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「息子はどんどん痩せていった」食事は運転中におにぎり、43歳コンビニ配送ドライバーが過労死認定

息子に弁当を作っていた母親は、「息子から『運転しながらだとおかずは食べることができないから』と言われたので、おかずは持たせていませんでした」とコメントした。

長野市内のトラック運転手男性(当時43)が今年1月6日、配送業務中に長野県上田市内のコンビニ駐車場で倒れ、搬送先の病院で亡くなった。長野労基署は8月24日、男性が過労死だったと認定した。遺族代理人の弁護士が8月31日、厚生労働省で記者会見し、明らかにした。

男性は信濃陸送(長野県)の長野市内の営業所に勤務し、担当地域である長野県上田市のコンビニへの配送業務を行っていた。

入社は2016年3月。正社員として雇われた。主な担当業務は、センターでの検品作業、トラックへの荷物の積み込み作業と、コンビニへの配送作業だった。

男性は長期にわたって、長時間労働を続けていた。毎日の出勤は正午ごろで、勤務が終わるのが翌日の午前2時ごろだった。1勤務あたり配送センターと各地のコンビニ店を2往復するのが、ルーチンだった。

亡くなる直前の1カ月間の時間外労働は114時間で、拘束時間は314時間13分だった。労基署の認定では、時間外労働は発症前の1カ月間で114時間、それ以前はそれぞれ96時間、103時間、117時間、135時間、131時間……となっていた。

入社後、男性の体重は激減した。健康診断の記録によると、2016年3月の入社時に66.9キロあった体重は、10月には59.6キロになっている。同じ健康診断によると、男性に既往症はなかった。

男性は家族に「忙しくて、運転しながらおにぎりを食べる状態だ」と語っていたという。

亡くなったその日

男性は、長野市内の事務所に出勤した後、市内の配送センターでトラックに荷物を積んでから、上田市内に向かった。そしてその日1つめの配送先である、上田市内のコンビニで荷物を引き渡したあと、トラック付近で倒れた。

男性はコンビニ店員の119番で、病院に搬送されたが、亡くなった。死因は「急性大動脈解離」と診断された。

見過ごされた長時間労働

遺族側の代理人、川人博弁護士は会社の労務管理には大きな問題点があったと指摘する。

厚労省の基準(自動車運転者の労働時間等の改善のための基準)によると、拘束時間は1カ月293時間・1日13時間を超えないものにすることが求められている。しかし、男性の拘束時間は多い月だと333時間37分に及んでいる。

川人弁護士は語る。

「トラック運転手はタイムカードやアルコールチェッカーの記録、デジタルタコグラフなど、数々の証拠があるので、時間外労働を把握するのは容易でした。それにもかかわらず、長時間労働を是正した形跡が見当たらない。長時間労働を放置したということで、安全配慮義務違反になると考えています」

さらに男性が亡くなってからの対応にも疑問があるという。

「会社は当初、遺族に対して、本件は労災申請が難しいと言っていました。しかし、遺族が私たち弁護士に相談し、弁護士から労災認定をする意向を伝えたところ対応が大きく変わりました。会社はできれば労災申請をしてほしくなかったのだと思います。こうした問題ある対応をする会社は、残念ながら少なくありません」

遺族が弁護士を雇って以降、会社は資料提出などに協力的になった。さらに会社側は代理人に対して、未払い賃金として200万円を支払う意思があると伝えてきたという。

信濃陸送はBuzzFeed Newsの取材に対し「不幸な事態が起きてしまいました。ご遺族にもご冥福をお祈りするしかございません」とコメント。労災をめぐる労基署の調査に協力しており、遺族にはその過程で判明した未払い残業代を支払うと述べた。また、社内の労務管理については「労基署の指導に従い、状況改善に向けて動いております」と話した。

配送ドライバーという厳しい仕事

厚労省の統計によると、「道路貨物運送業」は、脳・心臓疾患の労災年金支給決定件数が最も多い業種だ。

川人弁護士によると、その背景には、次のような理由があるという。

1. 天候、道路状況、明るさなど、刻一刻と状況が変化する中で、一瞬たりとも目を離せない。継続的に強い精神的緊張を強いられる。

2. 緊張と長時間の姿勢維持のため、筋肉の疲労を来しやすい。

3. 不測の事故の危険性を常に意識しているため、ストレスが多い。

4. 乗務が不規則で早朝・深夜帯もあり、家族と生活パターンがあわない。

5. 長時間乗務が多く、休憩が取りにくい。

6. 運転以外の業務も仕事とされているため、負担が大きい。

7. 時間に間に合わないといけないので、プレッシャーがある。

ところが、政府の働き方改革では、運送業は、建設業・医師とともに、長時間労働規制の対象から外れている。

川人弁護士は「このような姿勢は、働く者の命と健康を守る立場からは、全く納得がいかない。交通安全の観点からも問題だ。法律による適正な長時間労働規制が必要だ」と強調していた。

「おかずも持たせてやりたかった」

亡くなった男性の母親が、代理人を通じて発表したコメント(全文)は次のとおり。

《今回、私の息子が急性大動脈解離で亡くなったことについて、労災申請から4カ月余りで、労災認定されたことにつき、長野労働基準監督署に感謝申し上げます。私が労災申請したのは、息子が生前帰宅する時間が大変遅く、深夜の3時頃に帰ってくるなど大変そうな仕事の様子を母親として案じていたからでした。

息子は、コンビニエンスストアに商品を配送する物流会社のトラック運転手として長野県内をトラックで駆け回っており、食事をとる時間もないくらい多忙でした。私は、息子の出勤日には、毎日おにぎりを2個握って持たせてやっていました。息子の話ではご飯を食べる時間がとれないくらい忙しいということでした。おかずも持たせてやりたいという気持ちもあったのですが、息子から、「運転しながらだとおかずは食べることができないから」と言われたので、持たせていませんでした。

息子は、配送ドライバーとして働くようになってから、常に疲れた様子でいましたし、表情も暗かったことを覚えています。腰と足が疲れるようで、息子が腰をおさえている様子を見たことがあります。息子は、どんどん痩せていっていました。会社に入社したころ(平成28年3月)には67kgくらいあった体重が、7カ月程度(平成28年10月の健康診断)で59kgくらいにまで減少してしまっていました。息子は、貨物の配送中に倒れ、救急搬送されましたが、私が病院に駆けつけたときにはすでに息を引き取っていました。

息子は、寡黙でしたが、働き者で、優しい性格でした。おとなしく、いつも控えめだったと思います。そんな息子に二度と会えないと思うと残念でなりません。

現在、過重な労働によって健康を害したり、ときには息子のように命を落としたりする方が他にもいることを悲しく思います。企業による労務管理の改善、国の企業への指導のあり方の改善を切に願います。》