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社民党、ギリギリで政党要件を維持。でも「復活」は厳しそう。

今回の選挙戦では、吉川元・幹事長、福島瑞穂・副党首が選挙戦を率いた。2人が街頭で有権者に訴えたのは、「崖っぷちの戦い」という言葉と「2%」という数字だ。

7月21日投開票の参院選で、社民党が政党要件を維持できることが確実となったと共同通信などが伝えた。しかし、今後の党勢復活への道は非常に険しいものとなりそうだ。

演説で叫んだ「2%」の意味

今回の選挙戦では、議員引退を表明した又市征治党首に代わって、吉川元・幹事長、福島瑞穂・副党首が選挙戦を率いた。

2人が街頭で訴えたのは「崖っぷちの戦い」という言葉と「2%」という数字だ。

選挙戦最終日の7月20日、東京・吉祥寺駅南口での「最後の訴え」。福島副党首は、こう気炎を上げた。

「2%以上を比例区で獲得しなければ、国会での政党要件を失います」

21日午後8時の投票終了後、連立与党の自民・公明の堅調ぶり、立憲民主の好調が伝えられる中、社民党の開票センターは重苦しい空気が支配した。

公選法は政党要件について「国会議員5人以上」か「直近の衆院選か参院選で、全国で得票率2%以上」と定めている。

社民党は比例区で吉田忠智氏の当確が伝えられたが、それでも所属する国会議員は4人にとどまる。一方の得票率を見ると、2017年総選挙の比例区得票率では「1.69%」と2%を割っていた。

そのため、今回も2%を下回ると政党要件を失う公算が大きかった。これが「2%」にこだわった理由だ。

瀬戸際での政党要件維持、福島副党首「良かった」

社民党が政党要件を確保し1議席を得ることができました。本当に良かったです。ただ、素晴らしい候補者たちを当選させることができず残念です。これから何をどうやっていくのか多くの人たちと話をし、力を合わせていきたいと思います。

開票センターに詰めていた党関係者は、政党要件を失うという最悪の事態を想定しつつ、開票特番を見ながら比例区の開票率を案じていた。

社民党の開票センターは貸会議室だったため、22日午前2時には報道陣にも撤収が告げられた。

結局、政党要件の維持が報じられたのは、開票作業があらかた終わった22日の朝だった。福島副党首は「本当に良かった」とツイートで安堵の色を見せた。

労働界の変化が社民党の衰退につながった

かつての「55年体制」では自民党と議席を二分した社会党。その党勢は、なぜこれほど衰退したのか。

前身の日本社会党(社会党)時代は、労働組合の総元締め(ナショナルセンター)だった「日本労働組合総評議会(総評)」の組織力を背景に支持を集めた。

総評は、太田薫や岩井章などのリーダーの下、強力な組織力をもって時にはストライキも決行。「昔陸軍、今総評」と揶揄されるほどの大きな政治力を持っていた。

しかし高度経済成長で産業構造と労働者の意識が変化。「一億総中流」と言われるようになると、ホワイトカラーの間では「労働者」という言葉すらも避けられるようになった。

この間、党委員長には土井たか子氏が就任(1986年)。憲政史上初の女性党首として人気を集めた。労組ではなく学者出身の委員長も異例だった。

のちに党首になる福島瑞穂氏、現在は立憲民主党の政調会長の辻元清美氏など、女性政治家が活躍するきっかけにもなった。

やがて、時代は昭和から平成へ。世界ではベルリンの壁が崩壊、東西ドイツが統一。米ソ冷戦が終わり、時代は大きな変化を迎えていた。

この頃、ライバルの自民党は、竹下政権下で明るみになった「リクルート事件」に端を発した「政治とカネ」の問題や、宇野宗佑首相の女性スキャンダルで一気に支持を失った。

政治不信が蔓延していた89年7月の参院選、ついに与野党が逆転する。土井委員長は「反消費税」を掲げて、「ダメなものはダメ」「やるっきゃない」などのフレーズで支持を広げた。

土井委員長が社会党を勝利に導いたドラマチックな展開は「マドンナ旋風」として報じられた。

選挙結果を受けて土井委員長が述べた「山が動いた」という言葉は今なお語り草となっている。

ところがこの年、最大の支持層である労働界で大きな動きがあった。

1989年11月、「総評」は「全日本労働総同盟(同盟)」と合流し、「日本労働組合総連合会(連合)」となったが、その連合は支持を民主党(当時)に変えた。

こうした労働界の大変化は、社民党にとって大きな打撃となった。

旧総評系の票、社民→立憲民主へ移動か

社民党は、組合に頼りきりだった体質を変えられず、新たな支持層を開拓できなかった。吉川幹事長もBuzzFeed Newsに対し、総評の解体など労働運動の衰退が党勢衰退の原因だという認識を示した。

一方で旧総評系の票は、どこへ消えたのか。

朝日新聞によると、今回の参院選で立憲民主党が比例区で当選確実となった上位5人の顔ぶれはこうだった。

  1. 岸真紀子氏(自治労)
  2. 水岡俊一氏(兵庫県教組)
  3. 小沢雅仁氏(郵政労組[旧全逓])
  4. 吉川沙織氏(NTT労組[旧全電通])
  5. 森屋隆氏(私鉄総連)


なんと、5位まで全員が旧総評系労組の出身だった。

党勢回復の具体的プランを聞いたが…

7月22日午前1時半、比例区の投票率が確定しない中、吉川元・幹事長と福島副党首は記者会見を臨んだ。その表情には、不安の色が浮かんでいた。

党勢回復の具体的なプランはあるのか。BuzzFeed Newsの質問に、吉川幹事長はこう語った。

「社民党には地方議員がいる。選挙戦を通じて感じたが、地域では様々な課題がある。秋田であればイージス・アショアの問題、原発があるところでは脱原発。こうした地道な活動と党の活動をつなげることが課題だ」

「これまでも努力してきたが、あくまで生活者の中から湧き出てくるような課題を等が積極的に取り上げる。それが社民党の良い点だと思う」

「(有権者に)訴える力をどうつけていくのかも課題」

崖っぷちでも「内向きの選挙」から脱皮できず

辛うじて2%のボーダーラインをクリアしたとはいえ、社民党をめぐる厳しい状況は変わらない。

吉川幹事長は「国会議員は4人だが、地方議員・党員からは党を残さなければならないと感じたことで、最後まで戦い抜くことができた」と語る。

だが、それではかつての「労組頼み」「組織頼み」の内向きの選挙戦と変わらない。その姿勢は、SNSでの広報戦略にも表れていた。

今回の選挙期間中、社民党の公式Twitterは所属する国会議員や候補者、地方組織、政治姿勢が近い有識者や団体のツイートをリツイートすることが運用の中心だった。

福島副党首は無党派層に支持を広げるためにインターネットやSNSでの発信力を高めたいと述べたが、そのハードルはとても高いように思える。

「復活の日」は来るのか

立憲民主党や日本共産党など、護憲勢力が他にある中で、社民党は埋もれがちだ。

今回は、経済政策では立ち位置が近い新興の政治団体「れいわ新選組」にも得票数で後塵を拝した。

「護憲」を旗印に戦後の55年体制の片翼を担い、2人の首相を輩出した「日本社会党」の流れを組む社民党に復活の日が来るのだろうか。

その答えは、次の選挙で明らかになるだろう。