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自分とは違う友達とどうやって仲良くなる? 小学生にLGBTを教えるということ

異性に関心を持つようになる、と教える前に。

小学3年生の教室に足を踏み入れると、一斉にたくさんの視線が集まった。この先生は、何かおもしろいことを教えてくれるのかな? 教壇に立ち続けている立場としては、慣れた場面ではある。

だが、この日の授業の内容は、普段とは違う。目の前にいるのも、初めて会う子どもたちだ。

「さてクイズです。私は誰でしょう?」

鈴木茂義さん(40)は自己紹介をする前に切り出した。

「背が高い!」「おしゃれ」「メガネをかけている!」

子どもたちは、目に見える鈴木さんの特徴を次々とあげていく。鈴木さんはそれを黙々と黒板に書いていく。そろそろ出尽くしたかな? すると、子どもたちは、鈴木さんの「見えない」特徴を想像しはじめた。

「結婚してそう」「子どもがいそう」「怒ると怖そう」

鈴木さんはそれらをすべて否定することなく黒板に書いたあと、子どもたちに向き直った。

「僕にはパートナーがいます。でも、その人と日本では結婚することができない。なぜでしょう?」

同性愛を教えるのではない

鈴木さんは、ゲイであることを公表している小学校教員だ。東京都内の公立小学校で非常勤講師として働いている。

この日は、いつもとは違う小学校で、総合的な学習の時間にマイノリティについての授業をするための講師として招かれたのだった。

パートナーがいるのに、なぜ結婚できないのか。子どもたちは想像力を膨らませる。「相手の人が結婚しているから」「相手の人は好きじゃないから」。あるクラスでは「相手が男の人だから」という"答え"も出た。

鈴木さんは、自身がゲイであることや、日本では同性婚は法律上は認められていないことを子どもたちに説明した。だが、実はこの授業は、同性愛について理解を促すことが目的ではなかった。

「僕は『なかよし大作戦』と呼んでいます。自分とは違う人とどうやってつながるか。この授業は、それを考えてもらうために組み立てたものです」

なぜLGBTの授業ではないの?

初めて人と会うと、最初に外見的な特徴、つまり「違い」を見つけ、内面の「違い」を知り、さらに知り合うと、抱えている問題意識を共有し、理解しようとする。そのプロセスを授業で疑似体験したというわけだ。

鈴木さんは子どもたちにプリントを渡し、「なかよし大作戦」を考えてもらった。このような「作戦」がたくさんあがった。

すきなことを言う。
すきなたべものを言う。
とくいなことを言う。
声をかける。たすけあう。
相手のやりたいことをやる。
目を見てあいさつする。
自分から「ともだちになろう」と言う。
「これからもよろしくね」とつたえる。

「初めて会った人とどのように仲良くなっていくかはすごく大事なスキル。将来、仕事をしていくうえでも役立ちます。LGBTだけにスポットを当てるのではなく、汎用性の高いスキルをつけてもらいたいかったんです」(鈴木さん)

異性に恋する、と教える前に

LGBTを含むセクシュアルマイノリティは、電通ダイバーシティ・ラボが調査した人数の割合からすると、クラスに1,2人はいると推計される。

しかし、文部科学省の学習指導要領には、小学3、4年生の体育で「思春期になると異性への関心が芽生える」と教えるよう書かれており、2017年2月に公表された改訂案でも、この記述は残ることになった。

一方で、すでに小学校ではLGBTについて教える授業ははじまっている。

文科省は2016年4月、「性同一性障害や性的指向・性自認に係る、児童生徒に対するきめ細かな対応等の実施について(教職員向け)」という通知を出した。

「教育現場でLGBTを可視化し、教えなければいけないという雰囲気が生まれた。ある種のブームが始まった」と鈴木さんは言う。教員に研修を受けさせる自治体も出てきた。

だが、突然トップダウンでLGBTについて教えるようにと言われても、指導案を練る現場の教員は困惑する。先生たち自身が、LGBTについて教わった経験がないからだ。

道徳や総合的な学習の時間を使って授業をしたり、学級活動を通して性別について考える機会を設けたりする実践例もあるが、学校や先生によって温度差があるのが現状だ。

「かわいそうな人」ではなく

実際、小学校ではどのように教えられているのだろうか。5月3日、小学校の教員たちが取り組みを報告するイベントが東京都内であった。

登壇したのは4人。2人は教員として学校に勤務しており、他2人は外部講師として学校で性の多様性を伝える授業をした経験がある。

小学4年生に講演したことがある永光悠さんは、自身がトランスジェンダーであることを子どもたちに伝えた。

講演をしたのは、自宅の近くにある公立小学校だった。自己紹介の冒頭、いつも行くスーパーの話など、子どもたちにとって身近なトピックから話を切り出した。

「子どもたちは(LGBTの人々を)自分とは遠い距離にある人だと認識していました。それをもう少し身近なところへ引き寄せていくこと、家族や兄弟や友人、もしくは自分自身がLGBTの当事者かもしれないと想像してほしく、距離感が遠くならないよう工夫して話すようにしました」

