【手記全文】ファンに刺された女性が、いまも苦しむこと。小金井ストーカー刺傷事件、都などを提訴

    小金井ストーカー刺傷事件で、ファンの男に刺され重傷を負った冨田真由さんが7月10日、警視庁を管轄する東京都などを提訴。加害者から脅迫や嫌がらせを受けていることを事前に把握していながら、事件を防ぐために必要な義務を怠ったと主張している。

    東京都小金井市で2016年5月、シンガーソングライターとして活動していた大学生の冨田真由さんがファンの男に首など少なくとも34カ所を刺され、一時意識不明の重傷を負った事件。

    冨田さんと冨田さんの母親は7月10日、事件を未然に防ぐための義務を怠ったなどとして、警視庁を統括する東京都や加害者の男らなどを相手取り、計約7600万円の損害賠償を求めて提訴した。

    事件前にストーカー被害を相談

    当時の報道や訴状などによると、冨田さんは2016年5月21日午後5時5分ごろ、東京都小金井市のライブ会場付近で、折りたたみナイフを持ったファンの男に首などを少なくとも34カ所刺された。

    加害者の岩崎友宏受刑者は殺人未遂などの罪に問われ、2017年2月、東京地裁(阿部浩巳裁判長)で、懲役14年6カ月(求刑懲役17年)の判決を言い渡された。被告側は控訴したものの、その後に取り下げ、判決が確定した。

    冨田さんは事件発生前から岩崎受刑者からTwitterなどで執拗な脅迫や嫌がらせを受け、「殺されるかもしれない」と感じていることを、警視庁武蔵野署に相談していたという。

    事件2日前にも、同署の警察官に対して、ライブの出演情報などを伝えていたにもかかわらず、加害者に警告をしたり、ライブ会場周辺をパトロールしたりするなど、事件を防ぐために必要だった職務を怠ったと主張している。

    「ひとりでも多くの人が救われるきっかけに」

    冨田さんは事件から3年が経過したいまも、けがの後遺症やPTSDに苦しみ、通院を続けているという。この日は、「自分の言葉で伝えなければ」と、提訴後の会見にも出席することを決め、こう語った。

    「当時、テレビやネットのニュースで私の事件を知り、心配し、心から生きることを願ってくださった方々に感謝を伝えたいと思います。心強い言葉やあたたかい支援に、とても救われていました」

    弁護士が読み上げた手記では、「警察の対応のずさんさが明らかにされることで、ストーカーに対する見方や対応がさらに変わってほしい。同じような被害で苦しんでいる人たちが、少しでも早く穏やかな日々を送れたらいいなと願っている自分がいました」

    「この裁判が、今後起きるかもしれない事件をひとつでも多く防ぐきっかけになることを、ひとりでも多くの人が救われるきっかけになることを信じて、戦っていきたいと思います」と訴えた。

    警視庁の島貫匡・訟務課長はBuzzFeed Newsの取材に対し、「訴状が送達されていないのでコメントできない」と答えた。

    冨田さんの手記全文は、以下の通り。


    まずは、当時、テレビやネットのニュースで私の事件を知り、心配し、心から生きることを願ってくださった方々に感謝を伝えたいと思います。心強い言葉やあたたかい支援に、とても救われていました。本当にありがとうございました。

    被害にあってから今日まで、事件のことを考えなかった日はありません。少しでも現状を打破できたらとの思いで治療を受けていますが、なかなか変わることはできず、常に事件のことが心と体にまとわりついて離れないような感覚です。

    戻れないとわかっていても、事件の前のような気持ちで過ごせることを望んでしまうこともあります。それでも、なんとなく自分の心をごまかして、平気なフリをして今を生きています。

    裁判を起こそうと決めたのは、事件から3年が経つ少し前のことでした。

    私と私の家族は、事件当初から警察に対してあることをお願いし続けてきました。それは、私が被害にあう前に相談をしていた(警視庁武蔵野署の)生活安全課の担当者から直接話を聞きたいということです。

