彼女の身体に銃弾を浴びせたのちに自殺 ストーカー行為を続けた男の最後

    警察に対して訴訟を起こした母は、BuzzFeed Newsに対して、「ささいな痴話ゲンカだとして、真剣には取り合ってくれませんでした」と語った。

    ミシガン州に住む21歳の看護学生ローズマリー・ライリーは、殺害されるまでの数カ月間、警察に何度も助けを求めていた。

    ローズマリーは警察に対して、同じ21歳の元カレであるジェレミー・ケリーにこれまで、殴られたり、銃を頭に突きつけられたりしている、いまはストーカー被害にもあっていると訴えていた。しかし、それでも警察はジェレミーを逮捕しなかった。

    逮捕状が出されて9日後、ジェレミーは、友人の家に隠れていたローズマリーを見つけ出した。その日の真夜中、ジェレミーはローズマリーの髪の毛をつかんで彼女を通りに引きずり出し、体に数発の銃弾を浴びせ、その後、自殺した。ローズマリーは即死した。

    事件から2年後のいま、ローズマリーの母パメラ・ライリー(55歳)は、警察に娘の死の責任をとるように求めている。パメラは10月5日、ミシガン州オタワ郡と地元の警官数人に対して訴訟を起こした。

    警察がジェレミーに甘かったのは、彼の父親が警官だったからだとパメラは主張している。パメラはBuzzFeed Newsの取材で、娘が助けを求めていたにもかかわらず、警察がその声を軽視したせいで、このような事件が起きてしまったと語った。

    ジェレミーは、自身に対して出されていた接近禁止命令を破っていたため、本来ならミシガン州の法律により、銃を取り上げられていたはずだった。ところが、ローズマリーと家族が、警察に介入を要請し、ジェレミーから銃を取り上げて、彼を逮捕してくれるように頼んでも、「ささいな痴話ゲンカだとして、真剣には取り合ってくれませんでした」とパメラは言う。

    「もし私が通りで見知らぬ人に近づき、銃をその人の頭に突きつけて『殺してやる』と言えば、間違いなく逮捕されるでしょう」と彼女は語る。「警察は、娘をクレーマーだと思っていました。母である私のことも。あの子が銃を頭に突きつけられる被害にあっているとは思っていなかったんです」

    訴訟によれば、ジェレミーに対する処置が甘かったのは、彼の父親(事件後に他界)が、ブルームフィールドタウンシップ警察の警官だったからだという。ブルームフィールドタウンシップのちょうど反対側には、グランドラピッズの街がある。グランドバレー州立大学に通うローズマリーが住んでいた街だ。

    ローズマリーの最初の通報から何週間かあと、グランドバレー州立大学警察とオタワ郡保安官事務所は逮捕状をとった。訴訟によれば、彼らはそれをジェレミーに郵送していたという。ローズマリーが殺されたのは、それから数日後のことだった。

    「このような事件は本当に起こるということ、このような事件を繰り返してはいけないということを、国民全員に知ってもらいたいのです」とパメラは言う。

    大学側は声明のなかで、この事件を「悲劇」と呼び、「ローズマリー・ライリーさんのご遺族に心からのお悔やみを申し上げます。グランドバレー州立大学警察の警官たちは適用法を順守しており、彼らが今回の事件でその義務を果たさなかったと信じるに足る理由は何ひとつありません」と述べた。ブルームフィールド警察とオタワ郡保安官事務所にもコメントを求めたが、回答はなかった。

    この訴訟が行われた数週間後、ユタ州でも同じような銃殺事件が起きた。これらの事件は、ストーカー規制法の弱さを浮き彫りするものだ。ほとんどの州では、ストーカー規制法が施行されたのは1990年代に入ってからだ。

    ユタ州の事件では、21歳で大学4年生だったローレン・マクラスキーが10月22日、別れた直後の元カレ、メルヴィン・ローランド(37歳)に射殺されたと報道されている。ジェレミーと同じくメルヴィンも、法律により銃の所持を禁じられていた

