「肩身が狭くなった」「母が感染した」迷っていたけれど、ワクチン接種に踏み切った理由

    新型コロナウイルスのワクチンが、いち早く普及したアメリカ。ワクチン接種に後ろ向きだった人たちが、数カ月かけてなぜ接種に至ったのか、理由を尋ねてみた。

    アシュリー・Aさん(本人の希望で、苗字は伏せている)は、新型コロナウイルスのワクチン接種を受ける予定ではなかった。

    針が怖かったうえ、ワクチン開発と緊急承認のペースが速すぎて、心配だったのだ。友人や家族はワクチンの陰謀論を口にし、このワクチンにまつわる科学への不信感を声高に主張していた。

    アシュリーさんは、自分が接種するか否かは、他の人たちがワクチンにどう反応するかを見てから決めたいと思っていたという。

    「モルモットにはなりたくなかったんです」

    アシュリーさんは、そうBuzzFeed Newsに打ち明けた。

    カリフォルニアの刑務所で矯正医官として働くアシュリーさんは、職場で毎週行われる新型コロナ検査を、その気になれば受けられた。さらに昨年12月、職員へのワクチン接種も職場で始まった。

    しかし、アシュリーさんは拒否し続けた。

    その後7月、ある衝撃的な出来事が、アシュリーさんの考えを変えることになる。姉妹だと思うほど親しかった友人が、新型コロナで入院し、亡くなったのだ。

    「元気だったのに、ダメでした。独りぼっちで怖がっていた友達を見て、私は心が折れました」とアシュリーさんは振り返る。

    自分の周りにいる多くの人がワクチン接種を受けないと知っているアシュリーさんは、その人たちを守るために、不安を乗り越えて接種しようと決意した。ワクチンを受ければ、他の人に感染させる可能性が下がると考えたのだ。

    「その人たちにとって危険な存在でいたくなかったんです。またあんなふうに誰かを失いたくない。あんな思い、もうしたくありません」

    アシュリーさんは、友人の葬儀から1週間後、1回投与型であるジョンソン&ジョンソンのワクチンを受けた。

    BuzzFeed Newsは先ごろ、読者に対し、今年の夏に新型コロナのワクチン接種を受けた人は連絡をくれるよう呼びかけた。アシュリーさんは、それに応じてくれた430人の1人だった。

    アメリカでは新規のワクチン接種率が高止まり。接種を躊躇する理由を聞いてみた

    数カ月前から、一般市民も広くワクチン接種が受けられるようになっていたが、接種するまでに、何カ月も時間をあけた人もいる。こうした人たちがなぜすぐに受けなかったのか、理由を聞いてみた。

    アメリカでは、今年最初の数カ月でかなりの需要を満たした後、4月中旬になるとワクチン接種率が急激に下がり始めた。

    当局は、地元の人気スポットの入場料を無料にしたり、100万ドルが当たる宝くじを導入したりと、あらゆる手を使ってワクチン接種を促した。

    そして夏に入ってからの数週間は、アメリカの多くの場所で、まるでパンデミック(世界的大流行)前の生活に戻ったようになった。

    コンサートの復活。店舗の再開。恐怖をほぼ感じることない外出。さらに、アメリカ疾病予防管理センター(CDC)が、「ワクチン接種が済んだ人は、ほとんどの状況においてマスク着用は不要」と発表した後(一部の公衆衛生専門家はこれに驚愕した)、人々はマスクをせずに出かけるようにもなった。

    その後、デルタ株の波が襲った。

    アメリカは現在、またしてもデジャヴを味わっている。感染者が急増し、入院者数が跳ね上がり、感染者数は毎日、新記録を更新しているのだ。

    アメリカの若い世代はワクチン接種を受けない傾向にあるため、現在新型コロナに感染して亡くなる人の多くを若者が占めている。

    地方自治体や州政府は、屋内の活動の一部や特定の職業について、新型コロナワクチン接種を義務化しており、接種率は7月、若干盛り返した。とはいえ、接種者の増加は、現在のコロナ禍の新たな波を抑えるのに十分なほどには至っていない。

