「死別した親と自撮りができる」TikTokフィルターの新しい使い方

    「小さいままの自分より、成長した自分と一緒の写真を」。新たなTikTokフィルターの使い方は、親を失った子どもたちの悲しみを癒している。

    亡くなった親やパートナーと、また一緒に自撮りができる−−。TikTokのあるフィルターを、新しい方法で使う若者たちが増えている。

    「グリーンスクリーン」というフィルターを使うと、別の写真に自分を合成できる。元々は、本来はいない場所に、または本来はいない人と一緒に「いる」ように親に見せかけるため、冗談半分で使う若者が多かった。

    しかし、TikTokユーザーのアレクシス・パケットさん(19)から、フィルターの新たな使い方が広がった。彼女はフィルターを見た時に、どう使うか「すぐにわかった」とBuzzFeed Newsに語る。

    パケットさんは、2018年に食道がんで亡くなった父親の写真に自分を重ね、2人で一緒に自撮りしているように見える画像を生成する動画を投稿した。「まだお父さんと写真を撮れるってこと?」とキャプションもついている。動画は拡散され、740万回以上再生された。

    「父が亡くなった時、私は17歳でした。そのあともとても寂しかった。でも、今の私と父を一緒に見ることができて、うれしかったです」とパケットさんは話す。

    パケットさんが父親と映った動画。

    その後、パケットさんの動画を真似するユーザーが続々と現れた。亡くなった人と写真を撮るという体験は、多くの人にとって圧倒的で、かつカタルシス的な効果もあったようだ。

    サラ・ロジャーズさん(19)も、パケットさんの投稿を見てすぐに母親のことを思い出したという。ロジャーズさんの母親は、昨年交通事故で亡くなった。

    母親との思い出を振り返るなど、喪失感や悲しみと向き合う動画を複数投稿してきたが、このグリーンスクリーンの動画は撮影が困難だったと語る。

    「(グリーンスクリーンの)投稿の前にも、いくつか動画を撮影していました。この動画も結局投稿しましたが、私の顔が真っ赤なのがわかると思います」

    「(合成画像を見て)びっくりして、すぐに目をつむってしまいました。とてもリアルだったので、感傷的になりました」

    ロジャーズさんが母親と映った動画。

    エイドリアン・テイラーさん(21)も、グリーンスクリーンに心を動かされたユーザーのひとりだ。2012年、テイラーさんの父親は脳腫瘍で亡くなっている。

    テイラーさんは、父親と顔を寄せ合って写るよう合成した動画を投稿した。

    「動画を撮影しながら、感情が湧き上がってきました」とテイラーさんは語る。

    「少なくとも200回は動画を見直しています」

    10代から20代へと成長するテイラーさんの姿を、父親は見守ることができなかった。テイラーさんは合成写真を見て「生々しい悲しみ」を感じたという。しかし同時に、不思議と心が安らいだそうだ。

    「小さいままの私より、成長した私と父が一緒に写っているのを見れたのはよかったです」

    「愛する人を失った時、悲しみが時間と共に消えるとは限りません。悲しみと一緒に生きることを学ぶのです」

    アメリカTikTokのプロダクト責任者、ショーン・キムさんは、この新しいフィルターの使い方は「人をインスパイアする」とBuzzFeed Newsに語った。

    「私たちのユーザーコミュニティーの創造性と心を刺激する新たな例だと思います。彼女ら・彼らがTikTokを使って自分たちのストーリーを伝え、意味のある瞬間を世界に共有し続けるのを見られることを、誇りに思います」

    テイラーさんや他のユーザーたちは、彼女たちに影響を与えたのはフィルターそのものだけではないと話す。

    複雑な感情をTikTokで共有することで、彼女たちの喜びや悲しみに触れた見知らぬ人々から、メッセージや追悼のことばを受け取ったという。

    「いろいろな人から、親切なコメントが届きました。私の痛みを、純粋に理解してくれました。これは、今までに経験したことがありませんでした」とテイラーさん。

    ロジャーズさんも同じ経験をしたそうだ。

    「たくさんの人が、親との死別について私に連絡をくれました。他の人も同じトラウマを経て、それを乗り越えていると知るのは、大きな慰めになりました」

    この記事は英語から翻訳・編集しました。 翻訳:髙橋李佳子