• bf4girls badge
  • womenjp badge

女子教育を禁じるタリバン政権下で「秘密の教室」を開く女性「ただ黙っているつもりはない」

アフガニスタンで政権を握ったイスラム主義勢力タリバンは昨年以来、6年生より上の女子が教育を受けることを禁じている。約20年前も同じだった。政府の目をかいくぐり教育を続ける女性は、「タリバンは多くの女性たちを孤立させ、読み書きをできなくさせました。その結果、社会は麻痺し、後退しました」と語る。

女子教育を禁止しているタリバン政権

弾圧をかわしながら何とかやってきたが、もはやここまでなのだろうか。ソダバ・ナザンさんは、首都カブールの警察署で尋問を受けていた。

気をつけなければいけないのはわかっていた。自身の身の危険だけでなく、数カ月前から秘密裏に進めている活動も、危機にさらされている。

ナザンさんの活動は、普通なら違法になるようなものではない。勉強を教えているだけだ。しかしタリバン政権は昨年以来、6年生より上の女子が教育を受けることを禁じている。

ナザンさんは小学校に行く年齢の少女たちや路上生活をする子どもたちを相手に、ひそかに教室を開いているのだ。

政府の目をかいくぐりながら、少女やストリートチルドレンに教える女性

ナザンさんはカブール市内の公園で、少女たちを相手に青空教室を開いた。3カ月が経ったころ、地域に看板を立て、学びたい生徒をさらに集めようと呼びかけた。

それがタリバン兵の目にとまり、何をしているのかと尋問を受けるようになった。ナザンさんは、路上生活をする子どもたちに宗教上の手ほどきをするのに加えて、基本的な勉強を教えているのだと説明した。

しばらくはそれで何とかなった。その後数週間のあいだ、秘密の学校へやってくる生徒の数は増えていった。

中には、北東部クンドゥーズ州から来たタリバンの司令官の娘の姿もあった。紛争と父親の強硬な考え方に阻まれ、一度も学校に通ったことがなかったという。

だが結局、ナザンさんは警察へ連れて行かれ、国外の支援団体などとつながりがないかとタリバン兵から問い詰められた。

「教室ではストリートチルドレンに勉強を教えているだけだと、タリバンには説明しました。女性や年長の少女は宗教上の教えを学ぶために来ているだけで、学校の教科の勉強のためではない、と」

BuzzFeed Newsの取材に対し、ナザンさんはそう語る。

警察から解放された後も、公園で教室を続けた。3カ月後、地域の有志が教室として使えるようにと屋根と壁のある場所を見つけてきてくれた。厳しい冬の寒さをいくらかしのげる。

ナザンさんはカブール生まれの21歳。教育に熱意を抱いていたが、2021年8月にタリバンが政権を掌握し、打ち砕かれた。

現在は、6年生より年上の少女たち100人以上とストリートチルドレンを対象に、科学と英語を教えている。

とはいえ、この教育活動にタリバン政権からお墨付きが与えられたわけではない。兵士からは学校の看板を取り下げるよう命じられた。

教室にはいつも兄弟に頼んで立ち会ってもらい、男性主導での運営を求めるタリバンの指示に応じる姿勢を見せなくてはいけない。学びにきているタリバン司令官の娘の身分は、あらゆる手を尽くして隠さなければならない。

「その子は、これまで一度も学校へ通っていませんでした。でも今は、自分で勉強する機会を手に入れたのです」とナザンさんは言う。

タリバン政権が権力を握ってから1年以上。最初は女性の権利を守ると表明していたが…

政権の指導者が長期的な方針を打ち出すまで、6年生を過ぎた女子の通学を禁じるとタリバンが発表してから、1年以上が過ぎた。20年以上前、タリバンが人権を踏みにじり、公の場から女性を追いやった記憶がよみがえる。

教育の禁止をはじめ、女性をめぐるタリバンの方針には世界各国の指導者のほか、主流派のイスラム教指導者からも強い非難の声が上がっている。タリバン政権内でさえ、女子教育の禁止について意見が一致しているとは言いがたい。

10月、2年にわたり米国との和平交渉を率いてきたシェール・モハンマド・アッバス・スタネクザイ外務副大臣は、イスラムの名の下に学校を閉鎖することを非難した。政権内の強硬派に対し、一部の教育現場の再開を間接的に求めた形だ。

昨年タリバンが政権を掌握した当初、アフガニスタン市民の間では慎重ながら楽観的な見方も出ていた。昨夏の米国との和平交渉において、タリバンの新体制側が女性の権利を尊重し、女子教育を制限する措置は取らないと明言したからだ。

しかしその後、2022年3月、米国務長官と西側諸国は共同声明を出し、タリバンによる女子への中等教育の禁止を非難している。

女子への中等教育禁止から1年が経った今年9月、国連のグテーレス事務総長はこの1年について「決して取り戻せない、失われた知識と機会の1年」だと述べた

7月には、政権が選んだ指導者らが女子教育禁止令の今後について話し合う、と発表があった。ところが、女子教育を支持すると答えたのは2人にとどまった。以来、タリバン側が歩み寄りの姿勢を示すか否かをめぐり進展はない。

「最初のうちは、学校が再開されるのではないかと期待していましたが、時間が経つにつれて、違う魂胆があるとわかりました。タリバンは、女性を抑圧する指令を日々出しています」とナザンさんは話す。

「タリバンが学校の再開に前向きだとは思いません。タリバンは女子の学校自体を問題にしているのではなくて、政治的に利用したいのです」

「女子が学校へ行くのを禁止することによって、これからも社会を支配したいわけです。女性を締め付けるのが自分たちにとって都合がいいんです。男性に対しては同じことができませんから」

