「一晩、一緒に過ごせないか?」新型コロナの影響で急増する大家からのセクハラ被害

    家賃の代わりに、大家から性交を求められた失業中のシングルマザー。新型コロナの影響で収入が減少し、家賃が払えない人を狙ったセクシャル・ハラスメントが増加している。

    ゲイル・サベージさん(29)は、彼女の住む家の大家から「今夜、一緒に過ごさないか」という内容のテキストメッセージを受け取った。

    「(メッセージを受け取った時)ガールフレンドに送るためのテキストを間違えて私に誤信したのかな、と思いました」

    BuzzFeed Newsの取材にそう語ったゲイルさんは、2歳の息子を持つシングルマザーだ。

    彼女は、米インディアナポリスにある人気のカクテルバーでバーテンダーとして働いていた。副業でバーレスクのパフォーマーとしても活躍していた。

    しかし、新型コロナウイルスの感染拡大を抑えるため、3月16日付で州がロックダウン処置を導入してからは職を失っていた。

    職を失ったことを大家に伝えていたというゲイルさん。4月の家賃は、政府からの現金給付から補うことも話していたという。

    そんな状況の中、大家から「一晩、一緒に過ごせないか?」というテキストメッセージを受け取った。

    ゲイルさんは、大家と彼女の間のやりとりをBuzzFeed Newsに見せてくれた。

    困惑したゲイルさんは、「これは、私に送るつもりだったメッセージ?」と返信した。大家の誤送信だと思ったからだ。

    「そうだよ」大家はこう返答した。

    その後、3回ほど「意味が理解できない」と送ったゲイルさん。

    「性的な意味で会いたいということ?」の彼女の問いに大家は「そうだよ」と答えた。

    「(大家との)2回目のやり取りで何が起こっているのか、やっと把握出来ました。信じられませんでした」とゲイルさんは出来事を振り返る。

    「息子のサレムを車に座らせ、家を出ました。どこに向かっているのかは、自分でも分かりませんでしたが、家に居れないことは分かっていました。怖かったです」

    Messages between Gail Savage and her landlord show him asking her to spend the night.

    大家によるセクシャル(性的)・ハラスメントの被害を受ける女性はゲイルさんだけではない。

    被害女性の大半は、不法移民やトランスジェンダー女性など、低所得者層のコミュニティに住む人たちだ。

    現在、米国では、新型コロナウイルスの感染拡大の影響で、3,300万人の人々が失業手当を申請をしている。

    そのうちの20%の人は、5月分の家賃さえ支払うことが困難な状況にいる。

    これまで以上にセクシャル・ハラスメントのリスクにさらされているのだ。

    「あらゆる社会階級にいるの女性に影響を与えた #MeToo(ミートゥー)運動を思い返してみてください」と語るのは、サンドラ・パークさん。

    サンドラさんは、ACLU女性権利団体で上席弁護士として活動している。

    「このようなハラスメントは、特に低所得者層の女性がターゲットにされやすい傾向がありました」

    「しかし、新型コロナの影響で仕事を失ったり、収入が激減する人が多い中、低所得者層に限らず、どんな経済階級の女性もターゲットにされる可能性が高まったのです」

    住宅において性別や人種などによる差別の撤廃を目指す団体、「ナショナル・フェア・ハウジング・アライアンス(NFHA)」の調査によると、80件の公正住宅グループを調査した結果、セクシャル・ハラスメントの苦情が13%も急増していることが明らかになった。

    アメリカ合衆国司法省は、大家が新型コロナの影響を利用して、入居者に性的嫌がらせをしようとしている報告を受け、現在調査中だという。

    「世界的な混乱の中、住居を必要としている人に性的嫌がらせをし、大家という立場を悪用することは非常に卑怯なことです」とバーモンド州の連邦検事であるクリスティーナ・ノランさんは声明を出した。

    「このような行為は許されません。もちろん、ハラスメントの加害者は責任を問われます」

    新型コロナの影響で家賃が支払えなかったために、大家からのセクシャル・ハラスメント被害に遭ったのはゲイルさんだけではない。

    米インディアナ州の都市、インディアナポリス在住のジェリー・マイルズさん(20)もそのうちの1人だ。

    今年2月、ジェリーさんはやっとの思いでシェアハウスの1部屋をみつけた。

    父親が刑務所で服役しているため、このシェアハウスをみつける前は、家族の友達の家に一時住まわせてもらっていた。

    3月26日、新型コロナの感染拡大に伴い、都市は封鎖された。

    当然、ジェリーさんの仕事にも影響があった。職場の上司からは、週の勤務時間が35時間から0時間になるかもしれないと伝えられた。

    彼は、現状を大家に報告。政府からの給付金、1,200ドル(13万円)を受け取り次第、そのうちの1,000ドル(10万7,470円)を2ヶ月分の家賃の前払いとして支払う約束をした。

