暗闇での痴漢行為。大人気の体験型シアターで起こっていること

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暗闇での痴漢行為。大人気の体験型シアターで起こっていること

イマーシブ・シアターの「スリープ・ノー・モア」は、シェークスピアの戯曲「マクベス」を血とセックスにまみれた脚色で仕上げた作品だ。ダンサーがパフォーマンスする中、観客は精巧に装飾された数々の部屋をさまよい歩く。照明は薄暗いものから真っ暗なものまであり、観客は意図的に、一緒に来た人と引き離される。パフォーマンスが始まる前に、通常、俳優が「幸運は勇者に味方する」と宣言し、400人ほどの観客は、奇怪な白い仮面をつけて外さないよう指示される。この作品が持つ幻想的な空間の中、仮面が匿名性に拍車をかける。そして時には、手を伸ばしてきて痴漢行為をする観客もいる、と複数人の元スタッフが語った。

「スリープ・ノー・モア」は、ニューヨークのマンハッタンのチェルシー地区にある、かつて倉庫だったマッキトリック・ホテルで週に9回上演している。このホテルではまた、劇団「エマーシブ」(Emursive)がバー2軒とレストラン1軒を経営している。ショーは英国の劇団パンチドランクが芸術として創作したもので(ただしニューヨーク・シティでの日々の公演を担当しているのはパンチグランクではない)、チケットは100ドル(約1万円)前後からだ。この作品は演劇界における驚異的な現象であり、著名人が見に来たりポップ・カルチャーで取り上げられたりしている。出演者たちは、自分の経歴書に載せる中でも指折りのエキサイティングな作品だと述べている。

しかし、「スリープ・ノー・モア」にかつて出演していた、またはスタッフとして働いていた8人が、上演中に観客から体をまさぐられるという経験をしたとBuzzFeed Newsに話してくれた。BuzzFeed Newsは、上演中に観客によってなされた痴漢行為または性的に不適切な行為として主張されているものが全部で17件あることを確認した。中には、複数回にわたって痴漢の被害を受けた元スタッフも2人いた。「スリープ・ノー・モア」は、こうした被害のうち7件について認めているが、残りについては異論を唱えている。「スリープ・ノー・モア」の現役従業員および元従業員の合計30人にBuzzFeed Newsは話を聞いたが、ほとんどの人たちは、「スリープ・ノー・モア」との機密保持契約や、劇団と業界関係者からの報復を理由に、身元の公表を拒否した。痴漢をされたという元従業員4人は、名前を明らかにした。

性的に不適切な行為に関する従業員からの苦情は、上演が始まった2011年から2017年まであり、被害者が信頼して打ち明けた人物との電子メールやテキスト・メッセージ、その他の書類、聞き取りなどでその被害は裏付けられている(BuzzFeed Newsは「情報提供」で情報を受け取ってから報道を始めた)。

複数の元従業員は、あれほどまでに観客を虜にする「スリープ・ノー・モア」の根本的な舞台環境ーーミステリアスで、匿名性が高く、性的な熱がこもったパフォーマンスーーが、性的に不適切な行為を可能にしてしまうとしている。出演者らはこれまでも、ニューヨーク・ポストニューヨーク・タイムズに対し、観客から不適切に触れられたと話していた。

観客にとっては、「スリープ・ノー・モア」は他ではできない類まれな経験だ。しかし従業員にとって、そこは職場なのだ。そして一部の元従業員が主張するこうした出来事は、性的に不適切な行為に対し全国的に罰する機会を新たに作り出す。さらに、一部の観客を最低の本能に従わせてしまうほどの、匿名化され、自分がどこにいるのか分からなくなってしまうような環境の中で、力と権利という見慣れた力学がいかにして展開していくかを垣間見せる。

「観客に仮面を渡した途端、何でも好きなようにさせる自由裁量権も与えることになった」

このオフ・ブロードウェイ作品に労働組合はなく、元従業員の中には、エマーシブは時に職場で従業員を適切に守れていないと指摘する人もいる。性的に不適切な行為を観客からされた元従業員の中には、トラウマになったり被害者妄想に陥ったりといったことはないものの、それでも声を上げていかなくてはと感じると話した人もいた。このような出来事が普通の職場環境であるべきではないからだ。