危ぶまれるアフガニスタンの基盤。女子教育が進めば約7500億円規模の経済効果が見込めるが…

アフガニスタンの歴史は複雑だ。

内戦が長く続いた。そこで勢力を伸ばしたタリバンが1996年に首都カブールを制圧。国土の9割を実行支配する第一次タリバン政権を築いた。

しかし、米国や日本をはじめとする国際社会の大勢は、女性を抑圧し、国際テロ組織アルカイダを保護していたタリバンを、正当なアフガンの政権として承認しなかった。

アルカイダが起こした2001年の世界同時多発テロ後、米軍などがタリバンを倒すためアフガニスタンに軍事侵攻し、第一次タリバン政権は崩壊した。以来、戦争で引き裂かれたアフガニスタンは、社会経済の改革や再建計画の作り直しをいくつも経てきた。

第一次タリバン政権の崩壊後の2004年、新憲法が成立し、女性たちの権利が拡大。通学や投票、労働、抗議行動、公的機関での就労ができるようになった。2009年には、アフガン史上初めて、大統領選に女性が立候補した。

そして米軍がアフガンから撤退した直後の2021年8月15日、タリバンがカブールに入り、政権を奪い返した。

アフガンは40年におよぶ紛争と対立により、基本的な社会基盤が大きなダメージを受けている。教育もその一つだ。

2021年8月にタリバンが政権を奪還する前も、国内で420万人の子どもたちが学校へ通えず、うち6割が少女だったとユニセフ(国際連合児童基金)は報告している。男児も女児も等しく教育を受けられなければ賃金が失われ、損失は大きい。

少女たちが教育を受けられれば、早すぎる結婚と出産を避けられる。将来の選択肢が増え、労働力にもなる。そして親になったとき、子の健康や教育にお金をかけられる。アフガニスタンの成人女性の識字率は50%にも達しておらず、多くの女性は読み書きの能力が必要な仕事に就けない。

アフガニスタンが政情の不安定な移行期に失われたGDPを回復させ、本来可能なはずの生産性を実現するためには、女子に中等教育への門戸を開き、修了させることが不可欠だ。報告ではそう指摘されている。

ユニセフはまた、現在の統計で300万人の女子が中等教育を修了しアフガニスタンの労働市場に加われば、少なくとも54億ドル(約7500億円)規模の経済効果が期待できると試算する。

人権団体アムネスティ・インターナショナルも、タリバンがアフガニスタン全土で女性の就労を妨げていると指摘する。

「医療や教育など一部の部門を除き、公共機関で働く女性の大半が自宅待機を告げられている。民間では、多数の女性が重要なポジションから降ろされた。男性が代わりを務められない場合に限って、女性の雇用を続ける方針とみられる」

「仕事を続けている女性たちがアムネスティに語ったところによると、タリバンから服装や言動に対する制限をかけられ、極めてやりにくい状況にあるという。女性医師が男性患者を診てはいけない、職場で男性の同僚と接してはいけない、などだ」

「20年前、タリバンがアフガニスタンで権力を握っていた際、まず最初に女性の教育への道を閉ざしました」とナザンさんは話す。

「タリバンは多くの女性たちを孤立させ、読み書きをできなくさせました。その結果、社会は麻痺し、後退しました」

「タリバンは今も20年前と同じ、過激で抑圧的な思想を持っていることを忘れてはいけません。私たちは20年前の女性たちと同じ状態でいてはいけないし、ただ黙っているつもりもありません」

世界の支援を期待「タリバンには、私たちの声を聞く気はない」

身近に及ぶ脅威やテロ行為も、アフガニスタンの子どもにとって大きな懸念材料だ。9月末、500人以上の生徒がいたカブール西部の教育施設が自爆テロ犯の攻撃を受け、女子生徒を中心に54人が死亡した。昨年のタリバンによる政権奪還以来、教育施設が攻撃されて死者を出したのは2度目になる。

女性に対する弾圧は中等教育の禁止だけではない。権力を掌握して以降、タリバンはそれまであった女性問題省とアフガニスタン独立人権委員会を廃止した。

11月、アフガニスタンの人権状況をめぐる国連人権理事会の特別報告者リチャード・ベネット氏は第1回の報告書を提出し、タリバン統治下での昨年8月以降の人権侵害の現状を総括した。

女性と少女の人権の著しい後退、体制に抵抗・反対する人物への報復、シーア派のハザラ人など少数民族への攻撃、メディアに対する弾圧などが報告されている。

「女性や少女の姿がこれほど瞬時にあらゆる公の場から消えた国はないだろう。にもかかわらず、女性たちは前線に立って人権の擁護を訴え、説明責任を求めている」とベネット氏は記している。

「1996~2001年のタリバン政権当時、女子は学校教育の機会を閉ざされていた。タリバンは2022年3月21日以降、アフガニスタンのすべての女子が中等教育を受けられるようにすると一度は明言したにもかかわらず、その2日後には、シャリア(イスラム法)の理念とアフガン文化に沿った方針と制服が整うまで、女子を対象とした学校の閉鎖を続けると発表した」

「少女たちが中等教育を受けられなくなることには、重大な懸念がある。アフガニスタンの全34州のうち24州で女子の中等教育機関が閉鎖され、約85万人の少女が学校に通えなくなっている」

自身を含め、アフガニスタンの女性たちは世界が支援してくれることを期待している、とナザンさんは言う。

「タリバンには、私たちの声を聞く気はありませんから」

この記事は英語から翻訳・編集しました。翻訳:石垣賀子 / 編集:BuzzFeed Japan