    4月10日、デリバリーサービスのアルバイトに出かけようとしていたジェリーさんを大家が呼び止めた。

    大家が家賃の支払日について訪ねてきたため、まだ給付金の受け取りを待っている、とジェリーさんは答えた。

    ジェリーさんによると、その際、大家は「レイプされたくなければ家賃を払え」と彼に言い放ったという。

    「いやだ」と言ったジェリーさんに対し、大家はこうほのめかした。

    「5分間だけ待ってあげるから、家賃を払え。そうでないと、友人を連れてきて集団でレイプするしか選択肢はない」

    ジェリーさんによると、その後も大家は彼に売春を勧めてきたり、家賃を払うまでレイプし続けるなどの言葉で脅迫してきたという。

    この会話が不快だ、と苦笑いしながら伝えると、大家は車で去っていった。

    「すごくショックを受けました。不快でした」とジェリーさんは出来事を振り返る。

    「大家があのような話し方で、誰かと会話しているところを見たことがありませんでした」

    ジェリーさんは、すぐに親友のマライア・ヌーニェスさん(18)に「しばらく泊まってもいいか」という内容のメールを送った。

    2人のやりとりには、ジェリーさんと大家の会話が正確に記録されおり、マライアさんは出来事の信憑性をBuzzFeed Newsに保証した。

    その後、ジェリーさんは新しいアパートに引っ越すまで、1週間以上も彼女の書斎で寝ていた。

    BuzzFeed Newsの取材に対し、この大家はジェリーさんへの脅迫を否定した。

    この地域に複数の不動産を所有する大家は、「とてもばかげた言いがかりです。侮辱だ」と語った。

    大家は、彼に「家賃の支払いはどうなっていますか?いつになったらお金が入るのですか?」と訪ねただけだという。

    最終的に、ジェリーさんは警察に通報しないことを決めた。

    インディアナポリスで弁護士をしているジョン・フロランシーグさんは、このようなハラスメント被害に遭った際、地元の法律扶助または公正な住宅組織に助けを求めるのが大切だ、と語る。

    ジョンさんが所属する団体には、4月から3,700件ものハラスメント被害の電話相談があった。

    その中で、最も多かったのは大家からの家賃の追い立てを心配する相談だった。

    「法的には、現時点で大家が追い立てについて何かできることはありません」とジョンさんは語る。

    米国では、新型コロナの感染拡大を受け、立ち退き命令への一時的支払い猶予措置が取られているからだ。

    しかし、この猶予措置が大家によるセクハラの被害を増加させている可能性があるという。

    「ハラスメント被害の増加には2つの要因があると思います」と語るのは、デイビット・ミッチェルさんだ。

    彼は、差し押さえや立ち退き命令により、困難な立場にいる入居者たちを支援するミシガン州の団体で働いている。

    「1つ目の要因は、支払い猶予措置により大家に入る収入源がなくなっていること。2つ目は、そのことに対し、現状では大家が入居者に対するすべが法律的にないからだと考えられます」

    「普段、入居者を受け入れる立場の大家には力がありますが、今、彼らは何もできない状況なのです」

    「そのため、ハラスメントなどで自分の立場を示す、という考え方に陥っているのかもしれません。少なくとも、特定の地域ではそのような傾向がみられます」とデイビットさんは語る。

    ジェリーさんは入居した際、自分の家族の過去や住むところに困っていることなどを大家に話したことがある。

    「正直に、父が刑務所に入っていることを話し、もしこの家を失ったら他に行くところがないことも説明しました」とジェリーさんは語った。

    「もしかしたら、私に他の選択肢がないことを知っていたから、大家はそんなことを言ったのかもしれません」

    A view of a sign in New York City reading "Repent. Rent. Repeat."

    ニューヨーク市では、29歳の女性がハラスメントの被害にあった。被害者女性の希望に沿って、ここでは名前を伏せる。

    女性は、クイーンズ区アストリアにあるアパートに、ルームメイトと約8年間住んでいた。

    ルームメイトに引っ越すかもしれないと示唆された女性は、引っ越した際に支払った、2000ドル(21万5000円)の保証金を夏の家賃にあてることは出来ないか、大家に相談した。

    その話し合いの最中、大家は突然「怒らないでほしい」と前置きし、女性に彼氏はいるのか、と訪ねてきたという。

    女性は質問を不審に思ったものの、「いない」と返答した。

    その後、大家は「物々交換システム」というサービスを提供できる、と話し始めた。

    大家は「交渉が苦手だ」と言い、もし大家の「好意」で家賃を保証金でまかなうことにしたのなら、彼女も「好意」で大家の頼みを聞くのが妥当ではないかと、訴えてきたそうだ。

    「大家の頼みは、明らかに性的なことを意味していました」と女性は BuzzFeed Newsに語った。

    女性は大家に、彼の提案に抵抗があることを伝え、通常通り、家賃の全額分の小切手を彼の郵便受けに投函する、と答えた。

    それにもかかわらず、大家は「頼み」を聞いてほしい、と繰り返した。.

