「夫婦別姓にしたければ外国で結婚したら」は本当。でも......日本はそれでいいの?

    「20年待ったけれど」。想田和弘さんと柏木規与子さん夫妻が提訴。

    外国で結婚した日本人カップルが「夫婦であることを確認してほしい」と国を訴える裁判を6月18日、東京地裁に起こした。

    原告は、アメリカ在住の映画監督・想田和弘さんと、プロデューサー・柏木規与子さん。最新作「港町」など、想田さんが監督・撮影、柏木さんも製作に携わり、夫婦で映画製作をしている。

    結婚したが"届けていない"

    想田さんと柏木さんは1997年、ニューヨークで結婚した。

    多くの国では、日本のような戸籍制度がないため、婚姻に関する証書を取得することで、結婚は成立する。

    ただ、外国に住んでいる日本人が外国方式で結婚したときは、3カ月以内に日本大使館や領事館などに届け出る必要がある。日本の戸籍に反映させるためだ。

    このとき、日本で婚姻届を出すときと同様、夫婦どちらかの姓を称することになっている。想田さんと柏木さんは当時、この届け出をしなかった。

    1996年に法制審議会が選択的夫婦別姓の導入を答申したことで、法改正が期待できる動きがあったからだ。

    「そのうち夫婦別姓を認める法案が通って、日本でも戸籍を作れるだろうと思って届け出をしなかったら、そのまま20年経ってしまいました」

    提訴後の会見で、想田さんはこう話した。

    「どちらかがどちらかの姓にならなければいけないという結婚観が、個人的にしっくりこない。僕らは独立した人格のまま対等に、仲良くやっていこうということで結婚する価値観を持っていて、別姓は自然な選択でしたから」

    アメリカなど多くの国では、夫婦別姓のまま結婚することが認められている。

    事実婚ではない

    原告代理人の竹下博将弁護士によると、想田さんと柏木さんの場合は、外国で正式に「法律婚」をしているため、「事実婚」ではない。

    ただ、日本では婚姻関係を証明する方法が戸籍であることが一般的だ。遺産分割や相続税など、外国の婚姻証明書によって個別に証明できるケースもあるが、証明できず不利益をこうむる可能性もある。配偶者を対象とした会社の制度なども同様だ。

    実際、2001年、想田さんの就労ビザでアメリカに滞在中、柏木さんが配偶者ビザの申請をする際にアメリカ領事館の日本人職員から、「戸籍がなければ結婚していると証明できない」と断られ、手間取ったことがあったという。

    戸籍ではなく判決書で婚姻関係を確認することで、夫婦別姓でも結婚しているという事実を公的に証明できるようにすることを目的にしている。

    想田さんは提訴した理由について、こう話す。

    「今はニューヨークに住んでいるが、今後、日本に住む可能性もあり、相続などで困らないようにしておきたい。同時に、日本で別姓を希望して事実婚をしている人たちの不利益が改善されるよう、この訴訟がきっかけになればと思います」

    今年になって3ケース目の提訴


    内閣府の2017年12月の「家族法制に関する世論調査」を見てみる。

    • 「夫婦がそれぞれ婚姻前の姓を名乗れるように法律を改めてもかまわない」(選択的夫婦別姓に賛成)と答えた人:42.5%
    • 「結婚する以上、夫婦は必ず同じ姓を名乗るべきで、法律を改める必要はない」(選択的夫婦別姓に反対)と答えた人:29.3%
    • 「婚姻前の姓を通称としてどこでも使えるように法律を改めるのはかまわない」(通称使用に賛成)と答えた人:24.4%


    選択的夫婦別姓をめぐっては、1996年の法制審議会の答申後も、国会で議論が進まず、法改正のめどは立たなかった。2015年12月、最高裁大法廷は、民法の夫婦同姓の規定を合憲と判断。ただ、女性判事3人を含む5人が「夫婦同姓は違憲」とする反対意見を述べていた。

    ソフトウェア会社サイボウズの青野慶久社長は2018年1月、旧姓を名乗り続けても支障がないよう法的な根拠を与えてほしい、と東京地裁に提訴。また、2015年の最高裁判決の第二次訴訟として、事実婚の夫婦4組が別姓での婚姻届の受理を求めて2018年2〜3月、東京家裁と同立川支部、広島家裁に審判を申し立てている。