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日本の結婚は不平等 同性カップルが裁判に訴える理由

同性が結婚できないことは「法の下の平等」に反する。世界に広がる結婚の平等を求める運動が、日本でも本格化する。

同性が結婚できないのは憲法が定める「法の下の平等」に反するなどと訴える集団訴訟が2月に始まる。いわゆる同性婚について裁判で問う国内初の事例だ。原告団に加わる同性カップルが1月4日、BuzzFeed Newsの取材に応じた。

埼玉県川越市在住で、共に別々のIT企業に務める相場謙治さん(40)、古積健さん(44)。2008年に友人を通じて知り合い、翌年から同居。家族や職場にも関係をオープンにし、2013年11月には都内のホテルで結婚式も挙げている。

だが、法的には2人は婚姻関係にはない。

日本では同性の婚姻は憲法や法律で禁止されてはいない。だが、自治体は婚姻届を受理をしない。相場さんと古積さんもこの日夕方、事前に市役所に連絡した上で婚姻届を提出した。しかし、「同性婚は現行法で定められていない」との理由で受理されなかった。

政府も2018年に国会で「同性婚は認められておらず、同性婚をしようとする者の婚姻の届け出を受理することはできない」と答弁している。つまり、異性同士の婚姻のみを法的に認めるという立場だ。

「結婚の自由をすべての人に」と銘打った集団訴訟は、2月中旬に10組のカップルが全国4ヶ所で提訴する。

法的な婚姻を求めるのはなぜか。同性の婚姻を認めないことにどういう問題があるのか。BuzzFeed Newsは相場さん、古積さんの2人と弁護団に話を聞いた。

法的に2人の関係を証明する方法がない

裁判は国家賠償を請求する形となるが、2人は「お金が目的ではない」と話す。欲しいのは金銭ではなく、同性の結婚が法的に認められることだ。

法的に結婚が認められないことによる課題は多い。2人がまず口にしたのは「万が一のときのため」だ。

例えば、パートナーが病気や怪我で入院をした際、病室に入ろうにも、手術の方針を話し合おうにも、法的にパートナーとの関係を証明できない。不幸にも相手が亡くなった際、相続関係にもない。

同じ戸籍に入ることはできず、税金の配偶者控除もない。夫婦の名前を記載するあらゆる公的な書類に名前を書けない。

2人は健康で、入院や相続などの差し迫った必要性は感じていない。だが、こんなことがあったという。

保険会社でも同性カップルを対象にしたサービスが増えている。そこで、生命保険を申し込んで受取人をパートナーにした。そうすると異性カップルには認められている控除が、同性カップルである二人には認められなかった。

同性の婚姻が法的に認められていないことに起因する不平等は、生活の様々な場面に及ぶ。弁護団の喜田康之弁護士は、次のように説明する。

「裁判をするというと、何か特別な権利を求めているように思われがちだが、権利を求めているというより、平等な扱いを求めている。異性カップルが通常持っているパッケージを受けたいと主張しているということを理解して欲しい」

「自分たちだけのためじゃない」

異性カップルが当たり前に持っている権利を自分たちにも平等に認めて欲しい。その訴えは「自分たちのためだけじゃない」と2人は話す。

レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダーの頭文字をとったLGBTという言葉の認知は少しづつ高まり、同性愛者など性的少数者への理解も以前よりは広がった。しかし、社会には誤解や偏見、差別が今も残る。

2人にも差別的な発言や扱いを受けた経験がある。結婚式のときにも、辛い思い出があるという。

「結婚式に来ること自体がカミングアウトになってしまうので参加できないという友人がいた。本来は幸せなお祝いの場なのに」

この日、婚姻届を出したときも、担当者は「不受理になりますが」という前提で婚姻届を受け取ったという。

「異性カップルだったら『おめでとうございます』と受け取ってもらえるのに、同性だと『法的に想定されていないので』という理由で不受理になる。わかってはいたけれど、重い気持ちになった」

