安倍首相は「限界」？それとも…？ 総裁選3選、新聞各紙の報じ方はこんなに違う

任期は2021年9月までだ。国会議員票では安倍氏が82％を取り石破茂氏に大差を付けたが、地方の党員・党友票は55％と、石破氏が善戦する展開となった。

安倍首相は憲法改正を目指すが、経済再生や財政再建、外交など課題は山積している。新聞各紙は一体、次の3年間をどう見据えたのか。

BuzzFeed Newsでは、全国5紙と東京新聞の社説を比較した。

読売新聞は冒頭から「惰性を排し、緊張感を持って内外の諸課題に取り組み、結果を出さなければならない」とのエールから始まった。

党員票が6割に届かなかったことについては、「安倍1強」への不満が背景にあるとし、「党内融和に努めることが大切だ」とアドバイス。石破氏にも「今後も一定の発言権を維持しよう」と投げかけた。

次の3年間は「長期政権の総仕上げ」になるとして、「社会保障制度改革や財政再建、憲法改正などが重要なテーマ」と主張。最重要課題は「経済再生」だとしつつも、「憲法改正の準備進めよ」と檄を飛ばした。

一方で、森友・加計問題で「長期政権の驕おごりや緩み」の指摘や「飽き」が生じているとし、「説明責任を果たし、信頼回復を図ることが肝要」と言及。

そのうえで、ポスト安倍の育成が求められているものとし、「次世代を担う人材が切磋琢磨することで、自民党の活力は高まる。それが政権浮揚につなが」る、と結んだ。

朝日新聞は冒頭から「1強の弊害に真剣に向き合わず、異論を排除し、世論の分かれる政策も数の力で強引に押し通す。そんな安倍政治はすでに限界と言わざるを得ない」と、批判を強めた。

まず、総裁選で石破派の斎藤健農水相がかけられた「圧力」にも触れ、こうした「安倍陣営のふるまい」が党員票の45％を取った石破氏への投票に影響した、と指摘。

「権力は腐敗する」というのが歴史の教訓だ、と強調。次の3年の任期には「真摯な反省と政治姿勢の抜本的な転換が不可欠」とし、「森友・加計問題に正面から取り組む」ことが必要だ、と繰り返した。

また、首相が実現を目指す憲法改正は「喫緊の課題」ではないとし、「長期政権の持てる力は、少子高齢化や年金・医療・介護など、国民生活に深くかかわる課題」に集中すべきと主張した。

そのうえで、「国民に向き合う覚悟」が問われているとし、さもなくば「国民全体の審判を受けることになる」と警鐘を鳴らした。

毎日新聞は今回の結果を冒頭で「自民党員の中にも批判や不満が根強いことを如実に示す結果」と総括。

党員票が55％だったことに触れ、「世論と議員意識の間に大きな落差があることが明白になった」として「全体で7割近い票を得た」とする安倍首相の「認識は甘い」とした。

石破氏の「正直、公正」のキャッチフレーズは、「首相の本質的な弱点や欠点を突いていた」と指摘。森友・加計問題などに触れながら、「独善的な姿勢は、もはや通用しない」とした。

今後については、「正面から向き合うべきは人口減少問題」と指摘。「改憲議論の必要性は認める」としながら、「自衛隊を明記すれば経済は上向き、人口減少問題が解消するわけではない」と、憲法改正路線を批判した。

そのうえで、安倍首相は「ポスト平成への橋渡し役」として、「政治への信頼を取り戻す」課題が、「首相を3選した自民党国会議員全てに問われている」と呼びかけた。

産経新聞の「主張」は「3年などあっという間」として、「安倍政治の総仕上げを図っていかねばならない」とするエールから始まった。

冒頭から「憲法改正を実現し、日本の未来を切り拓くことは、首相と自民党に課せられた重い責務」と指摘。「自民党は憲法改正の国民運動も始めるべき」として、議論の活発化を求めた。

一方で、「国民の信頼の確保」が重要と、財務省の文書改ざん問題などに言及。党員票が55％だったことに触れ、「謙虚で丁寧な姿勢で政権運営に当たる必要」があるとした。

そのうえで、防衛、外交、経済などの諸問題についても取り組む必要がある、と指摘。「東京五輪後の景気は楽観できない」として、「早急にデフレからの完全脱却を」と呼びかけた。

最後は10月1日の内閣改造について、「将来の国政を託すに足りるリーダーを育てる視点を」と訴え、結んだ。

日経新聞は、安倍首相が6年前に「経済再生を訴えて総裁になり首相に就いた」として、次の3年間には「社会保障・財政健全化など将来世代にも責任をもつ政治を」と呼びかけた。

首相が会見で「経済政策の実績を自賛」したことに触れながら、石破氏の主張にあるように「景気回復の実感を得られない地方や中小企業があるのも事実」とした。

社会保障制度の改革や、「先進国で最悪の財政赤字」が「最大の課題」と指摘。消費増税などを含む「財政健全化計画をつくり実行に移すべき」と求めた。

一方、総裁選の結果は「安倍政権への根強い不信や不満があることの表れ」とし、森友・加計問題について「むきになって反論」する場面などがあったと言及。「長期政権になればなるほど、周囲は甘言ばかりになる」として、「国民の声に耳を」とアドバイスした。

そのうえで、現状での憲法改正は「政権の体力をムダに消耗しかねない」と批判。「憲法論議を活発にすることは日本の将来にとって重要ではあるが、政権運営の優先順位をよく考慮すべきだ」と結んだ。

東京新聞は冒頭から、「国民の目の厳しさを、党員票が代弁していた」と指摘。「国民の声を畏れよ」という安倍首相への「注文」から始まった。

「当初の目標通りと平静を装うが、その心中は穏やかではあるまい」などとして、世論に近いとされる党員票の動きを「謙虚に受け止めるべきである」と呼びかけた。

こうした状態の背景には「公平、公正性が疑われる行政判断、強引な政権・国会運営」がある、と指摘。森友・加計問題に触れながら、「安倍氏の言動を振り返る限り、真摯な反省が感じられない」と批判した。

そのうえで、憲法改正について、改正に半数が反対する世論調査があるとして、「国民の反対・慎重論を押し切って改憲案の発議を強行するようなことは、絶対に許されない」と訴えた。

最後は「主権者たる国民を畏れ、その声に耳を傾けて政権運営に当たるべき」とし、「私たち国民」が、「法律の成立を強行してきた、同じ轍を踏ませてはならない」と呼びかけた。

産経、読売は首相の示す憲法改正に強く賛同する一方、その他の新聞はほかにも課題があるとして、そうした方向性に反対を示している。

各紙ともに、今後の政権運営において「謙虚」かつ「説明責任」を果たす政権運営をするよう、警鐘を鳴らしている。産経以外は森友・加計問題にも触れた。

また、書きぶりにも違いがあるのが印象的だ。安倍首相にアドバイスや檄を飛ばすような新聞社がほとんどの一方、東京は「私たち国民」が主体であることを最後に示している。