    メルヴィンの嫌がらせは次第にエスカレートし、ローレンは大学警察に苦情を申し立てていた。どちらの事件も、被害者の女性は学生で、加害者の男はそうではなかった。どちらの事件も、被害者の女性は警察に、元カレによる嫌がらせやストーカーの被害にあっていると訴えていた(ローレンが接近禁止命令の申し立てを行っていたかどうかは不明)。

    大学警察によると、メルヴィンはローレンを、金銭的損害を負わせてやる、評判に傷をつけてやると脅してはいたが、当局は彼を、彼女の身に危険を及ぼす存在とはみなしていなかったという。ジェレミーと同じく、メルヴィンも銃で自殺している。

    パメラは、ローレンに関する記事を読む気にはなれない。「ご遺族のつらい気持ちがわかるので、読むと胸が張り裂けそうになるんです」と彼女は言う。

    @Utahathletics / Twitter / Via Twitter: @utahathletics

    (ツイート)

    ずっと君のことを忘れないよ、ローレン

    ストーカー行為は、嫌がらせの一種で、被害者に当然の不安をもたらすものだ。こうした行為が立法機関の大きな注目を集めたのは1989年だった。その年、21歳の女優レベッカ・シェイファーが、何年ものあいだ彼女をストーカーしていた男にロサンゼルスで射殺されたのだ。

    カリフォルニア州は1990年、他州に先駆けてストーカー規制法を制定した。1992には、同様の法を定める州の数は27となり、現在ではストーカー行為は全50州で違法となっている。

    アメリカ疾病管理予防センター(CDC)の調査結果によると、女性の15.2%、男性の5.7%がストーカーの被害にあっており、その割合がもっとも大きいのは18~24歳の女性だ。

    ストーカー行為は、エスカレートするおそれのある犯罪だ。親しいパートナーによる殺人事件や殺人未遂事件の被害にあった女性は、その前に、高い確率でストーカー被害にもあっている

    にもかかわらず、ストーカー行為への警察の対応にはばらつきがある。アメリカ司法統計局が2006年に行った調査では、警察に通報しなかったストーカー被害者の約30パーセントが、警察に相談しても助けてもらえないと思った、と回答した。

    注目すべきは、警察に被害を通報した被害者の約20パーセントが、連絡しても警察は動いてくれなかったと言っていることだ。警察が犯人を逮捕してくれたと回答しているのは7.7パーセントだけだった。

    こうした詰めの甘さは、大学キャンパスにも広がっている。大学では、ドメスティックバイオレンス(DV)やストーカーなどの事件を起こしても、それが除籍につながることはめったにない。

    BuzzFeed Newsが情報公開法に基づいてアメリカ司法省から入手した、2009~16年に大学218校から集められたデータによると、DVや、デートDVの問題を起こした学生に対して何らかの処分が下されたケースは563件あったが、うち除籍は94件だけだった。

    ストーカー行為に関しては、問題を起こした学生に大学が何らかの処分を行ったケースは270件以上あったが、除籍に至ったのは48件だった。2010~16年にかけてグランドバレー州立大学ではストーカー事件が少なくとも4件記録されており、うち1件に対して停学処分が下されている。

    ローズマリー殺害事件が浮き彫りにするのは、連邦法と大半の州法の手落ちだ。銃規制法は、DVで有罪判決を受けた者(DVにより何らかの接近禁止命令を受けている者も含む)が銃を購入・所有することを禁じている。しかしこの法律は、法執行機関に対して、DV加害者が所有している銃を押収するよう、はっきりと義務づけているわけではない。

    「銃による暴力防止のためのギフォーズ法センター(Giffords Law Center to Prevent Gun Violence) Law Center to Prevent Gun Violence」によれば、明確な法律を定めて、DVによる接近禁止命令を受けている者から銃・弾薬を取り上げる権限を警察に与えている、あるいはそうすることを義務づけているのは、マサチューセッツ、ハワイ、ニュージャージー、イリノイの4州だけだという。

