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YouTubeで性教育を教える。性被害の「しょうがない」を繰り返さないために

NPO法人「ピルコン」では、子どもや若者がインターネット上で正しい性知識を得られるよう、YouTubeで性教育アニメを配信する取り組みを始めた。

セックス、避妊、マスターベーションなど、誰もが大人になる過程で経験する「性」のこと。

だが、いつ、誰が、どのように子どもたちに教えたらいいのか、頭を悩ませている親は少なくない。

性教育に関する啓発活動を続けているNPO法人「ピルコン」では、子どもや若者がインターネット上で正しい性知識を得られるよう、アメリカの専門団体と連携して、YouTubeで性教育アニメを配信する取り組みを始めた。

YouTubeで性教育をする

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「スマホやインターネットさえあれば、誰でも見れるのがすごく大事で。誰かに相談するのは恥ずかしいと思われがちな『性』に関する悩みだからこそ、一人でこっそり検索している人はたくさんいると思います」

「そんな時にこの性教育アニメにたどり着いて欲しい」と語るのは、ピルコンと協力して動画の制作を担当している会社員のキム・ハリムさん。

これまで仕事で人権教育や、翻訳に関わってきた経験から、配信する動画の選定、ナレーションの吹き替え、字幕の日本語訳などを担っている。

配信するアニメは、アメリカの性教育専門団体「Amaze」が制作しているもので、4~14歳と幅広い年齢を対象にしている。

100本近い動画のラインアップがあり、YouTubeのチャンネル登録者数は7月2日現在で11万8000人を超えている。

「包括的性教育」を

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Amazeの動画の特徴は、一言で「性教育アニメ」と言っても、動画の内容は、思春期における体の変化や、避妊、性感染症予防など、直接的に性行為に関わるものだけでないことだ。

ジェンダーアイデンティティ(性自認)や、セクシュアルオリエンテーション(性的指向)、性的同意(セクシュアル・コンセント)などのテーマも積極的に取り上げており、性を通して人との関わり方や相手の立場を考えることも含めた「包括的性教育」に力を入れている。

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ハリムさんは「日本における既存の性教育の中でこぼれ落ちてしまっているテーマといえば、例えば障害者の性や、『アダルトビデオの世界はフィクションなの?現実なの?』『マスターベーションって恥ずかしいことなの?』などの問いだと思います」と話す。

「他にも、感情との向き合い方や、性的な行為をしようとして『NO』と言われた時にどうするかなども、動画で触れていきたい重要なポイントです」

ユネスコの「国際セクシュアリティ教育ガイダンス」には、年齢に応じて必要な性教育について、例えば次のように書かれている。

・5~8歳:精子と卵子が受精し、子宮内膜に着床することで妊娠することを説明

・9~12歳:どのような条件下で性交すると妊娠する可能性があるか、避妊の方法や妊娠の兆候も教える

・12~15歳:生殖と性的欲求の違いを区別して理解できるように指導する

「4歳以上を対象にしてると聞いて、そんなに早くから性教育をするの?と思う方もいるかもしれませんが、早く教え始めることに越したことはないんです」とハリムさんは言う。

被害は「しょうがなかった」のか

韓国で生まれ、日本と韓国を行き来しながら育ったハリムさんが、性教育に携わるようになった背景には、彼女の幼い頃からの経験がある。

はじめは、3歳の時。幼稚園でお昼寝の時間になると、少し年上の男の子に「自分の体を触ってほしい」と手を掴まれた。小学校4、5年生の頃にも、近しい知人から似たような行為を求められたことがある。

大学生に進学したばかりの頃、お酒を飲んで、一人では家に帰れなかった夜のこと。嫌だと何度も言ったのに、彼は「いいじゃん、いいじゃん」と言って聞かなかった。

20代でこうした経験について初めて打ち明けた時、ハリムさんの母は驚き、こう答えたという。

「一人で辛かったのに、何もしてあげられなくてごめんね。いつかそういう話をしなきゃいけないと思っていたけれど、性に関することをどう話したらいいか、私にもわからなかったの」と。

「それを聞いて、お母さんも一人の人間だなと思うと同時に、じゃあ私が受けた被害もしょうがなかったってこと?と思いました」とハリムさんは言う。

「母も学校や家庭で十分な性教育を受けなかったから、娘の私にもどんな言葉で説明したらいいかわからなかった。それは、しょうがないと思いました」

「じゃあ、私が性についての知識を十分に持たないまま、被害に遭ってしまったのも、『しょうがなかった』のか?と」

「加害者に対しても怒りを覚えると同時に、彼も何も知らなかったんだなあ、何も教わってこなかったんだなあ、と思って。なかなか正しい知識に触れることができない現状では、本当にいつ誰が加害者や被害者になるかわからないと思うんです」

だからこそ、「しょうがなかった」と泣き寝入りする人を増やさないために、性教育を充実させることが必要だとハリムさんは言う。

性をタブー化しない

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すでにピルコンのYouTubeには、日本語版の動画が公開されている。また、クラウドファンディングで資金調達に成功し、2020年2月ごろにまた新たな動画を配信できるよう準備を進めている。ハリムさんは言う。

「性は極端に美化されたり、すごく汚くて危ないものとされることが多いですが、どんな年代の人でも、その時々で色んな悩みを抱えています。だからこそ、小さい時からずっと向き合っていく必要があります」

「動画を通じて、性をタブー化せずに、みんなが安心してオープンに話していけるような場が少しでも広まっていけばいいかなと思います」