノプルスは「オルタナ右翼を定義する」という難題を自らに課した。それは、ヒラリー・クリントンが選挙演説の中でオルタナ右翼の名を挙げる5カ月前であり、オルタナ右翼最大のホープ、ドナルド・トランプが大統領となる10カ月前であり、シャーロッツビルの事件によってオルタナ右翼が暴力的白人至上主義者の隠れみのだと決定づけられる17カ月前のことだった。

    オルタナ右翼運動は、アメリカの政治と文化に急速に存在感を現し始めた。

    後に自身をオルタナ右翼の「同行者」と称することになるヤノプルスは、当時、ブライトバートのテクノロジー担当編集者だった。彼は「新たな文化戦争の口火を切った」と言われるGamerGate事件をきっかけに1年ほどで頭角を現すと、2015年夏にブライトバートの上層部を説得。独自のセクションを作っていた。

    そして4カ月間にわたり、バノンが言うところの「#war(戦争)」の遂行を支援した。それは、アメリカ人の生活に存在する、リベラルな行動主義との戦争であり、記事一本一本が戦いだった。

    ヤノプルスは有用な兵士だった。ゲイ(現在は黒人男性と結婚している)という周知のアイデンティティは、彼自身と反ポリティカル・コレクトネス活動、そしてブライトバートを差別的だという批判から守るのに役立った。

    しかし、事は簡単ではなかった。左派、さらに右派の一部までも、反動的、人種差別的だとして糾弾し始めたのだ。

    ヤノプルスは「オルタナ右翼」を取り戻す必要があった。ブライトバートの読者のために、この十分理解されず、指導者もいない運動を再定義しなければならない。一部ではすでに「オルタナ右翼」という言葉そのものに抵抗する動きもあった。

    ヤノプルスはまず、有力なネオナチ主義者や白人至上主義者に連絡をとった。

    「ついに、オルタナ右翼を大きく特集することになったんだ」。

    ヤノプルスは2016年3月9日、アンドリュー・“ウィーヴ”・オーエンハイマーへのメールに書いた。オーエンハイマーは、ネオナチ主義者が集まる「Daily Stormer」のシステム管理者を務めるハッカーで、シャーロッツビル事件の後には、暴動の犠牲者ヘザー・ヘイヤーの葬儀を妨害するよう、フォロワーに呼びかけた人物である。

    「何かしら、意見をまとめて送ってよ」

    その4時間後、ヤノプルスはカーティス・ヤーヴィンに「オルタナ右翼ガイドの決定版を作るときが来た」とメールでつづった。ヤーヴィンは「Mencius Moldbug」というペンネームで「新復古」運動誕生に貢献したソフトウェア・エンジニアだ。

    新復古運動の考えでは、啓蒙主義的民主主義は失敗に終わっており、封建制度や独裁的支配こそ望ましいとされている。

    「記事に絶対入れたいことって何かないかなって、売春婦みたいに訊いてるだけなんだけどね」

    「オルタナ右翼の特集だよ。君にも何か考えがあると思ってね」

    ヤノプルスは同じ日、デビン・ソシエにもメールしていた。ソシエはヘンリー・ウォルフというペンネームで白人至上主義のオンラインマガジン「American Renaissance」の編集を手伝っていた。2017年6月には「Why I Am (Among Other Things) a White Nationalist.(なぜ私は他でもない白人至上主義者なのか)」という記事を書いている。

    オルタナ右翼について意見を求められた3人は、それぞれ長々と返事を書いている。

    ウィーヴはDaily StormerとThe Daily Shoahというポッドキャストについて書いた。

    ヤーヴィンは彼らしく、歴史観を披露した。「北米には多くの全く異なった文化的/民族的なコミュニティがあるのは周知のことだ。これは最適ではないが、有能な王さえいれば、大きな問題でもない」という内容だ。

    そして、ソシエは、この運動において重要な思想家や政治家、ジャーナリスト、映画(『デューン/砂の惑星』、『マッドマックス』、『ダークナイト』)、音楽のジャンル(フォーク・メタル、マーシャル・インダストリアル、80年代シンセポップ)のリストを返信した。

    ヤノプルスはそれらをすべてアラム・ボカリに転送した。そこには、「オルタナ右翼」や難解な極右のイタリア人哲学者「ユリウス・エーヴォラ」(20世紀のイタリア人ファシストやリチャード・スペンサーなどに主な影響を与えた)についてのウィキペディアの記事も含まれている。

    ボカリはGamerGateを通じてヤノプルスと出会った。ヤノプルスを補佐しつつ、ゴーストライターにもなっていた。「全部の要素を少しずつ入れてくれ」。ヤノプルスはボカリに指示した。

    「僕が今作ってる記事をきっと気に入ってくれると思うよ」とヤノプルスはソシエ宛てに書いた。

    「楽しみだな」とソシエは返信。「知ってると思うけど、バノンは共感しているよ」

    5日後、ボカリはオルタナ右翼運動について、3000ワードに及ぶ草稿で体系的にまとめ、「ALT-RIGHT BEHEMOTH (オルタナ右翼という巨獣)」と題してヤノプルスに提出した。

    この草稿には、色々なものが少しずつ含まれている。ブレーンからの影響(ヤーヴィンやエーヴォラなど)、「自然保守主義」(科学的理由から、異なる民族グループは離れているべきだと考える人々)、「ミームチーム」(4chanと8chan)、そして扇動する実働部隊。

    最後のグループに関して、ボカリはこう書いている。

    「人数はそれほど多くないし、本当は誰も彼らのことなんか好きじゃない。オルタナ右翼運動で重要なことを成し遂げる可能性は低いだろう」

    ヤノプルスはこう返事した。「最高のスタートだ」。

    それから3日の間に、草稿をヤーヴィンとソシエに送った。ソシエは行ごとに注釈をつけてきた。

    ヤノプルスは、ブライトバートの編集者アレックス・マーローと作家のヴォックス・デイにも送った。デイは、ある黒人作家を「無知な野蛮人」と呼んだとしてアメリカSFファンタジー作家協会の委員会から追放された人物だ。

    「しっかりしているし、公正で、包括的だ」と、デイは2、3の提案とともに返答した。

    マーローは「素晴らしいが、重要な長文記事だから、事を急ぎたくない」と返信した。「何人かが議論に加わるべきだ。これは人種問題に深く関わっているから」

    微妙な問題も生じていた。記事の署名だ。

    「アラム(・ボカリ)がこれについての仕事の大部分をやったので、連名にしたがっていますが、僕は名誉が欲しいのです」と、ヤノプルスはマーローに書いた。

    「『デリケートな問題だから僕単独の署名がいい』とあなたが言ったと、アラムには伝えるつもりです」

    数分後、ヤノプルスはボカリにメールを送った。

    「記事の署名のことで、マーローと握るつもりだった……自分だけの署名にしたかったから。もし僕がそうしたら、君は僕を嫌いになるかな?……この記事について経営陣は本当にピリピリしている(記事を気に入ってはいるが、人種問題に踏み込んでいるから)。彼らとしても単独署名の方がいいだろう」

    「僕らの連名ではダメだと経営陣は言うと思う?」とボカリは返答した。「茶色い肌っぽい名前の人間と連名にすれば、実際、リスクは低くなると思うけど」

    5日後の3月22日、ヤノプルスとオルタナ右翼がネオナチ主義者をいかに拒絶したかをもっと詳しく書くべきだと編集者のマーローは提案した。そして、こう付け加えた。

    ヤノプルスとボカリがオルタナ右翼の一部とした2つの出版物「Taki's Magazine」と「VDare」は「どちらも人種差別的だ……断り書きを入れるか、記事から歴史のその部分を削除するかだ」。(発表された記事には、「これらのウェブサイトはいずれも人種差別的だと非難されてきた」と受身形で追記されている)

