iPhoneを修理するとき、知っておいた方がよいこと

    「修理する権利」を訴える活動家たちは、電子機器を自分で、あるいは独立系ショップでより簡単に修理できるようにしようと闘っている――だがAppleは、そうした考えに賛同していない。

    iPhoneを壊してしまって(正直に言おう、いつかはその日がやって来る)、すぐに修理したいと思うとき、選択肢は多くない。Apple Storeに持ち込むか、宅配で送って修理を依頼するかだ。自分で直そうと考えたら、大変な思いをすることになる。

    一部の技術者や修理産業を擁護する人たちは、この状況を変えたいと思っている。こうした人たちはアメリカで「修理する権利」という運動を起こし、MicrosoftやSamsung、Appleのような消費者向け電子機器のメーカーに対して、修理情報へのアクセスや交換部品の購入をしやすくするよう求める法律を成立させようとしている。だが、Appleなどのテクノロジー企業は、このアイデアに反対している。そうした法律ができると、修理されたデバイスの品質が落ちるとの懸念からだ。

    大都市に住むiPhoneやMacのユーザーなら、スクリーンにヒビが入っても、Apple Storeのジーニアスバーで簡単に修理を依頼できる。だが田舎に住んでいると、修理に出すのは大変で、直るまで長く待たされることも多い。

    Appleは、直営店やAppleの認定サービスプロバイダー(正規代理店)に対してのみ、iPhoneの修理マニュアルや正式な交換部品を提供している。アラスカ州の場合、Apple直営店は州内にたった1店舗しかない。他では即日修理できるものでも1週間かかることがある。

    モンタナ、ノースダコタ、サウスダコタ、ワイオミング、バーモント、ウエストバージニアの各州では、店内で待っている間に修理してくれる一番近くのApple Storeに行こうと思うと、州境を越えなければならない。こうした州にも正規代理店(ASP)はあるが、ASPには即日修理を可能にするApple独自のスクリーン修理マシンがない。郵送での修理なら3~5営業日はかかる。

    もちろん、Appleのロゴを出していない非正規店、すなわち独立系ショップもあり、多くのユーザーが利用している。しかしその場合は、中古品についていたディスプレイに交換されるおそれがある。運がよければ、ほかのiPhoneから外して保管されていた純正のリサイクル部品を手に入れられる可能性もあるが。

    電子機器に限らず、製品修理の現状については、消費者運動家修理業界が盛んに議論しており、各州議会の議員たちも、ツールやマニュアル、交換部品への公正な市場アクセスの提供をメーカーに義務づけるような法案を提出している。Appleは2017年3月、ネブラスカ州でのそうした法案提出に反対する意見を述べた。8つの州(カンザス、ミネソタ、ネブラスカ、ニューヨーク、テネシー、マサチューセッツ、イリノイ、ワイオミング)が同じような法案を検討している。

    「修理する権利」法があれば、車と同じように電子機器を修理できるようになる。

    現在、自動車には「修理する権利」法がある。その車が保証期間中なら、ディーラーに持っていけば修理を受けられる。保証が切れているなら、ディーラーまたは独立系の修理工場のどちらかに修理を依頼できる。そして、何かを交換する必要があれば、追加料金を払ってメーカーから直接購入するか、アフターマーケット製品を使って節約するかを選択できる。

    電子機器などの修理マニュアルを独自に提供するサイト「iFixit」のカイル・ウィンズCEOや、「修理する権利」法の成立に向けて働きかけている連合会「Repair.org」のエグゼグティブ・ディレクターを務めるゲイ・ゴードン・バーン氏は、消費者向け電子機器を対象にしたこの種の法案を支持しており、いかなる製品も修理ができるようにすべきだと主張している。彼らをはじめとする「修理する権利」の支持者たちは、テクノロジー企業が(40億ドル相当と試算される)修理市場を独占し、消費者がデバイスを修理する行為を困難、あるいは高価なことにしていると非難している。

    「自動車修理は、180億ドル産業に成長している。これは、法律が自由な市場を作ったよい例だ」とウィンズ氏は話す。

    何らかのメンテナンスが必要になったiPhoneユーザーにとって、今ある選択肢は少ない。

    1)Apple Storeに行く、2)正規代理店(ASP)に行く、3)デバイスをAppleに送る、このいずれかの方法がある。Appleが認定した技術者が、Appleが提供する交換部品を使って修理した場合の費用は29ドル(129ドルの追加料金を払って「AppleCare+」に入っている場合)から149ドル。デバイスを直ちに交換する必要があれば、AppleCare+があれば99ドル、なければ349ドルを払わなければならない。

