極右政党がゲイの支持を集める理由 同性婚より大事なこと

    ヨーロッパに押し寄せる移民。イスラム教徒による「新たな占領」をおそれるゲイ。極右政党にLGBT票が流れるとき、フランスの未来は。

    ギヨーム・ラローズ(20)はゲイだ。かつ、フランスの極右政党「国民戦線」のメンバーだった。そして昨年暮れ、その存在が仏メディアを賑わせた。

    ラローズについて、伝統的な右派・左派といったカテゴリーではくくれない。そして、労働者階級を超えて、国民戦線が支持を拡大しようとするとき、ラローズのような層を引きつけることは欠かせない。

    Guillaume Laroze via Facebook / Via facebook.com

    ラローズはパリ第二大学の学生。2012年の大統領選では、社会党のフランソワ・オランドを支持した。現大統領だ。だが次第に、その政策に失望していく。多くの左派と同様に

    2016年9月、ラローズはパリの駅で集団に襲われた。集団は移民たちだったと思っている。ヘイト犯罪ではなく、路上強盗だったとも。だが、この経験をきっかけに、国民戦線の党首マリーヌ・ルペンの掲げる反移民政策に強く惹かれた。

    「『フランスにとってのチャンス』3人に襲われた」。ラローズはSNSに投稿した。「チャンス」というのは、社会党の指導者がイスラム教徒を指して発言した後、国粋主義者たちが皮肉を込めて使い始めたものだ。チャンスではなく、逆に、問題の元凶だという意味で。(その後ラローズは、人種差別だったとして、投稿を削除した)

    反EU

    襲撃される前から、ラローズはすでに国民戦線の学生組織「コレクティフ・マリアンヌ」に参加していた。パリの大学生を対象とした組織だ。

    最初にルペン支持に傾いたのは、その反EUの姿勢だった。巨大企業がEUを利用して利益をむさぼっていると感じた。

    すぐにこの組織ナンバー2の地位へのし上がり、大学に参加を呼びかける役割を負った。選挙に出るようにも薦められた。

    たしかに国民戦線は、伝統的価値観を重んじる保守主義者たちが力を握っている。だが、気にはしなかった。「党内の少数派に過ぎない」。そう説得されたからだ。

    「心配するな。(党内には)2派あって、(保守主義は)少数だから」。複数の人間からこう言われた。国民戦線の副党首に近い人物たちだ。

    非難の集中砲火

    だが、国民戦線を肌で知るようになると、真逆の結論に至る。「(保守)派は活動家の圧倒的大多数を占めている」

    ラローズは昨秋、国民戦線の内部から集中攻撃された。同性結婚を認める法律の破棄を呼びかける集会を批判し、SNSに風刺画を投稿したときだ。

    ゲイが指導的地位にいることに不満を持っていた国民戦線支持者からネットで血祭りに上げられる。「(国民戦線)を少年愛の売春宿に変えやがった

    ネット上の批判は、気にさえしなければいいのかもしれない。ただ、ラローズは、表沙汰にはならない党内の深刻な批判にさらされたという。

    学生組織「コレクティフ・マリアンヌ」の代表ダニエル・オーグストから、1通のテキストメッセージを見せられた。差出人は、マリオン・マレシャル=ルペン(27)。党首マリーヌの姪で、党を担う次世代のエースと目されている。

    ラローズはフランスにいらない——。そう、メッセージには書かれていた。

    オーグストはBuzzFeed Newsの取材に、このメッセージをマリオンから受け取ったことについて「否定しない」と話した。ただ、ラローズを黙らせるための「プレッシャー」ではなかったと釈明した。

    ラローズはうんざりしていた。11月末、Facebookで国民戦線を離れることを発表し、こう書いた。「僕は『左派のイスラム化された潜入者』、LGBT『寄生者』、『少年愛のゴミ』と呼ばれた」

