安倍VS石破 総裁選で二人が見せた5つの違い

    次の首相を決めることになる自民党総裁選の演説会で、安倍晋三氏と石破茂氏が見せた5つの違いをまとめた。

    日本の次期首相を事実上、決めることになる自民党の総裁選が始まっている(9月20日投開票)。立候補している二人の候補者による立ち会い演説会が9月10日、行われた。

    立候補しているのは、現職の安倍晋三氏。そこに石破茂・元党幹事長が挑む構図だ。演説から、二人が見せた違いを5つのポイントにまとめた。

    1)経済対策

    安倍氏は「生産年齢人口が減る中で経済成長を実現できた」「47都道府県で有効求人倍率が1を超えた」「やっと景気回復の温かい風が地方に届き始めた。地方税収は過去最高だ」と、数字をあげて実績を語り、金融緩和などを軸とするアベノミクスを続ける考えを示した。

    石破氏か「たしかに金融緩和は効果をあげた。有効求人倍率は1を超えた。すばらしいことだと思う」としたうえで「ではなぜ43年ぶりに労働分配率が最低の水準になってしまったのか。可処分所得は下がっているのか。それが最大の問題だ」と語り、成長しても、その果実の分配に問題があると主張した。

    2)地方の活性化

    安倍氏は、25年前に初めて立候補した際、地元の農家の男性のゴツゴツとした手を握った思い出を語り「農林水産業を守っていく」「40歳代以下の新規就農者が、統計取り始めて初めて、4年連続で2万人を超えた」と語った。そのうえで「(農業を)守るためには攻めていかなければならない」と付け加えた。

    安倍政権は自由貿易を広げるTPP11(環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定)を米国抜きで進めている。関税の撤廃や自由化を掲げるTPPで、日本の農業はこれまでよりも厳しい競争にさらされることになる。それを前提に、農業に変化の仕掛けを盛り込んでいくという趣旨だ。

    石破氏は「地方、農林水産業、サービス業の伸びしろを最大限にしたい。それが地方創生だ」と語り、地方に焦点を当てる考えを示した。

    これまで地方は自民党政権による公共事業と企業誘致で支えてきたが、「かつてのような大量生産型産業が日本に立地するのか。過去と同じことを維持するのは極めて困難」「地域どうするかはその地域で考えるしかない。それによってすばらしい地域を作り出した自治体は数多くある。全国に周知するための司令塔としての機能をつくる」とした。

    3)防災対策

    安倍氏は演説で防災対策には多く触れなかった。

    石破氏は「専任の官庁、大臣、スタッフが必要だ。全国どこでも『予想外』という言葉が出ない体制をつくりたい」として防災対策省庁の新設を求めた。

    4)少子高齢化

    安倍氏は「すべての世代が安心できる社会保障制度に、3年で改革を断行する」と語り、社会保障制度の改革を行う考えを示した。「国難とも呼ぶべき少子高齢化に向き合いながら、選挙で約束した教育の無償化を実現する。子どもたちと子育て世代に思い切って投資をし、高齢者が何歳になっても活躍する社会づくりを目指す」とした。

    石破氏は「22年で人口が2000万人減る。そのころには全国の自治体は半分になっている。これをどうするのか、ということだ。我々が抱える最大の国難だ」として、さきの地方活性化につなげ「今ならまだ間に合う。地方こそ成長の力だ」とした。また、地域で支え合う社会をつくることで介護離職ゼロなどを実現したいとした。

    5)自衛隊と憲法

    もともと二人とも「自衛隊を誰が見ても合憲の存在にしなければならない」として憲法改正を求める点では一致している。

    違いはそのやり方だ。

    安倍氏は、現行の憲法第9条に自衛隊を明記した条文(9条第3項)を加える方法を主張している。改憲に否定的な公明党や野党が反対しにくい構図をつくり、まず改憲の実績をつくることを目指す。その代わり、憲法第9条第2項の定める「前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない」という点を巡る議論は続く可能性がある。

    石破氏は、憲法9条第2項を削除し、自衛権を明記することを求めている。第2項がなくなれば、自衛隊は憲法違反の軍隊か否かという議論は根本から解消されるが、広範囲な議論と合意形成が必要になり、時間がかかる。

    演説で安倍氏は「自衛官のお子さんたちも自衛隊は違憲と書かれた教科書で学んでいる」と語り、第3項を加えることによる自衛隊の地位変更を優先する考えを示した。

    石破氏は改憲は「必要なもの、急ぐものからやらせて頂きます」と語り、参議院選挙での合区の解消と、災害などの際に首相と内閣に強い権限を与える緊急事態条項の創設を優先する考えを示した。9条2項の削除を巡る議論には時間がかるという前提だ。

    なぜ、自民党総裁選=首相選なのか

    日本では、首相は現職の国会議員から、国会議員の投票によって選ばれることになっている。国会議員は、自らが所属する党や会派のリーダーを首相に指名する。だから、衆参両院で過半数の議席を持つ自民党の党首(総裁)が首相になるのだ。

    なお、自民党総裁選の選挙権は自民党所属の国会議員と党員・党友にあり、一般の市民にはない。国会議員の大半は安倍氏支持を表明しており、現状の情勢は、安倍氏が極めて有利な立場にある。