これでいいのか? 芸能人と薬物報道 専門家からあがる疑問の声

    芸能人と薬物問題。相次ぐ報道、問題を繰り返していいのか?

    繰り返される報道の問題

    警視庁築地署が6月2日、俳優の橋爪遼容疑者(30)が覚せい剤取締法違反(所持)容疑で現行犯逮捕したことを、各メディアが一斉に報じた。

    橋爪容疑者は、数多くのドラマ、映画に出演している俳優・橋爪功さん(75)の長男だ。

    5月下旬には、元KAT-TUNの田中聖容疑者(31)が大麻取締法違反(所持)の疑いで現行犯逮捕された事件(逮捕時に本人は否認)も、大きく報じられた。

    こうした報道に対して、専門家たちが疑問の声をあげている。

    弁護士が発表した声明

    弁護士らでつくる「日本エンターテイナーライツ協会」は橋爪容疑者の逮捕を受けて、こんな声明を発表した

    仮に橋爪遼さんの違法薬物使用が事実であったとしても、薬物使用に至った動機や経緯を邪推した報道をしたり本人や親族等を追い詰めるような内容で報道をしたりすることにも慎重になるべきです。

    違法薬物使用は犯罪ですが、同時に専門の医療機関等で治療を行う必要がある病気でもあります。そして、治療のためには専門家の助言や身近な存在の協力が必要となります。

    しかしながら、薬物使用に至った動機や経緯を邪推して安易な反省を求めたり、過剰にセンセーショナルな形で報道したりするようなことは、治療を遠ざけるだけでなく、違法薬物使用に関する誤解や偏見を強めることにもなりかねません。

    繰り返される問題

    そもそも、本人に反省しろと迫っても回復が早まるわけではない、むしろ逆効果だと専門家は言う。薬物依存症治療の第一人者、精神科医の松本俊彦さんは以前、BuzzFeed Newsの取材にこう答えていた

    反省なんて、してもしなくてもいいから、治療のプログラムを受けてほしい。だいたい、反省の有無は回復には関係ないんですよね。

    反省して生活が立ち直るなら、それでいいのですが、そういう調査結果はありません。逆に反省を強要すると、もっとウソつきになるんですよね。

    ――そうなんですか?

    刑務所にいれば、早く仮釈放されたいから簡単に反省するんです。

    本当は覚せい剤をやりたいのに「やりたくない」と言う。あるいは意志を強く持てば大丈夫だと思うようになる。

    「今度はやらないと決めました」とか「強い気持ちで断ちます」とか言うようになるんです。でも、気持ちで解決できるほど、依存症って甘くないんです。

    ただ芸能人の逮捕をセンセーショナルに報じるだけでは、薬物依存症についての理解は深まらないし、当事者の治療や再発防止にもつながらない。専門家たちは、そう訴えている。

    松本さんや、依存症患者の支援に関わるダルク女性ハウス代表の上岡陽江さんら、医師や当事者で作った薬物報道のガイドラインがある。ここに掲載する。

    以下、ガイドライン全文。

    【望ましいこと】

    • 薬物依存症の当事者、治療中の患者、支援者およびその家族や子供などが、報道から強い影響を受けることを意識すること
    • 依存症については、逮捕される犯罪という印象だけでなく、医療機関や相談機関を利用することで回復可能な病気であるという事実を伝えること
    • 相談窓口を紹介し、警察や病院以外の「出口」が複数あることを伝えること
    • 友人・知人・家族がまず専門機関に相談することが重要であることを強調すること
    • 「犯罪からの更生」という文脈だけでなく、「病気からの回復」という文脈で取り扱うこと
    • 薬物依存症に詳しい専門家の意見を取り上げること
    • 依存症の危険性、および回復という道を伝えるため、回復した当事者の発言を紹介すること
    • 依存症の背景には、貧困や虐待など、社会的な問題が根深く関わっていることを伝えること

    【避けるべきこと】

    • 「白い粉」や「注射器」といったイメージカットを用いないこと
    • 薬物への興味を煽る結果になるような報道を行わないこと
    • 「人間やめますか」のように、依存症患者の人格を否定するような表現は用いないこと
    • 薬物依存症であることが発覚したからと言って、その者の雇用を奪うような行為をメディアが率先して行わないこと
    • 逮捕された著名人が薬物依存に陥った理由を憶測し、転落や堕落の結果薬物を使用したという取り上げ方をしないこと
    • 「がっかりした」「反省してほしい」といった街録・関係者談話などを使わないこと
    • ヘリを飛ばして車を追う、家族を追いまわす、回復途上にある当事者を隠し撮りするなどの過剰報道を行わないこと
    • 「薬物使用疑惑」をスクープとして取り扱わないこと
    • 家族の支えで回復するかのような、美談に仕立て上げないこと