それでも、授業後の子どもたちの感想で最も多かったのは「悠さんはかわいそうだと思いました」といったものだった。

LGBT当事者として生きてきたつらさやしんどさを伝えるため、意図的にそうしたメッセージを繰り返したので、必然的な結果だ、と永光さんは振り返る。そのうえで、数回限りの外部講師の授業では、性の多様性を自分ごととしてとらえてもらうことはとても難しい、と強調した。

「つらい体験を言えば言うほど、『自分とは違う』と子どもたちは感じてしまいます。私のことを『かわいそうなあの人』ではなく、自分のこととして捉えてほしいのですが」

「やっぱり時間をかけ、段階を経て進めていくことで、自分ごとになっていくのではないでしょうか」

「なんとなく心の中に、モヤモヤがある」


継続的に授業をした例としては、私立小学校の教員、星野俊樹さんが、一緒に授業を届けてきた中島潤さんとともに報告した。

(星野さんの授業の詳しい内容は、記事「あの日の僕や君を救いたかった。「生と性」を小学生に教えた担任の2年間」で紹介しています)

2年前からクラス担任として「生と性の授業」を実践してきた。星野さんもまた、LGBTの課題として矮小化して伝えないよう意識してきたという。

「これは単なるセクシュアリティの話ではありません。その人間のあり方、生き方の問題なんです。だから『生と性の授業』と私たちは名付けました」

「学校は、異なる他者同士が対話をし、共存していくための力を養う場です。子どもたちがLGBT以外の課題と出合ってもその力を発揮できるようになるためにも、LGBTを教えるのではなく、LGBTで教えることが大事なのです」

星野さんはあるとき、授業で映画「彼らが本気で編むときは、」を上映した。その授業を受けた子どもの感想に、このようなものがあった。

「なんの異常もないのが普通」というセリフが心に残りました。たしかそういうセリフだったと思います。このセリフを聞いて僕は深く共感することもなかったし、強く否定することもできない気持ちを感じました。

共感できないのは言葉では表現しづらいのですが、なんとなく心の中にもやがあるというか、しっくりこないからです。でも否定もできない理由として、自分で「ふつう」の意味を説明できないからです。

大人は「LGBTを差別するのは良くないと思います」とか「差別をしないように気をつけていきたいです」といった、いわゆる模範解答的な反応を子どもに求めがちだ、と星野さん。

「でも、この子は、自分のわからなさをごまかさず、正直に向き合っていて誠実だなと思ったんですよ。この子はこれからも、そのモヤモヤを抱えて生きていってほしいな、と思います」

大人が果たすべき役割、それは「モヤモヤを子どもたちに与えること」だと、星野さんは語る。

行動につながる授業をしたい

現場の先生たちの問題意識からはじまった、小学校における性の多様性の授業。まだまだ局所的、単発的であることが課題だ。

冒頭の鈴木さんは、こう話す。

「LGBTのことばかり一生懸命教えようとすると、別のマイノリティについてはゼロからスタートしなければならなくなります。僕はいずれ 『当事者の先生』から脱却したい。子どもに知識を与えたり理解を促すよりも、行動につなげたいんです」

「なかよし大作戦」の授業をした小学校で、昼休みに子どもたちと遊ぶ機会があった。初対面の子どもたちが、長縄跳びに次々と参加してきた。

「子どもにとっては僕がゲイであろうとなかろうと、遊んでくれる先生であることが大事なんですね」

授業を終えた鈴木さんが小学校をあとにしようとするとき、ひとりの男子が走り寄ってきて、鈴木さんの手にあるものを握らせた。それは、壊れた修正テープだった。

「彼は、壊れた修正テープを使って僕とつながろうとしたんです。それが彼なりの人とのつながり方だったのでしょう。授業がさっそく生きた、行動につながった、とうれしくなりましたね」


BuzzFeed Japanは東京レインボープライドのメディアパートナーとして、2018年4月28日から、セクシュアルマイノリティに焦点をあてたコンテンツを集中的に発信する特集「LGBTウィーク」を実施中です。

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