    強硬な反ワクチン派のみがワクチンを拒む、というわけではない

    「ワクチン接種率が上がるまで、状況は改善しません」とBuzzFeed Newsに話すのは、カリフォルニア大学サンフランシスコ校の感染症専門家モニカ・ガンジー教授だ。

    CDCは7月下旬、ワクチン接種済みの人へのマスクに関する助言を、「不要」から「特定の状況では着用」に引き戻した。

    ジョンズ・ホプキンス大学ブルームバーグ公衆衛生大学院のエイミッシュ・アダルジャ博士は当時BuzzFeed Newsに対し、「自らの意思でワクチン接種をしていない人たちは今、公衆衛生上の脅威だ」と話していた。

    BuzzFeed Newsの呼びかけに反応してくれたほとんどの人は、強硬な反ワクチン派というわけではない。中には、副反応から回復するための休みを職場からもらえないなど、組織的な障壁に直面している人もいた。

    他には、アメリカの医療制度における、人種差別の歴史に根付く不安を抱えた人たちもいた。

    妊娠中であるため、お腹の赤ちゃんへのワクチンの影響を心配する人も多かった(※)。

    ※CDCは8月、妊婦や授乳中の人は、新型コロナに罹患した場合に合併症リスクが高まるとして、ワクチン接種を受けるよう強く推奨する新たな助言を発表した。

    「様子を見てから」

    多くの人はただ、自分が受ける前に、ワクチンが周りの人にどう影響するかを知りたいと思っていた。東海岸在住のジョルダナさんもそんな1人だ。

    「つまるところ、私は様子見をするタイプなんです」とジョルダナさんは話す。

    ワクチンを受けた友人や同僚が、予想外の副反応を経験することがなかったのを見届けて、ジョルダナさんは7月下旬、接種を受けた。

    しかし、こうした考えが死を招く結果となった人もいる。ラスベガスに住んでいた39歳の男性は、1年待ってからワクチンを打ちたいと考えていたが、7月下旬に新型コロナで亡くなった。

    FOX系のニュースによると、男性は生前、婚約者に「とっととワクチンを受けておけばよかった」とテキストメッセージを送っていたという。

    また、新型コロナで入院した患者が、回復したらワクチンを打ちたい、と家族に告げつつ、最終的には亡くなってしまった複数のケースを、地元メディアが伝えている。

    「自分が置いてきぼりになった気がし始めた」

    サンディエゴ在住のモーガンさん(30)は、7月上旬にワクチン接種を受けた。家族が接種して味わっていた自由を、モーガンさんも切望したためだ。

    今回呼びかけに応じてくれた多くの人は、モーガンさんと同じ思いを抱いていたようだ。

    「人生は進んでいきます」とモーガンさんは話す。

    「でも自分が置いてきぼりになった気がし始めたし、感染した人にうつされるのではないかという恐怖もありました」

    また、自分の仲間が「接種済み」と「未接種」に分かれ始め、後者でいることに居心地の悪さを感じた、と話す人も多かった。

    ニューヨーク在住のジョーさん(27)は、7月にワクチン接種を受けた。理由の1つは、自治体や店舗などが、接種済みの人と未接種の人とで、異なるルールを適用するようになったことだった。

    「私がワクチン接種したか否かについて、同僚などが口にするようになり、少し恥ずかしいと思うようになりました」とジョーさんは話す。

    ベッキー・ルーニーさんもまた、6月のある日、職場で同じような感覚を抱いた。雇用主がCDCの助言に従い、ワクチン接種済みのスタッフはマスクを着用しなくていい、と発表したのだ。

