無実の罪による収監から解放された男性が新型コロナ感染で死亡

    DNA鑑定により殺人事件で無罪が証明され、死刑囚監房から約10年前に釈放された男性が、新型コロナウイルスで亡くなった。

    デーモン・ティボドーさんは2021年8月31日、新型コロナウイルス感染症で、47歳の若さでこの世を去った。

    ティボドーさんは無実の罪で15年もの間独房に収監され、2012年にようやく釈放を勝ち取った経験がある。

    釈放後、失われた時間を最大限に取り戻そうとしていた。しかし、再び得た自由は、10年続かなかった。

    1996年、当時22歳だったティボドーさんは、ミシシッピの荷船で甲板員として働いていた。義理の従妹クリスタル・シャンパーニュさんを強姦、殺害した容疑で逮捕された。

    シャンパーニュさんの遺体には、首の周りに赤い延長コードが巻きついていた、とイノセンス・プロジェクトは明らかにしている。イノセンス・プロジェクトは、DNA鑑定などによって収監者のえん罪を証明する非営利団体(NPO)だ。

    ザ・タイムズ=ピカユーン紙の追悼記事によると、ティボドーさんは当初、シャンパーニュさんと家族ぐるみの関係があり、取り調べを受けた。しかし、犯罪への関与を否定していた。嘘発見器による検査にも協力したが、嘘だと判定されたと伝えられた。

    9時間におよぶ尋問のあと、ティボドーさんは当局に「やったか分かりませんでしたが、やりました」と自供した。尋問が録音されていたのは、54分だけだった。

    自白には、事件の実際の詳細とは異なる内容が多々あった。殺害とティボドーさんを結びつける物的証拠もなかったが、ティボドーさんは裁判で死刑判決を受けた。

    2007年、ジェファーソン郡地方検事局とイノセンス・プロジェクトによる共同捜査により、「ティボドーさんの自白は、全ての重要な点において虚偽だった」という結論に至った。

    科学捜査の専門家は、ティボドーさんを殺害と結びつける物的証拠はなく、供述に反して、被害者は性的暴行を受けていなかった、と述べている。

    延長コードに残されたDNAの証拠は、ティボドーさんのものではなく、犯行現場でティボドーさんを見たという目撃証言は、間違いだったことが証明された。

    裁判の前に、検察側の専門家が、ティボドーさんは死刑を恐れて虚偽の自白をしたと結論づけていたが、この情報は弁護側に知らされることはなかったことも、再捜査で明らかになった。

    地方検事は、ティボドーさんの有罪判決と死刑判決を覆し、2012年9月28日にティボドーさんはルイジアナ州立刑務所(通称:アンゴラ)から釈放された。

    釈放されてから、ティボドーさんは高校卒業認定資格(GED)を取得し、友人や家族との関係を修復し、長距離トラックの運転手としてアメリカ中を走り回り、冤罪反対を主張する提唱者となった。

    2013年、ティボドーさんはテレビ局KARE 11のインタビューにこう答えている

    「私の1日で最高なことは、朝起きて鉄格子を見ないことです」

    2017年に公開されたドキュメンタリー「The Penalty(ザ・ペナルティ)」でティボドーさんを撮影したウィル・フランカムさんは、9月13日、BuzzFeed Newsの取材でこう答えている。

    「これほど長く不当に死刑囚監房に入れられるというのは、本当に悲劇です。とても多くの人が立ち上がり大変な努力をして釈放できたのに……天寿を全うせずに亡くなるなんてまったくの悲劇です」

    「デーモンさんは釈放されてからいつも、自分の人生を最大限楽しもうとしていました。(中略)失った時間を取り戻すためです」

    アメリカ中を車で走りながら、ティボドーさんは地域の食事を楽しんだり、いろいろな場所で新しい経験をして嬉しそうでした、とフランカムさんは話す。

    ティボドーさんは、不当な有罪判決の補償を州から受けとることなく、亡くなった。亡くなったとき、補償の請求は、保留されていた。

    死刑宣告を受けた人が無罪で釈放された後、直面する財政難や葛藤がある。しかし、ティボドーさんは常に「人生に前向きで幸せそうだった」とフランカムさんは説明する。

    自分の身に起きたことに対して怒りは感じていたものの、怒りに人生を支配させはしなかった、と。

    死刑の冤罪者を支援している非営利組織「Witness to Innocence」の一員として、ティボドーさんはアメリカ中を旅して、不当な有罪判決について語り、宗教団体、財界人、弁護士、裁判官、上院司法委員会などと、経験を共有してきた。

    「このようなことを経験して怒らないはずはありません」とティボドーさんは2013年にKARE11の取材に答えている。

    「(でも)その怒りをどうするかで、自分という人間が決まるのです」

    だが、あらたに人生を立て直そうとしても、「収監の恐怖は、つきまとった」という。

    「Witness to Innocence」が出した追悼記事には、「ティボドーさんは、狭い独房にまた監禁される恐ろしい悪夢、打ちひしがれるような失望、孤独、絶望感に悩まされていた」と書かれている。

    だが、彼の脱俗性と信仰が「試練を生き抜く手助けをした」という。

    亡くなる何週間には、沢山のメンバーがティボドーさんと話をしていた。

    「訃報は大変な衝撃で、ティボドーさんを知り愛した私たちにとって、突然すぎる死だった」とメンバーは語る。

    「Witness to Innocence」は、ティボドーさんのことを「みんなから愛された素晴らしい人」と説明している。

    「ティボドーさんは、ある意味、(冤罪と新型コロナウイルスという)アメリカのふたつの大きな物語に巻き込まれた人のように思えます」とフランカムさんは話す。

    The Innocence Project mourns the loss of Damon Thibodeaux, an incredibly kind and gentle person, who spent 16 years wrongly imprisoned in Louisiana. He was the 142nd person exonerated from death row and was never compensated for his lost freedom. https://t.co/WxxBQjlGsv

    Twitter: @innocence

    イノセンス・プロジェクトは、デーモン・ティボドーさんの死を悼みます。信じられないほど優しく温和な人でした。ルイジアナ州で不当に投獄され16年間を過ごしました。死刑囚監房から無罪釈放になった142人目の方でした。失われた自由が賠償されることはありませんでした。

    この記事は英語から翻訳されました。翻訳:五十川勇気 / 編集:BuzzFeed Japan