    昨年、妻が亡くなったという大家は、女性の30歳近く年上だった。被害にあった女性は亡くなった大家の妻のお通夜にも参加したという。

    「とても怖かったです。話し合いが終わった後、もう彼が戻ってこないようにドアに寄りかかっていました」と女性は語った。

    大家が部屋を出た後、彼女は自分の身に起こったことを2人の親友にメッセージで伝えた。

    「あの出来事は、間違えなく私にとっての#MeTooでした。気持ちが悪すぎて、涙が出てきました」

    同じアパートに住む13年来の女性の友人は、被害にあった直後の女性の様子を「ヒステリックに泣いていた」と証言した。

    しかし、女性はそのアパートに住み続けることを決意した。

    新型コロナの影響で世の中が不況に陥っている今、ニューヨーク市で3つの寝室がある広さのアパートを安い家賃で見つけることはほぼ不可能だからだ。

    なにより、8年間もの間、彼女にとって「家」だった部屋を手放すことは出来ないという。

    また、大家を警察に通報することは考えていない、と女性は語る。通報するには証拠が足りないからだ。

    ジェニー・ステファンズ=ロメロさんは、移民と労働を擁護する団体「メイク・ザ・ロード・ニューヨーク」の住宅チームで弁護士として働く。

    ハラスメントの証拠や証人がいなかったとしても通報するべきだ、とジェニー氏は語る。

    「新型コロナの影響で住居問題を扱う法廷が閉鎖されており、被害者が特別な状況下にいるのは確かです」

    「しかし、裁判を行うのは不可能なことではありません。どちらの証言がより信用できるか、信憑性を判断するのは裁判官です」

    「水掛け論になるかもしれません。それでも、何もせずに『泣き寝入り』する必要はないのです」

    入居者に性的なハラスメントを行う家主は、犯罪歴があることが多いという。

    「通常、ハラスメントの常習犯であることが多いです」とジェニーさんはいう。

    もしハラスメントの被害に遭った場合、可能であれば文章や映像、音声など証拠に残せれば尚良い、と彼女は助言する。

    言論の自由を守る団体「アメリカ自由人権協会」で働くパークさんは、住居者がハラスメントを受けた際にどう対応するのか、住宅の管理会社でなんの方針も決まっていないことが問題だ、と語る。

    「ハラスメントの理解や対応について、住宅業界は数十年の遅れを取っています」とパークさんは付け加えた。

    Gail Savage poses with and her son, Salem.

    2歳の子を持つシングルマザーのゲイル・サベージさんは、大家に対して法的処置を取ることを望んでいる。

    「今のところ、訴えは起こしていません。今は、法律の下での彼女の権利についてゲイルさんと話し合っているところです」と彼女を支援するエイミー・ネルソン氏はBuzzFeed Newsに語った。

    大家からハラスメントを受けた後も、ゲイルさんは1ヶ月間同じ家に住み続けた。

    「お金が無いのに、引っ越しなんてできると思いますか?」

    「それが分かっていたからこそ、大家は私にハラスメントを行ったのだと思います」とゲイルさんは怒りをあらわにした。

    「私に仕事が無いことを彼は知っていました。他に行く当てがないことも。だから、私を狙ったのです」

    BuzzFeed Newsがゲイルさんの大家に連絡を試みたところ、彼から彼女に行ったことは「冗談だ。誤解だ」との返答があった。

    大家は、ゲイルさんにテキストを送っている最中、元妻とも連絡していたそうだ。彼女に送ったテキストは、元妻に送るものを「間違えて」送ってしまったという。

    「何かの間違いだよ。それだけさ」と彼は言った。

    ゲイルさんは、不動産業者で働く友人の力を借り、裏庭付きの家を見つけることが出来た。

    新しい家の家賃は、300ドル(32214円)ほど高かったが、友人が以前の家と同額の家賃で済むよう、手配してくれたそうだ。

    大家が思っていたほど、ゲイルさんは「弱い人」ではなかった。

    「彼は、間違った人をターゲットに選んだ。私は戦います」

    「彼のハラスメントを私は許しません。同じことを他の人にも絶対にさせません」とゲイルさんは力強く語った。

    この記事は英語から翻訳・編集しました。翻訳:オリファント・ジャズミン