保護された先にある場所。虐待された子どもたちが暮らす施設を訪ねた

    タレントの眞鍋かをりさんが、児童養護施設「赤十字子供の家」を取材しました。

    今年6月、イラストエッセイストの犬山紙子さんの呼びかけで「#こどものいのちはこどものもの」というチームをタレント5人で結成し、児童虐待をなくすための活動を始めました。

    これまで虐待のニュースを聞くたびにつらい気持ちになっていましたが、両親から虐待を受けて亡くなった東京都目黒区の船戸結愛ちゃんの事件を受けて「もう我慢できない」と思い、声をあげようと決めました。

    企業や行政に取材をしたり、メディアでお話をさせてもらったり、厚生労働省に要望書を提出したりと、自分たちにできることを探しながら活動を続けているところです。

    保護された子どもたちが過ごす場所

    そんな中、どうしても一度訪れたかったのが、児童養護施設です。

    虐待を受けた子どもにとって、せめて保護された先はあたたかい場所であってほしい。そんな思いから、東京都武蔵野市にある「赤十字子供の家」をたずねました。

    迎えてくださったのは、園長の寺田政彦さんと養護係長の須藤陽子さんです。

    赤十字子供の家では、基本的に2歳〜6歳の小さな子たちが、7人ずつの小規模なグループを作って暮らしています。本園とは別に、近隣に一軒家を利用したグループホームもふたつあります。

    今回は、本園のひとつのグループのお部屋にお邪魔させていただきました。園庭から玄関を入ると、対面型キッチンがついた明るいダイニングスペースで、子どもたちがワイワイとおやつを食べていました。

    「パっと見は、普通の日常生活に見えると思います。起きて、ご飯を食べて、寝て、という当たり前の生活です」

    寺田園長が言う通り、みんなで楽しそうにおやつを食べている様子は、よくある子どもの日常風景のように見えました。「遊ぼう!」と声をかけると、かけよってきて抱っこをせがんできたり、お気に入りのおもちゃを見せてくれたり。無邪気な笑顔は本当にかわいらしく、心から癒されました。

    虐待が理由で入所する子どもが増えている

    しかしながら、ここにいる子どもたちは皆、さまざまな問題を抱えているのです。

    約6割が、虐待を受けた子ども。ほか、親の疾病などにより養育困難になったなど、さまざまな理由で子どもたちが入所してきますが、ここ10年で虐待によるケースが増えている、と寺田園長は感じているそうです。

    一見、どこにでもいる人懐こくてかわいい子どもたち。でも、心に傷を負った子どもたちには、課題の高さによる問題行動や、成長がゆっくりな面があります。子どもたちは施設で生活しながら、心理的ケアを受けているそうです。

    さらに、こちらでは週一で作業療法士や言語聴覚士を配置して、子どもの心身やコミュニケーション力の回復にも力を入れています。これは、他の施設ではあまりない取り組みなのだそうです。

    また、武蔵野赤十字病院が隣にあることから、病気や障害などにより医療的サポートが必要な子どもも多く入所しており、そういった子どもたちへのケアにも力を入れています。

    5割が家庭に戻る

    しかし、児童虐待においてケアを必要としているのは子どもだけではありません。虐待をした親もまた、子どもと適切に関われるようになるためのケアを受ける必要があります。

    赤十字子供の家は、子どもの家庭復帰に力を入れているのも特徴です。

    基本的に未就学児が暮らす施設なので、就学のタイミングで次のステップに進まなくてはなりません。その際、家庭復帰するケースは全体の約5割。里親さんに引き取られるケースが2割、残りの3割が他の児童養護施設へ生活の場を移すそうです。

    「5割も家に戻してしまうの......? 虐待した親の元に返して、子どもたちは大丈夫?」

    お話を聞いて、どうしても気になったのがそこでした。期限までに、ほんとうに家庭環境が改善するのでしょうか。

    「改善するケースも多いです。家庭復帰をするために必要なのは『措置理由の解消』です。生活環境を整えたり、子どもとの関わり方を学んだり、措置理由が疾患であれば治療を受けてもらったりして、復帰できる状態を目指します」

    そんな寺田園長の言葉を聞いて、少しホッとしました。

    児童相談所や専門スタッフと連携し、面会が可能だと判断した場合は、親子でグループワークに参加するなど、さまざまなケアを受けながら家庭復帰を目指します。施設内にある宿泊訓練室などの個室を利用して親子が一緒に泊まったり、外泊をしたりもしながら、家庭に戻る練習をしていくのだそうです。

    期限が決まっているからこそ

    とはいえ、施設を出る期限があるというのは、子どもにとって酷なのでは…?