「観客に仮面を渡した途端、何でも好きなようにさせる自由裁量権も与えることになった」と、かつて案内係だった人がBuzzFeed Newsに話してくれた。案内係とは、上演中に観客を案内したり観客に手を貸したりするスタッフだ。

元従業員の中には、「スリープ・ノー・モア」は安全だと感じ、性的に不適切な行為を経験しなかったという人もいる。元スタッフの1人は、経営陣に事件の報告がしづらいというようなことは全くなかったと話した。ある現役の出演者は、痴漢行為を受けた出演者がいたことに「ショック」を受けたと話してくれた。劇場は安全だと感じていたと言うのだ。

「スリープ・ノー・モア」は実際、従業員の安全および必須の従業員研修プログラムに関する方針をかなりの長文に明文化したものがある。この方針は、従業員がもし性的に不適切な行為をされた場合や、扱いにくい観客やその他の問題に遭遇した場合に取るべき行動について説明している。劇団の弁護士は、いかなるエンターテイメント会場の方針であれ、観客が勝手な行動を絶対に取らないと保証できるものはなく、こうした方針は、これらの問題を未然に防ぎ解決することを目指していると説明した。

明文化された方針はまた、各シーンと各キャラクターに関する指針が含まれており、助けが必要となった場合に備えて、どこにスタッフが配置されているかを出演者に示している。さらに研修では、ロールプレイングを行う。そこでは粗暴な観客の役を作り、出演者やスタッフはどう対処して助けを求めるかを練習する。

にも関わらず、ボーイ・ウィッチを演じていた俳優ビリー・ベル(27歳)は、観客の1人に性器をつかまれた。その4年前に同じくボーイ・ウィッチを演じていた俳優は、ベルがされたのと同じシーンで、観客の1人に肛門に指を入れられそうになったとBuzzFeed Newsに語った。

オリジナル・キャストだった元出演者の女性は、1年5カ月の間に3回、痴漢行為をされたという。

また、元案内係のジェシカ・ジャービネン(32歳)は、立入禁止の階段の見張り番をしていた時に、観客の男性が股間をジャービネンにすり付けてきたと話した。また、観客に胸を触られたことも複数回あると話した。

ニューヨークでの上演が始まってわずか9カ月後、当時の出演者たちは問題を互いに話し合ったという。2011年12月、ある女性の出演者が、観客による性的に不適切な行為について仲間の出演者たちにメールを送った。BuzzFeed Newsが確認したメールの内容は、「残念ながら性的嫌がらせが蔓延しているが、私たち数人は今、もっと確固としたガイダンス/ルールを作ろうとしている」というものだった。

このメールに対し、前述の元オリジナル・キャストは、「入場時の説明に、『出演者には触れないこと』という短いフレーズを加えるべき」と返事を書いた。さらに、「これは、自分たちを守るために必要。『幸運は勇者に味方する』というフレーズを、ばかな酔っ払いのろくでなしどもが『出演者に好き放題する』という意味だと勝手に解釈しないためにも」と加えた。

2017年5月1日、舞台監督の代表者がスーパーバイザーに会い、安全対策の強化とフロアスタッフの増員を依頼した。というのも、「より多くの出来事が起こっている」からだ。BuzzFeed Newsが目にした会議メモによると、例えば俳優が「観客からの痴漢行為やハラスメントを受けている」などがあった。

マッキトリック・ホテルの経営陣からは、次のような文書が出された。「7年にわたり、観客200万人を迎え入れ、高い評価を受けている劇場作品を上演してきた。そこで働く仲間たちは、支援され刺激を受けていると非常に強く感じている。観客が不適切な行動を取ったかもしれない一握りの出来事だけで、全てを一般化するのは間違っている。マッキトリック・ホテルは、一緒に働く仲間たちが、パフォーマンス、クリエイティブなアイデア、懸念の提起という、あらゆるレベルにおいて、権限を与えられていると感じられるよう努めている。我々は、職場の安全に関してスタッフを慎重にトレーニングしており、いかなる懸念でもすぐに報告できるようリソースを提供しており、我々の力が及ぶ範囲を超えて観客が方針に反するというまれな状況になった場合は、当該観客をその場から離すための対応を迅速にしている」

「当劇団にとって安全は最優先事項だ」と、エマーシブは声明の中で述べており、同劇団はこれまで3500の催し物を行ない、3000人を雇用してきたと加えた。劇団によるとマッキトリック・ホテルは、「問題が起こるというまれな状況に備え、集中的なトレーニングを効果的に実施している」という。