    ローズマリーは事件当時、グランドバレー州立大学の4年生で、看護学を学んでいた。大学院に進学することも決まっており、将来は麻酔学を研究するつもりだった。また、彼女は歴史マニアでもあった。とりわけ南北戦争のトリビアを話し出すと止まらなくなり、その知識の深さには誰もが舌を巻くほどだった。一度、半信半疑の母パメラがその場でファクトチェックを行ったことがあったが、日付も将官の名前もすべて正しかった。

    ローズマリーがジェレミー(オハイオ州にある学校を卒業していた)といっしょに暮らしていたのは、1年ほどだった。その後、彼女が大学4年生になるころ、2人は関係を解消した。

    訴訟によれば、その後も2人は同じ家に住んでいたが、ジェレミーはローズマリーに虐待をはたらくようになったという。2016年10月8日、パメラはローズマリーを病院に連れて行った。ジェレミーに殴られて、鼻の骨が折れてしまったのだ。

    ローズマリーは当時、ジェレミーとの接触を避けるため、おじとおばが暮らす家に引っ越しており、時々は友人の家に泊めてもらうようになっていた。

    その後数日にわたり、ローズマリーは、ジェレミーの件を大学警察と地元警察に対して訴えた。ジェレミーは、ローズマリーの頭に銃を突きつけて殺すと脅していた。彼女がキャンパス内を車で走っていると、突然目の前に飛び出してきて、車に頭突きをしたこともあった。しつこく電話をかけてきた挙げ句、彼女のおじとおばの家にまで乗り込んできて、本人に会わせろと強く求めてきたこともあった。

    訴訟によれば、ローズマリーは2016年10月17日、ジェレミーに対する接近禁止命令を申し立てたが、効果はなかったという。2日後、彼女は大学警察に、キャンパス内にいるところをジェレミーに車で尾行され、彼から逃れるために学食に飛び込んだと通報した。

    接近禁止命令により、ローズマリーが違反を通報した時点で、警察はジェレミーを逮捕できるはずだったが、彼らはそうしなかった。

    訴訟によれば、オタワ郡保安官事務所は、ローズマリーが行ったDV通報に基づく逮捕状をジェレミーに10月28日に郵送した。グランドバレー州立大学警察も、彼女のストーカー通報に基づく別の逮捕状を彼に11月2日に郵送したという。それから4日後の11月6日、ジェレミーはローズマリーの居場所を突き止め、彼女を通りに引きずり出して射殺した。

    パメラの弁護士であるジェームズ・レイザーは、「被害者にストーカー行為を続け、被害者の鼻の骨を折り、その頭に銃を突きつけて『お前を殺して、俺も自殺する』と脅迫したかどで複数の逮捕状が出ている暴力的なストーカーに対しては、居場所を突き止めて逮捕するのが通常の手順です」と語る。「驚いたのは、私が知る限り、なぜこのようなことになってしまったのかということに関する調査が、グランドバレーでもオタワ郡でも行われていないということです。停職処分を受けた警官は、ひとりもいません」

    訴訟で名前が挙っているなかのひとりは、ローズマリーが殺害された当時は警部だったが、その後昇進し、現在はグランドバレー州立大学警察の警察長を務めている

    パメラによれば、警察からも大学からも、内部調査についての連絡は一切ないという。「娘の死に対する説明責任が果たされているとは思えません」と彼女は話す。訴状によれば、ジェレミーの犯行を止める権限を持っていた関係者のなかに、事態を真剣に受け止めていた人物はひとりもいなかったという。

    事件から2年以上が経ついまも、娘が殺された日のことをパメラが思い出さない日はない。以前の彼女は、自閉症やダウン症の子どもの世話をする仕事に就いていたが、いまは1日8時間の労働に耐えられないため、辞めてしまった。

    パメラは先日、ジェレミーがローズマリーを罵倒する様子を録音した記録を聞いた。ローズマリーの妹ジェニーが、証拠として録音していたものだ。「そこに残されたあの子の声を聞くのはつらかったです。亡くなってから、一度も聞いていませんでしたから」とパメラは語る。「警察がやるべきことをやっていたら、と思わざるを得ません」

    この記事は英語から翻訳・編集しました。翻訳:阪本博希/ガリレオ、編集:BuzzFeed Japan