    周りのみんなが「マスクを引きはがし」て歓声を上げる中、ルーニーさんは居心地が悪くなったうえ、接種していないことで悪目立ちしてしまったという。

    ルーニーさんは当時、あるテーマパークと契約中のダンサーだった。ワクチンの開発ペースがあまりにも速すぎたと感じたルーニーさんは、アメリカ食品医薬品局(FDA)が正式に承認するまで(※)、接種を待ちたいと思っていた。

    ※アメリカで使われている新型コロナのワクチン3種類は、この時点では緊急承認しか受けていなかった。正式な承認には、FDAによるさらに多くのデータの審査と、製造施設の調査が必要となる。米国立アレルギー感染症研究所のアンソニー・ファウチ所長は8月上旬、同月末までには承認されるだろうとの見解を発表。その後、ファイザー・ビオンテック社製ワクチンについては8月23日、正式に承認されている。

    「少数派になって、批判されているように感じた」

    新型コロナ用のワクチンは、目覚ましいスピードで開発された。

    トランプ政権時代の国家プログラム「オペレーション・ワープ・スピード」からの180億ドル(約2兆円)を超える資金と、世界的なパンデミックによって生じた前代未聞の緊急性のおかげだ。科学者らはまた、mRNAワクチンをこれまで数十年にわたり、研究してきていた。

    しかしルーニーさんは、職場でワクチン接種をしていない数少ない1人になってしまい、自分が変人であるかのように感じたという。

    「まるで、大きなスポットライトを当てられ、批判されているように感じました。それが、“そうか、たぶんこれはワクチン接種を受ける時なのかもしれない”と決意するきっかけの1つになりました」とルーニーさんは述べた。

    2日後、ルーニーさんはふと思い立って、ワクチン接種を行っているドラッグストアに立ち寄り、ジョンソン&ジョンソンの接種を受けてきた。

    それでも、心の準備がしっかり整う前に、ワクチンを接種するよう圧力をかけられたように感じたと話す。

    「私は、『とっとと終わらせたい。これ以上考えたくない。批判されたと感じたくない。恥をかきたくない』と思いました」

    デルタ株の脅威がワクチンを打つきっかけになった人も

    今回呼びかけに応じてくれた人の中には、感染力が非常に高い、デルタ株の脅威がきっかけになったという人も多い。

    新型コロナに新たに感染した人のほとんどが、そして入院するほど重症化したり死に至ったりしたケースの圧倒的多数が、ワクチン未接種の人たちだ。

    CDCのデータによると、ワクチンを2回(あるいは1回投与型の場合は1回)接種した人の99.999%以上は、新型コロナに感染しても死や入院には至っていない。

    CDCは7月、マサチューセッツ州プロビンスタウンでの新型コロナの感染拡大を詳しく調べた。これによると、ワクチン接種済みでありながら、感染力が非常に高いデルタ株に感染した人は、重症化がかなり避けられた。

    しかしウイルス量については、ワクチン未接種の人と同じくらいの量を持つ可能性が示唆された。言い換えれば、ワクチン接種済みでも、デルタ株は他者に感染させる可能性があるということだ。

    公衆衛生の専門家の中には、今回の感染拡大に伴う状況(かなり混雑したバー、レストラン、その他屋内・屋外の場所に関連)は、ワクチン接種済みの人が日常的に「よく取る行動というわけでは必ずしもない」と指摘する人もいる。

