大相撲の春巡業で4月4日、土俵上で市長が倒れたため、心臓マッサージをした女性に対し、「女性は土俵から下りてください」との場内アナウンスが流れる騒動があった。
人命救助が必要な状況で、女人禁制の伝統を優先したのはいかがなものか、と批判が噴出した。その後も「土俵の女人禁制」に着目した報道が続いている。
そんな中、ある医師が、心肺蘇生法を覚えてもらう良い機会になればとイラストを作成。Twitterに投稿したところ、大きな反響があった。
描いたのは、乳腺外科医の永田礼路さん(@nagatarj)。「土俵の一件で、蘇生処置のリアルな様子をニュースで多くの人が見ており、関心を持ってもらえる良い機会だと思いました」とBuzzFeed Newsに語る。
報道を見ながら、蘇生処置のやり方に対する言及が少ない印象を持った。
学校や自動車学校などでやり方を習った人は多くいるはずだが、忘れてしまう人は多いはず。また、JRC蘇生ガイドラインの改訂により、覚えているのは古いやり方かもしれない。
そのため、イラストを描いて伝えようと考えたという。
漫画家でもあり、適任だと思えた
永田さんは医師として働くかたわら、漫画「螺旋じかけの海」を出している漫画家でもある。どう伝えれば、興味がない人の関心を引きつけられるか普段から考えている。
Twitterで伝えるなら、自分が適任のように思えた。内容を心臓マッサージに絞り、完成したイラストがこれだ。
医療情報であり、個人の投稿でも内容に対して責任をとる必要がある。なので、ツイートするのは緊張した、と永田さん。
心肺蘇生のやり方は「一般の方が覚えてこそのもの」とし、心理的なハードルを下げ、「これならわかる」と思ってもらえるよう意識したという。
「救命措置への理解が広まる一助に」
永田さんのツイートは4月19日現在、4万件以上リツイートされ、イラストにはTwitterで「わかりやすい」「継続しないと忘れるし、パニックになると頭が真っ白になるので、とてもありがたい」など多くのコメントがついた。
大きな反響に「個人で恐る恐る作ったものですが、多くの人に心肺蘇生に関心を持ってもらえ、驚きつつも嬉しく思っています。 救命措置への理解が広まる一助になれば幸いです」としている。
救急車が到着するまでの時間
なぜ手順を覚えておくことが大切なのか。BuzzFeed Newsは東京消防庁にも話を聞いた。
東京消防庁によると、東京都内では出動要請を受けた救急車が現場に到着するまで、平均7〜8分かかる。
人によっては短いと思うかもしれない。
しかし、この時間が「傷病者の生命を大きく左右することになる」といい、「救急隊員や医療従事者では決して埋めることのできない時間」だと説明する。
「その場に居合わせた人『バイスタンダー』が応急手当を速やかにすれば、傷病者の救命効果が向上し、治療の経過にも良い影響を与えます。実際の救急現場においても、応急手当を行って救急隊に引き継ぐことで、尊い命が救われた事例が数多くあります」
だからこそ、日頃から心肺蘇生など応急手当に関する知識と技術を身に付けておくことが大切だという。
どんな気持ちでいれば
では、目の前で傷病者を見つけたら、どのような気持ちでいることが望ましいのか。
「大切なのは、落ち着いて、目の前に倒れている人を救うために『自分にできることを行う』という気持ちです。あなたの大切な人を、そして誰かの大切な人の命を救うために」
自分のできること。それは、大声を出して心肺蘇生をできる人を探すことや119番通報、AED(自動体外式除細動器)を運ぶことかもしれない。
頭ではやり方を理解していても、すぐに正しい行動に移せるわけではない。なので、東京消防庁では、全国の自治体などと同様に、心肺蘇生やAEDの使い方、けがの手当など応急手当を習得できるよう、救命講習を開催している。
「脈がある」「呼吸がある」と捉えて、心肺蘇生やAEDによる救命行動を取らなかったことで死亡した事例もある。
突然、心停止になった時に起きる「死戦期呼吸」とは何か。どう対応すればいいのか。心臓病や不整脈に詳しい医師にインタビューした記事はこちら。
また、心配蘇生やAEDの使い方について詳しく知りたい場合は、日本救急医学会の「市民のための心肺蘇生」が参考になる。