あの「心温まる話」はウソだった!?カップルとホームレスの男、刑事裁判へ

    ホームレス男性を助けるとして2017年11月に立ち上げられた募金サイト。しかし、全てがでっち上げだったとしてホームレス男性を含む3人全員が検察当局に訴追された。

    あるカップルとホームレス男性にまつわる心温まる話が、2017年にアメリカで話題になった。女性が車でトラブルを起こしてしまい、ホームレスの男性が持ち合わせていた最後の20ドルを使って助けてくれたというのだ。そこでこの女性は、ホームレスの男性を助けようと募金サイト「GoFundMe」で大々的な募金活動を開始した。しかし3人はこのほど、募金を騙し盗ろうと話そのものをでっち上げた疑いで訴追された。

    米ニュージャージ州バーリントン郡のスコット・A・コフィーナ検事は11月15日、「募金活動そのものがうその上に成り立っていた」と話した。「3人は話を作り上げ、多くの人を騙すことになった」

    ホームレス男性ジョニー・ボビット・ジュニア被告のためにカップルが「GoFundMe」で40万ドル(約4500万円)を調達し、その後ボビット被告への支払いを拒否したことが嘘が発覚するきっかけとなった。当局は、募金はすでに全額使われており、カジノやその周辺で10万ドル以上(約1130万円)が引き出されていたと説明している。

    ケイトリン・マクルーア被告は2017年11月、州間高速道路95号で自動車がガス欠になった際、ボビット被告が手持ちの全額を出して助けてくれたとしていた。マクルーア被告の恋人マーク・ダミコ被告は、ボビット被告のためにGoFundMeで募金活動を開始。でっち上げられた親切話とは知らずに、感銘を受けた1万4000人以上が募金した。

    「ダミコ被告、マクルーア被告、ボビット被告は、どうしても寄付したいと思わせるような心温まる作り話を売り込むことを共謀した。そしてそれは非常にうまくいった」とコフィーナ検事は説明している。「しかしこれは架空の話であり違法で、責任を取らなければいけない結果を伴う」

    ボビット被告は11月14日、米フィラデルフィア州で連邦保安官に逮捕された。マクルーア被告とダミコ被告は同日、バーリントン郡検察当局に出頭した。全員、詐欺による窃盗罪とそれを共謀した罪で起訴されている。

    コフィーナ検事は、GoFundMeで募金活動を開始する1カ月ほど前に3人が知り合ったと説明した。ダミコ被告とマクルーア被告は経済的な問題を抱えており、負債も増え続けていた。ボビット被告はホームレスで、フィラデルフィアにあるシュガーハウス・カジノ近くの州間高速道路の出口にいることが多かった。カップルはこのカジノに、定期的に通っていたという。

    3人全員がこの計画に「加担」していた。コフィーナ検事によるとボビット被告(長年、麻薬中毒と経済難に苦しんでいるという)は2012年にも、ガソリンが切れてタイヤがパンクした女性を助けたとフェイスブックに投稿していた。3人の被告が今回世界に向けて発信した話と類似している。

    「偶然だとは思わない」とコフィーナ検事は話している。

    マクルーア被告は当初、自分が車を止めたのをボビット被告が見ており、ドアに鍵をかけておくよう指示した後、車を動かせるようにガソリン1缶を持って戻ってきてくれたと主張していた。

    「ジョニーは1ドルも求めてきませんでしたし、私も現金を持ち合わせていなかったのでその時はお金を返せませんでした。でもここ何週間かは、彼の居場所に立ち寄っています。ガソリン代を返し、ジャケット、手袋、帽子、温かい靴下をあげました。それからジョニーを見かけるたびに数ドル渡しています」とマクルーア被告はGoFundMeの募金ページに書いていた。

    しかしコフィーナ検事が明らかにした話では、募金ページが公開となってから1時間もしないうちに、マクルーア被告は友人にテキスト・メッセージを送り、州間高速道路の出入り口でボビット被告と一緒に撮っている写真も含めて、この話がうそであることを認めたのだ。