劇団の広報担当者および弁護士2人は、BuzzFeed Newsと行なった2度のミーティングの中で、匿名にすることと直接的な引用を避けることを要求した。BuzzFeed Newsは1回のインタビューの中で、安全および不適切な性的行為に関する「スリープ・ノー・モア」の方針を見せてもらい、それを限られた時間内でメモするのを許された。広報担当者と弁護士らは、この方針の写しを手渡すことを拒否し、弁護士の1人はBuzzFeed Newsに方針を精査してほしくない、と言った。

エマーシブの代理人を務めるシェパード・モレン・リクター&ハンプトンの弁護士ジョナサン・ストーラーは別の声明文の中で、「マッキトリック・ホテルは、観客が取るべき適切な行動は何であるかを明確に伝えてそれを求めており、また、出演者が観客と非常に近接する劇場上演中にまれに何かが起こった場合に、いかに対処するかについて全従業員を慎重にトレーニングしている」と述べている。

「スリープ・ノー・モア」の弁護士は、従業員の問題を扱う一般的な人事部の機能を担う人材を配置していると話した。

それでも、作品でかつて働いた出演者やスタッフは、BuzzFeed Newsに不満を漏らした。中には、劇団の事務所で不満を独創的に表現した人もいた。「スリープ・ノー・モア」が引っ越してくる前の倉庫だった時から、建物にはネコのミス・ペイズリーが住み着いているのだが、舞台監督のオフィスにあるミス・ペイズリーのベッドには最近、手書きの小さな表示がくくりつけられていた。

そこには、「人事部」と書かれている。

観客はマッキトリック・ホテルに到着すると、トランプを渡され、ジャズがテーマになった「マンダレイ・バー」に15分ほど通される。BuzzFeed Newsが最近訪れた際は、観客はバーに入ると白のスパークリング・ワイン「プロセッコ」を注文するよう勧められ、待っている間に「酔う」ように出演者から促される。BuzzFeed Newsはまた、観劇に行く日の朝、上演前の「特別ハッピーアワー」のメールを受け取った。ただし、このような値引きが上演のたびにあるわけではない。

BuzzFeed Newsに話をしてくれた元スタッフたちは、観客、特に会場に来る前にすでに飲酒している人たちにお酒を勧めることで、観客との問題を増幅させると話した。

「酔った観客ほど、扱いが難しい観客になる」と話すのは、2014年7月から2016年2月まで案内係を勤めたエイブリィ・リンカーン(26歳)だ。2015年に「スリープ・ノー・モア」で働いていた別の案内係は、「週末シフトは酔っ払いでぐちゃぐちゃな状態に陥る」と話した。

エマーシブは、過剰な飲酒を促しておらず、通常、観客が上演前にマンダレイに寄るのは1、2杯飲める程度の時間しかないと言う。「他のブロードウェイやオフ・ブロードウェイ作品同様、パフォーマンスがなされる場所で飲み物は提供しておらず、金額は割引なし、飲み物代がチケットに含まれていることもない」と劇団は声明文で述べている。

「スリープ・ノー・モア」でメインのイベントが始まる際、「マン・イン・バー」と呼ばれるキャラクターが、トランプの番号を読み上げて友達や家族をバラバラに分ける。観客は通常、出演者を触らないようにとの指示は受けない。

仮面をつけた観客が、ヒッチコックからヒントを得たセットの中をさまよい歩く。大抵は、どっしりとドレープが入ったカーテンと薄暗い廊下が部屋と部屋をつないでいる。それぞれの部屋には、それぞれ異なる世界が広がっている。森の迷路、棺の置かれた葬儀場、空っぽのベッドが並ぶ病棟、巨大な大宴会場。シーンからシーンへ、自分の好きなペースでぶらぶら歩く間、観客はセットに触れてみるよう勧められる。例えば机の引き出しを開けてみたり、飴が詰まった瓶から1つ取って食べてみたり、といった具合だ。

中には、出演者が裸で現れるシーンがある。別のシーンでは、観客の中から1人が選ばれ、「1対1」のシーンへとその1人だけが素早く他の部屋に連れて行かれる。他の人から見えなくなるところに来ると、その1人を連れ出した出演者は相手からわずか数センチのところに立って一人芝居を始めるかもしれないし、もしくは連れ出した観客にロケット・ペンダントなどのプレゼントを渡すかもしれない。

