17年服役したアジア系アメリカ人女性、検事の人種差別的なメール発覚で無罪放免に

    フランシス・チョイさんは、自宅に放火して両親を殺害したとして起訴され、17年間を刑務所で過ごした。しかし、検察官2人の間でやり取りされた人種差別的なメールの存在が明らかになったこともあり、有罪判決が無効となった。

    アジア系アメリカ人女性のフランシス・チョイさんは2003年、自宅を放火して両親を殺害したとして、終身刑を言い渡された。

    20年近く服役した今年4月、チョイさんは釈放された。続いて9月、裁判官はチョイさんの有罪判決を無効とした。

    裁判を担当した検察官らが、チョイさんについて人種差別的かつ性差別的なメールをやり取りしていたことが明らかになったことが、要因の一つだ。

    裁判を担当した検察官2人が、「人種的、性的に不適切なメール」をやり取り

    チョイさんは現在、正式に自由の身となっている。

    検察側が裁判のやり直しを求めないと公表したことを受け、チョイさんは10月1日、無罪となった。

    チョイさんは17歳のとき、マサチューセッツ州ブロックトンにある自宅に火を付けた罪と、両親であるジミーさんとアン・トランさんのチョイ夫妻を殺害した罪で起訴された。

    最初に行われた2つの裁判では、陪審員団の意見が割れて評決不能となった。

    その後に行われた3度目の裁判で、殺人と放火の罪でチョイさんの有罪が確定。17年間を刑務所で過ごした。

    しかしチョイさんは今年4月、裁判官が刑罰を停止したことを受け、釈放された。9月には有罪判決が無効となった。

    プリマス上位裁判所のリンダ・ジャイルズ裁判官が書いた申立書によると、裁判を担当した検察官2人カレン・オサリバン氏とジョン・ブラッドリー氏が、チョイさん自身とチョイさんの家族について「人種的、性的に不適切なメール」をやり取りしていたことが明らかになった。

    これが一因となり、チョイさんの有罪が無効になったという。

    We are overjoyed that our wrongly convicted client Frances Choy is exonerated! She is the first woman of color exonerated in our state. Prosecutorial racism and other misconduct imprisoned her for 17 years, but she survived and this amazing woman is free. https://t.co/T1koOdrKII

    チョイさんの代理を務めるボストン・カレッジ・イノセンス・プログラム(BCIP)のツイート「誤って有罪判決を受けたクライアント、フランシス・チョイさんが無罪になり、我々は大変喜んでいます。彼女は米国内で無罪放免さえれた、初めての有色人種です。検察の人種差別やその他の不正行為により、彼女は17年間投獄されましたが、彼女はそれを生き抜きました」

    チョイさんの弁護士ジョン・バーター氏は地元の公共ラジオ局WBURニュースに対し、「アメリカにおいて、検察官による人種差別が原因で殺人の有罪判決が覆される、初めてのケースである可能性がある」と述べた

    プリマス郡地方検事のティモシー・クルーズ氏は9月29日、チョイさんに対し四度目の裁判は求めないと述べた。

    ボストン・カレッジ・ロースクール発行の雑誌「ボストン・カレッジ・ロースクール・マガジン」によると、チョイさんは、マサチューセッツ州で有色人種の女性として、また同州のアジア系アメリカ人として、初めて無罪放免となったことになる。

    同雑誌によると、チョイさんの両親は香港とベトナムからの移民だ。

    不適切な言及はチョイさんの家族にも。「近親相姦関係」だとメールで発言

    BCIPの発表文によると、有罪判決が無効となったのは、検察官による人種差別的なメールのやり取りの開示を求めて、チョイさんの弁護士らが何年もかけて調査と訴訟を重ねた結果だという。

    クルーズ氏は昨年、ほとんどのメールを開示したとWBURニュースは報じている。

    ジャイルズ裁判官が記した申立書によると、裁判を担当した検察官2人は、「アジア人のステレオタイプに関する“冗談”をメールでやり取りし、不完全な英語を使ってアジア人を風刺した」という。

    検察官はまた、「アジア人の画像を多くやり取りし合い、中には軽蔑的なコメントが付いていたもの、説明が付いていないものもあった」と主張している。

    申立書によると、オサリバン氏とブラッドリー氏はあるやり取りの中でチョイさんを、「住民が “たかがクッキーを買ってくれなかっただけで” 家を全焼させたガールスカウト」と描写したそうだ。

    オサリバン氏はまた、クー・クラックス・クラン(KKK、アメリカの白人至上主義団体)の衣装を着た若い女性が描かれたメールを送っていた。

    裁判時の口頭弁論について言及したメールでは、2人のうち1人が「裁判でチャイナドレスを着て、法廷の後ろで折り紙を折るから」と書いていた。

    2人はまた、当時16歳で同じ家に暮らしていた甥のケネス・チョイさん(ジミーさんの香港時代のパートナーとの間にできた子どもの息子)とチョイさんが近親相姦関係にあったとするやり取りもしていた。

    ケネスさんは殺人の罪に問われていたが2008年に無罪が確定し、チョイさんの2度目の裁判では、自分への訴追免除と引き換えにチョイさんに対して不利な証言をした。

    3度目の裁判では、裁判開始の数日前にケネスさんが香港に逃げてしまったため、検察官らは芝居でケネスさんの証言を法廷で再現した。

    開示されたメールの中で検察官らは、映画『すてきな片思い』に登場するキャラクター、中国人留学生のロン・ドク・ドンになぞらえ、自分たちの証人であるケネスさんを人種を根拠に「見下した」と申立書には記されている。

