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女性の活躍、もう進めないの? 先進的な会社がとった、驚きの一手

ダイバーシティ推進本部、やめます。

働き方の多様性が叫ばれるこのタイミングで、ダイバーシティの担当部署を縮小するって、どういうことーー?

「2020年までに女性管理職を30%に」。政府が掲げる数値目標に向け、各企業はあの手この手を打っている。ダイバーシティを経営戦略の一つに掲げ、働き方改革、採用、育成、管理職研修など、さまざまな角度から取り組んでいる。

先進企業は管理部門に「女性活躍推進室」や「多様性推進本部」といった組織を新たにつくり、こうした取り組みの旗振り役としている。全社的な組織があることで、会社の本気度を証明することにもなるからだ。

一方で、その全社的な組織をなくしたり縮小したりする企業がある。すでに役割を終えたというのが理由だ。つまりダイバーシティの後退ではなく、進化だというのだ。

はじめは両立支援から

まず、ダイバーシティ戦略についておさらいしておくと、多くの企業ではこのような流れになる。

不況やグローバル化の波により、会社に多様な人材がいたほうが消費者のニーズを汲み取れる、と気づいた企業が、男性ばかりの職場に女性を定着させようと考えた。

そこで仕事と育児の両立支援として、育児休業や短時間勤務の制度を整えることから始めた。2000年代に着手した企業が多く、「輝く女性をサポート」「女性ならではの柔らかな対応を」といったキラキラな枕言葉があった時期でもある。

しかし、制度は整っても意識がついてこない。特に「粘土上司」とも呼ばれる管理職の意識が変わらず、「マタハラ(妊娠・出産・育児をきっかけにした嫌がらせ)」や「マミートラック(両立はしやすいが昇格・昇進が望めない状態)」の問題が浮上。育児だけでなく、介護やメンタルヘルスによる離職も深刻な課題になってきた。

そこで、女性だけでなく全社員を対象にした取り組みとして、管理職の意識改革(イクボス育成)や、働き方改革(在宅勤務やフレックスタイム制など)に進んでいく。

最近は、ダイバーシティと両輪のインクルージョン(受容や包摂と訳される)に注目が集まり、「違いを認め合う」ために、個人のライフスタイルや価値観を尊重する風土づくりに移行。多様なメンバーの意見を組織の新たな価値につなげる、という人材活用の意味合いが増した。

こうした改革をはじめるには、経営トップの強いメッセージと旗振り役が必要だ。そこで社内の管理部門などに専門の部署をもうけ、段階ごとに「女性活躍」「多様性推進」「ダイバーシティ経営」などとバージョンアップしてきた。今回、BuzzFeed Newsが取材したのは、あえて今、その部署をなくしたり縮小したりした企業だ。

全社一体から組織主導へ

ソフトウェアサービスの日立ソリューションズ(本社・東京)の「ダイバーシティ推進センタ」は今年4月、事実上は解散した形だ。

会社の組織図の中には残っているものの、多いときに3人いた専任の社員は、今はセンタ長の小嶋美代子さんを含めて2人。しかも2人とも他に本務があり、ダイバーシティは兼務だ。

小嶋さんは言う。

「立ち上げの時期は、社長の強いメッセージがあり、推進センタが全社的に舵を取ってきました。まず管理職、やがて社員に浸透してきたため、2015年度末ごろから、次の課題に乗り換える段階になりました」

どの会社でもそうだが、部署によって担当している仕事も違えば、マネジメントの課題も異なる。

例えば、女性管理職がおらず育成が悩みだという部署もあれば、女性の採用を急に増やしたため、育児休業を取る社員が集中することを心配している部署もある。管理職の意識がマッチョな部署、グローバルビジネスの対応を迫られている部署もある。

「一つの課題に特化すると、うちには関係ないという部署が必ず出てくるため、全社一斉には取り組みづらい。半面、組織ごとだと固有の課題がはっきりしているため、ダイバーシティを進める意義がわかりやすいのです」(小嶋さん)

そこで日立ソリューションズは、全社一体で舵を取るのではなく、組織ごとの自発的な取り組みに任せることにした。

すでにダイバーシティの理念は浸透していたため、上からあれこれ指示をしなくても、それぞれの部署が直面する課題に沿った取り組みを提案し、実行する。推進センタは見守り役にすぎず、そろそろ看板を下ろしてもいいのでは、という空気になってきた。

「それでもすぐには決断できずにいました。全社リードの旗を下ろしたと見られ、後退することを心配していたからです。実際なくしてみたら、案ずるより産むが易しでした」

”勝手”に進んでいく

日立ソリューションズには6つの事業部と営業統括本部がある。もっとも早く独自のダイバーシティに取り組んだのは、システム開発などを担当する、ITプラットフォーム事業部だ。

2015年に管理職60人に向けてセミナーを開いたのがきっかけ。部下から質問や相談を受けたときの上司のベストアンサーをまとめた「イクボスBOOK」を独自に作った。

事業部長の丹代美智夫さんはこう話す。

「ダイバーシティを推進しようとすると、なぜ女性活躍だけにこだわるんですか、といった声も出ます。求められるのは、現場の実態をふまえた対策です。ビジネスやマネジメントに直結する提案が社員から次々と生まれてきた。そうすると、ダイバーシティは”勝手”に進んでいくようになりす」

現在は、社員有志による4つのワーキンググループが活動している。「女性リーダ育成WG」「マネジメント力向上WG」「グローバル人財WG」のほか、「風土醸成WG」では、主任たちが課長を飛び越えて部長や本部長と面談する「段々飛び」という方法で、チームメンバーの長所を直接伝えている。

各事業部から選出されたメンバーと事業部長らで構成する会議「ダイバーシティ・カウンシル」では、他の事業部がどんなことに取り組んでいるか、情報を共有する。社長や副社長に提案を上げることもある。推進センタはあくまで事務局だ。

組織ごとに風土を改革

2016年に施行された女性活躍推進法により、従業員301人以上の企業は、女性登用の数値目標などを盛り込んだ行動計画をつくることが義務づけられた。今になって慌ててダイバーシティ研修をしたり、専任部署をつくったりしている企業も少なくない。

「そんな時代にダイバーシティの専任担当をなくすなんて、相当な英断だと思います」と小嶋さん。

「専任担当がいるんだからやってもらえばいい、ではなく、すべての社員に自分ごととして考えてもらいたいです」

採用や人材育成の担当は女性の登用を、労務管理の担当は働き方改革を、それぞれの持ち場でダイバーシティを意識して仕事をする。これから目指すあり方だ。

特定の属性に偏らない

先進企業ほど、ダイバーシティ戦略を現場に任せる動きがある。カルビーは事業所ごとに委員会を設置し、現場主体の取り組みを強化。パナソニックも「多様性推進本部」を、各事業会社や事業場ごとの「推進室」「推進担当」に切り替えた。

パナソニック人事労政部ダイバーシティ・組織開発推進室長の井川和彦さんは、BuzzFeed Newsの取材にこのようにコメントした。

「ダイバーシティ推進について現場の理解が深まり、実態に即した取り組みが進んでいるからです。現在は、特定の属性に偏った取り組みではなく、社員一人ひとりがイキイキと活躍し、働きがいをもつことを目指しています」

「長年にわたってつくりあげられてきた価値観、醸成された風土を変えていくのは一朝一夕には進みませんが、働き方の価値観の転換に取り組んでいきたい」

女性活躍推進法で義務づけられたからやるのではなく、現状を見ながら柔軟に組織を変えていく。取り組みが昇華されたときが、ダイバーシティのゴールと言えるのかもしれない。