「同性だから結婚できない。同性愛者だから認めてもらえない。そんなことはもう終わりにしたい」

当事者からも「なんでこういう活動をするのか」と問われることがあるという。顔や名前を出して前面にたてば、誹謗中傷を受ける恐れもある。2人で幸せに暮らしているならば、それでいいじゃないかという声だ。

それでも2人が前に出て話すのは、誰かがそうしなければ社会は変わらないという思いからだ。

2人とも、小学生の頃に同性が好きだと意識したという。でも当時、同性愛者について説明してくれるメディアや先生はいなかった。一方で、性的少数者を笑い者にするような言動は、そこら中にあった。

「死を選ぶ人もいる。そういう人を一人でも減らしたい。同性を好きになることは変なことじゃない。そんな情報を増やしていきたい」

「最後に残っているのが国」

2人の職場は共に外資系で、同性婚も異性婚と同じように扱う制度があるという。だから、結婚の祝い金も結婚休暇ももらった。前述のように、生命保険など同性カップルを対象としたサービスも増えている。

「社会のいろんな部分が変わってきても、最後に残っているのが国」と古積さんは話す。

行政においても自治体レベルでは同性パートナーシップを認める条例が増えてきたが、法的な効力は持たない。まさに国と法律が「最後に残っている」。

カップルとして幸せに暮らしている。職場も家族も友人もカップルとして受け入れてくれている。でも、法的に認められていなければ、それは異性カップルと平等な存在とは言えない。

2人は裁判を「欠けている最後のピースを埋めるような戦い」と表現する。

世界で広がる同性の婚姻の法制化

世界では、同性による法的な婚姻(いわゆる同性婚)は2001年にオランダで認められて以降、欧米を中心に広がっている。アジアにおいても、台湾やタイで法制化への動きが進んでいる。

同性の婚姻を求める世界的なムーブメントのもと、同性婚(Same sex marriage)ではなく、結婚の平等(Marriage equality)という言葉が広がる。

同性婚という特別な結婚があるのではなく、誰にでも認められるべき結婚を同性カップルにも認めるべきである、という考えだからだ。

「結婚の自由をすべての人に」と訴える弁護団の考えも同様だ。

憲法が求める婚姻の平等

憲法14条は次のように「法の下の平等」を定めている。

すべて国民は、法の下に平等であって、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。

憲法13条は次のように「自由及び幸福追求の権利」を保証している。

すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。

これらから考えると、同性婚を認めないのは「法の下の平等」に反し、「婚姻の自由」を侵害していると弁護団は主張する。

また、憲法24条は以下のように定めている。

婚姻は、両性の合意のみに基いて成立し、夫婦が同等の権利を有することを基本として、相互の協力により、維持されなければならない。

これについて「両性の合意」とあるからには、男女の婚姻以外は認められないと主張する人がいる。確かに、両性という言葉は一般的に男女を連想させる。

しかし、弁護団はこの条文について、明治憲法下の旧民法においては親の同意が必要だったことに対して「当事者間の意思決定に委ねられるべきだ」という趣旨であり、むしろ同性の婚姻を認めないのはおかしいと指摘する。

この弁護団の解釈は憲法学者にも支持されている。

首都大学東京の木村草太教授(憲法学)も、憲法24条は「カップルが自分の意思で結婚できること」を意図していると考えるのが憲法学の通説だと解説する。

「友達の幸せな姿を見たい」

相場さんは言う。

「子供の頃は同性だと結婚できないと思っていた。でも、海外のニュースを見て、できるんだと思うようになった。この裁判を通じて多くの人が同性の結婚を話題にして欲しい。それが同性愛について理解する糸口になるかもしれない」

また、古積さんはこの話題が広がることが同性愛の当事者にも影響を広げていくと期待している。

「5年前に結婚式を挙げたとき、次は友人の式に参列して、幸せな姿を見たいと思った。でも、まだ友人の同性カップルで式を挙げた人はいない。結婚も式もしないもんだという意識の同性カップルに、結婚の意識の芽生えを感じて欲しい」


今回の訴訟について考えるイベント「する?しない?同性婚」が1月21日、東京都渋谷区のTRUNK(HOTEL)で開かれる。概要はこちら