    Appleは、修理する権利の問題をめぐって精査を受けているが、iOSやMacのハードウェア・サポートは、Androidユーザーが受けられるものに比べるとはるかに直接的かつシンプルでわかりやすくなっている。Androidの場合は通常、トラブルシューティングや修理を、携帯電話キャリアかそのサービス・パートナーに頼っている。そうしたアフィリエイトは、Appleの直営店とは違って、特定のAndroidデバイスについての深い専門知識を持つ技術者を雇っていない。

    iPhoneにまつわる「修理する権利」の議論を理解するには、ASPと独立系修理ショップの違いをまず知る必要がある。

    Appleによると、同社のASPプログラムには、希望すれば誰でも参加できる。Appleに一定の料金を支払い、認定試験を受け、合格すればASPと名乗ることができる。ASPになったショップは、iPhoneやMacの純正の交換部品が購入できるし、分解やトラブルシューティングに関する情報全般を入手できる。ASPでの修理費用は、Apple Storeで修理した場合と同じだ。修理後90日間の保証も付く。

    Appleは、増加する修理依頼に対応するために、2017年末までに数百のASPに、スクリーン修理専用の特殊マシン(「ホライゾン・マシン」)を設置すると約束している。これまでのASPは、スクリーンにヒビが入ったiPhoneを、Appleの修理施設に送っていた。ホライゾン・マシンがあれば、数日待つ必要はなくなり、その日のうちにiPhoneを持ち帰れるようになる。

    一方、独立系ショップは、Appleが提供するマニュアルや部品、修理マシンを使えない。こうしたショップは通常、「アフターマーケット」のサプライヤー、または、こっそりと部品販売をしているAppleのサプライヤーから交換部品を仕入れている。サードパーティー製の模造品もたくさんあり、品質もピンからキリまでさまざまだ。

    こうした非正規ショップでも、ASPから購入された正式な部品が使われることがあるかもしれない。Appleから直接買い入れたASPが、オープンマーケットで売っているものだ。技術者の中には新しいiPhoneを分解して、Appleの純正部品を再利用するものもいるが、自宅近くにある独立系ショップが純正部品を持っている保証はない。

    こんなにややこしいことになったのは、Appleが、ユーザー自身や町の技術者にiPhoneを修理してもらいたくないと思っているからだ。ウィンズ氏とゴードン・バーン氏は、その理由をBuzzFeed Newsに説明してくれた。

    Appleは、直営店にいる「ジーニアス」やASPにいる認定技術者は、製品がAppleの基準を満たしていると保証するために必要だという姿勢を貫いている。AppleのiOS・iPad・iPhoneマーケティング担当バイスプレジデントを務めるグレッグ・ジョスウィアク氏は、「適切かつ安全、セキュアに修理されたiPhoneは、ほかのどの携帯電話端末より価値を持つ。活気のある中古品市場がそれを物語っている」と話す。イスラエルにあるネゲヴ・ベン=グリオン大学の研究者は、先頃発表した研究論文において、交換されたスクリーンがキーボード入力をログするようハッキングされたり、悪意ある攻撃がインストールされたりすることを実証した。

    セキュリティー上の懸念に加え、特にiPhoneの近接センサーを扱う場合など、修理の中には技術的に難しいものがあるとAppleは言う。近接センサーは、通話するためにデバイスを耳に近づけた時にスクリーンが反応しないようにするものだ。ヒビが入ったスクリーンを修理する場合には、このセンサーを取り外して交換する。修理の中で一番依頼が多いタイプだという。

    iFixitのウィンズ氏は、センサーのケーブルは「扱いにくくて、正しく取り付けるのが難しい」と認めているが、それよりも問題なのは、修理後に行う品質管理テストのほうであり、きちんと機能しなかった場合にセンサーケーブルを付け直すことが大変なのだと言う。

    だとしても、iPhoneの修理の多くは、ほとんどの人が自分でできるくらいに簡単なものだ、とウィンズ氏は説明する。

    ウィンズ氏によると、iFixitの修理ガイドは、iPhoneを修理する人を年間100万人助けている。サイトにあるマニュアル類は、今まで一度も電子機器を分解したことがない人を対象に書かれているという。「時間がかかることを厭わず、指示に従いさえすれば、技術的な専門知識は何ひとつ必要ない」とウィンズ氏は主張する。