観客が不適切な行動を取った場合は、ゴムひもで固定されている観客の仮面を取るように出演者は指示されている。この観客はつまみ出されるべきだという合図だ。

ベルは2015年7月22日、この行動を取った。

ベルの役ボーイ・ウィッチは、「レイヴ・シーン」(ストロボ・ライトが瞬く中での血まみれの乱行パーティ)に裸で現れる。このシーンのために、部屋の奥にあるベンチの裏で服を脱ぐのだ。

「僕らが作り上げた、限界もルールもない魔法の場所、という雰囲気の中に彼らはいるんだけど、現実には僕らだってやっぱり人間だ」

ベルが被害に遭った夜、観客の男性が1人、すでにそのエリアに立っていた。ベルが言うには、服を脱いでいる時、その男性が手を伸ばしてきてベルの性器をまさぐった。ベルは、「本当に、心から、不快だった」とBuzzFeed Newsに語った。

作品を観に来る観客が「酩酊している」とベルは説明した。「僕らが作り上げた、限界もルールもない魔法の場所、という雰囲気の中に彼らはいるんだけど、現実には僕らだってやっぱり人間だ」。

ベルは、問題の観客の仮面をグッと引っ張って外し、自分のシーンを続けた。スタッフは、問題の男性をそこから連れ出し、男性の妻がショーを見終えて出て来るまで男性をバーで待たせた。これは、観客をつまみ出した時の標準的な対処法だ。

このようなことがあった場合、経営陣3人(案内係責任者または劇場支配人を含む場合もある)が呼ばれ、観客に会ってその人物をショーに戻すか否かを決める。広報担当者によると、観客をショーから追放すると1人が判断すればそれで決まるという。

「スリープ・ノー・モア」の弁護士によると、不品行の重大さ、意図的か否か、観客が酔っていたか否か、などの要素が考慮される。退場基準は低い、と広報担当者は加えた。

ベルのケースでは、俳優に触れるのが禁止行為だとの警告は受けていなかったため、つまみ出されるのは不公平だと観客は主張したという。この観客と話をしたスタッフがその夜、経営幹部に送ったメールに記されていた。

ベルは、この観客がまた来るのではないかと不安になったが、この男性についての情報は舞台監督からも、ショーの誰からも何も得られなかった。

「出演者として告訴したかったとしても、誰がやったのか分かりようがない。僕にとってはそれが問題だった」とベルは説明した。

「スリープ・ノー・モア」の広報担当者は、痴漢行為があったことは認めたが、ベルがその後に経営陣に相談したことについては否定した。

2015年後半、ベルがあるシーンで服を着た状態で歩いている時に、別の男性客から尻をつかまれたという。この男性は、前にもショーの間に至近距離でベルに付いてきていた。

この男性は別の夜に戻ってきて、前回のシーンと近いタイミングで、再びベルの尻をまさぐり痴漢行為をした、とベルは話した。別のスタッフとベルの親友アリ・カストロの2人が、ベルからこの話を聞いていたと述べた。「『あの野郎がまた戻ってきた』ってベルが言っていたのを覚えている」とカストロは話した。

「どうしてこの人たちはブラックリストに載せられないんだろう?」不適切な観客について、ベルはBuzzFeed Newsに不満を告げた。2016年1月、さまざまな理由で、ベルはこの仕事を辞めた。

「スリープ・ノー・モア」の広報担当者は、劇団側にはこの事件の記録は存在しておらず、実際に起こったとも思えない、と話した。これは、性的に不適切な行為が疑われる件についてBuzzFeed Newsがした問い合わせに対し、広報担当者が何度か繰り返した答えだった。広報担当者は、劇団の方針としては、何か問題があれば報告をするように出演者に促していると言い、そのため苦情が申し立てられたという裏付けがない疑惑について経営側は懐疑的だと説明した。

「BuzzFeedが実際に明らかにしたことは、我々の方針と手順には効果があるということだった」

「もし本当に、かつての仕事仲間が安全性の問題を報告できなかったという事例がいくつかあるのであれば、安全規則で求められる適切な手段を取らなかったために本人や他の従業員を危険にさらしたことは非常に遺憾だ」と、マッキトリック・ホテルの経営陣は声明の中で述べている。

