ウクライナ・キエフ。ポーランド大使のバルトシュ・チコスキ(Bartosz Cichocki)氏は、大きな窓のある2階の部屋で、サッカーのユニフォームを着て、スコッチを飲んでいた。
チコスキ氏は、ロシア軍の攻撃が続く中でもキエフに踏みとどまる数少ない大使の一人だ。なぜ留まり、何を目指すのか。
ロシア軍が2月24日にキエフへの攻撃を始めて1週間以上が経つが、彼は防空壕には避難していない。
現地では、多くのウクライナ人が恐怖に怯え眠れぬ夜を過ごしている。地上の砲弾から逃れるため、地下室や地下鉄の駅に身を寄せている。
国連によると、100万人以上のウクライナ人が国外に避難した。チコスキ氏によると、そのうちの約60万人がポーランドに逃れているという。
チコスキ氏は、ポーランドが受け入れるウクライナ人難民の数に限界はない、と付け加えた。
「ポーランドが扉を閉めるとは思えない」
アメリカなど西側諸国の大使とその外交関係者は、数週間前にウクライナから撤退した。
しかし、チコスキ氏はキエフに残った。
彼のチームには80人以上のポーランド人外交官がいる。一部は西部の都市リヴィウに移ったり、ワルシャワに戻ったりしたが、多くはチコスキ氏のそばにいる。
BuzzFeed Newsのインタビュー中、チコスキ氏がロシア軍の攻撃に備えている様子がうかがえた。部屋の外には、赤と白のポーランド国旗が描かれたヘルメットと防弾チョッキが置かれていた。いつでもその場を離れられるよう、チコスキ氏の腰には「重要書類」を入れたバッグが巻かれていた。左腕には、血液型が油性マジックで書き込まれている。
「間違った棺桶には入りたくない」と彼は何度も口にした。
インタビューの最中にも、キエフ郊外にロケット弾が打ちこまれた。「窓を開けて。音が聞こえる」とチコスキ氏は言った。
彼は携帯を取り出し、ロシア軍からのミサイル攻撃を警報するアプリを確認した。
「このアプリはいいけれど、いつも2分遅れる。イスカンデル(ロシアの短距離弾道ミサイル)で攻撃されたら、2分は相当大きなラグになる」
チコスキ氏によると、ワルシャワの外務省本省からキエフを離れるようには言われていないという。しかし、ウクライナ政府や他の西側諸国の外交官と「24時間365日」連絡はとっているそうだ。
「遠く離れていては、できないことがある」と語った。
ワルシャワにある東部研究センターの副局長、ヴォイチェフ・コノンチュク(Wojciech Kononczuk)氏は、チコスキ氏がキエフにいることは「とても意味がある」としている。
「ポーランドは、1991年12月2日に世界で初めてウクライナの独立を承認した国だ。(チコスキ氏の残留は)ウクライナで何が起ころうとも、ポーランドはウクライナとともにあると示している」
1943年と1944年にウクライナ蜂起軍(ウクライナの反体制武装組織)がヴォルィーニと東ガリツィアでポーランド人を虐殺するなど、2国間には歴史的な軋轢がある。
近年も決して安定した関係とは言えない状態だったが、ポーランドの右派政党を支持するチコスキ氏は、今は歴史について議論するべき時ではないと語る。
ウクライナのゼレンスキー大統領とポーランドのドゥダ大統領との関係について、今は諸問題を脇に置いており、「ほぼ毎晩電話している」とチコスキ氏は明かした。
ウクライナ人は勇敢に立ち向かっており、今のところロシアとの戦いには比較的優位である、プーチン大統領の計画を覆せている、とチコスキ氏は話した。
「キエフの守りはとても厚い。私がロシア人なら会いたくないような人たちが街中にいる」
「ロシア軍がキエフに砲撃や爆撃を行っても、キエフが陥落することはない。キエフは占領されない」
ロシア軍との戦いを支援するため、ポーランドは「ウクライナ人が求めるもの、求めそびれたものさえもすべて」供給するとチコスキ氏は述べた。
2014年にロシアが初めてウクライナに侵攻して以来、ポーランドはウクライナに兵器の供給や、訓練など軍事支援を行ってきた。
今年2月上旬、ポーランドはウクライナに対する最新の支援内容について発表。さまざまな種類の弾薬や砲弾、携帯式防空ミサイルシステム、軽迫撃砲、偵察用ドローンなどの供給を約束した。
「ポーランドの安全保障にとっても、ウクライナは重要」だとチコスキ氏は語る。
彼は2015年から1年間、モスクワで外交官を務めた。モスクワは好きだったと当時を振り返る。
「モスクワは特別な街だ。仕事だけでなく、私的にも滞在を楽しんだ。(チコスキ氏の)子どもたちが、スケートリンクを気に入ってね」
それでも、ロシア軍がキエフにある新しい自宅に転がりこんでくるさまは見たくないという。ウクライナの陥落は、ポーランドにとっても悪い知らせになるからだ。
「もしロシアがウクライナ侵攻に成功したら、次の標的は私たちだ」
この記事は英語から翻訳・編集しました。翻訳:髙橋李佳子