【仏ブルキニ禁止】離れたベンチから、ベールを被った母親たちは海辺の子どもを見守る

    「ビーチに行くことを禁じられたんです。次はどうなるでしょう?」

    先週木曜日。ヘンダは地中海に面したニースにある、セント・ヘレナビーチから数メートル離れたところに座っていた。ヘンダの子供たちは海で遊んでいたが、彼女は離れた場所から子供たちに目を光らせていなければならなかった。フランスのグラースからやってきた44歳のヘンダは、いつものように晴れた暖かい日にすることをしていただけだった。海辺で過ごすため、バスに乗ってニースまで出かけてきたのだ。

    幼い息子のマルワンが、髪も体もずぶ濡れになって、海から走ってきた。ヘンダはすぐにバッグから紫色のタオルを引っ張り出すと、息子の体をタオルで包んだ。灼熱の太陽が照りつける午後3時、気温は摂氏29度に達していた。しかし、ヘンダはグレーと緑、ピンクのベールを被っているので、その暑さを感じない、と言った。

    「だってほら、慣れていますから」と4人の子供を持つ母親は微笑みながらそう語った。彼女は10年以上、そのベールを着用している。

    数日前はベンチに座らなかった。水際にいたからだ。でも今は、ある条例により、市の警官たちに罰金を科せられることを恐れている。ニース市内の水泳施設および公共のビーチや港に「マナーと世俗主義を尊重しない不適切な服装で立ち入ること」を禁止する、いわゆるブルキニ禁止令である。

    26日、フランスの行政訴訟における最高裁である国務院は、ニース近郊のビルヌーブルベの街でブルキニ禁止令を凍結した。この判断は、ブルキニを禁止した約30の街にも影響を与えるかもしれない。

    禁止令は、ブルキニだけではなく、ビーチでベールを着用することも禁じている。先週、ニースだけでも、少なくとも24人の女性が罰金を科せられた。ヘンダは、このリストに名を連ねたくないと思っている。

    「水曜日、20歳くらいの若い女の子が私のところに走ってきました」と、ヘンダはBuzzFeed Newsに語った。「彼女は私にすぐに逃げてと言うのです。なぜなら、ベールを被った彼女のおばを、警察が立ち退かせたからでした。彼女は海に入っていませんでした。ただビーチにいただけなんです!」

    「私はその場から立ち去りました。罰金を科せられるのが心配だったからです」と、ヘンダ。「私はフランスで生活して18年になりますが、こんなことは今まで経験したことがありません」

    子供たちをしっかりと見守ることができないことに、彼女は怒りを隠しきれない。「近くで子供たちを見守れないし、海の中に足を入れてはいけなくて、嫌な気持ちになったり。頭にきます。でも私たちに何ができるでしょうか?」

    「最近、人々の目の色が変わりました 。不安の色が見えます。私はそれを感じますし、言葉の端々にも不安が垣間見られます。もしあらゆる場所でベールの着用を禁止する決定がなされたら、引っ越さなければならなくなるからです」

    ニースに本拠地を置く「Federation of Muslims of the South」という団体の広報兼総書記を務めるフェイザ・ベン・モハメドによると、ニースの街で人種差別的な発言が出てきたのは今に始まったことではないそうだ。「一度、ずっと以前に解決したことなのです」と、ベン・モハメドは語る。「何か言いたいことがある人は、言わずにいられないものです」

    7月にニースで発生し、86人の死者を出したトラックによるテロ攻撃が、転機だった。ベン・モハメドが言うには、それ以来、「緊張状態は極度に上がっています。議員たちは差別的な施策に取り組むことで、自分たちが仕事をしているような印象を、フランスの人々に与えています。私たちはヒステリックな政治的文脈の中にいるのです」

    ニースから車で30分ほどの距離にある、カロのビーチ。フーリアも、そこのベンチに座っていた。

    フーリアは51歳のパリっ子。ニースに住む妹と休日を過ごすためにやってきた。「8月11日から滞在しています。最初の週、私たちには何の悩みもありませんでした。それから、緊張状態になってから2日が経とうとしています」と、彼女は言った。「ソーシャルメディアとニュースでゴタゴタがあり、ベールを被った女性が罰金をとられる光景さえ目の当たりにしました。自分の子供たちの目の前で罰金を科せられた母親たちは、公衆の面前で立ち退きを迫られたんです。これは容認できません。幸いなことに、私は明日ここを発ちます。そんなことには耐えられないからです」

    フーリアはもう二度と、ニースの土を踏まない予定だ。「お金を払って飛行機のチケットを買ったのに、休日をベンチに座って過ごすさなければいけないなんて。もし来年もこんな状況なら、私は戻ってきません。ベンチで過ごすためにお金は払いたくないのです」

    ベージュのスカーフで髪を束ねた49歳の妹、サディアがやってきて、フーリアの隣に座った。ニースからやってきた彼女は、前の日に目撃した光景について説明してくれた。「ベールを被った一人の女性がビーチに座っていたところに、警察がボートでやってきました。彼らはボートから降りると、彼女に罰金を科し、立ち退くよう求めました。彼女は泣いていました」

    「男性のグループがやって来て、その警官たちに、このようなことは容認できない、と言いました」と、両目を赤くしたサディアはこう続ける。「母親が小さな子供たちをビーチで見守るのは、普通のことじゃないか、と」

    彼女は立ち止まると、ビーチを遊歩道とベンチから隔てているバリアのところまで戻り、娘たちが水泳帽をかぶっていることを確かめた。「私たちイスラム教徒は何も悪いことをしません。私たちはフランスでは法を守らなければならない、ということをよく理解しています。娘は高校に通っています。彼女はスカーフを被ったまま校門をくぐりません。校門でスカーフを外すのです。ですから、私たちが挑発的で敬意に欠けると言われると、傷つくのです」と、サディアは語った。

    その日以降、サディアの子供たちはニースで泳がなくなった。サディアは、次はアンティーブに向かう。ビーチでの服装についての法令はアンティーブにはない。

    チェイマにとっても、ニースでの海水浴はこの夏で終わりを告げた。幼い子供をもつ25歳の母親であるチェイマは、ベールを被るようになって18年が経つ。もう何年もニースやヴィルヌーヴルベのビーチで、誰にも邪魔されることなく海水浴を楽しんできた。「今、ブルキニが、まるで人々の命がかかっているかのように、国の関心事になっています。問題など、どこにもないのに、問題を探そうとしているのです」と、チェイマは言う。

    「屈服している、抑圧されていると言って、ベールを被った女性たちを批判する人たちがいます。でも現実には、こうしたバカバカしい法律が、私たちが着たいものを着ることを禁じ、私たちを抑圧しているのです」

    ブルキニ着用禁止を、チェイマは不当だという。「私たちは常にフランスを支持してきました。厳粛な儀式にはイマームも出席しました」と、ニースでのテロ発生後のことを指摘した。 「政治家たちは自分たちが見たいものを見続けます」

    ニースでのチェイマの未来は現在、はっきりしていない。でも、どこに行ったとしても生きていくのは困難だろうと彼女は想像する。「夫と私は引っ越しを視野に、色々話し合っています」と、チェイマ。「私たちは、ビーチに行くことを禁じられたんです。次はどうなるでしょう? 公園や映画館に行くことを禁止されたら? 子供の将来が心配です。でも逃げ出したとして、何か変わるでしょうか? 私の家族は皆ここにいるのです。私は決して家族を見捨てたりしません」

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