「封筒を預けておく。ただし、Airbnbだと言ってはいけない」
名門カリフォルニア大バークレー校の大学院生、レスリー・ルートさんは昨年、民泊サイト「Airbnb(エアビーアンドビー)」でマンションの一室を借りると、部屋の貸し手からこんなメッセージを受けた。
ルートさんは心配になった。部屋の持ち主が不在なのに、警備員は鍵を渡してくれるのだろうか? 会ったこともないホストなのに、友人の振りをしろって?
「ああ、こんなことするために、お金を払うのって感じでした」。ルートさんは振り返る。
広がる闇民泊
ルートさんのように、ホストからAirbnbの名を伏せて泊まるように求められるケースは相次いでいる。
日本も例外ではない。神戸市のリスティングはこんなハウスルールを載せている。
「入口には管理人の事務所・窓があります。彼はコンシェルジュではありません。ですから、何も頼まないでください。あなたが誰かと聞かれたら『ウィリアムの友だち、または、ウィリアムのゲスト』と言ってください。(私の名前だけを言ってください。それで十分です)。『AIRBNB』とは言わないでください。ここはとても洗練された地域でaibnbはまだ主流ではないのです」
ニューヨークの起業家シッダース・サクゼナさんは、サンフランシスコのホストから「Airbnbは物議をかもしている」と言って、内密にしておくように指示された。アメリカ人の旅ブロガーのアレックス・ガルシアさんも、ドイツで度々ホストからAirbnbで泊まっていると言わないように頼まれたと書いている。
Airbnbに載るリスティングで「Aribnbに言及しないこと」と書かれた例は、検索するだけで、香港、ロサンゼルス、サンディエゴにある。
「こういったケースは珍しいです」。BuzzFeed Newsの取材に対して、Airbnb広報のニック・パパス氏は反論する。「Airbnbのホストとゲストの数が増えるにしたがい、ホームシェアリングの利点について全ての人に分かってもらえるように一生懸命努力しています」
追いかける法整備
Airbnbが誕生して、8年余り。世界中の規制当局は、そのビジネスモデルを理解するのに必死だった。
日本政府は3月10日、年180日を上限に民泊を認める新法を閣議決定。今の国会で成立すれば、来年早々にも施行される見通しだ。
Aribnb発祥のサンフランシスコは細かなルールを決めた。ドイツ・ベルリンやスペイン・バルセロナも規制に乗り出している。
ニューヨーク州知事は昨年10月、ニューヨーク市内の集合住宅で、違法に短期滞在に部屋を貸し出した場合、最大7500ドルの罰金を課すことにした。全米で最も厳しい。(これに対してAirbnbは訴訟を起こしたが、同社ではなくホスト個人に規制を課すという条件で、取り下げた)
カナダ・オタワの裁判所は、マンション管理会社が、マンション所有者に対して、民泊に貸し出すことを禁止する権利があると判断した。アメリカ・シカゴでは、900棟ほどのマンションが、民泊を禁じている。
日本でも、管理規約を改正して、民泊を禁止するマンションは相次いでいる。
友人のふり
それでも闇民泊は後を絶たない。リスクを取っても、貸したいホストがいるからだ。
ジョシュと名乗るプログラマーはBuzzFeed Newsの取材にこんなエピソードを話す。
新しくルームメートとなった男性がマンション規約に反して部屋をAirbnbで貸した。だが、強制立ち退きさせられないように、そのゲストは自分の大学時代の友人だという振りをしなければならなかったという。
サンフランシスコで部屋を予約した、あるテック系企業のCEOは、ホストから脅しのようなメッセージをもらった。「わたしのマンションはAirbnbを許可していない。したがって、気付かれたら、あなたは泊まることはできないし、わたしも強制退去させられるだろう」
娘を訪ねるためにロサンゼルスの部屋を予約した初老の夫婦には、気づかれないようにどうしたらいいかを説明する動画チュートリアルがホストから届いた。
ヒースと名乗る男性は、サンフランシスコでAirbnbの部屋を借りたときに「家主は観光地ソノマに行っている」振りをするようにホストから頼まれたという。
さらに、近所の人から突っ込まれたら、甥だと言うように頼まれたという。
