“悲しみにくれる彼女“になりたくて、スマホで彼を死に追いやった。これは罪ですか?

    20歳の裁判に全米が注目

    "悲しみにくれる彼女"になりたくて、彼氏を死に追いやった——。こんな20歳の被告が起こした事件が全米の注目を集めている。"凶器"はスマホ。果たして、言葉で自殺をすすめることは犯罪なのか。

    コンラッド・ロイさん(当時18歳)は2014年7月12日、マサチューセッツ州のスーパーの駐車場に止めたトラックの中で一酸化炭素を吸って死亡した。

    当時17歳だったミシェル・カーター被告(20歳)は、ロイさんにスマートフォンでの会話やメッセージを通じて、自殺するようそそのかしたとして、過失致死罪に問われている。

    自殺現場にはいなかった被告。果たして、スマホで自殺をそそのかすことを犯罪として問えるのか。現代社会を写す事件は、その法的議論とともに、注目を集めている。

    6月6日、その公判の様子はライブ中継され、地元紙記者は実況ツイートした。

    「注目が欲しかった」

    法廷資料によると、二人は2011年頃から付き合い始めた。だが、遠方に住んでおり、実際に会ったのは2、3回だけ。主にスマホのメッセージと通話でやり取りをしていた。

    ロイさんは死の1ヶ月前、高校を優秀な成績で卒業。フィッチバーグ州立大に合格していた。

    検察によると、事件の2日前、被告はロイさんが自殺したと嘘を付く。「リハーサル」として、友人にロイさんがいなくなったとメッセージした。

    だが、その間もロイさんと電話やメッセージをしていた。一方で、友人にはロイさんが自殺したのは自分のせいだ、と伝えていた。

    「(被告は)欲しかった注目を手に入れ始めた。だから事件を現実にしなければならなかった。嘘付きだと思われないように、自殺させなければならなかった。悲しみにくれる彼女にならなければならなかった。欲しかった同情と注目を手にするために」

    ブリストル郡地区検察局のマリークレール・フリン検事補は法廷でこう主張した。さらに、被告が被害者に送ったメッセージも読み上げた。

    「ジェネレーターのスイッチを入れさえすれば、自由で幸せになれる」「グダグダ言ったり、見せかけたりするんじゃない」「今夜こそだ。やるなら今だ」

    検察は過失致死罪を主張

    検察によると、事件当日、ロイさんは一旦は「怖く」なってトラックから出たが、被告はスマホで「戻れこのやろう」と指示した。

    その後20分間、ロイさんが苦しみ、亡くなるのを電話で聞いていた。警察に通報することも、家族に知らせることもしなかった。

    フリン検事補は「行動は残酷で無謀であり、その結果、コンラッド・ロイさんは死亡した」と指摘した。過失致死罪に当たると主張している。

    実は裁判が開かれているマサチューセッツ州は、自殺の教唆や幇助を犯罪とする法律がない11州の一つだ。

    法律の専門家らは、判決の行方によっては、今後、州法が検討されるかもしれないと指摘する。また、自殺に至るようなネットいじめ事件で検察側がより重い罪で訴追していく可能性もあるという。

    事件後「悲しみにくれる彼女」

    検察によると、被告は事件後、矛盾するような行動も取っている。

    複数の人に被害者が死亡したことをメッセージする一方で、被害者の妹には、ロイさんの行方を知らないか尋ねるメッセージを送っている。

    また、フリン検事補は、自己中心的な言動も追及した。

    例えば、被害者を追悼して募金を集める野球大会を計画した後、被告はFacebookに「笑 私は有名人」と書き込んだという。また、被害者の自殺についてFacebookに投稿すると「支援が堰を切って押し寄せた。(被告は)重要な人間、悲しみにくれる彼女になった」と説明した。

    「自殺」と弁護側

    スマートフォンを通じて、自殺を「言葉」で勧めることは過失致死罪にあたるのか。死を選んだのは本人ではないのか。争点になっている。

    弁護側は、被害者の死は「自殺であり、殺人ではない」と主張。自殺は本人の選択だったとしている。

    法廷資料によると、ロイさんは2011年から治療を受けていた。2013年、鎮痛剤アセトアミノフェンを大量に服用して自殺を図ったが、友人が気づいて一命をとりとめた。

    ジョセフ・カタルド弁護士は、ロイさんは被告に会う前から長く自殺願望があったと指摘した。「コンラッド・ロイさんはミシェル・カーター被告から何の影響もされないとさえ認識していた。何年間も自殺を考えていた」

    また、被告は過去、ロイさんに「自殺しないように説得」もしたと主張。専門家の助けを得るようにすすめているメッセージも示した。

    さらに被告は当時、精神的な問題を抱えており、抗鬱薬を飲んでいたと主張。抗鬱薬には、非合理的に考えたり、イライラしたりする副作用があったと訴えた。被告は「サポートがない彼氏」がいるため、「参っている」とカウンセラーに相談もしていたという。

    ロイさんが被告に感謝のメッセージを送っていることも取り上げた。「皆が生きてほしいと願ったが、彼は生きていたくなかった。彼女が自らの考えを理解してくれることに感謝していた」

    「これは自殺だ。悲しくも悲劇的な自殺。だが、殺人ではない」

    この記事は英語から編集しました。