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日本は「遅れてきた移民国家」だ 外国人労働者を巡る現実と建前 望月優大さんに聞く

日本が外国人労働者の受け入れに舵を切った。何が起きるのか。「ふたつの日本」を出版した、ニッポン複雑紀行編集長の望月優大さんに聞いた。

この4月から、日本社会が大きく変わる可能性が出ています。政府が出入国管理法を改正し、外国人労働者を受け入れるための新たな在留資格を二つ、設けたのです。今後5年間で34万5千人の外国人労働者を受け入れる見通しです。

この政策は、日本社会にどのような影響を与えるのでしょうか。

日本の移民文化や移民事情を伝えるウェブマガジン「ニッポン複雑紀行」の編集長で、豊富なデータをもとに日本がすでに「移民国家」となっている現実を示す『ふたつの日本ー『移民国家』の建前と現実』(講談社現代新書)を出版した望月優大さんにインタビューしました。3回の連載でご紹介します。

新たな在留資格で「単純労働者」の受け入れ開始

ーー4月1日から、改正入管法が施行されました。何が変わるのでしょうか。

政府はこの言葉を直接的には使っていませんが、就労目的の、いわゆる「単純労働者」と呼ばれる非熟練・低賃金の労働力を、特にアジア諸国を中心に受け入れていくという制度が始まります。

「特定技能」という外国人の新しい在留資格が設けられ、この4月から、まず「特定技能1号」が動き始めました。滞在の上限は5年間で、家族の帯同は認めない。ただし、技能実習生では認められなかった勤務先の変更ができるという資格です。

今回、介護や建設など14の業種が指定されました。

指定14業種=介護、ビルクリーニング、素形材産業、産業機械製造業、電気・電子情報関連産業、建設、造船・舶用工業、自動車整備、航空、宿泊、農業、漁業、飲食料品製造業、外食業。

このうち介護と宿泊、外食業については、試験をおこなったうえでの新規受け入れが、今年から始まります。

残りの11業種については、現段階では基本的に「技能実習生」として来日して3年以上を経た方が「特定技能1号」に移行していく仕組みです。

介護と宿泊、外食業については、試験を行ったうえでの新規受け入れが、今年から始まります。

ーーつまり、いまでは日本で働く期間が最長5年となっている技能実習生の滞在期間をさらに延長するという部分があるわけですか。

そうですね。

技能実習には、日本で働くだけではなく、日本で学んだ技術を本国に持ち帰ってもらい、「国際貢献」とするという建前があります。しかし、技能実習生を雇っていた日本の現場の人たちからすると、「せっかく仕事を覚えたんだからなるべく長く働いてほしい」という要望が出ていました。

スタートの時点では1年しか働けなかったものが5年まで伸びたのですが、これを10年20年に延ばすのはさすがに制度の趣旨とあまりにも乖離してるということもあり、「特定技能」を作ったというのが、背景にはあるだろうと思います。

しかし、「国際貢献」を目的とする技能実習を3年続けると、それが日本での就労目的の在留資格に移行できるという点は、考えてみると変ですよね。

外国人労働者の三つの入り口

ーーこれは要するに「安い労働力を入れたい」ということでしょうか。

入れたいというか、既に入れてるんですよ。

技能実習の制度自体は1993年にできています。それ以前の研修の仕組みは80年代からあります。

外国人労働者には、3つの入り口があります。

まず、専門的な知識や技能を持つ人々を受け入れる、いわゆる「フロントドア」。

法律家などの専門職や教授職、企業内転勤で来日する人、シェフなど技能を持つ人々で、15の在留資格があります。日本政府が公式に労働を認めてきた人々ですが、実態として、日本で働く外国人の2割ほどしかいません。

次が、「サイドドア」と言われる在留資格の人たちです。

本来は非就労資格である技能実習生や留学生、南米の日系人の方を、労働者として活用するというかたちで、すでに30年に及ぶ歴史があります。これが、外国人労働者の8割近くを占めています。

「サイドドア」という言葉に象徴されるのですが、この人々は労働者なのか、留学生なのか、研修にきてるのかという建前と現実のズレが、あまりにも大きくなってきています。

かつ、建前と現実がズレているがゆえに、働く外国人の方々の人権が侵害されがちになる構造を生み出しているという問題があります。

それは政府も認識していて、その建前と現実のズレを解消すべく新たな在留資格を今回、作ったわけです。

しかし、結局もともとのサイドドアの仕組み自体は残ったまま、その上にさらにサイドドアの延長のようなかたちでフロントドアが開いたという感じになり、すっきりしないかたちでの制度改正になっていると思います。

さらに、「バックドア」があります。

80年代の終わりから90年代の初頭にかけて、在留資格のない「オーバーステイ」と言われる方たちが建設現場など様々なところに入っていて、それをサイドドアの人たちで置き換えてきた歴史があります。

だから「この4月1日から低賃金の労働者の受け入れを始めます」というのも、現実とズレてる部分があります。既にそちらが主流になっているのに、少し見栄えの違う在留資格を新たに作ったというほうが適切だと思います。