    こうして再び、記事はボカリの元に返ってきた。ボカリは24日、ヤノプルスに「ALT RIGHT, MEIN FUHRER.(オルタナ右翼、我が総統)」という件名でまた別の草稿を送った。

    27日には、上層部に見せる準備が整った。最終的に連名となった。相手はバノンと、マスコミ嫌いのブライトバートCEO、ラリー・ソロフ。白人至上主義者ソシエ、封建制擁護者ヤーヴィン、ネオナチ主義者ウィーヴ、作家のデイといったブレーンたちにもメールを送って、もう一度草稿を読んでもらい、コメントを受け取る準備もできていた。

    「この記事には明日、きちんと目を通さなくては…エーヴォラについての記事は、どんなものでも評価するが」と、バノンは書いた。

    29日、編集者のマーローは、「スティーブ(・バノン)が君にこれを読んでもらいたがっている」と題したメールをヤノプロスに送った。それは、バノンがジェームズ・ピンカートンから聞き出した、記事へのコメントが書かれていた。

    ピンカートンはかつてロナルド・レーガンとジョージ・H・W・ブッシュのスタッフを務め、現在は「American Conservative」の寄稿編集者である。

    その日遅く、ブライトバートは「An Establishment Conservative’s Guide to the Alt- Right.(主流派保守のためのオルタナ右翼ガイド)」という記事を公開した。記事はすぐに一つの基準となり、ニューヨーク・タイムズやロサンゼルス・タイムズ、ザ・ニューヨーカー、CNN、ニューヨーク・マガジンなどで引用された。

    その影響は今なお感じられる。2017年7月、オルタナ右翼が祝福したワルシャワでのスピーチで、トランプ大統領はこの記事の一行をそのまま繰り返した

    「茶色い肌っぽい名前の」記者が書き、白人至上主義者が行ごとに手を加え、ブライトバートの編集者が人種差別に関する部分を浄化し、間もなく大統領の最高戦略責任者になる人物が監修した、その記事の一行を。

    「マシン」はうまく機能していた。

    うまくいかないこともあった。

    先の11月、ヤノプルスはある問題についてバノンにメールを送った。社会的正義を求めるハッシュタグ運動で人気のロンドンの大学生が、反イスラム活動家のパメラ・ゲラーを脅迫したとブライトバート・ロンドンが報じた件だ。

    「あの記事はガセです。公開すべきじゃなかった」とヤノプルスはメールに書いた。

    「バカげています。…削除したほうがいい。度を超えた中傷です。パメラ・ゲラーと話をしましたが、彼女もあの記事はゴミだと言っていました。彼女について嘘を書き、誤った内容を伝えている。我々はもっとまともなはずです。真実を語れば勝てるし、そうすべきです」

    6分後、激怒したバノンはヤノプルスにこう返す。

    「くだらない。お前のアドバイスが必要なときは私から聞く。…(訳注:ヤノプルスが担当している)テクノロジーサイトはまったくめちゃくちゃだ…子どもが書いた意味のない記事ばかり。会社をどうやって作るのか、真のコンテンツとは何なのかをまったくお前はわかっていない。お前には理解するだけの十分な時間がないか、やめるしかない。…お前はmagenalia(訳注:marginalia=落書き、クズのスペルミスか)だ」

    (ゲラーは、彼女に対する脅しをロンドン大学が「でっち上げ」としたことが「ゴミ」だと思っていると、BuzzFeed Newsに対しコメントしている)

    2015年12月8日、ニューヨーク・タイムズはFacebook上でアメリカ人イスラム教徒が過激化していると報じた。

    同じ日、ヤノプルスは「Birth Control Makes Women Unattractive and Crazy. (女性は避妊で魅力を失い、頭がおかしくなる)」という記事を公開している。

    その午後、バノンは、記事を書いたヤノプルスと編集者のマーローにメールを送った。

    「諸君。我々は、世界にはびこる実存主義者との戦争の最中だ。敵はソーシャルメディアにいる。なのに君らは落書きでマスターベーションしている!!!! 彼らは我らを憎んでいるのだから、この議論を支配せねばならない!!! おもちゃを捨て、武器を拾い、西洋文明を救いに行け」

    「メッセージは受け取りました」とヤノプルスは返事した。「来週は、イスラム週間をやります」

    「その必要はない」とバノンは答えた。

    「とにかく戦いに参加しろ---君たちはソーシャルメディアそのものだ。敵はソーシャルメディアを戦争の強力な武器にした。…まだ西洋文明には従軍特派員がいない。君たちがなれば、3世代にわたって人々の記憶に残れるというのに。--でなければファンに向けてマスターベーションして、神に与えられた才能を浪費しながらだらだらと過ごすしかない」

    それから数カ月の間、ヤノプルスはターゲットを物色する。

    まず、作家であり人権運動「Black Lives Matter(ブラック・ライヴズ・マター:黒人の命も大切だ)」の活動家でもあるショーン・キングに狙いを定めると、彼が本当に黒人であるかどうかを疑問視する記事を続けざまに公開した。

    その次は、当時Yahoo!のCEOだった、マリッサ・メイヤーだ。バノンがヤノプルスに宛てたメールで「自己陶酔的なエコシステムのシンボル」と呼んだ人物である。

    ターゲットは徐々に、ドナルド・トランプの敵となっていく。

    共和党内でトランプと対立する候補を、処方薬依存者だと非難したヤノプルスの記事に応えて、バノンは書いた。

    「LMAO(大笑いしたよ)!…最高だ」

    そして、反トランプ派に「トランプとオルタナ右翼の」船に乗るよう訴えかけるヤノプルスの記事をバノンは承認した。(だが、バノンはサイトのトップ記事にするのを拒んだ。ヤノプルスとマーローに「お手盛りに見えるからね」と書き送っている)

    なぜバノンは、ヤノプルスの熱心な取り組みにそこまで興味を持っていたのか?

    2月、Fox Newsの日曜番組にヤノプルスが出演する前に、バノンはこんなメールを書いていた。

    「(番組ホストの)ガットフェルドは君にとって実地の教材となるはずだ。ポップカルチャーやヒップスターのシーン、アバンギャルドを真に理解する才能あふれる文化コメンテーターだ…Foxで成功し、政治評論家になろうとし…すべての信用を失った。…影響力ある文化人としての地位を彼から引き継ぐ可能性が君にはある。それにふさわしく振る舞え」

    バノンは、この若い男を、より偉大な何かへと育てあげようとしていたのだ。

    さらに5月。バノンはカンヌ映画祭での1週間にヤノプルスを招待した。「テレビと映画について語り合いたい」と彼はメールに書いた。

    「私のパートナーと知り合いになり、船にしがみついて、ビジネスについて話し合うんだ」

    その船とは、ヘッジファンドの富豪、ロバート・マーサーが所有する全長200フィート(約61m)のヨット「Sea Owl」だった。マーサーはブライトバートを含むさまざまな極右企業の資金提供者である。

    一週間にわたって、ヤノプルスはカンヌ・パレス・ホテルとパレ・デ・フェスティバル・エ・デ・コングレの隣にある桟橋、そしてデイル・チフーリのシャンデリアを備え、緑色の船尾を持つ「幻想にインスピレーションを受けた」船の間を行き来した。

    マーサー一族は、バノン本人と彼の制作スタジオGlittering Steelがプロデュースした映画『Clinton Cash(クリントン・キャッシュ)』をプロモーションすべくそこに来ていた。

    テレビ番組「Duck Dynasty」で有名な、あごひげを生やした古老フィル・ロバートソンを相手に、ヤノプルスは船上で飲み、語り、自分のポッドキャストのためのインタビューをした。

    「自分がどれだけラッキーかはわかっています」と5月20日、ヤノプルスはバノンにメールで書いた。

    「あなたが稼げるように -- そして戦争に勝てるように、一生懸命働くつもりです! 今週、招待してくださって、そして信頼してくださって、ありがとうございます、チーフ。左翼は自分が何に攻撃されたのか、知る由もないでしょう」