「何カ月もかけて我々が悪かったと証明しようとした後にBuzzFeedが実際に明らかにしたことは、我々の方針と手順には効果があるということだった」と声明文には書かれていた。「業界のトップであり続けるために、我々はこれからも、自らの活動に磨きをかけ改善し続けていきたい」。

広報担当者はまた、ベルの辞表の一部を読み上げた。そこには、劇団と観客を恋しく思うだろう、と書かれており、キャストでいた間にした経験がポジティブなものであったと示しているとほのめかした。

数年前の2011年8月、ボーイ・ウィッチを演じていた別の役者は、レイヴ・シーンで服を脱ぎ仮面だけになった時、太ももに触れている手を感じた。

「手はそこで止まらなかった。足を上に向かってなで始めた」とBuzzFeed Newsに話した。「男は僕の尻をがっちりつかんで、尻の割れ目に向かって手を滑らせてきた。そして僕の中に指を入れようとしてきた」

ボーイ・ウィッチ役の俳優が振り返ると、加害者のこの男性は走って部屋から出ていき、俳優はシーンを続けた。3人の出演者が、当時この俳優からこの話を聞いたとBuzzFeed Newsに述べた。俳優は経営側に報告しなかった。というのも、この手の出来事を報告するルールがあるとは知らなかったのだ。「スリープ・ノー・モア」は、このような出来事があったとの記録はない、と話した。

この俳優は、2週間もしないうちにクビになったと話した。しゃべっていた観客を黙らせるために手を観客の仮面の上に置いたこと、そして上演中にこの俳優の通り道にいた観客をどかそうと観客に触ったことが理由だ。「スリープ・ノー・モア」の広報担当者は、俳優がクビになったのは、観客の扱い方が原因であるとして、観客を黙らせようとした件を特に指摘した。

ボーイ・ウィッチ役の男性の件から1カ月後、前述の元オリジナル・キャストである女優が、男性客に話しかけらるということがあった。「1対1」のシーンで、男性が「私に痴漢行為を始め、私に話しかけてきて触ろうとした」と、この出来事があった翌日の2011年9月22日に、女優は経営陣に宛てたメールに書いた。

「スリープ・ノー・モア」の広報担当者は、このメールは受け取ったが、明文化してある方針で指示している通り、出来事が起こった夜に報告してほしかった、とBuzzFeed Newsに話した。

その数カ月後の2011年12月1日、同じ女優が「1対1」のシーンのために観客から1人選ぶ際、ある男性が「私の尻をまさぐり、胸にめがけて手を上に滑らせてきた」と述べた。

「スリープ・ノー・モア」はこの出来事があったことを認め、男性はショーからつまみ出されたと説明した。

そして2013年2月15日、この女優によると、ある男性客がレイヴ・シーンで彼女の裸の胸をまさぐったと話した。

女優は男性の仮面を脱がし、案内係が男性を警備員の元へ連れて行った。しかし「スリープ・ノー・モア」の広報担当者によると、男性は仮面を取り行っただけだと警備員を説得し、仮面が男性に戻されて、男性はショーに戻ることが許されたという。広報担当者は、方針がこの場合はうまく作用しなかったことを認め、警備員と案内係のやり取りに誤解があったことをうまく使ってショーに戻った男性の責任だとした。

女優はこの出来事があった翌日、当時のスーパーバイザー複数人にメールを書いた。「(上演開始から)2年も経っているのに、プロセスがスムーズでも明確でもなく、私たちに痴漢行為をする観客が簡単にショーに戻されることに驚いている。効果のある手順が整っていないと、私たち全員を危険にさらすことになる」。

3人のスーパーバイザーが返信をしてきた。1人は謝罪し、残りの2人からの返事には、スタッフは適正な方針と手順に従うように、と書いてあった。女優はその後2013年4月に退団した。「スリープ・ノー・モア」の広報担当者によると、女優は後日、仕事に復帰したいと申し出たという。

中には、観客の醜い行動に慣れすぎてしまい、何か起こっても報告しなかったと言う従業員もいた。2012年1月、ボールド・ウィッチの役を演じていたケリー・バートニク(39歳)は、大宴会場でのソロ・パフォーマンスを終えたところだった。