    15分の名声

    ラローズは嫌がらせに過剰反応しているだけだし、ラローズが国民戦線のゲイを代表しているわけはないと、コレクティフ・マリアンヌ代表のオーグストは説明する。

    「ギヨーム(・ラローズ)は国民戦線の唯一のホモセクシュアルではない。だから、ギヨームが離れたからといって、LGBTコミュニティ全体が離脱するわけではない」

    「わたしも毎日侮辱を受けるが、騒ぎ立てはしないよ。彼は15分間の名声が欲しかっただけなんだ」

    国民戦線の青年部の責任者ゲイトン・デュソサイエは、ラローズが入党前に「マリーヌ・ルペンの政策全てを読まなかった」のが間違いだったと指摘する。

    「国民戦線は、社会問題についてスタンスを取っているんです。同性結婚に反対しています。ゲイカップルが養子を迎えることに反対しています。生殖医療に反対しています。代理母に反対しています。ただそれでも、こうした問題は最優先課題ではないのですが」

    「残念なことに、(ラローズは)こうした課題を前面に押し出すことを選びました。だが国民戦線は、後ろに置いているんですよ」

    副党首フィリポ

    一人の党員に過ぎなかったラローズだが、その辞任劇をフランス中のメディアが書き立てた。ラローズは国民戦線の副党首フロリアン・フィリポから、辞任を思いとどまるように説得された。

    副党首フィリポから送られたテキストメッセージを、ラローズはBuzzFeed Newsに見せてくれた。移民やEUの問題に集中し「社会問題は二の次だ」と説かれたという。だが、フィリポこそ党内の保守派のパワーが分かっていないとラローズは思った。

    副党首フィリポはゲイだ。

    だが、自らゲイだと公表したわけではない。ゴシップ誌がパートナーと一緒の写真を載せた。これを国民戦線に対するゲイの支持を集めるために使うこともできたかもしれない。だが、フィリポはこう発言して周囲を驚かせた。

    「国民戦線はゲイに友好的なのではありません。フランスに友好的なのです」

    ただ、フィリポが国民戦線内の実力者にとどまり続けているという事実こそが、党はある程度ゲイに寛容だというメッセージを発している。

    人口の5%未満

    フランスのLGBT票は、選挙結果を左右するぐらい大きいのか。

    調査会社IFOPのフランソワ・クロースによると、世論調査でレズビアンやゲイ、バイセクシュアルだと答える人は通常5%未満だという。この結果が現実を反映していると仮定すると、国民戦線が性的少数者から期待できる票は多くない。ただ、接戦になった場合、話は違う。

    もちろん、LGBT票が大挙してルペンに流れるようなことは考えにくい。だが、国民戦線の反移民、反EUの姿勢は、そのより中道左派寄りの社会保障策と相まって、支持率を上げる要因となっている。

    同性婚より移民の恐怖

    党首マリーヌは、その側近に数多くのゲイを迎えた。その数は2013年に同性婚法を成立させた中道左派・社会党さえしのぎ、フランスの主要政党で最も多い。

    なぜ、国民戦線はここまでゲイを惹きつけるのか。

    「フランス人は恐怖を感じていると思います。ゲイも同じです」とセバスチャン・シュニュは話す。

    シュニュは、国民運動連合(UMP、現・共和党)内のゲイ権利擁護グループ「GayLib」を創設した人物だ。2014年に国民戦線に移り、大きなニュースとなった。

    現在、フランス北部全域を管轄する党委員会を率いるシュニュ。同性婚は「中心的課題ではない」と話す。むしろ、フランスの「自由が制限される」脅威が迫っているという。

    「社会の自由が制限されるとき、とくにゲイは失うものが大きいんです」

    つまり、国民戦線が同性婚法の破棄を掲げていたとしても、まずは「イスラム教徒からゲイを守ってくれる」というロジックだ。

    (ただ、シュニュは自分は「ゲイ活動家」ではなく、「ゲイ・コミュニティの存在を認識」しないという。「ここフランスでは、違うコミュニティというものを認識しない」と話す。フランスでは、法の下の平等を保障する一方、「少数者集団の集団的権利を認める多文化主義は危険視される傾向」<『排除と抵抗の郊外』森千香子>がある)

