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「人肉使って逮捕」フェイクニュースサイトのデマ、飲食店を経営危機に追い込む

「眠れず、食事も取れないんです。これからどうしたらいいか途方にくれています」

ロンドンにあるインド料理店「カリ・ツイスト」。ここに、奇妙な電話がかかり始めたのは5月11日だった。翌日には、その数は数百回にも上り、スタッフ総出で電話対応に追われた。電話の主は口々に叫んだ。「なぜ人肉を提供しているのか」

寝耳に水だった。一人のスタッフが何とか電話主を落ち着かせ、なぜこんな電話をかけたのか尋ねることができた。「Facebookで見たというんです。まったく想定外でした」。オーナーのシュリナ・ベガムさんはBuzzFeed Newsの取材に答える。

料理店の売り上げは半減した。ようやくベガムさんは、ついにデマの出どころを突き詰めた。こんなフェイク(偽)ニュースがあるサイトに載っていた。

「人肉使用のアジア料理店が閉鎖」

インド料理店のオーナーが人肉を使用して逮捕され、9人の冷凍された遺体が見つかったと伝える。ベガムさんの店の写真を載せているが、記事は「ニュー・クロス・レストラン」という店名を挙げ、オーナーは「ラジャン・パテル」と書いている。

たった56単語。スペルミスも目立つ。

ベガムさんのレストランは、父が半世紀前に開いた老舗だ。だが、この偽ニュースのせいで営業の危機に瀕している。「リノベーションをしようと思っていたんです。資金も貯めていました。でもいまや週末にはお客様がいなくなってしまったので、従業員の勤務時間を減らさざるを得ません」とベガムさん。

偽ニュース作成サイト

ベガムさんのレストランに関する偽ニュースを載せたのは「チャンネル23ニュース(Channel23news.com)」というサイトだった。

このサイト。誰もが偽ニュースを簡単に作れるフォーマットが用意された「偽ニュース作成サイト」だ。

見出しと記事本文を書き込み、画像をアップロードするだけで、簡単に記事を配信できる。SNSのシェアボタンも設置されており、FacebookやTwitterで簡単に拡散できる。

たしかに、そのリンクをクリックして記事を読もうとすると、いたずらサイトだという注意書きが目に入る。

「だまされたね! 新しい記事を作って、友達をだまそう!」

だが、シェアされるサムネイル写真とタイトルは、本物のニュース記事に見せかけてある。

偽ニュースを量産

人肉を使用していたという偽ニュースに狙われたのは、ベガムさんの店だけではなかった。他にもレストラン5店について、ほぼ同じ文章の記事が載っていた。

さらに、偽ニュース作成サイトは「チャンネル23ニュース」だけではない。

米ミズーリ州ジョプリンでは、行政が洪水対応に懸命に当たっている最中、誤った地域に避難勧告が出されたという偽ニュースが広がった。配信元は「チャンネル22ニュース」(Channel22News.com)だった。

地元メディアに警察署長は「問い合わせが殺到した。(誤情報は)山火事のようにひろがった」と話す。

同メディアによると、このサイトは、ミズーリ・サザン州立大の男子学生が女子学生を車に連れ込み、性的に暴行した疑いで警察が行方を追っているという偽ニュースも配信した。実際に在籍する男子学生の顔写真と名前が使われたが、本人の了解を得た「いたずら」だったのかはわからないという。

「チャンネル22ニュース」「チャンネル23ニュース」「チャンネル34ニュース」「チャンネル45ニュース」——。

BuzzFeed Newsの調べでは、少なくとも同様の19サイトが確認された。今年2月行こう、偽ニュースは少なくとも724本配信された。Facebook上では同期間にシェアやリアクション、コメントといったエンゲージメントを250万稼いでいた。

どんな「ヒット作」があるのか。

このうち19サイトのドメインは、コリー・シューラーという名前で登録されている。

BuzzFeed Newsは本人に電話取材した。

「大半がいたずらだ」

ウィスコンシン州ミルウォーキーに住む25歳の男性で、「コリー・タイ」という名前を使っていると答えた。ここ5年、ネットで金儲けをする方法を考えてきたという。当初はマイスペースで商品広告をしていたが、Facebookに的を絞った。「いたずら」の偽ニュース作成サイトを立ち上げたのは今年初めだ。