    そんな心配が頭をよぎった矢先、寺田園長のおっしゃった言葉が深く心に刺さりました。

    「ゴールが決まっていることで、私たちはそこに向けてプログラムを組み、全力で形にする努力をします。期限があるからこそ、そこを目指して集中して頑張れるんです」

    目から鱗が落ちました。タイムリミットがあることを「デッドライン」と捉えれば「施設を出なければいけない」となりますが、それを「ゴール」と捉えれば、本気で改善に取り組むことができる。

    実際に家庭復帰させるかどうかは、施設職員や児童相談所の担当職員が状態を見て総合的に判断するそうです。そして、復帰させるときは再発防止のため、児相、子ども家庭支援センター、保育園、学校、保健師などと連携し、万全の見守り体制を敷いてからにするのです。

    児童虐待のニュースを目にするたび、どうしてこんな酷いことができるのかと、親への怒りを抑えられない人も多いと思います。子どもが命を落とす前に保護されれば、「良かった」と胸をなでおろすこともあるでしょう。

    でも、子どもたちにとっては、決してそこで終わりじゃない。傷ついた子どもたちにプロとして向きあっていらっしゃる施設の皆さんの姿を見て、これはもっと私たちが社会全体で関わらなければいけない問題だと感じました。

    デザインした美大生の思い

    赤十字子供の家の園舎は、まるで美術館のように素敵なデザイン。今年2月にリニューアルオープンしたばかりです。これは多摩美術大学との産学協同プロジェクトによるものだそうで、洗練されていながらも温かく優しい雰囲気が印象的でした。

    「多摩美さんにデザインしてもらって本当に良かったと思っています」

    と、寺田園長も太鼓判を押します。

    リニューアルするにあたって、まず多摩美が施設側の思いを詳しくヒアリングし、その思いをもとにデザインして、形にしたのだそう。建物をぐるりと見渡せる広い園庭や、木のぬくもりが感じられる部屋は、子どもの成長にも良い影響を与えてくれそうだなと感じました。

    私たちでもできること

    建築費用のうち不足分は、クラウドファンディングでまかなったそうです。

    「赤十字の施設ということで、資金は潤沢だと思われることもありますが、そんなことはありません。お金の面ではつねに大変です」

    と、寺田園長は言います。私もてっきりそう誤解していたのですが、児童養護施設が金銭的に厳しいのは赤十字といえども例外ではありません。

    運営費も寄付に頼るところが大きく、クラウドファンディングを利用するアイデアも赤十字東京都支部からの提案だったそうです。目標額は500万円でしたが、最終的にその倍、1千万円以上が集まりました。

    こうした寄付型のクラウドファンディングは、成果が目に見える形でわかります。そのぶん、通常の寄付よりもアクションを起こしてもらいやすいのかもしれません。 児童福祉にクラウドファンディングを活用するというのは、とても有効な手段なのかもしれないと感じました。

    そして、多摩美術大学との産学連携も、とても良いモデルケースになりそうだと思いました。福祉や教育といった分野だけでなく、あらゆる学科で、大学と児童福祉はつながれるのかもしれません。赤十字子供の家の取り組みは、いろんな可能性を感じさせてくれました。

    最後に、寺田園長に「私たちでもできること」を教えてもらいました。

    「施設は暗い、というイメージを持つ方も多いですが、それがなくなればいいなと思います。子どもたちのプライバシーを大切にしつつ、地域との関わりを大切にしたいと思っています」

    新しい園舎には、子どもたちの生活空間とは別に、地域の人たちが利用できるイベントスペースが設けられています。ここではさまざまな行事や教室が開催されていて、赤十字子供の家と住民の方が交流する場にもなっているそうです。

    大切なのは、まず知ること。もっと私たちが児童福祉の現実を知って、ひとりひとりが「社会の一員として子どもを育てる」という意識を持つことで、子どもたちの笑顔につながればいいなと思いました。

    眞鍋かをり(まなべかをり) タレント

    1980年生まれ、愛媛県出身。横浜国立大学卒業。大学在学中からタレント活動を始める。テレビ出演、イベント出演、執筆など幅広く活動。 オフィシャルブログはこちら


    BuzzFeed Japanは、児童虐待や子どもの権利に関する記事に #ひとごとじゃない のハッシュタグをつけて、継続的に配信していきます。