    ジョンズ・ホプキンス大学ブルームバーグ公衆衛生大学院の感染症疫病学者デイビッド・ダウディ博士はBuzzFeed Newsに対し、次のように説明する。

    「今回の感染拡大は、非常に密になった場所という状況でした。人と密着した屋内に何時間もいて暴露されていれば、ワクチンだけでは感染から身を守れません」

    「ワクチンの役目はいうなれば、このウイルスとの戦いに向けて、免疫系が有利なスタートを切れるようにしてくれることです」

    ワクチンを打つか否かの選択は、周囲の人にも影響する

    アリゾナ在住のジェニーさん(39)もまた、FDAから正式に承認されるまで、ワクチン接種を待っていた1人だ。しかし、7月に接種を受ける決意をした。

    ジェニーさんの言葉を借りると、「デルタ株が死ぬほど怖い」からだ。

    また、海外へ行くにはワクチン接種証明が必要になるとの予想から、近々海外へ行くために接種したという人もいる。

    さらに、学校や職場の安全確保が最重要である大学や会社が、ワクチン接種を義務化したことで、ようやく接種したという人も多かった。

    「免疫を持たない人が多ければ多いほど、コミュニティ内での感染を維持しうる人が多いということ」だと話すダウディ博士。

    ワクチン接種は「最も簡単で安全な」免疫構築法だと加えた。

    「個人の選択は、単に自分に影響するだけでなく、好むと好まざるとにかかわらず、自分の周りにいる人にも影響を及ぼします。そしてこれは明らかに、感染症について特に言えることです」

    母親の許可が下りなくて…

    ミシガン州ヒルズデールのアシュリーさん(18)の場合、母親がアシュリーさんの接種を許してくれた転換点は、大学によるワクチン接種の義務化だった。

    アシュリーさん自身は、自分で調べ、ワクチン接種を受けたいと思っていた。しかし当時17歳だったために、母親の許可が必要だったのだ。

    アシュリーさんによると、母親は当初、後ろ向きだった。しかしアシュリーさんが通うエルムハースト大学は、どの学生もキャンパスに戻るには、ワクチン接種を終えている必要があると発表した

    アシュリーさんは、ワクチンについて母親と「厄介な会話」をまたしなくてもよくなったことに胸をなでおろした。

    「大学がこの文章を発表してから、母の態度は変わりました」

    とは言え多くの人にとって、何か1つがきっかけで気が変わったわけではなかった。ヒューストン在住の4児の母で専業主婦のジェシカ・ミラレスさんなどは、複数の要因が重なり、少しずつ決意へと向かったそうだ。

    身近な人の感染をきっかけに、ワクチン接種に踏み出す人も

    ミラレスさんは、新型コロナが悪化するとどうなるかを、実際に目撃していた。母親が昨年12月、感染したのだ。

    母親は息ができずに苦しみ、かなりの痛みもあったようだとミラレスさんは振り返る。

    「電話をすると、まるでランニングマシンで走っているかのような話し方でした。ハァハァ息が上がっていて、呼吸があまりにも速くて強いので、何を言っているのかほとんど理解できませんでした」

    母親はやがて回復した。しかしミラレスさんは、母親が亡くなってしまうかもしれない、と心配しながら過ごした数週間は、恐怖でいっぱいだったと話す。

    テキサス州でワクチン接種が受けられるようになったとき、ミラレスさんの両親はすぐに申し込んだという。

    この後、ミラレスさんは母親からワクチンを受けるよう何度も哀願されたが、数カ月にわたり拒み続けた。ワクチンの長期的な影響が怖かったし、大急ぎで開発されたのではないかと懸念していたのだ。

    しかし3月になり、ミラレスさんの夫は職場に復帰し、ワクチン接種を決意した。

    その後、夫がマスク着用をやめ、クライアントと会い、レストランや店に出かけている姿をミラレスさんは目にした。自分にはない自由を感じながら生活している夫を見て、ミラレスさんは胸が痛くなった。

    デルタ株がアメリカ全土で猛威を振るっていた7月のある日(とりわけヒューストンは当時、かなりの勢いで感染が拡大していた)、実家に戻っていたミラレスさんは、ケーブルテレビのニュースを目にした。

    増加中の感染者数や入院者数について、医師がインタビューを受けていたのだ。

    「その医師は、『まだワクチン接種を受けていないなら、デルタ株にかかるまでの猶予は2週間です』と言っていました」

    これが決定打になった。ミラレスさんは翌日、モデルナワクチンの1回目の接種を受けた。

    この記事は英語から翻訳・編集しました。翻訳:松丸さとみ / 編集:BuzzFeed Japan