「出会い系サイトでサクラをしてしまったんです」女子大生が悔やむ3日間の仕事

彼女は自分を責める。働いた3日間で、文章を交わした男性会員は数十人にのぼった。

    「出会い系サイトでサクラをしてしまったんです」女子大生が悔やむ3日間の仕事

    彼女は自分を責める。働いた3日間で、文章を交わした男性会員は数十人にのぼった。

    「私、出会い系サイトでサクラのアルバイトをしてしまったんです。なかったことにしたくないから、せめて誰かに伝えたくて」

    涙を流しながらそう語るのは、関東に暮らす20代の女子大生だ。

    彼女は、出会い系サイトで女性会員になりすます「サクラ」として、男性会員とやりとりをしていたという。

    働いたのは3日間。だが、自責の念に駆られた。いったい何が彼女を苦しめたのか。いま、どんな思いでいるのか。BuzzFeed Newsは話を聞いた。

    大手アルバイト求人情報サイトでの求人内容には、「アプリの運営サポート」との記載があった。そこには「出会い系サイト」はおろか、それを匂わせる文言はない。

    「楽しそう」。アプリの仕事に興味があり、単純にそう思った。そして、応募した。

    後日あった面接でも、出会い系サイトのサクラの仕事だとは明かされなかったという。面接官には「マッチングアプリで、問題のある発言をしたユーザーと会話し、対応する仕事」と言われるだけだった。

    「機械的にどんどん返信した」

    合格通知を受けると、初出勤した。そして、仕事内容が「サクラ」だとようやくわかった。

    男性会員に対し、相手が返信しやすいような言葉を送り、できるだけ会話を長引かせる仕事だった。

    やりとりが増えれば増えるほど、男性会員は課金しなくてはならないシステムだったからだ。

    彼女は、同僚の指導を受け、パソコンのキーボードを叩いていった。

    "女性のファッションって、かわいい系ときれいめだったらどっちが好き?"

    "もう昼ごはん食べた?"

    "今日どっか行ったりするの?"

    男性会員に送るメッセージは、基本的に自分で考えた。テンプレートも用意されていたという。

    「機械的にどんどんメッセージを送り、返信をしていきました。頭を使う仕事ではなかったので、疲れることはありませんでした」

    「それに仕事さえしていれば、お菓子を食べても、音楽を聞いても良かったんです」

    利用者の多くが高齢者だった

    業務をしたオフィスは24時間体制で、数十人が働いていた。同時並行で複数の男性会員とやりとりし、次々と返信していく。

    働いた3日間で、文章を交わした男性会員は数十人にのぼった。

    相手は、多くが60~70代の高齢者といった印象があった。一部に20代や30代の若い人もいたけれど。

    大抵の男性会員は課金したくないので、早く会おうとする。そのため、あえて会う約束を取り付けることもあった。

    ただし、男性会員に待っているのは、ドタキャンだ。当日になると「仕事が長引いたので、今度でいい?」とのメッセージが常套句だったという。

    反応はさまざまだった。「サクラでしょ?」と疑う人や、怒る人。改めて会えそうな日を尋ねる人もいた。

    「許せない」との感情

    そうやって働く中、男性を騙す業界や会社、そしてサクラの存在に苛立ちを覚え、初日から「許せない」との感情がこみ上げた。

    一方で、違った感情も芽生えた。同僚の優しさに触れ、見知らぬ相手とのコミュニケーションのおもしろさを少し感じた。それに「せっかくアルバイトを始めた」という思いもあった。

    彼女の中でいろんな感情が交差したが、それでも「許せない」気持ちが勝った。インタビュー中、涙が彼女の頬を伝った。

    「せめて誰かに伝えたくて。将来、困っている人のためになる仕事をしたいな、と言いながら、3日間であってもこんな仕事をしてしまったんです。人を傷つけるような仕事を」

    「モラル的に間違っているのが、気持ち悪くて許せなかった」

    彼女はいま、サクラのアルバイトを正式に辞め、別のアルバイトを始めた。いまも働いた後悔を募らせる。

    「サクラのようなイリーガルな仕事は、存在し続けるかもしれません」

    「でも、やっぱりなくなってほしいし、サクラとして働いている人には辞めてもらいたいです」


    「詐欺罪になり得る」と弁護士

    弁護士はどう見るのか。BuzzFeed Newsは及川善大弁護士(及川法律事務所、山形市)に聞いた。

    及川弁護士は、お金を騙し取る出会い系サイト、いわゆる「サクラサイト」の被害の問題に詳しい。

    運営側が、サイト利用者から「お金を騙し取るという目的があれば、詐欺事件になる可能性があります」と及川弁護士は指摘する。

    「そもそも出会えないのに、嘘をついて出会えると勘違いをさせて、お金を払わせます。それにより、お金が被害者から加害者に移れば、詐欺罪になり得ます」

    また、アルバイトの場合でも、お金を騙し取ると認識したうえで、サクラをしたとなると、共犯や幇助犯(ほうじょはん)になる可能性が考えられるという。

    及川弁護士は近年、サクラサイトに被害者を登録させる手段が変わってきたとの印象を持つ。

    まずマッチングアプリやSNSを介して最初の接点を持つ。そして、「今後の連絡はこっちでやろう」とサイトに誘導し、登録させるといったケースが増えてきているというのだ。

    そんなケースを含めて、被害金額はさまざまで、1万円に満たない人もいれば、1千万円を超える金銭を失った人もいる。

    では、被害に遭った人はどうすれば。

    代表的な手段は、悪質な業者を相手取った「損害賠償請求です」と、及川弁護士は話す。

    「全国で、(サクラサイトの被害救済のために)弁護士が有志で集まって、弁護団として対応しているケースがよくあります」

    「でも、弁護士に相談するよりも、消費生活センターのほうが相談しやすいかもしれません。そこから弁護士につないでもらえる場合があると思います」