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続発する子どもの熱中症、予防するには? 小児科医に聞く、症状のサインや対策法

熱中症の予防法・サイン・対策法を理解し、適切な行動制限を。

厳しい暑さが続く中、子どもが熱中症にかかる事例が続出している。屋外での活動中や体育の授業中に搬送される事例や、中には熱中症が原因とみられる死亡事例もある。

命に関わることもある熱中症。予防するには、そして万が一、熱中症になってしまった場合は、どうすればいいのか。BuzzFeed Japan Medicalは国立成育医療研究センター救急診療科診療部長で医師の植松悟子さんを取材した。

子どもは大人より暑さに弱い

そもそも、熱中症は気温が高いことにより生じる健康障害の総称。体内の深部体温が異常に高くなることで、多臓器に障害が及び、結果として意識障害を引き起こして死に至る危険性がある。

同センターでも年間約50例ほどの受診があり、その多くは屋外でのスポーツ、部活中などに発症している。患者となる子どもの年齢層は0〜16歳であるが、同センターで診る他の疾患と異なり、中央値が9歳と比較的、高いのが特徴だ。

なぜ、子どもの熱中症が続出するのか。植松さんは「子どもは大人よりも熱中症になりやすい」と指摘する。

「子どもは大人と比べて自ら熱を作りやすく、環境からの熱の影響を受けやすいのに、それらの熱を放出しにくいという傾向があります」

植松さんによれば、子どもはもともと体重あたりの熱産生が成人と比べて多い。一方、幼児は体の容積に対して体表の面積が大きいため、外からの熱を吸収しやすく、成長しても肥満などで容積が大きくなる場合、熱を溜め込みやすい。

また、子どもは血液量自体や心臓から出る血液の量が成人より少ないので、深部の発熱を表面まで循環させて、放出する能力も低い。発汗の能力も成人に劣り、汗をかいて体温を下げることをしにくい、と植松さん。

さらに、「小児では成人よりも環境適応がゆっくりです」(植松さん)。環境適応とは、高い気温に対して発汗量を増やしながら、汗や尿に電解質が流れ出るのを防ぐこと、そして深部や体表の体温を低下させることだ。

子どもの熱中症のサイン・予防法は?

大人よりも注意が必要な子どもの熱中症。では、どんなサインがあるのだろうか。

植松さんはサインとして、四肢や腹部などの筋肉の痙れんや、脈拍や呼吸数が多くなること、大量の発汗、口の渇き、吐き気、嘔吐、頭痛、疲労感、めまい、失神、「受け答えが遅い」など少し混乱した状態がある、とする。

本人が「喉が渇いた」と思ったときには、すでにかなり水分が失われている可能性がある。このような訴えがある前に、対策をすることが必要だ。

予防法として、植松さんは「こまめな水分補給と、環境への配慮が必要」だと指摘する。

「高温・運動時の水分補給については、もともと脱水がない状態であれば、9〜12歳では100-250mLを20分毎、思春期では1時間で1-1.5Lの経口補水が目安になります。補給するのは電解質などが含まれたイオン飲料が望ましいでしょう」

同センター公式サイトの熱中症の注意喚起では、環境への配慮について「通気性のよい、涼しい服を着せて、暑さに応じて着脱させる」「外出時には帽子を被らせる」こと、日陰や屋内での休憩をこまめに確保することが必要だとする。

屋内や車内では、気温が上がりすぎないようにクーラーを使用する。ベビーカーについては、日なたに放置することがないように、常に目を配っておく。

子どもを外で遊ばせることはできるのか?

暑い夏が今後も続いていくとしたら、現実問題として、子どもを外で遊ばせることはできるのだろうか。

水分補給と環境への配慮をした上で、植松さんによれば、暑さに慣れる「順化」が熱中症予防に効果があるのも事実だという。

「気温、湿度、個人差などを考慮した上での、短時間の遊びが絶対にダメとは言えないと思います。また、子供と一口に言っても年齢の幅がさまざまで、体格などによっても暑さに耐えうる能力は大きく異なります」

だからこそ、どんなときに行動を制限するべきなのか、という条件についての知ることは、子どもの安全を守ることにつながる。

「気温ばかり注目されますが、たとえば湿度による影響はかなり大きいですし、直接日光に暴露されるかどうかも影響を与えます」

熱中症リスクの判定には気温や湿度、地面や建物・体から出る輻射熱を考慮しった“Wet Bulb Globe Temperature;WBGT(湿球黒球温度)”などの指標を用いて、外での行動ができるかどうかを判断する方法もある。

環境庁の公式サイトでは、このWBGTを計算して、「危険」「厳重警戒」「警戒」「注意」の段階で日常生活・運動についての指針を示している。

この指針によれば、WBGT31℃以上で、特に子どもの場合は運動を中止するべきとある。熱中症による死亡事故は、WBGT21℃以上で発生する可能性があるとされる。

「他にも、休憩頻度と休憩時間、経口補水の頻度、休憩場所の環境整備などを考慮する必要があります」

「また、当たり前ですが、もともと具合がよくない、体調不良があって回復途中であるような場合には、屋外活動を中止または制限する必要があります」

それでも熱中症になってしまったら

熱中症の主な徴候は意識障害と高体温であるため、「一般的に考えて、熱中症でなくとも、意識がはっきりしないなどの症状があれば、ただちに救急車を呼ぶなど、緊急で医療施設にかかるべきです」と植松さん。

このとき、高体温など熱中症を疑う症状があれば、到着を待っている間も、体を冷やし続けるなどの対応が必要だという。

「太い血管のあるわきの下や首などを氷で冷やしたり、冷たい濡れタオルで拭いたり、風を送る、涼しい場所に寝かせるなどが病院に来る前の処置としてありえます」

意識障害がなく、イオン飲料などを誤嚥することなく安全に経口摂取できるのであれば、「涼しい環境に移動させ、体表冷却、経口補水を実施して、さらなる症状の悪化がないか注意しながら、経過観察することも可能」(植松さん)。

「熱中症は危険な状態ですが、適切な対処によって予防すること、軽症にとどまらせることも可能です。ぜひ、正しい認識を持っていただければ」

「万が一、熱中症になってしまったときは、当センターでは小児救急医療の最後の拠点として、365日24時間、患者の受け入れをしています。救急車を呼ぶか、直接ご来院いただくことも可能です」