お風呂で「タトゥー禁止」は変わるか? 試行錯誤する温浴施設

    2020年の東京五輪、2019年のラグビーW杯へお風呂業界はどう動くのか

    タレント・りゅうちぇるさんの公表で改めて注目を集めるタトゥー問題。来年のラグビーW杯、再来年の2020年の東京五輪では、タトゥーを入れた外国人選手や観光客が多数来日することが予想される。

    日帰り温泉やスーパー銭湯など、長年「タトゥー禁止」を掲げてきた温浴施設も岐路に立たされている。全面OKのお風呂や、条件付き解禁のお風呂など、各店舗の取り組みを探った。

    「全面OK」の日帰り温泉

    Q.刺青があるのですが利用できますか?


    A.刺青、ファッション・タトゥーがある方もご利用いただけます。

    千葉県成田市の日帰り温泉施設「大和の湯」のサイトには、こう記載されている。

    5月末、このページのスクリーンショットともに「銭湯は全部こうなればいいんだ!!」と書いた、あるTwitterユーザーの投稿が4万9千回以上リツイートされ、11万を超える「いいね」がついた。

    銭湯は全部こうなればいいんだ‼️

    誤解のないように補足すると、街の銭湯は原則的にタトゥーをした人でも受け入れている。「タトゥーお断り」が多いのは、日帰り温泉やスーパー銭湯など、銭湯以外の公衆浴場だ。

    タトゥー禁止が目立つ日帰り温泉にあって、「全面OK」の方針をとる大和の湯のスタンスは異例と言える。

    「新世代に開かれた温泉」

    先述のQ&Aは、こんな風に続く。

    大和の湯では刺青がある方の入館を特にお断りしてはおりません。以前は刺青をしている方に対しての良くないイメージがありました。しかしここ最近、特に若い人の間でファッション・タトゥーも流行しているように、刺青そのものが問題視される時代ではなくなってきているようです。


    また刺青をしていても今ではきちんと良い仕事をして社会に貢献している人もいれば、刺青をしていなくても悪いことをする人も大勢います。「大和の湯」では人を見かけによって判断することはしません。少なくともそのように努力することが、新しい世代に向けて開かれた温泉の姿であると認識しています。

    大和の湯の代表、高根英樹さんは「タトゥーを推奨しているわけではない」と前置きしつつ、次のように語る。

    「『人を見た目で差別しない』という考えのもと、ホームページにもこう記載しています。暴力団関係者でも刺青を入れている人、いない人がいる。刺青の有無で区別することはできません」

    10人に1人は外国人客

    1998年のオープン以来、一貫して「タトゥーOK」。利用者からは「タトゥーでも入れる温泉はあまりないので嬉しい」「ありがたい」と好評だ。

    とはいえ、利用者全体からすればタトゥーを入れている人はわずか。ケンカなどのトラブルはなく、「なぜタトゥーの人がいるのか」といったクレームもほとんどないという。

    成田空港からタクシーで10分程度という地の利もあり、外国人客が10人に1人ほどを占める。取材当日も、腕にタトゥーを入れた外国人の男性客がいた。

    「外国からの観光客にもタトゥーを入れている人は多く、ファッションで入れている人もいる。刺青そのものを問題視する時代ではありません」

    タトゥーの有無で店舗を選択

    「タトゥー禁止」から「全面OK」の間では、各施設ごとに対応のグラデーションがある。

    カプセルホテル「安心お宿」は共同浴場を併設しているが、新橋駅前店を除く都内4店舗(男性限定)と京都四条烏丸店(男女利用可)でデザイン・タトゥーを入れた客を受け入れている。

    運営するサンザの松田一宏・安心お宿事業部長は「タトゥーを入れている、入れていないにかかわらず、心から楽しんでいただくことを目指しています」と語る。

    2016年4月から荻窪店で実験的に受け入れを開始。2017年2月以降、秋葉原電気街店、新宿駅前店、新橋汐留店でも解禁した。今年4月オープンの京都四条烏丸店も同様だ。一方で、反社会的勢力や暴力団関係者の利用は厳しく禁止している。

    唯一、新橋駅前店がタトゥーNGなのは「お客様の年齢層が高く、クレームも予想されるため」。ただ、歩いて3分ほどの新橋汐留店は受け入れているので、利用者の側はタトゥーの有無によって店舗を選ぶことができる。

    松田さんは友人から「タトゥーがあってお風呂に入れないんだよね」と打ち明けられたことがあるという。「そうしたニーズも把握しているので、国内外問わず顧客目線で温浴サービスを提供していけたら」

    ラグビーW杯、期間限定で解禁も

    埼玉県大宮市の「おふろcafe utatane」では、12.8×18.2センチのシールで隠れる範囲であれば入館OKという「条件付き解禁」の方針をとっている。

    運営する「温泉道場」の宮本昌樹・専務執行役員は「若者にはタトゥーを入れている人も多く、基本的には受け入れていきたい。ただ、ほかのお客様がどう思うかも重要です」と折衷案の理由を明かす。

    熊谷市の系列店「おふろcafé bivouac」は現在タトゥー禁止だが、来年のラグビーW杯の開催時には、期間限定で受け入れることを検討している。

    会場のひとつである「熊谷ラグビー場」が同じ市内にあり、タトゥーを入れた選手や観光客が海外から多数訪れると見込まれるためだ。

    「2020年には東京五輪もある。観光が日本の一大産業になっていくなかで、多様な文化の人たちを受け入れていかなければいけないと考えています」

    宿泊施設は56%が入浴拒否

    2015年の観光庁の調査によると、全国のホテル・旅館のうち、タトゥーを入れている客の入浴を断っている施設は約56%。断っていない施設が約31%、シールで隠すなど条件付き許可している店が約13%だった。

    観光庁は「外国人旅行者が急増する中、入れ墨がある外国人旅行者と入浴施設の相互の摩擦を避けられるよう促していく必要がある」として、2016年に次のような対応策をまとめている。

    1. シール等で入れ墨部分を覆うなど、一定の対応を求める
    2. 入浴する時間帯を工夫する
    3. 貸切風呂等を案内する


    観光庁観光資源課の担当者は「より多くの方に温泉の魅力を伝えられるよう、外国人向けの情報発信を充実させたい」と話す。

    が、シールで隠れないぐらいタトゥーが大きい場合や、大浴場での入浴を希望する場合はどうすべきなのか。観光庁の対応策には具体的な言及がなく、各施設の判断に委ねられているのが実情だ。

    「郷に入っては郷に従え」の声も

    スーパー銭湯や日帰り温泉など、銭湯以外の公衆浴場約130店でつくる「温浴振興協会」の諸星敏博代表理事にも見解を聞いた。

    「全面解禁とはいかずとも、徐々に解禁すべきだろうというのが、現在の協会のスタンスです。一部店舗ではシールで隠しての入浴を認めるなどの規制緩和もしています」

    「ただ、営利企業である以上、利用者の方の『怖い』といった声も判断基準にせざるを得ない。海外の方は『なぜ日本ではタトゥーがあると温泉に入れないのか』と言いますが、『郷に入っては郷に従え』という言葉もありますから」

    「おもてなし」を掲げる東京五輪。果たして2020年までに、タトゥーをした外国人選手や観光客らの受け入れ態勢は整うのだろうか。

    冒頭に紹介した「大和の湯」の高根さんは言う。

    「東京オリンピックに向けて、大和の湯のような対応がスタンダードになっていくことを願っています。ただ、いまのところ、受け入れへ向けた準備はあまり進んでいないように見えますね」