    広がる移民嫌悪

    複数のLGBT活動家が、ここ数年、特に保守派のゲイの間でゼノフォビア(外国人嫌い)が広がっていると指摘する。

    ジャーナリストでLGBT権利活動家のディディエ・レストラードは2012年に「なぜゲイたちは右傾化したのか(Pourquoi les gays sont passés à droite:未邦訳)」を上梓している。国民戦線へのゲイの支持が表面化する前だ。

    レストラードはこんな解釈を示す。国民戦線が政党として勢力を増したため、特にゲイの間で、反移民の姿勢を表明するのは社会的に許されることだと思われるようになった。

    「右翼的な意見を表明することにためらいはなくなったのさ。タブーの終わりだね」

    「バーなんかでは、とくに数杯のアルコールが入ったあと、友達の間なんかでは、これまで長い間ゲイ・コミュニティでは聞かれなかったような意見をためらいなく表明してるのを聞くね」

    世論調査

    ただ、言説を裏付ける確固たるデータがないことには注意する必要がある。

    たしかに、研究機関Cevipofの調査によると、既婚のゲイに限れば、地方選挙で38.6%が国民戦線に投票したと答えた。国民戦線が長く同性婚に反対してきた歴史を鑑みると、驚くべき数字だ。(ただ、世論調査の専門家によると、この集団はLGBT全体と比べて、より年齢が高く、より保守的な傾向があるという)

    それでも、左寄りの政党の支持率を比べると、ゲイ、レズビアン、バイセクシュアルの人たちの方が異性愛者より高かった。(フランスの世論調査では性別について尋ねることは稀で、トランスジェンダーについてのデータはない)

    調査会社Ipsosによると、2015年12月の地域選挙で、左派政党に投票したのは、ゲイとレズビアンは52%、異性愛者は36%だった。国民戦線に投票したのは、いずれも4分の1ほどだった。

    国民戦線への支持の高まりは、異性愛者とそれ以外の人たちで大きな違いはない。調査会社IFOPによると、2016年11月と2011年3月の国民戦線への支持を比べると、トランスジェンダーを除いた、LGBは9%から16.5%に伸びた。異性愛者は9%から14.5%に伸びた。(サンプルサイズは1万5379、うちLGBが1620)

    したがって、クィアの人たちの国民戦線への支持が特別に高まっているとは言えない。

    特別の恐怖?

    移民について、クィアの人たちはどう思っているのか。Ipsosの2016年の調査によると、サンプルサイズは少ない(302人)ものの、移民・犯罪・テロに対するLGBの人々の懸念は、異性愛者と同レベルだった。

    ヘイト犯罪の件数はどうか。「SOSオモホビ」が運営するホットラインに報告され件数は2013年、3517件に上った。同性婚法が議論されていた年だ。

    だが2015年には1318件に激減している。この間に数十万人の移民が仏国内に流入している。

    もちろん、ヘイト犯罪の発生数とホットラインへの報告件数の相関関係は立証できない。だが、イスラム教徒の移民たちがLGBTの人々への脅威となっているという主張も立証できない。

    反移民での共闘か、伝統価値への急旋回か

    LGBT票の取り込みを図る国民戦線。だが党はジレンマも抱えている。

    弁護士として活躍した党首マリーヌ・ルペンは、父で元党首のジャン・マリが右翼思想を強く押し出した党を現実路線に舵を切ることで、政権への道を目指している。

    だが、その路線に失敗すれば、党内で力を握るとみられるのが姪のマリオン・マレシャル=ルペンだ。マリオンは党内で伝統を重んじる保守派の急先鋒だ。再び党を右に急旋回させる可能性がある。

    「(国民戦線は)綱渡りをしている」。党を離れたラローズの言葉だ。

    例えば、党首マリーヌは同性婚には反対しているものの、2013年に同性婚を認める法律に反対する抗議活動には加わらなかった。マリオンが反対を大きく叫んだのとは対照的だった。

