性行為中に同意なくコンドームを外す「ステルシング」、カリフォルニア州で違法に

    「ステルシングはレイプと同じ」、法学生の論文がきっかけで法案が成立した背景を追った。

    性行為中に、相手の同意なくコンドームを外すことを「ステルシング(stealthing)」という。

    2017年、イェール大学法科大学院の学生だったアレクサンドラ・ブロドスキーさんは、ステルシングが「レイプに近い」行為であり、被害者に法的手段の余地を与えるべきだと論文にまとめた。ブロドスキーさんは、論文が実際の法律に影響を与えるとは思ってもいなかったという。

    だが、カリフォルニア州議会は9月7日、ステルシングを「違法行為」とし、性行為中に同意なくコンドームを外した相手を訴えることができる法案を可決した。このきっかけとなったのが、ブロドスキーさんの論文だった。

    「論文を書いたのはロースクール3年目のときで、当時はそれが何らかの形で実際の法律に影響を与えるなんて、夢にも思いませんでした」

    現在、人権派弁護士として活動する31歳のブロドスキーさんは、BuzzFeed Newsの取材に対しそう答えた。

    カリフォルニア州議会では満場一致で可決され、ニューサム州知事が10月10日に署名したため、法律は成立した。カリフォルニア州は、ステルシングを性的暴行として違法にする国内初の州となった。

    しかし、ステルシングはこれまで、ネット掲示板以外ではあまり話題にあがらなかった。

    法案を提出した同州のクリスティーナ・ガルシア議員は、2017年にブロドスキーさんの論文を読んだ。

    ステルシング行為がはびこっている現状や、ネット上で加害者側がそれを推奨している現実を論文で知り、以来、この件について取り組んできたという。

    ステルシングは「同意に対する侵害」

    ブロドスキーさんの論文は米国内で広く関心を集め、反ステルシング法の成立に向けた活動ではたびたび引用されている。

    論文では、ステルシングは合意の上の性行為を合意のない性行為へと変える行為であり、「尊厳と自律性に対する著しい侵害」と記されている。

    どのジェンダーでもステルシングの被害を受ける可能性はあるが、論文ではブロドスキーさんが聞き取りをした女性の体験を例に挙げている。

    大学1年のときに交際相手からステルシングされたという女性は、自身の体験を「同意に対する侵害」と表現した。

    「コンドームありの行為に同意したのであって、なしの行為には同意していません」

    女性はレイプ被害ホットラインで働いており、たくさんの大学生から同じような体験を聞いてきた。

    その際、「これはレイプになるのかどうかわからないけど…」と切り出す人が多かったという。

    ニューヨーク在住の別の女性のケースでは、コンドームをつけた上でならよいと伝えていたが、相手の男性はそれを無視し、性行為の途中で外した。

    「(男性の行為は)本当にひどい」と女性が伝えると、「心配するなよ、俺を信頼して」と言ってきたのだという。

    女性は論文の聞き取りの中で次のように述べている。

    「これはずっと心に残っています。彼にとって私の信頼はいらないということを示したのですから」

    「両者が合意したことへのあからさまな侵害でした。私は境界線を設けていました。はっきりと明確にです」

    また、他の聞き取りでは、被害にあった人の多くが、望まない妊娠や性感染症に対する不安を抱いていたことがわかった。「信頼への冒涜と自律性への否定であり、レイプと変わらない」との声もあった。

    論文では、こうした性被害が「蔓延していた」にもかかわらず、当時の法律ではその性被害に特化した項目はなかった、と指摘した。

    法案の成立は「大きな前進」

    カリフォルニア州の議員であるガルシア氏が4年前、ステルシングを犯罪とする法案を提出したときは反対にあい、成立しなかった。今回、新たな法案の内容が民法に盛り込まれることに満足している、とガルシア氏はBuzzFeed Newsの取材に答えた。

    ガルシア氏は声明の中で次のように述べている。

    「ネット上にステルシングを擁護し、煽り、相手の同意なしにコンドームを外す行為を助長するようなコミュニティが存在する現実は極めて不快です」

    「しかし、それが犯罪であることを明確に記した法律はありません」

    「ニューサム州知事には法案に署名してもらい、ステルシングは不道徳な行為というだけでなく、違法行為であると明確にしてほしいです」と期待を込めた。

    しかし、同様の法案はこれまでにニューヨーク州とウィスコンシン州でも提出されたが、可決には至っていない。

    首都ワシントンでは、いずれも民主党のロー・カンナ議員(カリフォルニア州)、キャロリン・マロニー議員(ニューヨーク州)がステルシング行為をレイプとして認定するよう連邦政府に働きかけている。

    「カリフォルニア州議会が反ステルシング法案を満場一致で可決したのは喜ばしく、署名を経て法律が誕生することを期待しています」

    「合意なくコンドームを外すのは性的暴行であり、そのように扱われるべきです」と、カンナ氏はBuzzFeed Newsにあてた文書で述べた。

    マロニー氏はカリフォルニア州の法案について、「同意なくコンドームを外された被害者を支援する」意味で「大きな前進」になると評価しながらも、連邦議会には「各州の動きを待つことなく前進してもらいたい」と話す。

    ガルシア氏は、初めて友人らとステルシングについて話し合ったとき、同じ経験をした女性の「多くが共感しうる」話だと気づいたという。

    ブロドスキーさんの論文はステルシングを「レイプに近い」行為と呼んだが、ガルシア氏は「私の考えでは、レイプですね」とはっきり述べた。

    被害者には「経済的な支援」を

    論文では、ステルシングを犯罪行為とするより、むしろ被害者に対する民事上の救済措置を設けることを提言していた。今回の法案は、その論文での提言と一致しており、論文の筆者であるブロドスキーさんはその点がうれしかったと話す。

    「民事上の救済措置は、被害者にとても有益です。民事訴訟であれば経済的に支援できるようになるからです。暴力を受けて傷ついた被害者の多くが、そうした支援を必要としています」

    性被害にあった人の中には、「形あるサポートを望んでいる」人も多くいるのだとブロドスキーさんは指摘する。

    しかし、性的暴行の被害にあった若者の弁護をしてきた経験からみると、刑事司法制度は被害者にとって「あまり役に立たない」という。

    被害者の多くは警察を信頼せず、暴行を警察に届けようとは思わなかった一方、届け出た人はそれによって再度傷つく「二次的被害」を受けるケースが少なくないからだ。

    一方、民事訴訟では、刑事訴追よりも求められる証拠のハードルが低い。つまり、陪審や裁判官に対し、被害者が自分の身に起きた事実を立証しやすくなる。その結果、経済的な支援が得られやすくなる。

    最後にブロドスキーさんは、「私の論文を読み、私の意見を理解してくれる人がいることは、非常に心強い後押しになります」と語った。


    この記事は英語から翻訳・編集しました。翻訳:石垣賀子 / 編集:BuzzFeed Japan