    バノンはこう、返答した。

    「君はとにかく、自分であることに集中してくれ-- 我々は君の周りに最高レベルのチームを配置する」

    そして、こう付け加えた。

    「#war」

    2016年7月22日、ロバート・マーサーのパワフルな娘、レベッカ・マーサーは、スタンフォード大学の卒業生アカウントからバノンにメールした。

    「自由の女神の擁護者の、存命する中で最高のひとり」と評するバノンに、知り合いのアプリ開発者を会わせようとしていた。

    ヒラリー・クリントンを風刺する「Capitol HillAwry」というゲームアプリについて、App Storeへの登録をAppleが拒否していたのだ。言論の自由への政治的迫害だと訴える記事を公開できないものかとレベッカは考えていた。

    その要望をバノンはヤノプルスへと知らせ、ヤノプルスはそれを18歳のイギリス人チャーリー・ナッシュに伝えた。

    前の年、ナッシュはポピュリスト右派であるイギリス独立党の大会でヤノプルスと出会い、その後すぐにインターンとして働き始めた。

    反ポリティカル・コレクトネスの救済者として、ヤノプルスは会議や大学構内でのスピーチ、ソーシャルメディアを通じ、イデオロギーに共感する青年たちを惹き寄せ、どこかに行くたびにアシスタントを増やしていった。

    2015年6月に知り合ったのは、ブリストル大学でヤノプルスに講演を依頼した学生ベン・キューで、現在ブライトバートの常勤ライターとなっている。

    2015年9月には、バックネル大学の2017年卒業クラスの会計係だったトム・シコッタが参加し、彼は今でもブライトバートで記事を書いている。

    2016年2月には、ミシガン大学の学生で、その後、保守派「ミシガン・レビュー」の編集者となったハンター・スウォガーが配下に加わった。ヤノプルスはスウォガーを教化し、「Dangerous Faggot」ツアーの間、ソーシャルメディアのスペシャリストとして同行させた。ヤノプルスは若いスタッフたちを自分の「トリュフ狩り用の犬」と呼んだ。

    ヤノプルスから数カ月にわたり声をかけられたナッシュは、年俸3万ドル(約330万円)でブライトバートに雇われたばかりだったが、富豪からの要望に律儀に応え、自分の給料を自分で稼ぎ出した。

    情報提供から3日後の25日には、登録拒否されたアプリについての記事を公開。さらにその5日後、アップルがこれまでの決定を覆すと、続報まで書いた。

    「でっかい勝利だ」。バノンはアップルが方針を撤回すると、こうメールした。「大勝利だ」

    ブライトバートの元編集者によれば、マーサー一族から記事のネタが入ってくるときはいつもこういうやり方だったという。バノンが「我々の投資家」とか「我々の投資パートナー」に言及しつつ、要望を送りつけてくる。

    カンヌ行きの後、ライブイベントを増やすよう、バノンはヤノプルスに要求するようになった。これには、移動費用がかかる。金を出すパートナーが関与していることは明らかだった。

    5月にシカゴのデポール大学で開かれたイベントでは、ヤノプルスのスピーチ中に「Black Lives Matter」の抗議活動参加者が乱入する事態が起きた。ヤノプルスは、バノン宛てにこう書いている。

    「このことはもちろん公式には誰にも言うつもりはありませんが、心配なのです…昨夜は殴られるか、もっとひどいことになるところでした。…私にはひとりかふたり、自分専属の人員が必要です」

    「100%賛成だ」とバノンは返信した。

    「もっと君に暴れてほしいと思っている。ここだけの話だが、マーサー一族の私有警備会社を使おう」

    そのEメールは、Glittering Steelのバノンの共同プロデューサー、ダン・フルーエットにもCCされていた。何カ月もの間、ヤノプルスとマーサー一族の間で仲介役として行動していた人物だ。

    2016年夏、ヤノプルスがただのライターからショーのスターへと転換を図る中、フルーエットは巡業に同行させる若いアシスタントやマネージャー、トレーナー、その他の人材をさばき、取り込むための協力を求められたのだ。

    最初に参加したのは、ティム・ギオネットだ。Twitter上では「Baked Alaska」という名前で知られる、BuzzFeedの元ソーシャルメディア戦略担当者。5月後半にヤノプルスが、フルーエットにツアーマネージャーとしてどうかと売り込んだ。

    2016年6月、フロリダ州オーランドのナイトクラブ「パルス」での銃乱射事件の後、ギオネットはフロリダまでヤノプルスと同行した。

    ふたりは銃を乱射したオマル・マティーンが通っていたモスクの外での記者会見を計画した。(「素晴らしい」とバノンはメールした。「ところで、あいつらはみんな、『ヘイトの工場』だ」)。

    だがギオネットが生意気なツイートと口答えをした後は、フルーエットがヤノプルスのマネジメントにおける腹心となった。

    「ギオネットは、『Baked Alaska』は終わったということをわかってない」と、ヤノプルスはあるメールでフルーエットに書いた。

    「ギオネットは友人ではなく、社員です。…ギオネットは冷笑の的になりつつあり、僕のイメージダウンになります」

    別のメールではこうも書いている。

    「ティム(・ギオネット)の代わりを見つける必要があると思います。 …ニュースの価値を判断できないし、何が危険かを理解していません(ユダヤ人についてのツイートも、別に問題ないと思っているのです)。…僕のツアーマネージャーとしてよりも、無名のTwitter有名人としてのキャリアに興味があるようです」

    共和党全国大会では、ヤノプルスはあえて会場から遠いホテルをギオネットの宿泊場所に選び、別のブライトバートの社員にこう書いた。

    「まさに彼にいてほしい場所だ。…せっせと通って、自分の立場を思い知ればいい」

    BuzzFeed Newsはギオネットに何度もコメントを求めたが、応じなかった。

    のちにシャーロッツビルでオルタナ右翼とともにデモ行進することになるギオネットだが、ヤノプルスにとってまだ利用価値があった。トランプ支持者の中でも、若くて流行に敏感で、ソーシャルメディアを巧みに使いこなす層へとつながる足がかりになった。

    ヤノプルスは「yiannopoulos.net」のメールと非公開のSlackルームを使い、自分のアシスタントとゴーストライター全員をその配下で管理していた。この構造によって、ヤノプルスの下で働く4chanマニアやGamerGate戦士が、ブライトバートの上層部に直に接触する心配はなくなった。

    そして、ブライトバートよりも、ヤノプルスに対して忠実なスタッフを手に入れた。(実際2016年7月、独立した「マイロ・チーム」部門の情報を、ウォール・ストリート・ジャーナルを発行するダウ・ジョーンズに流していた)

    だが、組織的・個人的な関係が不安定になることもあった。オックスフォードで教育を受けた元政治コンサルタント、アラム・ボカリの例を見てみよう。

    ヤノプルスは、ボカリの何年もの単調でつらい仕事に報いるため、その著書『Dangerous(危険)』に関して10万ドル(約1100万円)のゴーストライター契約を結んでいる。

    だが、ヤノプルスとボカリは互いのことをひそかに嗅ぎ回っていた。

    2016年4月、ヤノプルスは「君がこれまでにアクセスした、僕のEメール、ソーシャルメディア、銀行口座、その他のシステムとサービス、およびアクセスした時間の長さについての完全なリスト」をボカリに要求した。

    ボカリは、ヤノプルスのEメールとSlackにログインしたことがあり、Airbnbでヤノプルスのクレジットカードを使ったと認めた。ヤノプルスはすぐさま、この件をブライトバートのCEO、ラリー・ソロフに伝えた。