新しい「特定技能」資格で、政府は向こう5年間で34万5千人受け入れるとしています。

この「特定技能」での受け入れが始まり、一方で既存のサイドドアから入る人が減らなければ、日本で暮らす外国人の方の数が加速度的に増えていく可能性があります。

「移民」の定義は動くゴールポスト

ーー政府は「これは移民政策ではない」と強調しています。

まず前提として言えるのは、「移民」という言葉を客観的に定義するのは不可能だということです。

国連は「国際移民の正式な法的定義はありません」としています。

そのうえで「多くの専門家は、移住の理由や法的地位に関係なく、定住国を変更した人々を国際移民とみなすことに同意しています」「3カ月から12カ月間の移動を短期的または一時的移住、1年以上にわたる居住国の変更を長期的または恒久移住と呼んで区別するのが一般的です」としています。

要するに「あくまでそういう言い方が一般的です」ということに留まっています。

このほか、在留年数や出入国回数に制限のない在留資格を持ってる人を「移民」と呼ぶというケースや、永住資格のある方のみを「移民」と呼ぶ人もいます。

一方、2016年自民党のプロジェクトチームがつくった文書では「入国時点で既に永住資格を持っている外国人」を「移民」とするという定義を採用しています。これは、あらゆる移民の定義の中で、最も狭い定義です。

この自民党PTの定義に照らすと、日本に入ってきている外国人の人たちは、ほとんど「移民ではない」ことになります。

政府が「移民政策ではない」と言う前提として、そもそも「移民」という言葉の定義自体が極めて流動的で、どうとでも動かせるゴールポストのような側面がある、ということを考える必要があります。

二つの支持基盤にアピールしたい政府・与党

ーー政府はなぜ狭い移民の定義を用い、自分たちの政策を「移民政策ではない」と言うのでしょうか。

いくぶん憶測な部分もありますが、日本の中で暮らしていく、定住していく外国人が増えることに対して、ネガティブな気持ちがある一定の国民がいて、その人たちが自分たちの支持層の一部だろうというふうに、与党が思っているのでしょう。その人たちに対して、ポーズをとっているということだと思います。

自民党は基本的に保守的な政党です。なぜその政党を中心とする政府が外国人の受け入れを加速するのかという点に、違和感を感じる方もいらっしゃるかもしれません。

自民党の支持基盤には経済界と、保守、あるいはナショナリストといわれるような方々の両方があります。それぞれで、外国人労働者に対するスタンスは違います。

経済界は、安い労働力が欲しい。現役世代の人口が減っていることもあり、外国人でもいいから欲しいと訴えています。

もう一方の支持基盤である保守層には、外国人が定住するのは嫌だと思っている人が少なくないでしょう。

そこで両者の間を取り、外国人労働者は入れるけれど、定住はさせない。5年で帰す、10年で帰すという条件を設ける。かつ、できるだけ家族を呼ばせない。家族とともに暮らすことで、そこで子どもが生まれたりすることは認めないから大丈夫だというポーズをとっている、ということでしょう。

ずれる現実と建前

ーー実際の状況はどうなっているのでしょうか。

重要なデータの1つだと思っているのが、在留外国人の数自体が300万人近くまで増えているとともに、永住資格を持っている外国人の数が2000年ぐらいから継続的に増え続けていることです。

この中で、旧植民地である朝鮮半島や台湾にルーツを持つ「特別永住者」は微減を続けています。かわりに「一般永住者」が増えています。

直近だと、110万人近くの方が永住資格を持ってます。この人たちが、日本で法務省が発表している在留外国人の4割を占めてます。これが現実なんです。

一般永住者には、多様な国籍の方が含まれています。中国、韓国だけでなく、ブラジル、フィリピン、ベトナムなどの方などが多くいらっしゃいます。

政府が「永住させず、出稼ぎ労働者をぐるぐる回していくだけなので、日本では移民が増えない」という建前は、この現実と大きく乖離しています。

どの政治的立場をとる人であっても、この現実を正しく認識しないと議論にならない、と私は思っています。

ーー建前と現実の乖離はなぜ起きるのでしょう。

外国の方々と話をしていると分かってくるのが、入国した時に「出稼ぎ」のつもりで来ていたとしても、いつの間にか日本でずっと暮らしていたということは、人生のなかでは起きえる、ということです。

日本の方と結婚するとか、家族を呼べる日系人の方だと、特に子どもが日本社会に定着していくとか、さまざまな理由があります。

移民であろうがなかろうが、私たちは自分の人生がどうなるのかすべて予期することはできません。人生の様々な出来事を通じて、ある土地から離れられなくなることは、だれであれ起きえることです。

その積み重ねとして、ニューカマーの方たちを中心に、1990年ぐらいから定住が進んでいるという現実があります。

定住への道は「むしろ開かれた」

これから受け入れていく特定技能の外国人の方たちについても、同じことが絶対に起きないとか、それをコントロールできるのだと政府が言い切ることができる根拠は、全くないと思います。そして過去の例を見ても、コントロールすることは現実的には不可能だと思います。

特に今回、「特定技能2号」という資格が、1号の上位資格のようなかたちで用意されました。一定の試験に合格すれば、1号から移行が可能になります。

特定技能2号は、更新回数に上限がない在留資格として設計されています。

実際に動き出せば、非熟練の外国人労働者が熟練の労働者にキャリアアップして定住していくという道が、むしろ開かれたと言って、過言ではないと思います。


(続く)

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