「うまくいくんじゃないかと思って。面白いし、ユーザーがメインだし、勝手に盛り上がるし」とタイ氏。目論見通りにサイトは成功した。

偽ニュースではないかとの指摘に対し、タイ氏は大半が「学校や同僚のいたずらだ」と反論する。

「プラットフォームが悪用されることはある。どんなプラットフォームも悪用される。連絡があれば、すぐに削除してきた」

(だが、ベガムさんのレストランの偽ニュースが配信後3週間たっても削除されていないと電子メールで尋ねると、返信はなかった。現在は削除されている)

拡散機能

タイ氏が手がける偽ニュース作成サイト群は、他サイトの偽ニュースをさらに拡散させる機能も果たしている。

偽ニュース「4年間上司のコーヒーに射精していた男を逮捕」は偽ニュースサイト「ワールド・ニュース・デイリー・リポート」に載った数日後、「チャンネル34ニュース」に短く転載された。

ちなみにタイ氏は、他サイトで広く拡散した偽ニュースを転載するサイト「フェイマス・バイラル・ストーリーズ」も運営している。

タイ氏はこうも釈明もした。「間違いなくネット上の偽ニュースを利用してきたよ。否定はできない。金稼ぎの一つの方法なんだ」

元祖は?

偽ニュース作成サイトのアイデアを思いついたのはタイ氏が初めてではない。ベルギーのニコラス・グリウ氏が、現存するサイトでは、2015年3月には、この種類のサイトを立ち上げている。現在、6言語で、少なくとも11サイトを持っている。過去1年間だけでも2300本以上の偽ニュースが配信された。(BuzzFeed Newsはグリウ氏に取材を申し込んだが、返答はなかった)

そのうちの一つ、英語サイト「リアクト365(React365.com)」は、米メリーランド州アナポリス市長が、公営住宅を解体したり、アフリカ系アメリカ人を差別する発言をしたりしたというデマを配信した。

同サイトは4月、米コロラド州の公園が6月1日に閉鎖されるという偽ニュースも配信。公園職員が対応に終われた。

同サイトはイギリスでも問題になった。イングランドのミドルズブラで、ある10代の少年が性犯罪で警察の捜査対象になっているという偽ニュース。地元メディアによると、警察も動いた。母親は、いじめの延長であり、信じ込んだ人たちが息子に何かしないかとその身を案じた。

スペインメディアによると、グリウ氏のスペイン語偽ニュース作成サイト「12minutos.com」はある政治家の新党結成の偽ニュースを配信した。ある記者が本人に真偽を尋ねるまでにデマは拡散した。

フランスメディアは2014年、グリウ氏のフランス語偽ニュース作成サイトを検証。BuzzFeedドイツも注意を喚起している。

Facebookがテコ

グリウ氏はタイ氏と同様にFacebookをテコにして、トラフィックを稼いでいる。過去1年間、11サイトをBuzzsumoで調べただけで、エンゲージメントは計1050万に上る。Twitterでも同期間に2万2千回以上、共有された。

Facebook広報はBuzzFeed Newsの取材に対し、スパムや偽ニュースを配信して稼ぎにくくするアップデートを続けると説明している。

「金銭的な動機を持てないようにし、拡散を防ぐアップデートをした。我々は本気で改善しようとしている」

だが、タイ氏はまだ金稼ぎの余地はあるとみる。「Facebookは私のような人間たちに大金を稼ぐチャンスとスペースを作ってくれた。人生を全く変えてくれるようなこともあった。今までのように甘くはないかもしれないが、まだいけるよ」

インド料理店を経営し、偽ニュースの被害に遭ったベガムさんはFacebookに怒りを覚えている。「怒り心頭です。Facebookに連絡が取れないんです。これを削除し、拡散を防いでくれと伝えられないんです」

ベガムさんは、Facebookに対して、偽ニュースの被害に遭った人たちが電話できるようなホットラインを設けてほしいと訴え、悲痛な声をあげる。

「みなさんにとっては、ただシェアするスクリーンショットみたいなものに過ぎないんでしょう。数回クリックするだけで、深くは考えない。でも私はこれのせいで、眠れず、食事も取れないんです。途方にくれています」

この記事は英語から編集しました。