「聞こえる人の世界で、聞こえないということ」聴覚障害のインフルエンサーが人気

    聴覚障害があるスカーレットさんは、TikTokを通して「音のない世界」を発信するインフルエンサー。彼女の動画の再生回数は3000万回にのぼり、多くの人に衝撃を与えている。

    スカーレット・ウォーターズさんはアメリカ・フロリダ在住の19歳。

    TikTokで380万人のフォロワーをもつ。動画は一人コントからダンス意見表明まで、1990年代後半~2010年生まれの「Z世代」が発信して注目を集めることの多い、あらゆるタイプのコンテンツが含まれる。

    スカーレットさんが他のインフルエンサーを少し違うのは、両耳に聴覚障害があり、人工内耳を使って聴力を補っていること。

    ネットで発信する側として、また消費する側として、スカーレットさんの体験はすべて聴覚障害が背景にある。

    「無音のTikTok動画」で一躍有名に

    耳が聞こえにくいことでソーシャルメディアの使いづらさを感じている人は他にもいるが、スカーレットさんのようにそのことをオープンに発信している人は少ない。

    TikTokには若い世代のインフルエンサーが大勢いるが、スカーレットさんも同じく、トレンドに乗って話題の動画を自分でアレンジしたものの人気が高い。キュートで「あるある」とうなずけるものや、同じく耳の聞こえづらい人たちが一緒になって歌ったうもの。100万回以上視聴された動画もある。

    中でも今年11月に投稿した「Deaf Ears in a Hearing World(聞こえる人の世界で聞こえないということ)」は、再生回数3000万回にのぼり、スカーレットさんの動画の中でもかなり広く拡散されている。

    動画は、学校へ行ったり買いものをしたりといった彼女の普通の1日を紹介したものだ。だがそこには、耳の聞こえる大多数の人は経験することがない一方、彼女にとっては日常の一部になっている不便さが描かれている。

    どこへ行っても聞こえないことを説明する必要があったり、紙に書いて筆談するなどの工夫をしなくてはいけなかったりするのだ。

    そしておそらく、見る人が何よりはっとさせられるのが、動画に一切音がないことだろう。TikTokは音楽あってこそのアプリなのに、だ。考えてみたら当たり前ともいえるが、そのことに気づいて衝撃を受ける人も多い。

    「はっと気づかされた」「音がないのに聞こえてきた」そんな声が寄せられた。ラッパーのリル・ヨッティも「自分がこうしていられるのはすごくありがたいことなんだという気持ちになった」とコメントしている。

    社会にいらだちを感じ、TikTokを作り始めた

    うわべではなく率直に、耳が聞こえない人の葛藤を伝えたいとスカーレットさんが思うようになったのは、いらだちがあったからだという。

    耳の聞こえない人たちにとって「もっと利用しやすい社会にする必要性があることがあまり理解されていない」。特に彼女のような若い世代にとっては物心ついたときから身近にあるスマートフォンを使う際に、よくそう感じるからだ。

    「聞こえないというのがどういうことなのか、考えてみたことのない人が多いことに、何より驚きました」とスカーレットさんは言う。

    「たぶん、聞こえない人の存在はが知っていると思います。でも自分たちが普段、細かなことでいかに音を頼りにしているか、そして聞こえない私たちにはそれができないことは、わかっていなかったと思うんです」

    「毎日の生活で誰でも普通にやっていることについては特にそうです。例えば画面をスクロールしてソーシャルメディアを見るとか」スカーレットさんはそう説明する。

    障害者が使いやすいSNSのプラットフォームづくりを

    「自分が聞こえないのは、障害が普通のこととして受け入れられる社会にするため」とスカーレットさんは冗談半分で言う。一方で、大手IT企業には聴覚障害者のニーズに合わせてプラットフォームを改良してほしい、とも話す。

    「いちばん広く使われているアプリが、私たちには使いづらいんです。YouTubeは自動生成のクローズドキャプション(字幕)があるけれど、正確でないし画面が文字でいっぱいになってしまう」

    「インスタグラムは字幕の設定がないので、他の人が見ている学べる系の動画などはすべてわかりません。私たちは毎日毎日、大事なことを逃してしまっているんです。今いちばん人気のTikTokも、全然だめです」

    スカーレットさんには、同じ聴覚障害のあるロールモデルがいなかったという。だから自分が若い世代にとって「あんなふうになりたいと思ってもらえるような、耳の聞こえないインフルエンサー」になれればと考えている。

    「私をきっかけに、聞こえない人がメディアにもっと関わっていけるようにしたいと強く思っています。聞こえない人で何かに優れていて活躍できる人は、本当にたくさんいます」

    「でも(聞こえる人向けに作られたプラットフォームが)阻んでしまっているんです。そういう人のためにも、私たちはメディアを変えられる、私たちにも使いやすいプラットフォームにしていけるんだと示したいです」


    この記事は英語から翻訳・編集しました。翻訳:石垣賀子 / 編集:BuzzFeed Japan