    「ボカリは不安定になっています。私から遠く離しておく必要があります」と、ヤノプルスはマーローとソロフに書き送った。

    一方、ヤノプルスは、「30時間分の録音を紙に記したもの」を書き起こしていた。それはボカリとある友人の会話を記録したものらしかった。

    ギオネットが連れてきた新人たちも、それほど行儀がよくなかった。

    コカインの使用をSnapchatに投稿したという理由で、「ツアー部隊」の有望なメンバーを解雇しなければならなかった。ノースカロライナ州出身で当時20歳のマイク・マホニーは、ソーシャルメディアで人種差別的・反ユダヤ的発言をする傾向があり、監督が必要だった。

    (マホニーはその後Twitterでアクセスを禁止され、言論の自由を何よりも重視するソーシャルネットワークGabに活動の場を移している。Gabでは「リマインダー:イスラム教徒はホモだ」といったメッセージを自由に投稿できるからだ)

    「具体的にまずいことが何かあれば、知らせてほしい。たとえばユダヤ人のこととか」と、別のメンバーへのメールにヤノプルスは書いている。

    「マホニーは仕事を手に入れたら、Twitter人格を劇的に変える必要があるだろう」

    2016年9月11日、マホニーはGlittering Steelとの1カ月2500ドル(約28万円)の契約にサインした。

    「Dangerous Faggot」ツアーの仕事のスピードが上がるにつれ、ヤノプルスはますますフルーエットに対し反感を持つようになる。若手スタッフへの支払いの遅れや、サポート不足、組織の乱れについて、強く批判した。

    「ツアースタッフ全員が金を要求しています」と、ヤノプルスは10月にフルーエットへのメールに書いた。

    「Glittering Steelが誰なのか、誰も知りませんし、気にもしていませんが、このことが公になれば、私の評判に対するかなり手痛いリスクとなります」

    そして別のメールでは、「あなたの現在の課題は、私を満足させ続けることです」と書いた。

    それでも、フルーエットは必要な存在だった。ヤノプルスの無鉄砲な世界と、この「マシン」に資金提供する裕福な人々をつないでいたのはフルーエットなのだ。

    あるとき、ヤノプルスから感情的に金銭を要求するメッセージを受け取ったフルーエットは「最終的な決断は誰のものなのかを、君はわかっていると思う」と返した。

    「私は毎日、彼らと連絡を取っている」

    2016年、ヤノプルスの星は昇り続けた。

    議論をあえて煽るかのように立て続けに公の場に姿を表した。ソーシャルメディアの炎上、ブライトバートのラジオ版スポット広告、テレビでの成功、雑誌の人物紹介記事が後押しした。

    バノンの指導、マーサー一族の資金援助、若いスタッフの創造的なエネルギーが結集していた。そして時を同じくして、ドナルド・トランプはその攻撃的な言論を、アメリカ文化における決定的に重要なイシューへと昇華させていた。

    多くの人々にとって、ブライトバートの攻撃的言論のシンボル、ヤノプルスはひそかな代弁者となった。

    アメリカではさまざまな集団が、いわゆる文化的マルクス主義がアメリカの大衆生活を侵害していると不快感を感じていた。Fox Newsの絶え間ない報道や、セーフスペース(訳注:教育機関など、差別がないとされる空間)や人種問題に端を発する大学での衝突といったニュースに扇動されていた。

    そうした人々はヤノプルスにメールや手紙で感謝を述べ、アメリカの将来についての不安を吐露した。

    ヤノプルスは次のような人々から直接、メッセージを受け取っていた。

    • YouTubeで彼のスピーチを「イッキ見した」年配の退役軍人たち
    • 高校生の娘の担任教師が進歩的すぎると懸念する「58歳のアジア人女性」
    • クラスの討論会でフェミニストを言い負かすにはどうすればいいかと尋ねる少年たち
    • 「太った女性上司に一時解雇」されたと言い、ジェット推進研究所が「完全に弱体化」したことを嘆く元NASA職員
    • 11歳の息子にM16自動小銃を買い与え、それを「マイロ」と名付けた男性
    • 「リベラルを軽蔑している」と語り、ヤノプルスに「スペシャルな雪を降らせ続けてほしい」と懇願するインディアナ州のレズビアン女性
    • イスラム教を低く評価していることを明かしたために、博士課程をやめさせると脅迫されたという哲学専攻の学生
    • キース・ラモン・スコットの銃殺事件(訳注:ノースカロライナ州シャーロットのアフリカ系男性が警察官に銃撃され、「Black Lives Matter」のデモを引き起こした事件のひとつ)に関するヤノプルスの「良識あるFacebook投稿」に感謝するというシャーロットの警察官(「BLUE LIVES MATTER (保守派の命も大切だ)」とヤノプルスは返答した)
    • 生徒たちが「左派の社会的正義運動の人質」になるのではと怖れるニュージャージー州の教師
    • 派兵されて行った「あるイスラム教の国」から帰ってみると、妻が性転換しつつあって、離婚を望んでいたと語る男性(件名には「退行主義者が妻を盗んだ」とあった)
    • 娘が著名な女子大、スミス大学に入学するかもしれないと怯える父親
    • 太った人々や、同性愛の人々、イスラム教徒、ヒラリー・クリントンについて、使えるジョークをヤノプルスに贈りたいというファンたち

    エンターテイメントやテクノロジー、アカデミック、ファッションやメディアといった主にリベラルな業界にいる教養人からも、ヤノプルスは頻繁に接触を受けていた。

    そうした人たちは、アメリカ沿岸地域にありがちな文化的正当性、口うるささに憤慨していた。こうした人々を束ねると、それはGoogleを解雇されたジェームズ・ダモアのような、声なき声のネットワークとなった。

    憤りを溜めながらも、仕事や友人を失う不安から口をつぐみ、怒りのはけ口としてヤノプルスに愚痴を言っていた。こうしたメールは社会に充満する不満を裏付けるだけでなく、文化的戦争の弾薬にもなった。

    「私はエリートの私立学校(イェール大学とフィリップス・アカデミー・アンドーバー)で、非常にリベラルな教育を受けてきました」

    自らを「ハリウッドの隠れpede」(訳注:「centipede/pede(ムカデ)」は、トランプの支持者を表すネットスラング)と称する映画編集者はつづった。

    「進歩主義者の太鼓を叩かなければ、個人的にも職業的にも悪影響が出るので、今までは絶対に正体を表さないようにしていたのです」

    「E!(訳注:大手ケーブルテレビ局)で働くことは地獄」と題したメールで、同局のプロダクションマネジャーはヤノプルスに対しこう書いた。

    「(自分の会社は)フェイクニュース機関に貢献していました。同僚たちにもがまんできなくなってきました。…私は…あなたのために働きます…ともにグローバリズムと戦う、仲間です」

    ローリング・ストーン誌に「アングラ・ヒップホップの流行仕掛人」と称されたアダム・グランメゾンもヤノプルスに接触し、あるジャーナリストを調査するよう提案した。そのジャーナリストは、元ボーイフレンドによる身体的虐待を非難していた。

    BuzzFeed Newsへのメールの中でグランメゾンは、黒人男性がメディアで裁かれる現状に懸念を示したかっただけで、「(ヤノプロスに)書いてもらうつもりはなかった」としている。(メールは「まず最初に断っておきますが、この情報をあなたに提供したというクレジットはまったく望んでいません」で始まっていた)

    さらに多くのタレコミが、テクノロジー企業の社員から入ってきた。

    あるGoogle社員は「Gogy, the Googely Googler」(GoogleらしいGoogle社員、Gogy)と名付けられたジンジャーブレッドマンの画像をヤノプルスに送った。

    きちんと後片付けをするよう、コーヒーマシンのそばに貼られていたものだったという。その社員によれば、Gogyが男性であることに社員が腹を立て、この貼り紙が人事上の問題になったという。