部屋を案内して、ホストはヒースにこう言った。「オーケー、いいかい、君は私たちの甥だ。ただ、泊まっているだけ。私たちはソノマにいる」
疑いを持たれないように、表のドアを開けるときは静かにするように求められたという。
旅行サイト「スキフト」のラファト・アリCEOは、自身の2ヶ月間の新婚旅行の間、ニューヨーク市マンハッタンの自宅マンションをAirbnbで貸し出した。マンションにはドアマンがいる。
「ゲストには『ラファトの友達だってことにしてね』と言いました。みんなやっていると思いますよ」
闇民泊がバレたら・・・
だが、闇民泊はいつも成功するわけではない。
正体がバレたゲストは現地で「リンボー(天国と地獄の間の不安定な状態)に陥る」。こう話すのは、ニューヨーク市のシャーウィン・ベルキン弁護士だ。多くの不動産所有者の顧問を務め、家主に内緒で賃借人がAirbnb営業をする例を見てきた。
「マンションに到着して『これは内緒にしておこうね』っていうルールを守れないで、『この部屋をAirbnbで借りたんだけど、鍵をくれない?』と管理人に尋ねる。するとこう言われる。『ええと、実はですね、ダメなんです。これは違法なんです』」
ゲストは泊まる場所がなくなってしまう。
ニューヨークポスト紙は、違法だと知らされずにニューヨークの部屋を予約し、到着後に追い出されたカップルの「悪夢」を伝える。(その後、Airbnbはホテル代を負担した)
イタチごっこ
広がる闇民泊に対して、不動産所有者側も手をこまねいているわけではない。
カリフォルニア州のデイビッド・ワッサーマン弁護士は、サンフランシスコのドアマンたちは警戒を強めていると指摘する。
「訪問者が『この部屋のゲストですよ』と言った場合、繰り返して質問する。Airbnbのゲストだと判明すれば、追い返す」
ワッサーマン弁護士は「自社物件には監視カメラも増やしている」と言う。
インターンを雇って、Airbnbの違法リスティングを探させる不動産管理会社もある。直接的に「Sublet Spy」「Sublet Alert」といった取り締まりサイトを利用することもある。
だが、先ほどのニューヨークのベルキン弁護士は、取り締まりはイタチごっこ状態だ、と指摘する。
公開企業へのハードル
時価総額3.5兆円とも計算され、2018年の株式上場がささやかれるAirbnb。闇民泊現象は、今のところ、膨張するビジネスの大きな障害にはなっていない。
先の旅行サイト「スキフト」のアリCEOはこう考える。「Airbnbで1回嫌な経験をしたからって、Airbnb全体を非難して、使わなくなるでしょうか? それともその泊まった場所を非難するでしょうか?」
ただ、アリCEOは、Airbnbが上場を目指すならば、規制と向き合う姿勢を示さなければならないとも指摘した。「リスティングが減ったとしても、サービスを適正化する方向へ向かうべきでしょう。システムのお掃除が必要です」
たしかにAirbnbはニューヨークやサンフランシスコで数千単位の違法リスティングを削除してきた。Airbnbホストに対する近隣住民の苦情受付フォームも用意した。
さらにホストに対して、管理組合や家主に適切な説明をするようにうながしている。アメリカの試験プログラムでは、民泊の規定を含む賃貸借契約を提示し、家主側が予約件数や料金収入などを一覧できるようにしている。
ナショナル・マルチファミリー・ハウジング・カウンシル(NMHC)の調べでは、アメリカの大手マンション会社の3分の1が、民泊に貸し出したい住人と前向きに交渉する姿勢を示している。
「ホームシェアリングが全ての人にとって上手くいく可能性があることを理解する家主も住人も増えています。このモーメンタムの上に、積み重ねていきたい」。Airbnb広報のパパス氏は話す。
Aribnb創業者は闇民泊問題をどう考えているのだろうか。来日したジョー・ゲビアCPOに3月21日、BuzzFeed Newsが尋ねると、こんな答えが返ってきた。
「いろいろなリサーチをしています。家主のニーズや求めていることを理解しようとしています」
「現代の便利なものは、最初に登場したとき、抵抗に合い、摩擦、誤解が起きました。例えば、ATM、ビデオ、自動車。いつも起きることだと思います」
「シェアリングエコノミーは『魔法のランプから出てきたジーニー』のようなもの。二度と戻らないでしょう」
この記事は英語から編集・翻訳しました。