全米公開されたハリウッド映画を宣伝する目的で、配給会社が「フェイク(偽)ニュース」サイトを複数立ち上げ、偽情報が大量に拡散されていた。BuzzFeed Newsの調査でわかった。20世紀フォックスはこれを認め、謝罪した。どのような手口だったのか。
映画「ア・キュア・フォー・ウェルネス(原題:A Cure for Wellness)」は2月17日、全米公開された。20世紀フォックスが配給。「パイレーツ・オブ・カリビアン」で知られるゴア・ヴァービンスキー監督の作品だ。
デイン・デハーン演じる主人公が、行方をくらましたCEOを探してスイスの療養施設に向かう。だが、施設には秘密が隠されていた——というスリラー映画。アメリカの国民的スポーツの祭典スーパーボウルでもCMを流すなど、大々的に宣伝を仕掛けた。
その宣伝の一環で、偽ニュースサイトを五つ立ち上げた。名前にアメリカの地名が入っており、地元メディアを装っている。(現在すべて映画サイトにリダイレクトされる)
- サクラメント・ディスパッチ http://sacramentodispatch.com
- ソルトレイクシティ・ガーディアン http://saltlakecityguardian.com/
- ヒューストン・リーダー http://houstonleader.com/
- NYモーニング・ポスト http://nymorningpost.com/
- インディアナポリス・ガゼット http://indygazette.com/
5サイトは似通ったデザインになっている。「ヒューストン」と「インディアナポリス」は昨年9月27日、「サクラメント」と「ソルトレイクシティ」は1月14日に登録された。いずれのサイトのソースコードにもGoogleアナリティクスの同じIDが埋め込まれている。
これらのサイトには映画の広告が載ったり、配信する偽ニュース記事に映画への言及があったりした。それだけではなく、トランプ大統領や歌手レディーガガにまつわるような映画と関係ない偽ニュースも配信した。
映画のハッシュタグ
5サイトは多くの同じ偽ニュースを配信していた。例えば、偽ニュース「『トランプの鬱病障害』は米国医師会に病気として分類された」は全5サイトに載った。(現在は映画のサイトにリダイレクトされる)
記事は最後に「広がる伝染病への関心を高めるため、#cureforwellnessとツイート」するように呼びかけた。映画のハッシュタグだ。
この記事にはHealthCureGov.comというサイトへのリンクも貼られていた。これは20世紀フォックスが登録したサイトで、映画の宣伝に使われている。
映画を観た後に男性が「緊張性昏迷状態」に陥ったという記事もあった。この記事は映画のトレーラーが最後に埋め込まれていた。(現在は映画のサイトにリダイレクトされる)
あらゆる偽ニュース
これらのサイトは映画と関係ない偽ニュースも配信した。
最も拡散したとみられるのは、スーパーボウルのショーで「歌手レディ・ガガはイスラム教徒に賛辞を送る」という特ダネを装った偽ニュース。Facebook上でシェア、リアクション、コメントは計5万以上に上った。(記事は現在、映画サイトにリダイレクトされる)
それだけではない。この偽ニュースは、Red State Watcherや100PercentFedUp.comといったニュースサイトに引用され、それぞれ5万、1万以上のエンゲージメントを得た。
信じるユーザー
Facebook上で、多くのユーザーはこうした偽ニュースを事実と信じてシェアしていた。
例えば、偽の記事「トランプ大統領が予防接種を一時的に禁止する大統領令を出した」は、ワクチン接種に反対する親たちがシェアしていた。
ファクトチェックサイト「snopes.com」がこのデマを暴いた。記事は現在、映画サイトにリダイレクトされる。
実際のニュースに関連させた偽ニュースも書かれた。
例えば、アメリカのカリフォルニア州で12日、オロビルダムの放水路が壊れ、約19万人に避難命令が出された。
この実際に起きたニュースに便乗して、「トランプ大統領が事態解決に連邦基金を使うことを拒否した」という偽情報を拡散させた。(「snopes.com」はこのデマも暴いた)
だが、この偽ニュースはFacebookで2万以上のエンゲージメントを集め、トランプ大統領への怒りを煽った。
「ダム決壊が迫り来る中、13万人が避難している。(中略)いわゆるアメリカの為政者はカリフォルニアの助けを断った」「弾劾なんて甘い。ヤツを吊るせ」と書いてシェアした人もいた。
「キャンペーンの一環」
BuzzFeed Newsは、映画を製作した会社の一つ、リージェンシー・エンタープライズ(Regency Enterprises)に取材した。
広報担当者は偽ニュースサイトと連携していることを認め、こう説明した。
「ア・キュア・フォー・ウェルネスは、人々をより病んだ状態にさせる『フェイク(偽)』治療に関する映画です」
「このキャンペーンの一環として、『フェイク(偽)』のウェルネス・サイトhealthandwellness.coは作られ、偽ニュースを配信するために偽ニュースのクリエーターとパートナーを組みました」
「HealthAndWellness.co」は偽ニュースにリンクが貼られていたサイトだ。
ただ、同社はクリエーターの詳細は明かさなかった。
実在のメディアが非難の的に
偽ニュースサイトの一つは「ヒューストン・リーダー」。実は、この名前に似通った実在のメディアがあった。偽ニュースサイトと混同され、批難が集中した。
週刊で3万5千部ほどを発行するヒューストンの地元紙「ザ・リーダー」だ。
「わたしたちは64年続く、週刊の無料新聞です。映画の宣伝のために作られた偽サイトから、本当にひどい苦痛を受けました」
ザ・リーダーを含む6紙をテキサス・ノースカロライナ両州で発行する「マクエルビイ・メディア」のジョナサン・マクエルビイ編集発行人はBuzzFeed Newsに話した。
例えば、偽ニュース「30年間のビーガン(絶対菜食者)研究によって、メンタルヘルスの問題が増すことが判明」。これを読んで怒った国内外の人たちから、同社には電話やEメールが押し寄せた。抗議電話は30分続くこともあったという。
偽ニュースサイトは17人の記者とされる名前も載せていた。「記者ついて尋ねられるのですが、彼らはここでは働いていませんというしかありませんでした」
「私たちは一生懸命働いています」「これは私たちにとってリアルなことなんです」
「間違っていた」と謝罪
20世紀フォックスはBuzzFeed Newsの取材に応じなかった。だが2月16日、New York Timesの取材に対して、広報担当のダン・バーガー氏がEメールで、不適切な宣伝方法だったと認めた。
「特にお客様と日々築こうと努力している信頼関係がある中、このデジタル・キャンペーンはすべての面で不適切でした」
「映画を知ってもらおうと、我々は伝統的なマーケティングの限界を押し広げようとベストを尽くします。我々のメッセージをお客様にクリエイティブに伝えるためです」
「このケースでは、我々は間違っていました」
この記事は英語から翻訳・編集しました。
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