    Googleの広報担当者はBuzzFeed Newsに対し、Gogyやそれに関連した人事上の苦情の記録はないとコメントしている。

    Twitterのあるソフトウェアエンジニアは、同社が「言論の自由のために立ち上がった」2012年以来勤務してきたが、「道徳的な会社」に裏切られたとしている。彼はヤノプルスにメールし、2016年にTwitterでヤノプルスの認証バッジが削除されたのには「明らかに政治的動機があった」と訴えた。

    不満を抱くテクノロジー業界人は、一般社員だけではない。

    著名な起業家で、学者でもあるヴィーヴェク・ワドファは、ポリティカル・コレクトネスの暴走を感じた記事を、ヤノプルスに何度も送った。

    最初、それはGamerGateに関連したKickstarterボイコット運動に関するものだった(「この人たちは本当に頭がおかしいし、非建設的だ。…なんとも恐ろしい集団だ」と、ワドファはその活動家たちについて書いた)。

    その後話題は、Yコンビネータの共同創業者、ポール・グレアムに移る。

    テクノロジーにおけるジェンダーの不平等についてグレアムが書いたエッセイに関し、不当に非難されていると、ワドファは感じていたのだ。

    「ポリティカル・コレクトネスは、度を超してしまいました」と、ワドファは書いた。

    「それに代わるのは、共産主義です — 平等ではありません。そして、失敗したシステムです…」

    ヤノプルスはこのメールをボカリに送り、ボカリはすぐさまブライトバートの記事「Social Justice Warrior Knives Out For Startup Guru Paul Graham.(社会的正義の戦士、スタートアップのカリスマであるポール・グレアムに刃を向ける)」を書く。

    ワドファはBuzzFeed Newsに対し、今はもうヤノプルスを支持していないとコメントしている。

    ヤノプルスは、大物ベンチャー投資家ピーター・ティールと個人的な関係を持っていた。ティールは他の関係者に比べて慎重で、2016年5月にはポッドキャストへの出演を断っている(ティールいわく「とにかくコーヒーでも飲んで、そこから始めよう」)。

    だが直後の6月、ティールはハリウッド・ヒルズの自宅でのディナーに、ヤノプルスを招待した。ヤノプルスはその夜のうちにバノンに得意げに伝えている。

    「あなたたちは会うべきです。…映画の資金を外部に求めるなら、彼はうってつけです。…ティールは(ゴーカー・メディアの創業者ニック・)デントンとゴーカーをいろんな意味でボコボコにしてくれたので、僕は涙が出てきました」

    7月の共和党全国大会で会う計画を立てたが、ヤノプルスがティールについて知っていることは、他の右翼活動家や、封建主義への回帰を主張するブロガーのカーティス・ヤーヴィンからの受け売りだった。

    選挙後間もない頃のメールで、ヤーヴィンは「ティールを指導」したのは自分だとヤノプルスに語った。

    「ピーター(・ティール)はたしかに、政治については手引きを必要としている」とヤノプルスは返答した。「君が思うほどじゃないだろうけどね!」

    ヤーヴィンはこう返す。

    「ティールの家で選挙を観たけれど、二日酔いは火曜日まで続いていたと思う。ティールは完全に正しい知識を持っている。ただ、とても注意深くそれを使っているだけだ」

    ティールが共和党全国大会でスピーチをした後の2016年7月、ヤノプルスはある著名な共和党の黒幕宛にこう書いている。

    「ゲイ禁止のルールは、ティールには当てはまらないようですね」(訳注:ティールがゲイであるという情報はその前から伝わっていたが、このスピーチで本人が正式にカミングアウトした

    ティールはこの記事に対するコメントを拒否している。

    テクノロジー業界やエンターテインメント業界のみならず、バノンの宿敵であるリベラルなメディアの中にも、協力者はひそんでいた。

    あるEメールグループは、正義の味方的なインターネットをあざ笑うことに情熱を注ぎ、長年続いている。そこにはヤノプルスの友人アン・コールターが参加していた。

    またViceの女性向けチャンネル、Broadlyの上級常勤ライターであるミッチェル・サンダーランドもいた。Broadlyの「About」ページには「女性の経験の多様性を示すことに専心しています。…女性にとってもっとも大切な問題に焦点を当て続けます」とある。

    「この太ったフェミニストを笑いものにしてほしい」

    サンダーランドは2016年5月、ニューヨーク・タイムズのコラムニスト、リンディ・ウェストの記事のリンクを添えてヤノプルスにメールした。

    ウェストは肥満の受け止め方について記事を書いていた人物だ。当時サンダーランドはBroadlyの編集長だったが、政治活動団体「サタニック・テンプル」と妊娠中絶の権利についてのBroadlyの動画をギオネットに送り、「ブライトバートでこれを何とでもしてくれ。どうかしている」と促した。

    次の日ブライトバートは、「’Satanic Temple’ Joins Planned Parenthood in Pro-Abortion Crusade. (『サタニック・テンプル』、妊娠中絶擁護運動においてPlanned Parenthoodと合流)」と題した記事を公開した。

    Viceの広報担当者はBuzzFeed Newsへこうコメントしている。

    「非常に不適切で職業倫理に反する行為に私たちは衝撃を受け、失望しています。この問題を認識したばかりですが、正式に調査を開始しました」

    (Viceの広報担当者によれば、この記事が発表された翌日、同社はミッチェル・サンダーランドを解雇したという)

    ベテランのテクノロジー記者・編集者のダン・ライオンズは、2年間にわたりHBOのドラマ『シリコンバレー』の脚本家も務めた人物だ。

    彼も定期的にヤノプルスにメールを送り(「君は小さなトラブルメーカーだ」)、GamerGateのターゲットのひとりだったゾーイ・クインやフェミニストのウェブサイトFemsplainの創始者アンバー・ディスコの生まれながらの性別を怪しんだりしていた。

    性的暴行で告訴されたものの、訴訟を取り下げられたベンチャーキャピタリスト、ジョー・ロンズデールに対する世間の扱いについての記事を提案したこともあった。

    Slateの元テクノロジーライターで「Gamergate must end as soon as possible(Gamergateはできるだけ早く終わらなければならない)」とするコラムを書いたデビッド・アウアーバッハは、GamerGateのターゲットのひとり、アニータ・サーキシアンの恋愛に関する裏情報を流していた。

    それだけではない。

    クイズ番組「Jeopardy!(ジェパディ!)」のチャンピオンで、社会的正義の理念を擁護するアーサー・チューに、「人種差別的な」友人がいて、その人物に関する「良いネタ」があると伝えたり、さらにはウィキペディアが実施した厳しいアンチハラスメント作戦についての「熱いネタ」までも。

    それを受けたボカリは、記事を書く。 「Wikipedia Can Now Ban You For What You Do On Other Websites. (今やウィキペディアは、他のサイト上での行為によってあなたのアクセスを禁止できる)」 。

    BuzzFeed Newsが同じEメールアドレスに連絡を取ったところ、アウアーバッハがメールを書いたのは「事実はない」とコメントしている。

    組織と結びついた保守思想家たちも、ヤノプルスと密接なやりとりを始めた。ケンブリッジで教育を受けた多弁なヤノプルスの中に、いにしえの保守的知識人の亡霊を見たのだろう。

    シカゴ大学の中世研究家レイチェル・フルトン・ブラウンは、キリスト教、十字軍、西洋的正義についてのメールを何十通も送った。ヤノプルスを擁護する文章をブラウンが大学のWebサイトに投稿すると、ブライトバートはそれを詳しく報じた

    保守派のシンクタンクCapital Research Centerのプレジデント、スコット・ウォルターは、共和党の政治やカトリックの教義についてヤノプルスにアドバイスした。ウォルターの調査プロジェクトで働くよう、ヤノプルスは若いアシスタントの一人を推薦した。

