山田孝之が「入国禁止になるかも…」と危惧する、過激作品『全裸監督』

    『全裸監督』は、80年代の日本を舞台に村西とおるの半生を描いた全8話のドラマだ。自慰行為、AVの撮影風景など、表現としてギリギリのラインに攻め込む描写に挑戦した。「よくこんな企画が通った」と出演者全員に言わしめるほどだ。

    山田孝之がAV監督を演じる。「10時間もヤッたことないから腹筋、肩、胸、腕、ケツとか筋肉痛になって、こんなに全身を使うんだと……」と撮影現場を振り返る。

    武正晴監督がメガホンをとったNetflixドラマ『全裸監督』だ。

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    Netflixが手がける日本発のオリジナル作品が2019年〜2020年にかけて続々公開される。『全裸監督』以外には、園子温監督による猟奇殺人事件映画『愛なき森で叫べ』、蜷川実花監督によるSNSに翻弄される女性を描く『Followers』が制作された。『百円の恋』『冷たい熱帯魚』『ヘルタースケルター』……どの監督も刺激的で奇抜な作品を生み出してきた鬼才だ。

    Netflixと言えば、麻薬組織の構想を描いた『ナルコス』、いじめによる自殺を取り扱った『13の理由』など、従来タブーとされてきたテーマの作品で世界を魅了してきた。そんな彼らがついに日本で限界ギリギリのテーマを扱う作品を含むコンテンツライナップを披露したのだ。

    武監督は、記者会見場で「(映画業界に携わって長いが)こんな作り方をしたことがない。1回Netflixで制作したらやめられない」と本音を漏らした。

    これまでの制作現場と何が違い、どのように奇抜な作品が生み出されるのか? Netflixのコンテンツ・アクイジション・ディレクターを務める坂本和隆氏に話を聞いた。

    グローバルで成功を収めた『ナルコス』の脚本家チームが来日し、アンチヒーロードラマの見識を伝授

    『全裸監督』は、80年代の日本を舞台に村西とおるの半生を描いた全8話のドラマだ。自慰行為、AVの撮影風景など、表現としてギリギリのラインに攻め込む描写に挑戦した。「よくこんな企画が通った」と出演者全員に言わしめるほどだ。

    ビデオ撮影シーンでは、スタッフ役の満島真之介がマイクを構えた描写があるが、このマイクでAV女優の喘ぎ声などが実際に録音された。山田孝之はカメラを持ちながら濡れ場に挑み、玉山鉄二は登場早々に自慰行為をする。

    「アレもやっちゃダメ、コレもやっちゃダメと制作現場で言われることが増えてきたのですが、Netflixの制作現場はアレもしてもいい、コレもしてもいいと言われ、開放感があり、スタッフの中で発散した感じがありました」(武正晴監督)

    表現の幅の広さだけでなく、2年の制作期間を設け、脚本からじっくり取り組んだ。武監督は「時間に縛らない。台本にも撮影にも時間をかけ、まだ撮影するんですか?と聞きたくなることもあった」と話す。

    「クオリティファーストで取り組むことを第一にしている」とNetflixの坂本氏は言う。『全裸監督』には脚本を複数人で手がけ、合議制をとった。また、アンチヒーローの描き方を伝授するため、『ナルコス』の脚本家チームを日本に呼び、1週間のワークショップを行った。

    「『全裸監督』も『ナルコス』もアンチヒーローを描く作品。なので、キャラクターの構造やストーリー展開で参考になる部分があると思ったんです。どういう描き方をすれば、視聴者がアンチヒーローに興味を持つのか。2話目も見たくなるのか。経験や見識を『ナルコス』からインストールしていただき、日本の脚本家チームが具現化したのが『全裸監督』です」(坂本氏)

    「ハラスメント研修をスタッフとキャスト全員で受けた。AVが題材なのに」

    武監督を驚かせたのが、スタッフ、キャスト全員が参加するハラスメント研修だ。

    坂本氏によると「Netflixがスタジオとなり、独自に制作する作品では、グローバルのルールとして制作陣に向けてハラスメント研修を開催する」という。武正晴監督、園子温監督、蜷川実花監督らはもちろん、山田孝之ら出演者全員が受講した。

    「ハラスメント研修を受けたあと、ではどうやってAV業界の作品を作ればいいんだと相談したんですよ。Netflix側からは『女性をリスペクトしながら描いてください』とオーダーが来ました。本当によく言われた。なので、僕たちも女性に対しての演出は特に気をつけました」(武監督)

    リスペクトを持って描く。これがNetflixが過激なテーマの作品を作りながらも、世界中から愛される秘訣だ。

    その複雑な表現を可能にしているのは、ドラマという構造にもある。長い尺を使った作品だからこそ、さまざまな立場を平等に描けるのだろう。

    「男性だけ、女性だけというような一方通行の視点はNetflixではとりたくないんです。各キャラクターを掘り起こして、各々の視点で物語が進んでいく。『全裸監督』の場合、主人公は村西とおるさんですが、周りの視点と葛藤を配置したアンサンブルドラマのように仕立てています」(坂本氏)

    「2時間の尺でしたら、村西さんのストーリーだけになってしまうかもしれない。男性の目線だけではない。女性はどういう気持ちでポルノ業界に入り、成長し、スターになっていくのか。これは丁寧に描いていただきました。8話のドラマだから紡げることなのかもしれません」(坂本氏)

    また、制作陣のワークライフバランスも考慮されたという。映像の現場では24時間態勢での労働が必要になることもあるが、Netflixでは明確に労働時間を決め、余計な負荷をかけないスケジュールを組んだ。

    「クオリティファーストの制作現場にするのが社の方針です。クランクアップの時に山田(孝之)さんから『やっぱり2年かかりましたね』とお言葉いただいた時に、ハッとしたんです。いい作品を作るには、それだけの時間がかかると」(坂本氏)

    山田孝之も、このような制作現場を気に入ったようで「20年近く俳優業をやっていますが、初めてクランクアップが嫌だと思いました。もっとこのメンバーで制作していたいと思った」と語る。

    長い歳月をかけ、クオリティーをあげていく。放送時間や視聴環境、国境に縛られないNetflixだからこそできたクリエイティブ環境なのかもしれない。

    キャスト、スタッフの実力が最大限に引き出された衝撃作品は、8月8日に190カ国以上で配信が始まる。山田曰く「(僕たち出演者は)何カ国か入国禁止になってしまうかもしれない」ギリギリのラインが描かれる。