日本人のフルタイム労働者の所定外労働時間(2017年)が、平成初期に比べて年間44時間増えていることが、BuzzFeed Newsの調べでわかった。
長時間労働や過労死が問題視され、さらに「働き方改革」が叫ばれている時代にも関わらず。いったいなぜ、残業は増えているのか?
データを一見してみると…?
厚生労働省は「毎月勤労統計」で労働者の総労働時間や所定外労働時間などを調査している。
中でも多く引用されるのが、5人以上の事業所に関するデータだ。厚労省が毎年出している「労働経済の分析」の「労働時間・賃金等の動向」の項目でも冒頭に取り上げられているものだ。
これを一見すると、所定外労働時間は平成の初期に一気に減り、その後も横ばいになっているかのように見える。
「労働経済の分析」では総労働時間とともにここ10年分が紹介されており、「所定外労働時間は2013年以降横ばい圏内で推移している」としている。
ただ、これは数字のマジックだ。実はこの値には、「パート労働者」も含まれた数字になっているからだ。
フルタイムで働いている一般労働者のみを抽出すると、以下のようなグラフになる。
平成に入ってから、所定外労働時間が全体的に増加傾向にあることがわかる。
先の「労働経済の分析」でもここ10年分が取り上げられ、「所定外労働時間は緩やかに増加している」と記されているが、扱いは前者ほど大きくはない。
このデータによると、2017年の一般労働者の所定外労働時間は175時間。1993年(131時間)に比べ44時間も増えている。
1992年以前は一般労働者のみのデータが存在しないので単純比較はできないが、30人以上の事業者(パート労働者を含む)は以下の通り。
- 1988(昭和63):189時間
- 1989(平成元):190時間
- 1990(平成2):186時間
- 1991年(平成3):175時間
- 1992年(平成4):149時間
ちょうど、バブルも真っ盛りのころ。「24時間戦えますか?」という栄養ドリンク・リゲインのキャッチコピーが流行語大賞の銅賞になったのは1990年だった。
当時ほどの所定外労働時間ではないものの、いまも同じ水準に近づいていることがわかる。
なぜ、残業は増えているのか
「日本の企業は不況のときに労働者を解雇しない。平時はある程度残業をしてもらって景気が悪くなると残業を少なくして調整してきたという背景があります」
労働基準局労働条件政策課の担当者は、BuzzFeed Newsの取材にそう語る。
そもそも日本では、企業側が解雇や雇い入れの調整をしないため、失業率が低い一方で、好景気のときは労働者それぞれの残業が増えるのだという。
「所定外労働時間の増減が当時の景気動向に反応する傾向があります。バブルが崩壊した93年や、アジア金融危機があった98〜99年、ITバブルが崩壊した01〜02年、そして08年のリーマンショックに落ち込みがあることがわかります」
「いまは景気の回復局面にあるため、人手不足で残業が増えてしまっているのではないでしょうか」
24時間戦う時代ではない
ただ、少なくともこの25年間で所定外労働時間が最長になっていることは、厚労省としても喜ばしいこととは捉えていないという。
「24時間戦えますか、という時代ではない。介護や子育てなどで時間制約のある人が希望する時間だけ働けるよう、少子高齢化時代にフィットする働きかたを整備をする必要があります」
そのためには、ただ単に残業時間を減らせば良いのではない。
主要先進7カ国(G7)で47年連続最下位である労働生産性の向上や、パートの待遇改善、休み方の改革など、「働き方全体を見直していかないといけない」という。担当者はこう言う。
「そうしなければ、全体として大きなひずみが出てきてしまう。これからの労働力が確保できなくなってしまいます。男性も女性も高齢者も、それぞれが希望する分だけ働けるようにしていく必要があるはずです」
いまを生きる私たちが直面する、仕事にまつわるさまざまな課題……。
日々のもやもやを語り合う番組「もくもくニュース」では、上司と部下の「世代間ギャップ」から、これから働き方をゲストと一緒に考えます。