    賛否のある反過激主義組織Quilliam(キリアム)で以前働いていたガファール・フセインは、あるイギリスの大学講師が女性器切除擁護とも受け取れる講義をしたという情報を送った。その情報はすぐに、ブライトバートの記事になった。

    郊外の子持ち世帯やジャーナリスト、テクノロジーのリーダーたち、保守派の知識人……実に多様な人々の声を集めている。ヤノプルスのブライトバートにおける役割、そしてバノンにとっての価値をこれほど明確に表すものもない。

    ヤノプルスは強力な磁石となって、多様な層の文化的な憤りを焚きつけ、組み立て、「リベラルがいかにアメリカをむしばんだか」という危機感に満ちた物語を生んだ。

    バノンが彼をメディアの嫌われ者に育てようとするのも不思議ではない。この「磁石」は大きくなるにつれ、さらに多くの「武器弾薬」を引き寄せていたのだから。

    「殺人マシン」。西洋文明が危機に晒されている、という暗いメッセージ。それは人から人へと伝わり、ヤノプルスのマシンは、さらに多くの人々を巻き込んでいった。

    ヤノプルスと近い関係にあったのが、デヴィン・ソシエという人物である。ソシエはこの10年で、アメリカの白人至上主義における有望な若手として地位を確立した。

    2008年、ヴァンダービルト大学在学中のソシエは、白人至上主義者の学生グループ「Youth for Western Civilization」の地方支部を設立した。現在は消滅したこのグループには、白人至上主義者のリーダー、マシュー・ハインバックがいた。著名な白人至上主義者のリチャード・スペンサーは、ソシエを友人と呼んでいた

    ソシエは、バージニア州の復興異教主義グループで、「白人至上主義の狼カルト」とも呼ばれた 「Wolves of Vinland」とも関係している。歴史的な黒人教会に放火し、有罪判決を受けたメンバーもいる。

    極右運動ウォッチャーによれば、ソシエは過去数年間、おそらくアメリカで最も有名な白人至上主義者、ジャレッド・テイラーのアシスタントとして働いてきた

    BuzzFeed Newsが入手したEメールによると、ソシエはテイラーの雑誌「American Renaissance」でペンネームを使って記事の執筆、編集をしている。

    2016年10月のEメールの中で、ヤノプルスは28歳のソシエを「僕の親友」と表現している。

    「親友」というのは、誇張だったかもしれない。

    ヤノプルスはソシエにプレゼントをした形跡がある。だが、それは知人で小説家のブレット・イーストン・エリスのサイン入り著書『アメリカン・サイコ』だった。描かれるのは、裕福で恵まれた男性のうわべだけの付き合いと、抑えられない殺人願望……。決して親友への贈り物として、ふさわしい本ではない。

    だが、二人が親しかったのは間違いない。2016年3月にワシントンD.C.ジョージタウンで夕食をともにした後、絶えず連絡を取り続け、イギリスのEU脱退に興奮し、「Soldiers of Odin」というフィンランドの極右グループについての見出しを賛同するようにシェアし、ケネディセンターでのワーグナーの『ニーベルングの指環』を観に行く予定を立てた。

    ソシエには何度もコメントを求めたが、回答はなかった。

    2人の関係からも、白人至上主義を公然と唱える人たちと、ブライトバートが密接につながっているのは明らかである。

    2016年の春までには、ヤノプルスは広報手段として、知的なガイドとして、そして編集者として、ソシエを使うようになっていた。

    5月1日、階級に基づいたアファーマティブ・アクション(訳注:収入などの社会階層に基いて大学などの入学枠を設ける制度)に関連する参考文献を送るよう、ヤノプロスはソシエに依頼した。ソシエは関連するリンクを添えて返信した。

    5月3日には、ソシエは「記事のアイデア」という件名のメールを送っている。「トロール(ネットで挑発的な文言を投稿する人々)はいかにしてトランプのために大衆の心をつかめたか」というテーマだった。

    ヤノプルスはそのメールをボカリに転送し、こう書いた。

    「今やっていることをすぐやめて、僕のためにこれの下書きをしてくれ」

    ヤノプルスの署名のもと、「Meme Magic: Donald Trump Is The Internet’s Revenge On Lazy Elites(ミームのマジック:ドナルド・トランプは、怠惰なエリートへの、インターネットからの復讐だ)」という記事が翌日公開された。

    5月初旬、ソシエは、テイラー・スウィフトに粘着するオルタナ右翼についての情報提供者を、ヤノプロスに引き合わせた。

    ソシエは記事の掲載を止めるくらいの影響力もあったようだ。

    5月9日、ヤノプルスは階級に基づいたアファーマティブ・アクションの記事の草稿全文をソシエに送った。「あまりよくない」と、ソシエは返答した。

    同時に、「真に階級に基づいたアファーマティブ・アクション」によって「あらゆるまともな大学への黒人の入学」がいかにして「大幅に低下する」か、細かい説明をした。

    次の日、ヤノプルスは別の草稿を添えて返事を書いた。「納得行く指摘を受けた気がする」。

    それに対し、ヤノプルスが人種による知能の差を「控えめに表現」しようとしたのだろうとソシエは思い、「ハッキリ言って、僕ならこの記事はボツにする」と返信。結局、その記事は掲載されなかった。

    ヤノプルスの記事に喜んだこともある。

    6月20日、ヤノプルスは自分の記事「Milo On Why Britain Should Leave The EU — To Stop Muslim Immigration.(マイロ、英国がEUを離脱すべき理由を語る — イスラム教徒の移民を阻止するために)」のリンクをソシエに送った。

    「良い記事だ」とソシエは返答した。「ヨーロッパのアイデンティティと、西洋の偉人に言及したところが特にいいと思う」

    6月25日には、「Brexit: Why The Globalists Lost(グローバル主義者はなぜ敗北したのか)」という分析記事をヤノプルスは送る。

    その中の「(孤立しても)高IQ、高スキルな経済を持つイスラエルのように、イギリスも独自に繁栄するだろう」という文に対し、ソシエは「ささやかだが真実の爆弾」とメールで評した。(ソシエが関わる「American Renaissance」は人種間のIQの違いに固執している)

    「みんなに優しい表現で、安心させているんだ」とヤノプルスは返答した。

    「たぶん僕の『我慢しろ、潤滑剤なしでぶちこむぞ』戦略より良いと思う」とソシエは返事した。

    だがヤノプルスは、ブライトバートの上司をいつでも安心させていたわけではない。

    「浄化」のため、編集のアレックス・マーローが、反ユダヤ的・人種差別的なアイデアやジョークを削除せざるを得ない時もあった。

    2016年4月には、ネオナチ主義者のハッカーで「Daily Stormer」のシステム管理者、「ウィーヴ」・オーエンハイマーを自分のポッドキャストに出演させるべく、承認をヤノプルスは求めている。

    「素晴らしい、刺激的なゲストです」と彼は書いた。「面白くて、賢くて、興味深い。…まさに僕のブランドにぴったりです」

    「要検討だ」。マーローは返事を書いた。

    「彼は真正の人種差別主義者だ。…我が社にとって重要な戦略判断で、今のところノーの方に気持ちが傾いている」(ウィーヴがこのポッドキャストに出演することはなかった)

    ヤノプルスが2016年9月に登壇する講演原稿を編集していた際、マーローはイスラエルの通貨「シェケル」についてのジョークは承認した。しかし「ガス室についてのツイートをふざけて容認してはいけない」と付け加え、該当部分は削除するよう求めた。

    反ユダヤ、反黒人的発言の多いオルタナ右翼のアカウント「リッキー・ボーン」のTwitterアカウントが削除されたことを報じる記事をマーローは保留にした。

    そして2016年8月、「The Alt Right Isn’t White Supremacist, It’s Western Supremacist(オルタナ右翼は白人至上主義者ではない、西洋至上主義者だ)」と題した記事の草稿をボカリが送ったが、この記事もマーローは保留とし、「ナチスのミームを認める考えに手を出したくない」と説明した。

