アカデミー賞の外国語映画賞に2月26日、イラン映画「セールスマン」が輝いた。
だが、授賞式に監督の姿はなかった。
映画が生む共感
アンサリさんは監督からのメッセージを代読した。
「今夜みなさんと共にいられないことを残念に思います。私が欠席するのは、アメリカへの入国を禁ずる非人道的な規制によって侮辱された、母国の人々、そして他の6カ国の人々への思いやりからです」
「『我々』と『敵』というカテゴリーで世界を分断すれば恐怖を生みます。侵略と戦争を偽って正当化することを。こうした戦争は、侵略の犠牲者である国々での民主主義と人権を阻みます」
「映画制作者は、共通の人間性をとらえるためにカメラを向け、様々な国籍や宗教をめぐる固定観念を破ることができます。我々と他人との間に共感を生みます。共感、それは我々が今日、かつてないほどに必要としているものです」
ロンドンで上映会
ロンドンのトラファルガー広場では26日、ロンドンのカーン市長がこの映画の無料上映会を開いた。数千人が詰め掛けた。
「ドナルド・トランプ大統領が私を黙らせることはできない。我々は開かれた都市だ」とカーン市長。
ナショナリズム批判
こうした思いは外国語映画賞にノミネートされた5作品の6人の監督全員が共有していたものだ。
6人は「ファシズムとナショナリズム」を批判する公開書簡に署名し、24日に公開している。
* 「セールスマン」(イラン)アスガル・ファルハーディー監督
* 「ヒトラーの忘れもの」(デンマーク)マーチン・サントフリート監督
* 「幸せなひとりぼっち」(スウェーデン)ハンネス・ホルム監督
* 「ありがとう、トニ・エルドマン」(ドイツ)マーレン・アデ監督
* 「タンナ」(オーストラリア)ベントレー・ディーン、マーティン・バトラー共同監督
公開書簡の全訳はこちら。
全てのノミネートされた人たちを代表して、今日アメリカと他の多くの国々で見るようになったファシズムとナショナリズムの風潮に対して、口をそろえて心の底から否定する気持ちを表明したく思います。それは一部の人々、そしてとても残念なことに、トップ政治家に見られるものです。
性別、肌の色、宗教、セクシュアリティの違いで私たちを隔てることによって、生じる恐れ。暴力を正当化しようとする。これは私たちが拠って立つものを壊します。アーティストとしてでだけではなく、人間としてです。文化の多様性、「外国」のように見えるものによってより豊かになる機会、人と人との出会いによって私たちがより良い存在に変われるという信念を壊してしまいます。
こうして分断する壁を作ってしまうと、シンプルでありながら根源的なことを知ることができなくなってしまいます。私たちはみな、そんなに大きく違う存在ではないと見出すことができなくなります。
そこで私たちは自問します。映画には何ができるだろう? 映画の力を過大評価したくはありません。それでも、人々の生きる空間へこんなにも深い洞察を示し、得体の知れないものだと思う感覚を、好奇心、共感、思いやりへと——それが私たちが敵だと教えられてきた人々に対するものでも——変えられるメディアは映画だけだと信じます。
日曜日に誰がアカデミー外国語映画賞を取ることになろうとも、国境という観点で考えることはしません。最高の国、最高の性別、最高の宗教、最高の肌の色などないと思っています。この賞には、国と国との絆、アートの自由を象徴して欲しいのです。
人権は申請しないともらえないようなものではありません。それはただ存在するのです。すべての人に。ですから、私たちはこの賞をすべての人々、アーティスト、ジャーナリスト、アクティビストに捧げます。絆や理解を深め、表現の自由と人間の尊厳を称揚する人たちです。
こうした価値を守ることは今、かつてないほど大切になっています。アカデミー賞をこうした人たちに捧げることによって、深い尊敬の念と連帯の心を示したいと思います。
この記事は英語から翻訳・編集しました。