    初めて警察署に相談をしたのは、大学の先生にかけていただいた電話ででした。執拗なつきまといをされたこと、SNSで生死に関わるようなコメントが多く書かれていることから、その日のうちに相談したい旨を伝えました。

    しかし、「今の時間は対応していない」とのことで、別日に約束をし、伺うことになりました。

    警察に相談する、という行動は私にとっての最終手段でした。

    当時所属していた事務所から、「もし警察に相談すると、警察から被告岩崎に連絡が入って、被告岩崎がかえって興奮してしまうかもしれないから、その覚悟をして相談したほうがいい」と言われ、警察に相談するのに二の足を踏んでしまい、どうしようと思っている間に時間が過ぎてしまったからです。

    すでに追い詰められていた心に、その言葉はさらに重たくのしかかってきました。

    どうしたら良いのかわからず大学の先生に相談したところ、一緒に警察署に行くことを承諾してくれました。

    また、信じてもらうために、SNSを印刷したもの71枚、携帯電話でスクリーンショットしたもの70枚を持っていき、犯人の情報とともに証拠として残していただきました。その資料を相談担当者と一緒に見ながら、「怖い、殺しにくるかもしれない」と伝えました。

    その際に、SNS等はブロックすること、また、友人にも被害があるのなら友人にもブロックするよう伝えてほしいと言われました。

    私はすでにブロックしていたため、自分の行動は間違っていなかったのだとホッとしました。警察署からの帰り道、「これだけ話せばちゃんと対応してもらえる」と大学の先生と話したことを覚えています。

    相談に行った日から事件の2日前までも、警察とは電話で話をしていました。その際にライブがあることを伝えると、中止をするようになどの言葉はなく、むしろ応援をするように「110番があればすぐに会場に駆けつけられるようにしておきます。

    あと、ライブ当日は会場周辺の見回りをするよう近くの交番に手配しておくので大丈夫ですよ。じゃあ頑張って」と声をかけられました。

    警察からの大丈夫という言葉は、不安な気持ちを打ち消してくれるような力強さがあり、犯人に襲われたあと、病院で意識を取り戻したときも、警察がすぐに駆けつけてくれ命を救ってくれたのだと思っていました。

    それから少しづつ、警察が本当は何の対応もしていなかったことを知っていきました。

    病院での聴取の際は、自分たちの中ですでに出来上がっているストーリーに、私の言ったちょうどいい言葉を当てはめ、警察にとって都合の良い聴取(原文ママ)を作ろうとしていました。

    警察に当時の対応を聞くと、「然るべき部署が対応します、上の者が対応します」と言葉を濁すばかりで、事件が起きてからの3年間、事実を知る機会は一度も設けていただけませんでした。

    私と家族は事件当初から、担当者に直接話を聞きたいと、それだけを何度もお願いし続けてきました。警察からの答えは、「裁判になったら明らかにする」というものでした。

    裁判でなければ明らかにできないと言われても、裁判を起こすことが正解なのだろうかとずっと悩んできました。ずっとお願いしてきたことの答えが必ず聞けるとは限らないし、ただでさえギリギリな心をこれ以上にすり減らす覚悟を決めなければ、裁判は乗り越えられないと考えていたからです。

    事件後、同じようにストーカー被害にあっているという女性から手紙をいただきました。ニュースなどでもストーカーに関する事件を多く目にするようになりました。

    自分が被害にあっていた当時は見えていなかったのですが、ストーカー被害で悩んでいる人が思っているよりも多いことを知りました。

    裁判を起こすか苦悩していた中、警察の対応のずさんさが明らかにされることで、ストーカーに対する見方や対応がさらに変わってほしい。同じような被害で苦しんでいる人たちが、少しでも早く穏やかな日々を送れたらいいなと願っている自分がいました。

    この裁判が、今後起きるかもしれない事件をひとつでも多く防ぐきっかけになることを、ひとりでも多くの人が救われるきっかけになることを信じて、戦っていきたいと思います。

    冨田真由