    2人のアジア人への偏見はまた、被害者の他の家族にも向けられた。

    「検察官らが被告人やその家族、さらには全アジア系アメリカ人に対する反アジア人的な偏見を持っていたことを示すメールおよび画像の存在を本裁判所が認識していたら、本裁判所は審理無効を宣言していただろう」とジャイルズ裁判官は申立書で述べている。

    また、別の事例を引用し、「人種的な偏見はこれまでも繰り返し起きており、そのまま放置していたら、司法に対する体系的な損害となるリスクとなる」と記した。

    プリマス郡地方検察局は、有罪確定後の裁判手続きにおける検察官2人のメールのやりとりは「怖ろしく」「非難に値する」と表現した。

    ある地方検事補は聴聞会で、「(検察官)2人はアジア人に対して偏見を持っている。メールがそれを証明している」と述べた。

    「非難に値する。これについて我々はいかなる形であれ、立ち上がって擁護などしないし、できない」

    同検察局は、人種的な偏見を解決すべく職員の研修を行ったとしている。

    プリマス郡地方検事のティモシー・クルーズ氏はBuzzFeed Newsに宛てた文書の中で、「正義と公平さ」から、チョイさんに対する四度目の裁判を起こさないことに決めた、と述べた。

    クルーズ氏は、「無視できないほどの著しい法的問題点がいくつも」あったとしている。

    「全検察官の役目は、公正な裁きが確実に行われるようにすることだ。今回の決定のみならず、私たちが下す全決意の中核には『公正さ』がある」

    検察官2人は、メールが発見される前にプリマス郡地方検察局を退局していた。オサリバン氏は現在、マサチューセッツ州ブリストル郡で検事補として働いている。

    ブリストル郡の地方検事トマス・クイン氏は2015年、地元紙スタンダード・タイムズに次のように話し、オサリバン氏を雇用した自分の判断を弁明した。

    「カレン(オサリバン氏)のことを人種差別主義者だと思ったら、採用していなかった」

    WBURニュースによると、一方のブラッドリー氏は後に、自身の雇用終了についてプリマス郡地方検察局を相手取り裁判を起こしている。

    BCIPのシャロン・ベックマン氏は、BuzzFeed Newsに宛てた文書の中で、フランシス・チョイさんの「不当な有罪判決は、人種差別主義や、その他の不手際および体系的な不具合が原因」だと記した。

    「フランシスさんは、刑事司法制度に奪われた17年間を二度と取り戻すことはできない。しかし、彼女の疑いが晴れたことは非常に喜ばしい。今回の事案が、意義深い改革の動機となるよう期待している」

    チョイさんの有罪判決を無効にするというジャイルズ裁判官の決定はまた、チョイさんの裁判が「公正に行われていなかった可能性」を示す新たな証拠が見つかったことに基づいている。

    チョイさんが着用していたスウェットパンツから、本当にガソリンが検出されたのかという疑問が生じた。同時に、ケネス・チョイさんの証言について情報を持っていて証人となり得る人物に、弁護士が事情聴取をしていなかったという不手際が明らかになった。

    ガソリンを使い放火したと当時検察は推測。発見された「計画のメモ」について、チョイさんを追求した

    検察官は当時、チョイさんが恋人ともっと一緒にいられるよう実家を出るためや、生命保険目当てで両親を殺害したと主張していた。

    事件のあった2003年4月17日、消防士がチョイさんとケネスさんをそれぞれ寝室の窓から救助した。ジミーさんとアンさんも助け出されたが、火傷と一酸化炭素中毒が原因で後に2人は死亡した。

    当局は火災を放火と疑い、燃焼促進剤としてガソリンが使われたと考えた。

    警察はケネスさんとチョイさんの双方を事情聴取したが、取り調べの記録は音声も映像も残っておらず、事情聴取時に取った手書きのメモは調書としてタイプした後に破棄したと警察は主張した。

    チョイさんのスウェットパンツと両手にガソリンが付いていたと推定し、警察は繰り返しチョイさんの事情聴取を行った。しかしチョイさんは一貫して無罪を主張した。

    母親の叫び声で目が覚め、緊急電話911に電話をかけたとし、どうして火事になったか分からないと話していたという。

    警察はまた、ケネスさんの寝室で見つかった、ガソリンを使って家に火を付ける詳細な計画を記した手書きのメモについて、ケネスさんに事情を聞いた。

    ケネスさんは当初、不運から逃れるためにこのメモを書いてシェアしろと、学校の「黒人の子」に言われたと説明していた。

    しかしこの話の裏付けが取れないことが明らかになると、ケネスさんは警察に対し、チョイさんに指示されてメモを書き、火事はチョイさんのアイデアだったと打ち明けた。

    警察はその後、チョイさんを3時間以上にわたって取り調べ、違う情報を話さないと逮捕すると脅したという。裁判記録によると、このときチョイさんは放火に関わったことを簡単に供述したが、すぐに撤回したそうだ。

    検察官らは論拠として、チョイさんを「無感情」だとした警官や、「冷静」だと描写した消防士らの証言を使用した。

    地元メディア、エンタープライズ・ニュースに提供した声明の中でチョイさんは、これまで「つらく長い道のり」だったこと、そして毎日両親を恋しく思っていることを明かした。

    「両親を失った痛みや、両親の苦しみは何をもっても癒すことはできません。両親に会いたいと毎日思っています。刑務所の中でさえも、私は両親に恥ずかしくない生き方をしようとしました」

    「真実が明かされて、刑務所の壁の外で自分の人生を取り戻すことができ、ほっとしています」

    この記事は英語から翻訳・編集しました。翻訳:松丸さとみ / 編集:BuzzFeed Japan