    「マーローの限界がわかった」とヤノプルスは返した。

    人種や反ユダヤ人に関してどこまでやっていいのか、限界を極める。それはブライトバートにおけるヤノプルスの大事な仕事だった。

    彼が構築した不透明な「組織に付随する組織」も、クラウドソーシングを使ったアイデア形成と執筆プロセスも、ブライトバートの目的に完ぺきにかなっていた。仮に何か問題があっても上層部は「我々は関与していない」ともっともらしく否認できる。

    だがそれは、BuzzFeed Newsが入手したEメールを誰も見なければという話だが…。

    ヤノプルスはこうした構造を、なるべく表に出さないよう尽力していたようだ。

    2016年8月、ボカリが代筆した記事の承認を得ようと、スタッフがバノンとマーローに直接メールを送ったときのことだ。

    「ソーセージ作りのプロセスを見せるような、こういうEメールチェーンを(上層部に)転送しないでくれ」と、ヤノプルスはメールした。

    「(ヤノプルスの記事をスタッフが書いていることは)みんな知っている。でも毎回、思い出させる必要はない」

    人種差別主義者や白人至上主義者から見かけ上、十分な距離を保つ。それは、バノンが築き、ヤノプルスが育てた「マシン」にとって何より重要だった。

    人々の注目を集めるにつれ、人種差別的なフォロワーを大量に惹きつけた。

    そうした人々がTwitter上で『ゴースト・バスターズ』の黒人女優レスリー・ジョーンズに嫌がらせをしたとき、ヤノプルスも彼らを煽ったとして、Twitterからアカウントを凍結された。

    新復古的思想を持つカーティス・ヤーヴィンは2015年11月、「1488人のクズたちの終わらない営みをさばくプロの秘訣」という記事をヤノプルスに書き送った(「1488」は白人至上主義者がよく使うスローガンで、「88」は「ヒトラー万歳」を意味する)。

    「ヤツらに対抗しろ。完ぺきに仕立てられた、高潔な共産主義者のニューヨーク・タイムズの記者が、油臭い無政府主義者のヒッピーを扱うように。恩着せがましい、上から目線。お嬢さん、君の心は正しい場所にあるのだから、シャワーを浴びて、わき毛を剃りなさい、とでも言いたげな。リベラルが共産主義を排除するのは、共産主義が憎いからじゃない。自分にとって恥だからだ。…リベラルは自分の左に敵を見ているのではなく、左側に敗者がいるのを見ているだけだ。そして、敗者はかすんで消えていく」

    「1488の件、ありがとう」とヤノプルスは返答した。

    「でも、こういうので苦労してきたんだ。完全にクリーンではないとしても、十分にクリーンでいる必要があるから」

    クリーンでいるために、ヤノプルスは外部の協力を受けていた。彼を人種差別主義者や白人至上主義者と評した報道機関に対して、即座に激しく「告訴する」と脅迫するメディア対応のための組織だ。

    「ヤノプルスは白人至上主義者ではありませんし、オルタナ右翼の一員でもありません」

    ブライトバートのメディア対応を請け負うCapitalHQの上級顧客担当部長、ジェニー・ケファウバーは、反トランプ活動家がヤノプルスの講演の場で発砲したという報道の後、シアトルにあるCBS系列の会社に書き送った。

    「常に彼らを非難してきましたし、彼らと関係しているという証拠をそちらは提示していません。私たちが次の手段を検討する前に、今すぐ訂正を発表してください」

    2016年から2017年の初めにかけて、ロサンゼルス・タイムズ、The Forward、ビジネスインサイダー、グラムール、フュージョン、USAトゥデイ、シカゴ・トリビューンワシントン・ポストCNNに対し、こうした要求を送りつけた。

    記事取り下げや修正、または修正拒否といった各メディアの反応をブライトバートはさらに記事にして、新しいカテゴリーを作った。

    ヤノプルスとソシエの関係や、ブライトバートでガス室のジョークを載せようとしたことや、ポッドキャストにウィーヴを登場させようとしたことを、他のメディアのジャーナリストや編集者は知るよしもない。

    2016年4月2日の夜についても知らなかったはずだ。

    その夜、ヤノプルスはダラスのバー「One Nostalgia Tavern」で過ごし、白人至上主義者リチャード・スペンサーを含む聴衆が「ジーク・ハイル(訳注:「勝利万歳」、ナチスでよく使われた)」を連呼する前で、カラオケ版の『America the Beautiful』を歌い上げていた。

    YouTubeでこの動画を見る

    「America the Beautiful」を歌うヤノプルス

    動画には、ソシエの姿もある。同じ夜、ソシエとスペンサーは上機嫌のヤノプルスの前で、デュラン・デュランの『A View to a Kill』をデュエットした。

    訴訟を起こすと脅されたジャーナリストたちが、ヤノプルスのEメールのパスワードを知っていたはずもなかった。

    4月6日のEメールの中で、アラム・ボカリはヤノプルスのアカウントに「Kristallという言葉で始まるパスワード」でアクセスしたことに軽く触れた。

    突撃隊(SA)— ヒトラーが権力の座に就くのを手助けした準軍事的な組織 — が1938年に実行したドイツのユダヤ人に対する悪名高い暴動「Kristallnacht(水晶の夜)」は、ホロコーストの始まりとされる。

    2016年6月のアシスタントへのEメールの中で、ヤノプルスは自分のEメールのパスワードをシェアしたが、それは「LongKnives1290」で始まっていた。「長いナイフの夜(The Night of the Long Knives)」は、突撃隊幹部に対するナチスの粛清だ。広く知られているように、ゲイのリーダー、エルンスト・レームも殺された。1290年は、エドワード1世がイングランドからユダヤ人を追放した年である。

    2016年8月17日の朝早く、トランプの選挙運動のためにバノンがブライトバートを去ると報じられると、マイロ・ヤノプルスはメールを送った。

    「おめでとうございます、チーフ」

    「『お悔やみを』のつもりだな」と、バノンは返信する。

    「あなたの使命感には恐れ入ります(いや、マジで)」

    「そんなことわかってるだろう」

    このやりとりの後、1カ月間、ヤノプルスとバノンは密接に仕事を続けた。

    バノンと編集者のマーローは、7月後半にヤノプルスのTwitterが凍結されたことに関して記事を連発。だが、チャールズ・ジョンソンのTwitter告訴計画からは距離を置いた。

    「チャールズは広報活動の毒です」とヤノプルスは書くと、「意図は間違えてない。でも彼はひどいね」とバノンは返した。

    オルタナ右翼を擁護する8月の記事で、ポール・ライアンをどのくらい叩くかをめぐって、前に進まなかった。

    「ライアンをおちょくるのは見出しだけだ」「記事の本文では、ライアンが腰抜けだとか書かないだろうな?」とバノンはヤノプロスを制している。

    しかしバノンがブライトバートを去ると、2人のメールのやりとりは一気に減った。

    8月25日、ヒラリー・クリントンがオルタナ右翼についてのスピーチで触れると、ヤノプルスはメールを送った。

    「こんなに爆笑したことはありません」

    「あの女のくそいまいましい頭の中に、俺たちがいるなんてね」とバノンは返信した。

    そして9月15日、当時トランプ陣営のアドバイザーだったセバスチャン・ゴルカは、「Twitterで見つけた」ミームを送った。

    宛先は、ヤノプルス、バノン、そしてほどなくトランプの国家安全保障問題担当顧問となる人物の息子、マイケル・フリン・ジュニア。

    2010年のシルヴェスター・スタローンの映画『エクスペンダブルズ』のパロディだ。

    「The Deplorables」(残念なやつら)と題された画像には、ヒーローたちの上に、トランプに関係する面々の顔が合成されていた。保守風刺サイト「Patriot Retort」の透かしが入っている。

