コロナ禍で自殺率が減少したアメリカ。専門家「みんな一緒、という集団意識が働いたか」

    全体的に自殺率が減少した中、特に白人、女性、中高年のグループで顕著な変化が見られた。一方で、若者、黒人、ラテン系、アメリカ先住民の男性群では自殺率は減少していない。

    アメリカでの自殺率は何十年にもわたり上がり続けており、1999年からほとんど毎年、徐々に増えていた。

    だが、アメリカ全国保健統計センター(NCHS)が11月に発表した報告によると、2020年の自殺率とその数は、全体で3%減少(前年比)したという。

    2019年は4万7511件だったのに対し、2020年は4万5855件と1656件減っている。

    2020年4月の減少幅は特に大きく、14%も減少している。2019年4月は4029件、一方2020年4月は3468件だ。この時期はアメリカで多くの都市が、新型コロナウイルスの感染予防のため都市封鎖を宣言し始めていた。

    2020年は、感染症の流行による経済の先行き不安、失業、悲しみ、制度的な人種差別、争点の多い米大統領選と、慌ただしい年だった。

    収入と仕事のストレスは、自殺のリスク要因であり、不安、憂鬱、薬物乱用の増加を同報告書は指摘している。

    「自殺が増える懸念もありました」と同センターの統計学者であり、同報告書の筆頭著者のサリー・カーティン氏は話す。

    「報告結果に驚く人もいると思います」

    「ある危機が差し迫って自殺率が減少し、その危機が過ぎた後、また増加することがある」

    2019年の自殺率も、前年(4万344件)から2%減少していた。この10年間で初めてのことだった。それを除くと、何十年もの間、ほとんど毎年増加していて、1999年から2018年にかけては35%増えているという。

    「何年も数値を見ていますが、ずっと上昇傾向にありました」とカーティン氏はBuzzFeed Newsの取材に答えた。

    「ですから、2018年から2019年にかけて2%減少し、(2020年に)さらに3%減少しているのはいい兆しです」

    2019年1月から2020年10月にかけての自殺率の推移(青線:男性、黄線:女性)

    自殺の理由は複雑で、人間関係、コミュニティ、社会的なものなどさまざまな要因による、と米国疾病管理予防センター(CDC)の国立傷害予防管理センター(NCIPC)で主任行動科学者を務めるデボラ・ストーン氏はメール取材に答えた。

    「リスク要因が増えているのにコロナ禍で自殺率が減るのは、直感に反しているように見えるかもしれませんが、このパターンは先例がないわけではありません」

    「過去の災害を踏まえると、ある危機が差し迫って自殺率は減少し、その危機が過ぎた後、また増加することがあります」

    2021年7月に英医学誌「ランセット」に掲載された研究では、21か国で中~高所得者を対象に自殺率を調査したところ、全体的に同様の減少結果が出ている。

    数値は予備データによるもので、確認は必要だ。特に、薬物の過剰摂取による死が、事故なのか意図的なものかを判断するのに時間がかかる。

    薬物の過剰摂取による自殺は、ほかのグループと比較して女性が多い。自殺率の全体的な傾向は変わらない見込みだが、最終的な数値は女性などの一部のグループに影響する可能性がある。

    自殺率が減少しなかったグループ:若者、黒人、ラテン系、アメリカ先住民の男性群

    アメリカでは、特定のグループで自殺率の減少が見られる。白人、女性、中年、高齢者などだ。

    35歳以上の女性で自殺率が減少していて、特に45歳から64歳の女性における減少が最大だった(この年齢層の女性は、ほかのどの年齢層よりも自殺をするリスクが高い)。

    10歳から34歳の年齢層では、自殺率は横ばいか増加した。例えば、25歳から34歳の年齢層では、8070件から8440件と、5%増えたことが同報告書で判明している。

    白人女性では10%減少(7139件)、白人男性では3%減少(2万8212件)しているが、黒人、ラテン系、アメリカ先住民の男性では、横ばいか増加している。

    またほかのどの人種よりも、アメリカ先住民の自殺率が一番高く、これは2020年も変わらなかった。

    アメリカ先住民とアラスカ先住民では、男性10万人に対して自殺者は35.8人、女性は11.6人だった。2番目に高いグループである白人の場合は、男性10万人に対して27.1人、女性は6.9人だった。

    「気を緩めずに、不釣り合いに影響を受けている層の自殺に対処しなければなりません」とストーン氏は話している。

    LGBTQコミュニティでの自殺リスク

    アメリカ全国保健統計センター(NCHS)の報告書では、性的アイデンティティーが影響した自殺率を調べていない。

    これは同センターが性的アイデンティティーに関する情報を持っていなかったことによるが、性的アイデンティティーは、特に若者にとって大きなリスク要因になり得ると専門家は話している。

    「問題のひとつは、死亡の調査で性的アイデンティティーのデータを集めないことです」と米国・国立精神衛生研究所(NIMH)で疫学と自殺予防のシニア・アドバイザーを務めるラジーヴ・ラムチャンド氏は話す。