バートニクは、ドアを歩いて通り過ぎた時に、女性客に胸をつかまれたと話す。

「人がちょっかいを出してくるのに慣れてしまうものだ」とバートニクは述べた。彼女の母親リンダは、この出来事の話は娘から聞いていると言った。

バートニクはこの出来事を報告せず、目撃したスタッフもいなかったため、「スリープ・ノー・モア」広報担当者は、この出来事が起こったとは考えていないと述べた。

バートニクはボストンでの初公演の時期から「スリープ・ノー・モア」で働いており、ニューヨーク公演のオリジナル・キャストでもあった。バートニクは、出演中に危険を感じたことは個人的にはなかったが、「あんなことをする人がいるなんてとにかくショックだった。それでも、ただショーを続けた」。

「スリープ・ノー・モア」の強固なファン・カルチャーの中には、俳優陣の変更を説明したり、「1対1」のシーンで選んでもらうためにはどこに立つべきかをアドバイスしたりするブログなどが複数ある。オンライン・メディアのゴーカーは過去に、「スリープ・ノー・モアでヌードを全て見るには」とタイトルのついた記事を掲載した。記事を書いた人物は、出演者の尻をつかんだことがある、と記事の中で語っている。

舞台裏スタッフがBuzzFeed Newsに話したところによると、ある熱狂的ファンはあまりにも攻撃的だったため、この男性が見に来た時は出演者に警告し、上演中はこの男性の後をついて回ったという。舞台監督の中でこの男性は「ジョニー・ブラボー」として知られていた。

「この男性はいつも、脱ぐシーンをしっかり見られるように完璧な立ち位置にいた」と、現役の女性出演者は述べた。

ブラボーはBuzzFeed Newsに対して、1年ほど前に「スリープ・ノー・モア」を見始めて以来、すでに100回以上見たほどの熱狂的なファンだと認めた。ブラボーは、FacebookやInstagramで出演者の何人かに、スケジュールについて連絡をしていると話した。しかし、女性の出演者が服を脱ぐ様を至近距離で見たことは否定し、「そこに突っ立っているような気味の悪い男にはなりたくない」と述べた。

2017年3月、技術スタッフが観客の中にブラボーを見つけ、1人の女優に気をつけるよう耳打ちしたが、ブラボーに聞こえてしまった。「1対1」でこの女優が他の人を選んだ後、ブラボーが技術スタッフの「顔の真横で手を壁に叩きつけた」と技術スタッフはBuzzFeed Newsに話した。

2017年5月1日の舞台監督ミーティングの議事録によると、女優は泣き出し、そのすぐ後にブラボーは別のスタッフを追いかけ始め、案内係が「物理的に制止する必要があった」という。

ブラボーは、「1対1」に選ばれなかったことで「精神的に大ショックを受け」たため、「いら立ちのあまり壁を強打した」とBuzzFeed Newsに説明した。

「スリープ・ノー・モア」の弁護士は、ブラボーを出入り禁止にする理由はなく、彼について従業員の身が危険にさらされていると懸念させるような苦情はどの従業員からも上がっていない、と述べた。

元スタッフ2人は、追跡をかわそうとしたブラボーが攻撃的に肘打ちし、走って逃げたことがあると話した。ブラボーはこの件について、以前はショーの中を「非常に素早く」動き回っていたため、「誰かを押したり、暴力的なことをしたりしたことは絶対ない」と話した。スタッフから「少しスピードを落として落ち着け」と言われるに至ったため、それ以来、自分の行動を直したとブラボーは言う。

元スタッフの複数人が、ブラボーに居心地の悪い思いをさせられたことがあると話している。BuzzFeed Newsが見た舞台監督ミーティング(2017年5月)の議事録によると、このミーティングで舞台監督の代表者は、「舞台監督や出演者らに」「暴力的な」傾向を示したブラボーをなぜ「建物に呼び戻さない」のか、と尋ねた。「なぜ『何かが起こる』のを『待って』いなければならないのか」

現役のこの女優が2017年上半期の劇団ミーティングに出席した際、複数の出演者が経営陣の前で、ブラボーが出入り禁止になっていないことに立腹していると苦情を申し立てたという。「スリープ・ノー・モア」側は、もっと詳しい情報がない限り、そのような処置はしないと語った。