    「あなたたちがこれを了承したのでしょう?」とゴルカは書いた。

    「最高だね。フリン中将にCCする」。フリン・ジュニアは返信した。

    「LOL(大爆笑)!」と、バノンは返す。

    「(面白すぎて)妬ましいですよ!」とゴルカ。

    大統領選が終盤に入ってからも、バノンがブライトバートを動かし、成長を続けるスター、ヤノプルスのキャリアを導いていた形跡がある。

    9月1日、バノンはラトガース大学に導入された、いじめ防止のための言動ガイドラインについての記事をヤノプルスに転送した。ヤノプルスはそれをボカリに送り、記事を書くよう指示した。

    3日、バノンは「ドナルド・トランプのインタビューを準備しようとしている」とヤノプルスにメールで伝える。(結局、実現しなかった)。

    そして9月11日、バノンはデジタル戦略専門家でトランプ支持者のオズ・スルタンに面会するよう、ヤノプルスに指示した。

    文化的戦争の理想を推進するため、トランプとの距離の近さをバノンが利用していたフシもある。

    10月13日、白人至上主義者のリーダー、ネイサン・ダミゴのツイートをソシエはメールでヤノプルスに送った。ダミゴは今年4月のカリフォルニア大学バークレー校で開かれた集会では反ファシストの女性の顔を殴り付け、シャーロッツビルではデモを先導した人物だ。

    そのツイートとは、「@realDonaldTrumpが、大学キャンパスでの言論の自由を保護すると言ったばかりだ」というものだ。

    「ダミゴが僕に似たフレーズを使っていた——バノンが吹き込んでいるんだ」と、ヤノプルスは返信した。

    だがトランプが大統領に就任し、オルタナ右翼内での過激派から、「オルタナ右翼」を再定義しようという機運が高まると、バノンは公式にそしてはっきりと、ヤノプルスとの距離を置いた。

    2017年2月14日、ほんの数カ月前まで密にやりとりをしていたバノンに接触するために、ヤノプルスは共通の知人の広報担当者に頼らざるをえなかった。

    「本の原稿です。もちろん極秘扱いの……今でも、バノンかドン・ジュニア(ドナルド・トランプ)かイヴァンカから、推薦の言葉をもらえたらうれしいのですが!」

    その翌週、ヤノプルスが小児性愛を容認しているように見える動画が発表された。ヤノプルスは追い詰められ、2日後にブライトバートを辞職した。弁護士がヤノプルスを職に留めておくよう、ブライトバートCEOのソロフと編集者のマーローに強く求めた。

    「13カ月も前の動画が理由で、人気急上昇中のスターを見捨てないよう切に願います。この動画が彼の本意を反映していないことは、私たちみなが知っています」と弁護士は書いた。

    トランプの混沌としたホワイトハウスの中にバノンは身を隠し、コメントもせず、メインのメールでヤノプルスに連絡を取ることもなかった。

    だが、「マシン」は壊れていなかった。

    ただ、静かに動いていただけだった。価値のある部品を完全に捨てようとしたわけでもなかった。その部品が、小児性愛の支持者に見える人物であったとしても。

    ヤノプルスがクビになったあと、マーローは新たなプロジェクト「マイロ社」について話し合うため、ヤノプルスを連れて富豪・マーサーの自宅に赴いている。

    2月27日、スキャンダルが勃発してから2週間も経たないうちに、ヤノプルスは「ロバート・マーサーの会計係」と称する女性からメールを受け取った。

    「今日、電信送金します」

    その日遅く、会計係とロバート・マーサーに宛てたメールで、ヤノプルスは個人として礼を伝えた。著書の出版を準備している最中でも、レベッカ・マーサーと親しい関係を保ち、ニューヨークで歯周病専門医が必要になったときはテキストメッセージを送って良い医師を推薦してもらったほどだ。

    バノンがホワイトハウスを去ってから、ヤノプルスと再び協働している兆候がある。

    8月18日、ヤノプルスはInstagramに「Winter is Coming(冬がやって来る)」と言葉を添えて、バノンの白黒写真を投稿した。

    結局実現しなかったが、カリフォルニア大学バークレー校でのヤノプルスのイベント「Free Speech Week」でバノンは講演を予定していた

    9月に入ってイベント自体が中止され、実現しなかった。中止の理由は、発起人の学生グループが必要な手続きを怠ったからだとされている。もし予定通り開催されていれば、極右の論客がオールスターで集まるイベントとなっただろう。

    さらにヤノプルスは親しい人々に、間もなくブライトバートに復帰できそうだと語っている。

    スティーブ・バノンの活動は、公言するイデオロギーのレンズを通して分析される。

    反イスラム、反移民、反「グローバリズム」で、移民や多様性、経済に関して広く受け入れられているリベラルな思想の破壊を目指すイデオロギーだ。たしかにBuzzFeed Newsが入手した文書の中でも、その多くが見てとれる。

    そこにいるのは、欧米に多数の移民が流入して西洋文明が破壊される様子を描いた1973年の小説『Camp of the Saints』を愛読するバノンだ。

    2016年2月には、西洋のための「#war」について語りながら、記事の中の「難民」を「移民」に書き換えるようヤノプルスに要求している。

    だが我々は、民間メディア企業の幹部としてバノンを見ることはめったにない。

    成功しているメディアの幹部は、読者の規模を拡大するためコンテンツを日々、生み出している。マイロ・ヤノプルスが具現化したブライトバートというオルタナ右翼「マシン」は、この見方から捉えるのが実は一番わかりやすい。

    それはみごとな読者獲得マシンだった。

    富豪から資金を調達し、アイデンティティ政治や、イスラム教徒・ヒスパニックの移民、ヒラリー・クリントンやバラク・オバマが大統領の座に就くことなどにうんざりした人々を取り込むべく綿密に設計されていた。

    仮に読者層の拡大が、白人至上主義者やネオナチ主義者を取り込むことを意味したとしても、見かけだけ浄化して、彼らとのつながりを隠すのは簡単なことだった。

    ヤノプルスのウリは、彼のエゴそのものだ。報道機関がソーシャルメディアに成長を賭けるこの時代に、アイデンティティ政治の中を生きる読者層を惹きつける、それがメディアの生態系におけるヤノプルスの役割だった。だが、その役割は彼が思うほど、唯一無二のものではなかった。

    多くの報道機関が記者を解雇し、資金を動画に投入している。さらにシャーロッツビルの事件で、オルタナ右翼の読者が扱いにくいことが明らかになった今、バノンにとって、ヤノプルスの利用価値がなくなった可能性がある。

    いや、そうでもないのかもしれない。

    バノンが描くヤノプルスの未来は、常に動画やショーの中にあった。2017年には多くのショーが生まれ、注目を浴びている。先述の「Free Speech Week」も、内部崩壊しなければスペクタクルとなる可能性があった。

    バノンとヤノプルス。声をあげ、目立つ。その価値を、この2人は知り尽くしている。

    2016年6月、バノンの熱烈な後押しを受け、ヤノプルスはストックホルムのイスラム教徒居住区でゲイ・プライド・マーチを先導する計画を立てていたが、ヤノプルスが身の安全を不安視。結局、ブライトバートがセキュリティ上の理由で中止を決めた。

    だが6月26日、ヤノプルスは「死ぬほどすごい計画」についてバノンに書き送り、こんなジョークを上機嫌に綴っている。

    「もし僕が死んだら、今日の午後くらいは、Breitbart.comのサイトをブラックアウトしてほしいですね」

    数時間後、バノンは返信した。

    「哀悼のために、トラフィックを逃せっていうのか?」

    (完)

    この記事を受け、後日、バノンは「(ヤノプルスは私にとって)死んだも同然」で、再び共に働くことはない、と近い人物に漏らしていたことがわかった。


    この記事は英語から翻訳・編集しました。