    コフィーナ検事によると、マクルーア被告は友人に次のようなテキスト・メッセージを送った。「OK、でもちょっと待って。ガソリンの部分は完全にでっち上げた話だけど、ホームレス男性は作り話じゃない。人が同情するような話を何か作り上げなきゃいけなかったの。だからガソリンの話はナイショにしてね」。

    その後ボビット被告は8月、自分の名前で集められた募金の支払いを2人が拒否しており、自分は再びホームレスになったとして、民事訴訟を起こした。カップルは手数料を除く合計36万7000ドル(約4150万円)をGoFundMeから受け取ったが、ボビット被告はそのうち7万5000ドル(約847万円)しかもらっていないとしていた。

    ダミコ被告は当時、「全額を彼に渡すなんてあり得ない。(それをするくらいなら)彼の目の前で燃やすよ」と地元紙インクワイアラーに語った。集まった募金は貯蓄口座に預けてあり、ボビット被告が麻薬をやめて職を見つけるまでは渡さないと主張した。

    しかしマクルーア被告はこれより数カ月前、友人にテキストメッセージで送った愚痴の中で、ボビット被告がリハビリに行ってくれないと不満をこぼしていたという。

    「残りのお金は私がもらっとくわ、あのクソ野郎」と書いていた。友人は「彼に暴露されちゃうかもよ」と返信した。

    そして実際に、ボビット被告は自分の金を使っているとして2人を非難した。カップルは、もともと2人がGoFundMeの目標額に設定したものとほぼ同じ額となる9800ドル(約110万円)を家族への借金返済に当てた。さらに、BMW1台に2万4000ドル(約270万円)、デザイナーもののハンドバッグに1万1000ドル(約124万円)、ラスベガス、ディズニーランド、ディズニーワールドでの休暇に2万ドル(約226万円)を使ったほか、暗号通貨に1万2000ドル(約136万円)以上費やしていたのだ。

    コフィーナ検事は2人が「集めた額のほとんどを無駄遣いした」上、「カジノをかなりやっていた」とも指摘している。

    2万ドル(約230万円)以上がカジノでの遊びに使われたことが分かっており、さらに8万9000ドル(約1000万円)もカジノ内や周辺で現金で引き出されていた。

    しかし分け前を受け取っていないこと、あるいは全額を受け取っていないことへのボビット被告の不満が原因となり、この計画は失敗した。もしボビット被告が分け前を求めて訴訟を起こしていなかったら、3人は詐欺を逃げ通せていたと思うか、と聞かれたコフィーナ検事は、「その可能性は高かったと思う」と答えた。

    2人は昨年12月、ボビット被告のホテル代として2000ドル(約23万円)ほど使ったものの、その後、移動住宅のトレーラーを買って自分たちの敷地内にボビット被告を住まわせた。だが今年6月までには、マクルーア被告はトレーラーを1万ドル(約113万円)で売却し、ボビット被告は再びホームレスになった。

    しかしその後もカップルは、出版契約や映画契約を取り付けて再び大金が手に入るかもしれないという期待を抱いていていた。昨年12月に出版社の事務所で著作権エージェントと会議を開き、契約を交わしていたのだ。その後も8カ月にわたり、会議やメールでのやり取りは続いた。

    募金がほとんど底を突きてしまい信じられない、とのマクルーア被告の言葉に対しダミコ被告は、「1年後には、数百、数千ドルを一気に使ってしまった時のことを思い出して笑ってるよ」とテキスト・メッセージを送っていた。

    カップルの話に一貫性がないことやボビット被告が起こした民事訴訟を受け、警察は今年9月、犯罪捜査の一環としてマクルーア被告とダミコ被告の自宅を家宅捜査した。

    GoFundMe側は9月、ボビット被告が確実に募金を受け取るよう同団体は尽力すると発表。また11月15日には、今回募金した人全員に全額返金する意向であり、現在は検察側に協力していると発表した。

    「個人によるこのような行為は非常に稀であるものの、受け入れられるものではなく、相応の結果が伴うのは明らかだ。オンラインのものであれオフラインのものであれ、詐欺は法律違反だ」とGoFundMeの広報ボビー・ウィソーン氏は述べている。

    この記事は英語から翻訳・編集しました。
    翻訳:松丸さとみ / 編集:BuzzFeed Japan