    Appleの専用部品をいじくり回すのに必要な道具の多くはiFixitで売られているし、Amazonに行けば選択肢はもっと増える。iFixitでは、(スクリーンやスピーカー、カメラなど)サイトで販売している交換部品に生涯保証を付けてさえいる。ただし、バッテリーには寿命があるので、その範囲ではない。

    2017年はじめの時点では、サードパーティー製のスクリーンが付いているiPhoneを、スクリーン以外の問題(たとえばバッテリーの交換など)で修理する必要がある場合、それが自分で修理したものであっても独立系ショップで修理したものであっても、iPhoneそのものに保証が残っていれば、Appleは保証を使って対応するだろう。だが、サードパーティー製スクリーンにヒビを入れてしまい、Apple Storeで純正品に取り替えたいと思う場合は、保証なしで149ドルを払うことになるだろう。

    iPhoneの高品質な交換部品は簡単に手に入るし、自分で修理することも決して難しくはないというなら、ユーザー自身に修理させることがこんな騒動になる理由は何なのか?

    短い答えはこういうものだ。正式な部品を手に入れることは、実はまだかなり困難だ。独立系の技術者やDIY愛好者にとって、Appleから直接買うというオプションがあれば、正規のスクリーンを使っていると保証することがずっと容易になるだろう。

    「Appleがサードパーティー・ショップを認めることに何の問題もない。認定された、独立系のオプションはあって然るべきだ」とウィンズ氏は述べる。

    さらに、修理する権利の擁護者たちの多くは、本当に重要なのは、修理できれば、環境にとってプラスだと言っている。

    Repair.orgは8月第3週に、ある報告書を発表した。プラスチックのリサイクルとエネルギー効率に焦点を絞った米国の電子機器基準は時代遅れであり、足踏み状態が続く環境への取り組みを前進させる方法のひとつは、修理・再利用・分解できる設計の製品を作ることだと主張するものだ。そうすることで電子機器が長く使われるようになり、ゴミの埋め立て地に送られるものが減るというのだ。

    しかし、Appleの環境イニシアティブチームを率いるリサ・ジャクソン氏は、環境に配慮する(グリーンである)とは、デバイス修理だけの問題ではないと述べる。「製品寿命を伸ばすことが非常に重要だという意見には賛同する。だが、それを正しいやり方で実現したいなら、製品全体のライフサイクル全体に目を向けなければならない」

    「耐久性があるとは、製品設計はもちろんだが、(ソフトウェアの)アップグレードが容易にできることや、ディスプレイなどを保守・修理できる認定サービスセンターがあることでもある」とジャクソン氏は語る。

    Appleのジョスウィアク氏も、「活気に満ちた」iPhone中古市場についての自身の発言を強調したうえで、「iPhoneは、もっとも高品質で耐久性があるデバイスだ。われわれがこうした体制を取っているのは、それが顧客にとって、iPhoneにとって、そして地球にとってより良いことだからだ」と述べた。

    難しい議論だ。メーカーは、顧客を守るためだとして法案に反対している。一方、「修理する権利」を訴える活動家たちは、顧客にはより多くの選択肢が与えられるべきだと考えている。

    顧客は、ポケットに入れて持ち運べる、長時間使えるバッテリーを積んだ、洗練されたデバイスを欲しがる。メーカーはその要望に、可能な限りスリムなボディーのハードウェアをデザインすることで応えている。それは多くの場合、接着剤のような材料が使われたり、ロジックボードに直接はんだ付けされる部品がほとんどになったりすることを意味し、結果として「修理できない」デバイスが出来上がる。また、Appleのようなメーカーは、可能な限り最高品質の製品を提供することを目標としている。彼らが、基準以下のデバイスが市場に出回るのを防ぎたいと考えるのも理解できる。

    一方で、デバイスの所有権はユーザーにある。修理する権利の擁護者たちは、自分でやるにしろ、自分で選んだ独立系ショップに行くにしろ、自分の条件に沿って修理できるべきだと考えている。

    Repair.orgのゴードン・バーン氏は、修理する権利を認めることはメーカーにとってもプラスになると述べる。「ユーザー自身にデバイスを修理させてみてほしい。デバイスを持ち続けることができれば、ブランドに対するロイヤリティーは高まるだろう。それができれば、アップルへのロイヤリティーはより強くなる。一番長保ちする、最高機能の、最高の製品を選ぶようになるだろう。なぜそうしないのか?」

    この記事は英語から翻訳されました。翻訳:藤原聡美/ガリレオ、編集:BuzzFeed Japan