    2021年11月、ラムチャンド氏は同研究所の同僚と一緒に、米国・予防医学会の機関誌に研究結果を発表し、異性愛者と比べて、レズビアン、ゲイ、バイセクシャルの人は、自殺を考え、計画し、試みるリスクが3~6倍高いことを明らかにしている。年齢層、人種、民族的な帰属にかかわらず、この傾向は当てはまった。

    同研究は、2015年~2019年に集められた19万人以上の調査データに基づいているため、コロナ禍での情報は入っていない。

    調査結果によると、異性愛者の男性、バイセクシャルとレズビアンの女性では、自殺を考えたり試みたりする人は年齢を重ねるにつれて減少傾向にあったが、ゲイやバイセクシャルの男性には当てはまらなかった。

    だが、支援や介入が必要なのは、若者に限らないことが調査結果から分かっている。

    ゲイ女性よりもバイセクシャルの女性のほうが自殺を考えやすいと、同報告書は示唆している。また、白人女性よりも黒人女性のほうが、性的アイデンティティーにかかわらず、自殺を考えたり計画したりする率が低いという。

    「もう少し注意して見てみる必要があるグループがいくつかあります」とラムチャンド氏は警戒する。

    「どうやったら上手く介入できるか判断するのに、場合によっては、下位集団のそのまた下位を見る必要があります」

    コロナ禍では「みんな同じ」という集団意識が自殺率の減少に役立ったか

    自殺のリスク要因は複雑で、下位集団によって異なる可能性があるため、2020年の自殺率にどの要因が影響を与えたのかを判断するのは難しい、とラムチャンド氏。

    ティーン(13~19歳)は、いじめやSNSの利用によりリスクが大きい可能性があるが、兵役経験者であれば、心的外傷後ストレス障害(PTSD)など要因となり得るほかの健康条件があるかもしれない。

    「複数の部分母集団を見る必要があります」とラムチャンド氏は説明する。

    「全体を包括するひとつの物語があるわけではないのです」

    コロナ禍では、都市封鎖がメンタルヘルスに影響を及ぼしたケースがあれば、不安でも人と一緒に過ごす時間が増え、誰かとの関係を強めたケースもあるかもしれない。

    「ステイホームの期間、日々のストレスが減った人もいれば、『みんな一緒』という集団意識が役立った人もいるだろう」とランセットの論文では報告されている。

    ラムチャンド氏もその可能性を指摘している。ほとんどすべての人が、共通の経験をしたからだ。

    失業が自殺リスクに与える影響が、コロナ禍で提供された社会的プログラムや経済支援によって軽減した可能性はある、とラムチャンド氏は話す。

    ある意味、失業に繋がる全国的な現象は、個人がひとりだけ失業するのよりも、孤立を感じないのかもしれない。

    「みんなが失業しているのであれば、自分自身の失業がそれほど近く、影響が大きく感じないのかもしれません」とラムチャンド氏は話す。

    「私が気にしているのは、再雇用で取り残されるのが誰かということです」

    一般的に災害時は、みんな「共同体としての意識を共有し、協力して助けたいと思って団結する」可能性がある、とストーン氏は話す。

    「この種の繋がりで心身の健康がよくなり、自殺を減らすことができます」

    問題を抱えている時にほかの人と関わりを持つと、新たな情報や支援に辿り着ける可能性があるはず、とストーン氏は考える。

    助けを求める方法、自分のために、誰かのために

    自殺を考えるようだったら、最初にすべきなのは、誰かに話すことだ。

    「助けてもらえるように、誰か信頼できる人に話しましょう」とストーン氏は話す。

    「差し迫った危険があるようだったら、一番近い救急病院に行くか、緊急電話番号に電話してください」

    全米自殺予防ライフラインは、友人や家族を心配する人など、誰でも利用できる、とラムチャンド氏は話す。自傷行為を繰り返し考えるようであれば(自殺念慮)、メンタルヘルスの専門家が、科学に基づいた方法で手伝える、とラムチャンド氏は話している。

    メンタルヘルスの専門家から、自分に合った人を探し、遠隔医療も考えるように、とラムチャンド氏は提案している。遠隔医療は、直接会うのと同じほどの効果があると調査で示唆されている。

    地方に住んでいたり、インターネットがなかったりする場合は、電話も役に立つ。

    「適任者が見つかるまで、あちこち探す必要があるかもしれません」とラムチャンド氏は話す。

    自分が抱えている問題と同じジャンルの問題に対処した経験があるセラピストやカウンセラーを探すことも、同氏は勧めている。

    「もしご自身が、ゲイやバイセクシャルの場合、『自分はゲイなのだけど、ゲイ男性を助けた経験、助ける能力はありますか?』と聞いてみてください」


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    「いのち支える自殺対策推進センター」が掲載している全国の相談先窓口リストはこちら

    厚労省のホームページにも、電話相談やSNS相談の窓口一覧が掲載されている


    この記事は英語から翻訳・編集しました。翻訳:五十川勇気 / 編集:BuzzFeed Japan