「スリープ・ノー・モア」の広報担当者は、劇団の方針として熱狂的なファンについては出演者に警告しており、また熱狂的なファンの扱い方にも注意していると話した。

ブラボーは、自分が作品を何度も見に行くのは、「あの場所に行った時に味わえる感覚」が理由だとBuzzFeed Newsに話した。さらに、「とにかく最初からはまってしまった。あそこは奇妙なサード・プレイスで、夢でもなく現実でもない。言わば神秘的な世界がただ広がっている。制約から解き放たれたと感じさせるのに仮面が本当にいい仕事をしていると思う」と加えた。

ブラボーはまた、1月28日に訪れた時に、歓迎の挨拶の中に新たな一言が加えられているのに気づいた、と話した。ショーの始めに俳優が観客に対し、出演者と「適切な距離を保つ」よう求めたのだ。これは、BuzzFeed Newsが「スリープ・ノー・モア」の代表者らに、従業員に触らないよう観客に伝えないのはなぜかと問い合わせた時期と重なる。

案内係は黒の服と仮面を着用しており、上演中に観客と接触する最初の窓口でもある。その案内係の中には、体をこすりつけられたりまさぐられたりしたことがある、と言う人たちもいる。

元案内係のジェシカ・ジャービネン(32歳)は2015年春、階段の上にある、観客が立ち入り禁止となっている扉の前に配置された。

1人の男性客が階段を昇ってきた。ジャービネンは階段の手すりに手を置き、通り抜けられないことを男性に示した。男性はそれでも扉に近づこうとしてジャービネンと手すりの間に体を入れて来て、その際に男性がジャービネンに「体、特に股間をこすりつけ」てきたという。「気持ち悪かった」

ジャービネンは男性を押し返し、警備に連絡すると伝えた。男性は逃げて行った。

エマーシブは独立した警備会社を採用しており、劇団の弁護士によると、5〜7人の警備員がショーそのものの内部に配置されているという。ジャービネンを含む元従業員8人はこれに対し、ショー内部の警備員の数はもっと少ないと思う、と反論した。

ジャービネンは、自分のマネージャーに無線で連絡を入れた。その後マネージャーからは、ショーが終わるまで男性を追跡したが男性が再び不品行な振る舞いをするようなことはなかった、と言われたと言う。ジャービネンは今でも、あの男性がつまみ出されなかったことに憤慨している。(観客は)「匿名でいられる。それなのに、その匿名性がもたらす悪影響を全く受けずに済む」。

ジャービネンの母親パトリシア・コーデル(63歳)は、この出来事があった週に娘から確かにこの話を聞いたと話した。「声が震えているのが分かった」とコーデルは振り返る。「娘には、そんな仕事やめなきゃだめだと伝えた」

「スリープ・ノー・モア」の弁護士は、この出来事は記録にないと話した。弁護士は、その男性がジャービネンのすぐ横を通り抜けようとした際に、意図せず自分の体をジャービネンに擦り付けてしまったのではないか、と疑問を口にした。BuzzFeed Newsとのミーティング中にこの弁護士は立ち上がり、ジェスチャーで示そうと自分の腰を宙に浮かして実際にやって見せた。ジャービネンはBuzzFeed Newsに対し、「意図せずした行為と、私を不快な気分にさせようとした行為との違いは分かる」と反論した。

ジャービネンはさらに、手を伸ばしてきた観客に胸をまさぐられたことが数回あったと加えた。このような時と、たまたま意図せず胸が触れられてしまったという時は明確に違うと述べた。ジャービネンは痴漢行為をされても、通常はマネージャーに報告しなかったという。

「劇団側が報告を思いとどまらせるようなことはなかったけど、スーパーバイザーと話をしたことがある。そんなとき彼らは『そうだね、私にも何度も起こったよ』って言ったものだった」とジャービネンは話した。「あの作品の職場環境の文化だと思う。上演後に常にそういう話を聞く。なので、いちいち報告なんかしていたら他の仕事が片付かない」

「スリープ・ノー・モア」の弁護士は、問題があったら注意喚起をするよう従業員に推奨するほかない、と述べた。

別の元案内係、前述のエイブリィ・リンカーンは、「スリープ・ノー・モア」に2014〜2016年の間に勤務していた時に、胸を観客にまさぐられたと話した。「毎晩とかシフト毎に起こるものではなかったけど、定期的と言えるほど頻繁に起こっていた」と話し、観客が意図せず彼女の胸に触れてしまった時とは違うとした。リンカーンの元同僚ニック・デンジャー(28歳)はBuzzFeed Newsに対し、リンカーンが触られた話は当時本人から聞いていた、と話した。