    また、2016年12月、マリオンは人工妊娠中絶へ医療費補助削減を訴えた。党首マリーヌは、この削減は党の「政策に含まれない」と断言した

    移民による「占領」

    ここで国民戦線の戦略の変遷に短く触れる。

    かつては泡沫の極右政党に過ぎなかった国民戦線。1980年代半ばに「主張の軸足を反共から反移民に移し、大衆に広く受け入れられるようになった」(国末憲人・朝日新聞グローブ編集長)。党首はマリーヌの父ジャン・マリだった。

    このジャン・マリはホロコーストを否定する発言で2回訴追されている。2010年、国民戦線の党首選で、三女で現党首のマリーヌは、この父の遺産を葬ろうとした。

    マリーヌは党「ブランド」を一新すべく、半世紀前のナチスによる「占領」への固執を拭い去ろうとした。

    代わりに取り上げたのは新しい「占領」。イスラム教徒の移民たちによるフランスの「違法な占領」だった。昨日の敵も今日の味方となる——。イスラエルにも近づこうとした。

    2010年12月11日、リヨンの選挙演説で、マリーヌはこう述べている

    「特定の地域では、女性、ホモセクシュアル、ユダヤ人、はてはフランス人や白人であることすら、よくない状況となっているという話を多く聞くようになっている」

    イスラム教徒のベールや公共の場での祈祷が「多くの場所で」当たり前になってきており、「共和国の法律が宗教の戒律にとって代わられようとしている」エリアがある、とも述べた。

    この戦略はここまで成功している。2011年に党首となったマリーヌは、国民戦線を主流に押し上げた。この春の大統領選で有力候補となっている。

    移民問題とLGBT票

    世界の政治で、移民問題は焦点として扱われている。トランプ旋風が吹き荒れるアメリカ。国民投票でEU離脱を支持したイギリス。さらにヨーロッパでは今年、重要な国政選挙が相次いである。

    世界で初めて同性婚を認めたオランダは3月に下院選がある。極右・自由党は、反移民、反イスラムを訴えることで、LGBT票を集める戦略を取ってきた

    一方、9月に連邦議会選があるドイツ。極右政党「ドイツのための選択肢(AfD)」は反LGBTを貫いてきた。(ゲイは刑務所に入れるべきだと地方議員が2016年6月に発言している)。ただ、ベルリン市内で、男性の写真とこんなスローガンを載せた広告を展開した

    「わたしとパートナーは、イスラム教徒と知り合いになんかなりたくない。わたしたちの愛は、やつらにとって道徳的罪なのだ」

    オランダ国会議員として世界初の同性婚法の起案に関わったボリス・ディトリッヒはBuzzFeed Newsに対して、こう解説した。

    「ヨーロッパの多くの国で、移民をめぐっては、左派政党は有権者が抱いている心配とか恐怖に答えていないんです。だから、有権者に見捨てられる」。ディトリッヒはいまベルリンで、ヒューマン・ライツ・ウォッチのLGBTプログラムの責任者を務めている。

    異例の大統領選

    ヨーロッパ大陸におけるLGBT権利は左派政党がひとつずつ前進させてきた。イスラム教徒の移民たちに対する恐怖感から、LGBT票がルペンのような極右政治家に流れる。皮肉な潮流といえる。

    この春にあるフランス大統領選。4月23日の第1回投票で過半数を取る候補がいない場合、上位2人による決戦投票が5月7日にある。

    ルペンが勝利するとき、左派が直面する政治危機は小さくない。左派の最もコアな支持者たちの票を、極右政党が奪うというお手本をヨーロッパ各国に示すことになる。

    (敬称略)


    BuzzFeed Newsは国民戦線のフロリアン・フィリポ副党首とマリオン・マレシャル・ルペン議員に取材を申し込んだ。だが、フィリポ副党首は返信せず、ルペン議員は広報を通じて取材を断った。

    訂正

    国末憲人氏の肩書きを訂正しました。