列車の事故で化学物質が流出…「動物が死んでいる」地域住民から不安の声

    アメリカ・オハイオ州で2月3日、工業用の化学物質を積んだ列車の脱線事故が起きた。人体に害を及ぼす危険性がある化学物質が流出し、地域住民たちは体調不良を訴えている。SNSでは、動物が死んでいると訴える投稿も増加している。

    アメリカ・オハイオ州で2月3日、工業用の化学物質を積んだ列車の脱線事故が起きた。人体に害を及ぼす危険性がある化学物質が流出し、地域住民たちは体調不良を訴えている。SNSでは、動物が死んでいると訴える投稿も増加している。

    列車は150両編成で、うち20両で危険物を運んでいた。その5両には、発がん性物質として知られる塩化ビニルが積まれていた。

    現場から1.6キロメートルほど離れたイーストパレスタインに住むテイラー・ホルツァーさん(28)は、事故以来「頭痛、胸の圧迫感、目の痛み」が続いていると訴える。

    ホルツァーさんは、オウム、キツネ、コヨーテ、ウルフドッグなど、約100匹の動物を保護して飼育している。 胃腸の調子を崩したり、顔が腫れたり、目に異常が出る動物がいるという。

    キツネ6匹のうち、1匹は事故から逃げようとして足を折り、もう1匹は死んでしまった。動物病院での検査の結果、別の1匹には肺に炎症があり、肝臓にも悪影響が出ている、とホルツァーさんはInstagramTikTokに投稿している。

    オハイオ州天然資源局によると、12種類、約3500匹の魚が死んだという。

    現場から16キロメートルほど離れたノース・リマに住んでいるアマンダ・ブリーシャーズさんは、地元テレビ局に飼育していたニワトリがすべて死んだと話した。

    約20キロメートル​​離れたボードマンに住むジェナ・ジャニオスさんは、事故の影響を受けた人々のためにFacebookグループを立ち上げた。

    「周辺一帯を覆った煙が、さらに地域全体に動いていくのを目の当たりにした」とジャニオスさんは語る。

    ジャニオスさんは、息切れとひどい咳の症状を訴えている。今最も心配しているのは、水と土壌の汚染だという。

    Nearly 1 million pounds of vinyl chloride were on this train. Now, the EPA has confirmed it's entered the Ohio River basin which is home to 25 million people. This is one of the deadliest environmental emergencies in decades and no one is talking about it. https://t.co/HTsZhokEo4

    Twitter: @RepBowman

    民主党下院議員、ジャマール・ボウマン氏のツイート

    《列車には、100万ポンド(約450トン)近い塩化ビニルが積まれていた。米環境保護庁(EPA)は、化学物質のオハイオ川流域への流入を確認した。流域には2500万人が暮らしている。これは、過去数十年で最も致命的に環境に影響を与える緊急事態のひとつ。それなのに、誰も事故について話していない》

    事故の翌日、爆発を防ぐため当局は「制御下で」化学物質を放出して燃やした。

    ホルツァーさんは「大きな噴煙と炎」を見たと話す。匂いは「瞬間接着剤と漂白剤を混ぜたようなものだが、甘みも少しある」と説明する。

    化学物質は川にも流出した。米環境保護庁(EPA)は水質と大気の監視を続けるという。数百万人の住民に避難命令が出たが、2月8日に解除された。

    EPAによると、2月15日の時点で、20以上の井戸と450軒の住宅内から塩化ビニルが検出された。鉄道を運営するノーフォーク・サザン社は、イーストパレスタインの住民にペットボトルの水を提供している。

    EPAによると、空気中に基準値以上の有毒物質は検出されなかった。臭いがあったとしても、毒性があるとは限らないとしている。

    医学毒性学者のケリー・ジョンソン=アーバー博士は、動物にとって有害な化学物質が人間にも同様に有害だとは限らない、と述べている。動物や人間の体の大きさ、物質の量、摂取経路や時間など様々な要因で変わるという。

    同氏は、塩化ビニルの短期的な影響として、目や気道の炎症、めまい、方向感覚の喪失、頭痛などを挙げた。アメリカ国立がん研究所によると、数年を超える長期的な摂取は、特定の種類のがんの発生と関連する可能性がある。

    列車はほかにも化学薬品を積んでいた。中には可燃性のガスや液体もある。EPAは鉄道会社に宛てた書簡で、アクリル酸ブチルなど複数の化学物質が雨水管に流れ込んだことが確認されており、今後少なくとも6つの川で検出される可能性があると書いている。

    水中や水辺で動物が死んでいることを考えると、「人間が水道水を飲んでも安全かどうかを判断するためには、さらなる検査が必要」だとジョンソン=アーバー博士は述べた。同氏も地元当局も、住民にはペットボトルの水を飲むよう勧告している。

    地元住民たちは、安全を確証できていない様子だ。ホルツァーさんは「これらの化学物質は、健康に悪影響をもたらす可能性が大いにある。1週間で吹き飛んで、完全に消えるわけではない」と不安を口にした。

    「動物にも家族にも、安全でいてほしい。私も動物たちも、この先どうなってしまうのか…。臓器に問題がないか、がんも心配です」

    この記事は英語から翻訳・編集しました。翻訳:髙橋李佳子