案内係は上演中、互いに連絡を取り合うために無線を使っているが、リンカーンは、この出来事を無線で報告することはしなかったと言う。「みんなが使う無線の時間を占領しなければならないほどひどいハラスメントを受けたことは1度もなかった。私の中では」とリンカーンは説明したが、それでも上演終了時に毎回行われる案内係の報告会では同僚に話したと加えた。

「スリープ・ノー・モア」の代表者らは、リンカーンが不適切な行動について苦情を申し立てたことがないため、彼女が痴漢行為を受けたとは思わない、と述べた。

ジョニー・ブラボーが自分の顔の近くで壁を叩いたと話した前述の元技術スタッフは、スーパーバイザーから2017年4月9日、その夜のショーで観客として白い仮面を付けるよう指示されたとBuzzFeed Newsに話した。

スーパーバイザーの指示は、尋問のシーンが行われる暗い部屋へ行き、性的な動きがないかを監視し、合意がない行為を見つけたら阻止するように、との内容だったという。

元技術スタッフは後に、不適切な行為は何も見なかったとスーパーバイザーにテキスト・メッセージを送ったという。「はははは、今日はセックスがらみの組織犯罪はなかったか」。元技術スタッフがBuzzFeed Newsに見せてくれたスーパーバイザーがよこした返信には、このように書いてあった。

「建物内で起こるかもしれない犯罪を暴露するために自分が使われたという事実を非常に不快に思う」

元技術スタッフは、辞表メールもBuzzFeed Newsに見せてくれた。メールには、「仮面を付けて尋問のシーンに行く任務を与えられた理由は、その前の上演時に女性客の1人が、白い仮面を付けた3人の男性に尋問の部屋から連れ出され、体をまさぐられたという苦情があったからだとの説明を受けた」と書いてあった。

元技術スタッフはこの出来事が起こったすぐ後に友達にテキスト・メッセージを送っていた。そこには、別の痴漢行為が起こった場合に備えて「君をおとりとして使った」とスーパーバイザーに言われた、と書いてあった。

出来事があった2日後に元技術スタッフは仕事を辞めたのだが、辞表メールの中に次のように書いた。「どのような状況に自分が入れられるのか全く知らないまま、建物内で起こるかもしれない犯罪を暴露するために自分が使われたという事実を非常に不快に思う」

「スリープ・ノー・モア」の広報担当者は、スーパーバイザーが誰かをそのような状況に置くようなことは絶対なく、おとりだなどと誰かに言うようなことも絶対ない、と話した。また、そのような痴漢行為があった記録はない、とも語った。

スーパーバイザーはBuzzFeed Newsに対し、「我々の仕事は当然ながら、ネガティブな行動を観察し、適宜それに見合った対応をすることではあるが、私は自分のチームメイトを危険な状況に置くようなことなど絶対にしないし、私の性格や労働倫理についてそのような偽りの発言がなされたことに対して私は極めて失望している」と述べた。

元技術スタッフはBuzzFeed Newsに対し、この出来事で今も苦しんでいると告白した。「あの人たちにとって、私は『おとり』だった。この言葉を頭から追い出せなかった」と話した。「誰も私を守ってくれないという考えがとても現実味を帯びていた」。

観客から性的に不適切な行為をされたことがないという出演者でさえ、この問題は脳裏にあったと述べている。2014〜2016年に出演していたダンサーのステファニー・バッテン・ブランドは、「私への痴漢を成功した」人はいないと言い、観客に触られそうになってもうまくかわすと加えた。「危険だと感じたことはない」と話した。「舞台監督は私を守ってくれたし、パートナーたちも守ってくれた」

しかし数カ月前に「スリープ・ノー・モア」を辞めた元案内係は、ニューヨーク・タイムズ紙でハーヴィー・ワインスタインの疑惑が浮上して以来ずっと、このショーのことを考えている、と話した。

この元案内係は、次のようにBuzzFeed Newsに話してくれた。「殴られるかも、まさぐられるかも、といった恐怖を毎日抱かないで済む仕事をするようになって初めて、殴られたりまさぐられたりが仕事の一部だったこと、少なくともそう思っていたことがいかにおかしなことだったかに気づいた」 ●

この記事は英語から翻訳されました。

翻訳:松丸さとみ / 編集:BuzzFeed Japan